14 / 21
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 9
しおりを挟む「タカヤさん、忘れてませんね」
「敵を寄せ付けない剣の舞、だろ。任せとけ」
エリィと共にタカヤも臨戦態勢に入る。
この期に及んでは、怖いだとか不安だとか言ってはいられない。
やるしかない。できなければ死んでしまう。
目の前から波のようにゴブリンが押し寄せてくる。
ゴブリンの大群によって、村は一気に混沌と化した。
剣を持って前線を維持しようとする者、やや離れた場所から弓矢を射る者。
エリィ、タカヤ、リフィリットの三人は、最前線のただ中で、少しでもゴブリンが村の奥に入り込まないように奮戦する。
「どりゃどりゃーーーっ!!」
法杖を振りかぶり、エリィは目の前のゴブリンの側頭部を思いっきり殴り飛ばした。
吹き飛ばされたゴブリンは、手足を痙攣させて起きあがる事ができない。
グギ……グギ……と、うわ言のように繰り返し呻いている。
まず、一匹。
「うっわ! すごっ! 一撃で一匹倒しちゃった。エリリン凄くない? 鬼強くない?」
迫るゴブリンの前線に絶え間なく矢を打ち続けるリフィットが、驚いた様子でエリィを見る。
「この調子なら、村を守りきれるかもーっ!!」
びゅんびゅんと矢を射る速度を上げながら、期待と尊敬の眼差しでリフィリットはエリィを見つめた。
それに比べて……。
エリィの隣で、剣を縦横にがむしゃらに振りまくっているタカヤをじと目で見る。
「タカヤっちは……それ、大丈夫なの?」
「多分っ!」
余裕の無い声でタカヤが答える。
正直、本当に大丈夫かどうかはタカヤにもわからない。
けれど、自分が思っていたよりは、結構やれている気はする。
まだ一匹もゴブリンは倒せていないが、その代わりにタカヤは一度も攻撃を受けていない。
自分達よりもリーチの長い剣を振り回され、ゴブリン達も距離をとって攻めあぐね射ている様子だ。
エリィがとりあえずこの技を教えてくれたという事は、自分の実力でできるこれが精一杯で、最善の戦い方なのだろう。
今は、そう信じるしかない。
「できないなりに、できる事だってあるんだからなっ!」
ゴブリンに迫られそうになれば、すぐさまタカヤは剣を振り回して一歩前に出る。
そうすると、ゴブリン達は同じように一歩後退する。
「だりゃーーっ!」
後退したゴブリンにすかさずエリィが駆け寄り、一匹、二匹殴り倒して元の位置に返ってくる。
タカヤとリフィリットによって、ゴブリンに対して隙はかなり潰せている。
倒されたゴブリンは他のゴブリンに引き摺って交代させられ、その穴を埋めるために後ろから新たなゴブリンが前線に立った。
「それにしても……私、治癒術士ですのに……」
予想はしていたが、治癒術士としての役割に徹する。というエリィの願望はすでに早くも砕け散っていた。
本当は剣士の後ろでキャーとかワーとか言って、傷ついた前衛の回復なんかをしたかった。
敵の異常な数の多さと、前衛の中でエリィが一番経験が多いので、仕方ない事ではあるが……。
エリィがイメージする弱い治癒術士の姿とは程遠い、法杖でゴブリンをボコボコにする武闘派治癒術士エリィの姿がそこにあった。
「まずいぞっ!側面が破られるっ!」
村の右側に展開していたエルフの若者の叫び声が聞こえる。
「側面が破られたら、村の奥に抜けられてしまいます。私が行きますので、タカヤさんとリフィリットさんはここで持ち堪えていてください」
「おっけだよ。まだ大丈夫な左側から一人来てもらうねっ!」
リフィリットは左側を守る若者に手を振って、こちらに来るよう合図を出す。
「あ、そうだ。あとこれを、お二人に渡しておきます」
移動する前に、エリィは何かを思い出したように手を叩く。
「ほいほいほいっ!と」
鞄の中からエクストラポーションを取り出すと、二人に投げて寄こした。
タカヤとリフィリットは空いた手でそれを受け取る。
