12 / 21
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 7
しおりを挟む聖剣の威力なら楽にゴブリンの百匹や二百匹ぐらい簡単に消し飛ばせるだろう。
間違いなく聖剣にはそれだけの力がある。
「でもなぁ……せっかく治癒術士になりましたのに……」
しかも今日なったばかりの、なりたてほやほやである。
エリィは嘆く。
村を救うほうが優先事項なので、そんな事は言っていられないわけで……。
それはエリィもすでにわかっているし、自分の中で答えも出ている。
本当に本当に本当に、どうしても必要な時がくれば、迷わず聖剣を使うつもりだ。
ただ、せっかく治癒術士に転職したのだから、その時が来るまではできるだけ自分の職の役割に徹したい。そう思っていた。
「どんな策なのか、よかったら聞かせてくれないか? 何か手伝える事があるかもしれないし」
「えと……その時が来たらちゃんと言います。使うなら多分、最後の手段になると思いますので」
親切心でタカヤは言ってくれるが、エリィははぐらかした。
「そっか。まぁ、俺にできる事があったらいつでも言ってくれよな」
タカヤはそれ以上、深く聞く事はなかった。
そういうところは、タカヤさんの良いところだな。とエリィは思う。
「ちょっとデリカシーには欠けますが……」
「ん? なんか言った?」
「いえ、なんでもないです。ないです」
さっきとは逆で、今度はエリィがすっとぼける。
本当は転職してはじめての仲間であるタカヤには、自分が元聖剣使いである事を言ってもいいのかもしれないが、自分の過去を知って変に気を遣われるのはエリィの望むところではない。
まだパーティーを組んだばかりだ、そういう部分はエリィも慎重にいきたい。
「最後の手段はあくまで保険ですからね、使わなくていいならそのほうがいいですし」
「そういうものなんだな……でも、エリィに考えがあるなら、きっと大丈夫だと俺は思ってるよ」
「わ、信頼されている……嬉しいです」
まだ出会って間もないタカヤが信頼してくれているのは、素直に嬉しい。
「そりゃあ、エリィのほうが俺よりも頼りになるしさ。」
タカヤは手に持った剣を見る。スライムを叩くだけにしか使っていない。ほとんど新品のぴかぴかだ。
まだ、一度もまともに魔物との戦いに使った事がない。
タカヤが色々な事を考え、対処するには圧倒的に経験値が足りない。
「そうだ、付け焼刃ですが、タカヤさんにひとつ技を授けます」
ぴかぴかの剣を見て、エリィはひとつ思いついた。
「技?」
「はい。できるだけ私もタカヤさんの傍にいるようにはしますが……大群で一気に攻めてこられたら、はぐれてしまう事もあるかと思いますので。そうなった時に、ちょっとでもタカヤさんの生存率をあげるための技です」
「おおっ! そういうのすごいありがたい」
自分の弱さを自覚していても、タカヤだってみすみすゴブリンにやられるつもりはない。
できる事、教われる事があれば、なんだってやるつもりだ。
「では、まず剣を構えてください」
「よし……これでいいか?」
真剣な顔で剣を構えるタカヤ。本人は一生懸命なのだが、剣の重さに対して筋力がまだまだ伴っていないため、切っ先は普通の剣士が構えるものより随分と下がっている。
そこは、エリィの想定内。気にせず説明を続ける。
「そこから、縦に大振りでぶーんっ!と振ってください」
「ぶ、ぶーんっ!」
エリィに言われた事を復唱しながら、タカヤは大きく剣を振り下ろす。
剣の重みで切っ先が地面に少しめり込んだ。
「次は横に大振りぶーんっ!です」
「よ、横にぶーんっ!」
再び復唱して、今度は横に剣を薙ぎ払う。重心を持っていかれ、後ろに数歩さがる。
「次は?」
もう一度、剣を構えなおしてタカヤが次の指示を待つ。
「以上です」
「えぇっ、これだけ?」
「そうですよ。これぞ必殺 “ 敵を寄せ付けない剣の舞 ” です」
「ただ大振りで剣を振り回してるだけじゃ……」
「身も蓋もない言い方をすれば……まぁ、そうですね」
「こんなんで、本当に大丈夫なのか?」
「ゴブリンは小柄なので、リーチはタカヤさんのほうが長いのですよ」
胸より下の辺りに手を持っていき、ゴブリンが自分よりも小さい事をタカヤに伝える。
「だから、そうやって剣をぶんぶん振り回して移動していれば、囲まれる危険は減ります」
「死なない?」
「それはタカヤさんのがんばり次第です」
「そっかぁ……わかった」
剣を眺め、とりあえず試してみるか……。とタカヤは呟いた。
「さ、ひと汗かいたところで、タカヤさんもお風呂入っちゃってください」
はい、ここまで。とばかりに、エリィがぱんっ!と手を叩いた。
「え? もうちょっとなんか練習しておいたほうが良くない?」
「タカヤさんは剣を持ってまだ間もないのですから、そんな急に強くはなれませんよ」
「それは……確かにそうだ」
ぐぅの音も出ないのか、タカヤは苦い顔をしている。
「それよりもしっかり疲れをとって、大事な時にちゃんと動けるようにしていてください」
「なんか、エリィってお姉ちゃんって感じだよな」
「そうですか?」
以前のパーティーではエリィが最年少だったので、そんな事を言われたのは初めてだった。
「タカヤさんおいくつです?」
「十七だけど」
「おおっ!」
エリィはガッツポーズをした。
「私、十八歳ですっ!」
勝ちである。
「本当に年上なんだ……」
タカヤは意外そうな顔をする。
童顔で小柄な事はエリィも自覚しているので、きっとタカヤも年下だとか何だとか思っていたに違いない。
しかし、そうではなかった。
自分のほうが年上なのだ。お姉さんなのだ。
「では、お姉さんの言う事は素直に聞いてください」
えっへんと胸を張り、エリィはすぐにお姉さん風を吹かす。
「お姉さんってそういう事じゃなくない?」
タカヤがうーんと唸る。
エリィはお姉さんですからね! と更に胸を張った。
今後、何かあればこの話題は擦っていく事にエリィは決めた。
「まぁいいや、とりあえず汗を流してくるよ」
釈然としないようだが、タカヤはエリィの言葉に従う。
「はい。私がしっかり見張っておきますので、ゆっくり入ってきてください。くさくさ男子は嫌われてしまいますからね」
「わ、わかったよ。くさくさ男子は嫌だからいってくる」
タカヤは剣を鞘に納め、家へと入って行った。
タカヤを見送り、エリィは見張りの位置に立つ。
一人になった事で、エリィは自分の行うべき事を再び考える事にする。
家の前に置かれた松明が燃える音。村の上空には満点の星。
時折聞こえる虫の声以外は静かなものである。
何かを集中して考えるには丁度いい静寂だった。
0
お気に入りに追加
367
あなたにおすすめの小説


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜
赤井水
ファンタジー
クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。
神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。
洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。
彼は喜んだ。
この世界で魔法を扱える事に。
同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。
理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。
その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。
ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。
ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。
「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」
今日も魔法を使います。
※作者嬉し泣きの情報
3/21 11:00
ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング)
有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。
3/21
HOT男性向けランキングで2位に入れました。
TOP10入り!!
4/7
お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。
応援ありがとうございます。
皆様のおかげです。
これからも上がる様に頑張ります。
※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz
〜第15回ファンタジー大賞〜
67位でした!!
皆様のおかげですこう言った結果になりました。
5万Ptも貰えたことに感謝します!
改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。
帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる