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第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 8
しおりを挟む今のところ、異常はない。
エリィは空いた左手を、目の前の何もない場所にかざす。
暖かな温もりを感じる。
他人からは見えない、エリィと聖剣とが繋がっている証拠だ。
聖剣の使うタイミングに、エリイがこんなにも慎重になるには理由があった。
世間では聖剣は最強の万能武器のように思われているが、それは半分正しく半分間違っている。
この世界に存在する、いかなる剣よりも切れ味が鋭く、人間が扱えるいかなる魔法よりも高威力な攻撃を叩きこむ事ができる。これが、正しい部分。
そして、これは間違っている部分……というか、ほとんどの人達が知らない部分。
エリィ本人と、“ 聖剣使いのエリィ=スノウドロップ ”と一緒に旅をした仲間しか知らない秘密。
エリィが聖剣を使える時間には限りがあり、時限式であるという事だ。
普段エリィは聖剣を帯刀していない。それは、かつて青の竜帝を倒した旅をした時もそうだった。
何故か。
聖剣という存在が人間の考える剣というものとは根本的に違い、本来は別の次元に存在し、召喚して使用するものだからだ。
剣の形はしているが、剣ではない。剣の形を模して、奇跡をかき集めて形作られたような何か。
それが、聖剣だった。
だが、その絶大な力と比例して驚くほどに燃費が悪い。
ひとたび召喚して手にしてしまえば、その瞬間から聖剣はエリィの体内から魔力をもりもり吸い取っていく。
そして……これが一番問題なのだが、エリィの体内の魔力はすこぶるに少なかった。
この世界で聖剣を扱えるのはエリィしかいないにも関わらず、聖剣とエリィの相性は無茶苦茶に悪い。
エリィ自身は最悪とさえ思っている。
一度の召喚で聖剣を使用できる時間は限界まで粘って三十分がいいところだ。
もちろん、聖剣を使うまでに消費した魔力量に左右される。
それまでに魔力を消費していれば、使用できる時間は十分、五分、と短くなっていく。
体内の魔力を急速に吸い取られた後、エリィは泥のように眠ってしまう。
ゴブリンがまとまって襲撃してきたなら、開幕にぶっ放す事も考えたが、百匹ものゴブリンを消し飛ばす威力の力を村の中で使うわけにもいかない。
強力すぎるが故に、使う場所も考えなければならない。
それに、もし後続に部隊が控えていたら……聖剣を使ってしまったエリィはまったく役にたたなくなってしまう。
ボス格の居場所がわかるまでは、やはり聖剣を使うのは控えたほうが良い。そう、エリィは結論づけた。
「仕切ってる奴の場所がわかれば、そこに叩きこんで一気に終わらせてやりますのに……」
今後の戦いにむけて、エリィがぐるぐると考えていると、何かに気付いた。
「んんん?」
村の入り口の辺りで何か音がした。
杖を構え、エリィは音がしたほうを凝視する。
一瞬、気のせいか? と思ったが、
ガサ……。
と、微かだが草を踏みしめる音がした。やはり聞き間違いではない。
数は十……二十……いや、もっと多い。
間違いない、ゴブリンだ。エリィは確信した。
「タカヤさんっ! 来ましたっ! ゴブリンですっ!」
エリィは大声でタカヤを呼ぶ。えぇぇっ! と、素っ頓狂な声と、バタバタと慌ただしい音が家の中から聞こえた。
「せっかくお風呂入ってたのに、タイミング悪すぎだろ」
ほとんど間をあけずタカヤが飛び出してきた。慌てて着替えたのか服装が乱れている。髪もちゃんと拭く間がなかったのかびしょびしょである。
「エリリン、ゴブリン来たってまじー!?」
タカヤに続いてリフィリットとエイドラッヒもやってくる。
「私とリフィリットで村の者に声をかけてきます。お二人はゴブリンのほうを。すぐに戦えるものを合流させますので」
エリィとタカヤは頷いた。
リフィットとエイドラッヒは別々の方向に駆け出し、各家々のドアを叩きはじめる。
エリィとタカヤは場所を広場に移し、ゴブリンを迎え撃つ体制にはいる。
ギギ……ギ……。
ウバ……エ……。
ゼン……ブ……ウバ……エ。
草を踏みしめる音と共に、はっきりとゴブリンの声が聞こえてくる。
タカヤは剣を構え、音のするほうを睨む。緊張で体はガチガチだ。
「いいですか、タカヤさん。できるだけ私の近くにいてくださいね」
タカヤを安心させるため、エリィはやさしく声をかけた。
「お、おう」
「近くにいてくれれば、私が絶対タカヤさんを助けますので」
「わかった、ありがとうエリィ」
タカヤの顔に少しだが、余裕が生まれる。
「戦える人達はみんな配置についたよ、他の人たちはおじーちゃんに守ってもらってる」
声をかけ終わったリフィリットが戻ってきた。
戦えない者たちは、村の一番奥の建物に避難したようだ。
ザザッ!ザザッ!と足音はどんどん大きくなる。
「来るっ!」
まだ何も見えないが、リフィリットにははっきり見えているようだ。
そして、
ゴブリンの群れが村の入り口からぞろぞろと入ってきた。
その数はざっと見て百匹。
聞いていた話とほぼ間違いのない数のゴブリン達がひしめきあっている。
「ギギギ……」
先頭に立つゴブリンが、下卑た笑みを浮かべる。
「ウバエ……」
そう言った瞬間。オオッ! と歓声のような声をあげ、ゴブリン達は一気に村へとなだれ込んできた。
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