「はぁぁっ! すっご! エクストラポーションすっご! 私、初めて見たかも!」
瓶にたっぷり入った桜色の液体をうっとり眺めるリフィリット。
交易都市のエンターリアでもなかなか手に入らないような品だ。ほとんど森から出た事のないリフィリットにとっては、噂話ぐらいでしか聞いた事がない。
「これ、そんなに凄いのか?」
エクストラポーションを鞘に通しているベルトに挟みながら、タカヤは聞いた。
「どんな怪我も疲れも一瞬で治る秘薬です。大怪我した時に……あ、タカヤさんは体力が尽きてきたらすぐに飲んでください。囲まれたら死んでしまうので。絶対ですよっ!」
エリィは指をびしっと突き付けて、強く念を押す。
「わ、わかった」
エリィの言葉をタカヤは肝に銘じる事にする。
「治癒術しとして回復をアイテムに頼るのは不本意ではありますが、今は悠長に呪文を詠唱している時間がないので……っていうか、私の詠唱速度では無理なのでっ!」
今日はもう、武闘派治癒術士をやりきるしかないのだ。
自信満々に情けない言葉を言い残すと、エリィは慌ただしく手薄になりはじめている村の右側へと駆けだして行った。
エリィが村の右側に到着すると、すでに防衛陣は総崩れになりかかっていた。
ざっと見た感じ、幸いな事に死者は出ていようだ。それでも数人のエルフの若者が、腕や足を抑えて蹲ったり、倒れこんだりしている。
「お待たせしましたっ! 怪我をしている方を後方へ、傷の手当をしてあげてくださいっ!」
てきぱきと指示を飛ばし、エリィはゴブリンとエルフ達の間に立って壁になる。
一人増援に加わったぐらいなんだ、とばかりに怯む事無くゴブリンは進撃してくる。
「ここから先は遠しませんよっ!」
正面から襲ってくるものには喉元や防具の隙間に突きをくれてやり、飛び掛かってくるゴブリンは容赦なく叩き落とした。
「相手が左右に広がっていますっ!囲まれないようにしてくださいっ!」
「わ、わかりましたっ!」
エリィの言葉に、エルフ達は両端に広がろうとするゴブリンを弓矢で狙い撃つ。
戦いながら、エリィは周りの戦況に目を配る。離れてはいるが、タカヤとリフィリットの状況もここからは確認できる。
若干押されてはいるが、なんとか無傷で踏みとどまっているようだ。
よしよし。と満足げにエリィが思っていたのもつかの間、すぐにタカヤの剣を振る速度が目に見えて遅くなってくる。
腰に差したエクストラポーションを抜き取ると、ごくごくと迷いなく飲み始めるのが見えた。
タカヤの体力は早くも最初の限界を迎えたようだ。
「えっ!? タカヤさん早くないですか?」
むぅ。とエリィはむくれてタカヤを見る。
ちょっと、かなり、いや、びっくりするぐらい予想外である。
そりゃあ、確かに体力の限界がきたら迷わず飲んでください。とは言いましたよ?
言いましたけど……こんな早くに使っちゃったら、あと何本必要だと思っているのですかっ!
全然手に入らないからがんばってかき集めましたのに! とっても大変でしたのにっ!
エリィは内心不満爆発だった。
「うおぉぉっ! これ凄いなっ!めっちゃ回復するっ!」
遠くではエクストラポーションを飲み終えたタカヤの絶賛する声が聞こえる。
「お役に立てて良かったですっ!」
ゴブリンの剣を法杖で受け止めながら、エリィはヤケクソ気味に叫んだ。
すうぅぅ~~~っと、大きく息を吸い込み、深呼吸をひとつ。
「まぁ、タカヤさん達が無事なら良いですが……良いですが……」
はぁぁぁ~~~っと、息を吐きながらエリィは前向きに捉える事にした。
……とりあえずは。
「ううーーっ!」
口をいの字にして、相手をしていたゴブリンの顔を法杖で往復で殴打する。
処理しきれずに溢れた感情の籠った、力強い殴打だった。
0
お気に入りに追加
369
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる