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第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 9
しおりを挟む「タカヤさん、忘れてませんね」
「敵を寄せ付けない剣の舞、だろ。任せとけ」
エリィと共にタカヤも臨戦態勢に入る。
この期に及んでは、怖いだとか不安だとか言ってはいられない。
やるしかない。できなければ死んでしまう。
目の前から波のようにゴブリンが押し寄せてくる。
ゴブリンの大群によって、村は一気に混沌と化した。
剣を持って前線を維持しようとする者、やや離れた場所から弓矢を射る者。
エリィ、タカヤ、リフィリットの三人は、最前線のただ中で、少しでもゴブリンが村の奥に入り込まないように奮戦する。
「どりゃどりゃーーーっ!!」
法杖を振りかぶり、エリィは目の前のゴブリンの側頭部を思いっきり殴り飛ばした。
吹き飛ばされたゴブリンは、手足を痙攣させて起きあがる事ができない。
グギ……グギ……と、うわ言のように繰り返し呻いている。
まず、一匹。
「うっわ! すごっ! 一撃で一匹倒しちゃった。エリリン凄くない? 鬼強くない?」
迫るゴブリンの前線に絶え間なく矢を打ち続けるリフィットが、驚いた様子でエリィを見る。
「この調子なら、村を守りきれるかもーっ!!」
びゅんびゅんと矢を射る速度を上げながら、期待と尊敬の眼差しでリフィリットはエリィを見つめた。
それに比べて……。
エリィの隣で、剣を縦横にがむしゃらに振りまくっているタカヤをじと目で見る。
「タカヤっちは……それ、大丈夫なの?」
「多分っ!」
余裕の無い声でタカヤが答える。
正直、本当に大丈夫かどうかはタカヤにもわからない。
けれど、自分が思っていたよりは、結構やれている気はする。
まだ一匹もゴブリンは倒せていないが、その代わりにタカヤは一度も攻撃を受けていない。
自分達よりもリーチの長い剣を振り回され、ゴブリン達も距離をとって攻めあぐね射ている様子だ。
エリィがとりあえずこの技を教えてくれたという事は、自分の実力でできるこれが精一杯で、最善の戦い方なのだろう。
今は、そう信じるしかない。
「できないなりに、できる事だってあるんだからなっ!」
ゴブリンに迫られそうになれば、すぐさまタカヤは剣を振り回して一歩前に出る。
そうすると、ゴブリン達は同じように一歩後退する。
「だりゃーーっ!」
後退したゴブリンにすかさずエリィが駆け寄り、一匹、二匹殴り倒して元の位置に返ってくる。
タカヤとリフィリットによって、ゴブリンに対して隙はかなり潰せている。
倒されたゴブリンは他のゴブリンに引き摺って交代させられ、その穴を埋めるために後ろから新たなゴブリンが前線に立った。
「それにしても……私、治癒術士ですのに……」
予想はしていたが、治癒術士としての役割に徹する。というエリィの願望はすでに早くも砕け散っていた。
本当は剣士の後ろでキャーとかワーとか言って、傷ついた前衛の回復なんかをしたかった。
敵の異常な数の多さと、前衛の中でエリィが一番経験が多いので、仕方ない事ではあるが……。
エリィがイメージする弱い治癒術士の姿とは程遠い、法杖でゴブリンをボコボコにする武闘派治癒術士エリィの姿がそこにあった。
「まずいぞっ!側面が破られるっ!」
村の右側に展開していたエルフの若者の叫び声が聞こえる。
「側面が破られたら、村の奥に抜けられてしまいます。私が行きますので、タカヤさんとリフィリットさんはここで持ち堪えていてください」
「おっけだよ。まだ大丈夫な左側から一人来てもらうねっ!」
リフィリットは左側を守る若者に手を振って、こちらに来るよう合図を出す。
「あ、そうだ。あとこれを、お二人に渡しておきます」
移動する前に、エリィは何かを思い出したように手を叩く。
「ほいほいほいっ!と」
鞄の中からエクストラポーションを取り出すと、二人に投げて寄こした。
タカヤとリフィリットは空いた手でそれを受け取る。
「はぁぁっ! すっご! エクストラポーションすっご! 私、初めて見たかも!」
瓶にたっぷり入った桜色の液体をうっとり眺めるリフィリット。
交易都市のエンターリアでもなかなか手に入らないような品だ。ほとんど森から出た事のないリフィリットにとっては、噂話ぐらいでしか聞いた事がない。
「これ、そんなに凄いのか?」
エクストラポーションを鞘に通しているベルトに挟みながら、タカヤは聞いた。
「どんな怪我も疲れも一瞬で治る秘薬です。大怪我した時に……あ、タカヤさんは体力が尽きてきたらすぐに飲んでください。囲まれたら死んでしまうので。絶対ですよっ!」
エリィは指をびしっと突き付けて、強く念を押す。
「わ、わかった」
エリィの言葉をタカヤは肝に銘じる事にする。
「治癒術しとして回復をアイテムに頼るのは不本意ではありますが、今は悠長に呪文を詠唱している時間がないので……っていうか、私の詠唱速度では無理なのでっ!」
今日はもう、武闘派治癒術士をやりきるしかないのだ。
自信満々に情けない言葉を言い残すと、エリィは慌ただしく手薄になりはじめている村の右側へと駆けだして行った。
エリィが村の右側に到着すると、すでに防衛陣は総崩れになりかかっていた。
ざっと見た感じ、幸いな事に死者は出ていようだ。それでも数人のエルフの若者が、腕や足を抑えて蹲ったり、倒れこんだりしている。
「お待たせしましたっ! 怪我をしている方を後方へ、傷の手当をしてあげてくださいっ!」
てきぱきと指示を飛ばし、エリィはゴブリンとエルフ達の間に立って壁になる。
一人増援に加わったぐらいなんだ、とばかりに怯む事無くゴブリンは進撃してくる。
「ここから先は遠しませんよっ!」
正面から襲ってくるものには喉元や防具の隙間に突きをくれてやり、飛び掛かってくるゴブリンは容赦なく叩き落とした。
「相手が左右に広がっていますっ!囲まれないようにしてくださいっ!」
「わ、わかりましたっ!」
エリィの言葉に、エルフ達は両端に広がろうとするゴブリンを弓矢で狙い撃つ。
戦いながら、エリィは周りの戦況に目を配る。離れてはいるが、タカヤとリフィリットの状況もここからは確認できる。
若干押されてはいるが、なんとか無傷で踏みとどまっているようだ。
よしよし。と満足げにエリィが思っていたのもつかの間、すぐにタカヤの剣を振る速度が目に見えて遅くなってくる。
腰に差したエクストラポーションを抜き取ると、ごくごくと迷いなく飲み始めるのが見えた。
タカヤの体力は早くも最初の限界を迎えたようだ。
「えっ!? タカヤさん早くないですか?」
むぅ。とエリィはむくれてタカヤを見る。
ちょっと、かなり、いや、びっくりするぐらい予想外である。
そりゃあ、確かに体力の限界がきたら迷わず飲んでください。とは言いましたよ?
言いましたけど……こんな早くに使っちゃったら、あと何本必要だと思っているのですかっ!
全然手に入らないからがんばってかき集めましたのに! とっても大変でしたのにっ!
エリィは内心不満爆発だった。
「うおぉぉっ! これ凄いなっ!めっちゃ回復するっ!」
遠くではエクストラポーションを飲み終えたタカヤの絶賛する声が聞こえる。
「お役に立てて良かったですっ!」
ゴブリンの剣を法杖で受け止めながら、エリィはヤケクソ気味に叫んだ。
すうぅぅ~~~っと、大きく息を吸い込み、深呼吸をひとつ。
「まぁ、タカヤさん達が無事なら良いですが……良いですが……」
はぁぁぁ~~~っと、息を吐きながらエリィは前向きに捉える事にした。
……とりあえずは。
「ううーーっ!」
口をいの字にして、相手をしていたゴブリンの顔を法杖で往復で殴打する。
処理しきれずに溢れた感情の籠った、力強い殴打だった。
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