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第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 7
しおりを挟む聖剣の威力なら楽にゴブリンの百匹や二百匹ぐらい簡単に消し飛ばせるだろう。
間違いなく聖剣にはそれだけの力がある。
「でもなぁ……せっかく治癒術士になりましたのに……」
しかも今日なったばかりの、なりたてほやほやである。
エリィは嘆く。
村を救うほうが優先事項なので、そんな事は言っていられないわけで……。
それはエリィもすでにわかっているし、自分の中で答えも出ている。
本当に本当に本当に、どうしても必要な時がくれば、迷わず聖剣を使うつもりだ。
ただ、せっかく治癒術士に転職したのだから、その時が来るまではできるだけ自分の職の役割に徹したい。そう思っていた。
「どんな策なのか、よかったら聞かせてくれないか? 何か手伝える事があるかもしれないし」
「えと……その時が来たらちゃんと言います。使うなら多分、最後の手段になると思いますので」
親切心でタカヤは言ってくれるが、エリィははぐらかした。
「そっか。まぁ、俺にできる事があったらいつでも言ってくれよな」
タカヤはそれ以上、深く聞く事はなかった。
そういうところは、タカヤさんの良いところだな。とエリィは思う。
「ちょっとデリカシーには欠けますが……」
「ん? なんか言った?」
「いえ、なんでもないです。ないです」
さっきとは逆で、今度はエリィがすっとぼける。
本当は転職してはじめての仲間であるタカヤには、自分が元聖剣使いである事を言ってもいいのかもしれないが、自分の過去を知って変に気を遣われるのはエリィの望むところではない。
まだパーティーを組んだばかりだ、そういう部分はエリィも慎重にいきたい。
「最後の手段はあくまで保険ですからね、使わなくていいならそのほうがいいですし」
「そういうものなんだな……でも、エリィに考えがあるなら、きっと大丈夫だと俺は思ってるよ」
「わ、信頼されている……嬉しいです」
まだ出会って間もないタカヤが信頼してくれているのは、素直に嬉しい。
「そりゃあ、エリィのほうが俺よりも頼りになるしさ。」
タカヤは手に持った剣を見る。スライムを叩くだけにしか使っていない。ほとんど新品のぴかぴかだ。
まだ、一度もまともに魔物との戦いに使った事がない。
タカヤが色々な事を考え、対処するには圧倒的に経験値が足りない。
「そうだ、付け焼刃ですが、タカヤさんにひとつ技を授けます」
ぴかぴかの剣を見て、エリィはひとつ思いついた。
「技?」
「はい。できるだけ私もタカヤさんの傍にいるようにはしますが……大群で一気に攻めてこられたら、はぐれてしまう事もあるかと思いますので。そうなった時に、ちょっとでもタカヤさんの生存率をあげるための技です」
「おおっ! そういうのすごいありがたい」
自分の弱さを自覚していても、タカヤだってみすみすゴブリンにやられるつもりはない。
できる事、教われる事があれば、なんだってやるつもりだ。
「では、まず剣を構えてください」
「よし……これでいいか?」
真剣な顔で剣を構えるタカヤ。本人は一生懸命なのだが、剣の重さに対して筋力がまだまだ伴っていないため、切っ先は普通の剣士が構えるものより随分と下がっている。
そこは、エリィの想定内。気にせず説明を続ける。
「そこから、縦に大振りでぶーんっ!と振ってください」
「ぶ、ぶーんっ!」
エリィに言われた事を復唱しながら、タカヤは大きく剣を振り下ろす。
剣の重みで切っ先が地面に少しめり込んだ。
「次は横に大振りぶーんっ!です」
「よ、横にぶーんっ!」
再び復唱して、今度は横に剣を薙ぎ払う。重心を持っていかれ、後ろに数歩さがる。
「次は?」
もう一度、剣を構えなおしてタカヤが次の指示を待つ。
「以上です」
「えぇっ、これだけ?」
「そうですよ。これぞ必殺 “ 敵を寄せ付けない剣の舞 ” です」
「ただ大振りで剣を振り回してるだけじゃ……」
「身も蓋もない言い方をすれば……まぁ、そうですね」
「こんなんで、本当に大丈夫なのか?」
「ゴブリンは小柄なので、リーチはタカヤさんのほうが長いのですよ」
胸より下の辺りに手を持っていき、ゴブリンが自分よりも小さい事をタカヤに伝える。
「だから、そうやって剣をぶんぶん振り回して移動していれば、囲まれる危険は減ります」
「死なない?」
「それはタカヤさんのがんばり次第です」
「そっかぁ……わかった」
剣を眺め、とりあえず試してみるか……。とタカヤは呟いた。
「さ、ひと汗かいたところで、タカヤさんもお風呂入っちゃってください」
はい、ここまで。とばかりに、エリィがぱんっ!と手を叩いた。
「え? もうちょっとなんか練習しておいたほうが良くない?」
「タカヤさんは剣を持ってまだ間もないのですから、そんな急に強くはなれませんよ」
「それは……確かにそうだ」
ぐぅの音も出ないのか、タカヤは苦い顔をしている。
「それよりもしっかり疲れをとって、大事な時にちゃんと動けるようにしていてください」
「なんか、エリィってお姉ちゃんって感じだよな」
「そうですか?」
以前のパーティーではエリィが最年少だったので、そんな事を言われたのは初めてだった。
「タカヤさんおいくつです?」
「十七だけど」
「おおっ!」
エリィはガッツポーズをした。
「私、十八歳ですっ!」
勝ちである。
「本当に年上なんだ……」
タカヤは意外そうな顔をする。
童顔で小柄な事はエリィも自覚しているので、きっとタカヤも年下だとか何だとか思っていたに違いない。
しかし、そうではなかった。
自分のほうが年上なのだ。お姉さんなのだ。
「では、お姉さんの言う事は素直に聞いてください」
えっへんと胸を張り、エリィはすぐにお姉さん風を吹かす。
「お姉さんってそういう事じゃなくない?」
タカヤがうーんと唸る。
エリィはお姉さんですからね! と更に胸を張った。
今後、何かあればこの話題は擦っていく事にエリィは決めた。
「まぁいいや、とりあえず汗を流してくるよ」
釈然としないようだが、タカヤはエリィの言葉に従う。
「はい。私がしっかり見張っておきますので、ゆっくり入ってきてください。くさくさ男子は嫌われてしまいますからね」
「わ、わかったよ。くさくさ男子は嫌だからいってくる」
タカヤは剣を鞘に納め、家へと入って行った。
タカヤを見送り、エリィは見張りの位置に立つ。
一人になった事で、エリィは自分の行うべき事を再び考える事にする。
家の前に置かれた松明が燃える音。村の上空には満点の星。
時折聞こえる虫の声以外は静かなものである。
何かを集中して考えるには丁度いい静寂だった。
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