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第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 10
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エルフの村を見下ろせる、小高い岩山。
そこに四つの人影があった。
地面に着きそうなほど伸びた黒い髪を風になびかせ、髪色と同じ漆黒の法衣をまとった魔術師は、望遠鏡で村の様子を覗き見ていた。
魔術師の後ろには三人の従者が直立不動の体制で立っている。
「うーん、困った。一人だけ物凄く活きの良いのが暴れまわってる。これは予想外だね」
艶のある長い髪と、一見すれば女性と見間違えそうな美しさを宿したその男は、全然困っていない様子で、望遠鏡をそっと目から離した。
ゴブリン達がエルフの村を襲撃し始めてから、すでに一時間ほどが経過している。
しかし、未だに村を制圧できてはいない。
思ったよりも時間がかかっている。
エルフ達がギルドに依頼して、冒険者を雇った事は把握していたが、それでもたった二人。
何ができるとも思えなかったので、気にも留めていなかったが、そのうちの一人が異常な強さで戦況をひっかき回している。
これは魔術師にとっては誤算だった。
「服や持ち物からいって治癒術士のようだけど、あれは治癒術士の動きじゃないね。元は剣士か何かの転職者かな?」
簡素で安価そうな衣装からして、初級冒険者のようだが、それにしては強すぎる。
しかし、男も魔術師だからわかるが、治癒術士の持っている杖は相当に高価なものだ。
到底、冒険者をはじめたばかりの者が持つような代物ではない。
ここから望遠鏡で覗いて得られる情報からでは、どうにも要領をえない。
「なんとも奇妙な話だねぇ」
愉快そうに笑ったかと思うと、魔術師は急に真剣な表情になる。
「仕方ない。できれば私もこんな事をしたくはないんだけど……」
などと口にしながら、後ろに立つ従者を見る。
「いえ、そのために我々は存在しているので」
「光栄の極みです」
「ワース様の命令があればいつでも……」
従者たちはその場に跪いた。
「君たち、申し訳ないね」
などとワースは口にするが、その言葉には何の感傷も含まれていない。
三人の従者達は黙って頷く。
「では……我々の悲願のために死んでくれ」
ワースは右手を開き、呪文を唱え始める。
「邪星とともにあらせられる我らが主よ。黄昏と混沌に溺れる我らに、その門をお開きください。我らは望む。三番目の門が開く事を……」
ワースの右手が輝くと、従者達の頭上に巨大な方陣が出現した。
方陣から放たれる光が、従者達に降り注ぐ。従者達が獣のような声をあげながら苦しみはじめる。
苦しんでいるにも関わらず、従者達は恍惚の表情を浮かべていた。
「主よっ!どうかこの命をお使いくださいっ!」
「我らの命にお導きをっ!」
「邪星への道をっ!」
従者達は口々に叫ぶ。
光に包まれ、捻じれながら三人の体は螺旋を編むようにひとつにまとまっていく。螺旋はやがて光の玉になりどんどんと大きく膨らんだ。
光の玉から巨大な手、足、翼、尻尾が生えだし。シルエットを巨大な竜へと変えていく。
「いいね、いいね。やっぱり召喚の捧体は覚悟を決めている者に限るね。対価には相応の精度の魂を、だ。基本に忠実が1番だな」
ワースはぱちぱちと適当な拍手を数回叩く。
光は収束し、ワースの目の前には赤い硬質な皮膚をもった、赤竜が立っていた。
その瞳には何の感情も宿さず、ただワースを見下ろしている。
三人の魂を捧げて呼びだした、魂を持たない空物の赤竜。
召喚した術者の命令のみを実行する、なんの意思も持たない空虚な生き物だった。
「ありがとう、君たちの命は無駄にしないよ。その圧倒的な力でこの見るに堪えない泥試合をさっさと終わらせよう」
僕も早く帰りたいしね。とワースは付け足す。
「それでは、さっさとエルフの村に行って全部焼き払ってきてくれ」
ワースがエルフの村を指指すと、赤竜は大気を震わすような咆哮をあげ、巨大な翼を羽ばたかせながら空中に浮かんだ。
そこからさらにもうひと羽ばたきすると、ごぉっ!と突風のような風が巻き起こり、赤竜はエルフの村めがけて、飛び立っていった。
「やれやれ。たかがちんけな田舎のエルフの村を制圧するのに、まさか赤竜まで持ち出さないといけないとは」
風で乱れた髪を手で整えながら、ワースは赤竜の飛び去った方向を見ながら呟く。
本当は馬鹿なゴブリンを騙して、適当に攻め込ませて終わりのはずだった。
「まぁ、邪星神を降ろすための霊地のひとつだし、多少の手間は仕方ないか」
ふむ。と一人で納得してワースは再び望遠鏡を覗き込む。
「さてさて、あの治癒術士は赤竜相手にどうするかな?」
退屈しのぎに見るには丁度良い余興だ。とワースは思った。
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