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第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 5
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「この村で戦える人はどれぐらいいますか?」
真剣な声でエリィは村の戦力確認をする。
「そうですな、リフィリットと……不肖ながら私を勘定にいれてざっと、十五人ぐらいでしょうか」
エリィの質問に指折り数えてエイドラッヒは答える。
「その人数でよく百匹のゴブリンを撃退できましたね……」
建物の数からいえば村全体で百人ぐらいの住民はいるだろうが、その全員が戦えるわけではない。
長老のエイドラッヒが言うのだから、実際に武器を持って戦える人数は十五人で間違いないのだろう。
十五対百である。
戦力差はざっと七倍近くある。本当なら皆殺しにあっていてもおかしくない。
三日前にそんな戦力差で戦ったにしては、村の建物は壊されたり火を放たれた形跡もない。
さっき村にやってきた時に感じた、平和な空気が逆におかしく感じる。
「百匹ぐらいゴブリンが攻めて来た時はさすがに私も激ヤバだっ! って思ったんだけど、なんか実際に戦ってきたゴブリンは三十匹ぐらいだったんだよね」
頬に指を宛て、リフィリットは当時の事を思い出す。話ながらリフィリット自身も不思議に感じているようだ。
「その間、他のゴブリンは村から色々なものを盗んでいたのではないですか?」
何か思い当たる節があるのか、話ながらエリィの眉間には皺が寄っていく。はっ、とその事に気付き慌てて眉間を揉みほぐした。
「わ、やばっ! まだ話してないのにエリリンよくわかったね」
未来予知でもされたようにリフィリットは驚く。
「そして、三日前の襲撃より以前にゴブリンがやってきた時の数は、百匹より少なかった……」
「すごーい、全部当てるじゃんっ! やばすぎー!」
リフィリットは大はしゃぎだ。
褒められてもエリィは喜ぶ気になれない。
自分の話が当たっているならば、悠長な事を言っている場合ではないからだ。
「なんでそんな事わかるんだ?」
タカヤも不思議そうだ。
「ゴブリンの習性ですよ」
間髪いれずにエリィは答えた。
前回、青の竜帝を倒した冒険に出た時にも、世界の各地でゴブリンに襲撃された村や町で見聞きした事がある。リフィリットの話はそれらと合致していた。
「ゴブリンは目星をつけた場所に、まず少数で襲撃をかけるのです。例えば五匹で襲撃をかければ、そのうちの二匹が戦い、三匹がその隙に物を盗むといった感じで」
今まで何度も小分けに村を襲撃していたのは、必要な人数の確認だったという事だ。
「役割が分担されてるわけか」
結構、賢いんだな。タカヤは感心している。
「そうやって、襲撃場所がどれぐらいの人数なら自分達を防ぎきれず、楽に安全に物を盗む事ができるかを見極めていくのです……五匹で無理なら十匹、十匹で無理なら二十匹。といった具合に」
「なるほど……という事は」
エイドラッヒにはエリィが言いたい事がもうわかっているようだ。
「はい。三日前の襲撃で三十匹の相手をしている間に残りの七十匹が盗みを働いたなら、この村は百匹で攻略できるとゴブリンは思ったはずなのです」
「今度は百匹全員で襲ってくるって事? 三十匹でも手一杯だったのに?」
リフィリットは青ざめている。
「もしかしたらそれ以上かもですね。戦力総出で手一杯だったからこそ、ゴブリンはいけると思ったら次の襲撃からは総出で根こそぎ搔っ攫いに来ますから」
「根こそぎって……」
タカヤが恐る恐る聞いてくる。
「文字通り根こそぎです。物も人も」
エリィは言い切った。こんな状況で言葉を濁しても意味がないからだ。
「非力ですけど狡猾で残酷ですからね。少数なら大した魔物ではないですが」
総数自体が少ないなら全滅させてしまえばいいが、百匹単位となるとそれも容易ではない。
エイドラッヒとリフィリットの表情はすっかり沈んでしまっている。
「まぁ、ほら。最初に話を聞いた時は百匹と戦わなきゃって思ったわけで、そこは変わらないわけだし……さ?」
空気の重さに耐えられなくなったのか、タカヤが努めて明るく振る舞うが、誰もそれに答えない。
「すんません……」
肩を落として申し訳なさそうにタカヤは俯く。
村の戦力は十五人。そこにエリィとタカヤの二人を加えて十七人。
依頼を受けた時にエリィが想定していたゴブリンの数ならこれで十分だ。
しかし、今となっては十五対百が十七対百になったぐらいでは、焼石に水なのは明らかだった。
もちろんエリィが加わっているので、実際には三十七対百ぐらいにはその差を縮める事はできるだろうが……それにしてもだ。
「我々はここにずっと住んできました。なんとか村を守れればと藁にもすがる思いでしたが……」
村のためにというエイドラッヒの必死な気持ちは、痛いほどにわかる。
わかる……が、どう考えても分が悪すぎる。
詳しく聞くほど、初級冒険者パーティー二人でどうにかなる問題ではない事が露見していく。
「うーん……」
ひと唸りして、エリィは再びティーカップに口をつけた。
紅茶はすでにぬるくなっている。それでも気にせずエリィは考えを巡らせる。
どうすればこの状況を覆す事ができるだろうか?
自分がもの凄くがんばらないといけない。それは絶対条件として……。
どれぐらいの数を相手にできるだろうか?
二十? 三十? 多分それぐらいなら大丈夫だ。しかしどれだけ人並外れた強さであっても、エリィも人間である。スタミナには限界があり、無尽蔵に動けるわけではない。
一匹は弱くても数を送りこまれ、長時間挑まれれば辛いものがある。
それに、不安要素がもうひとつ。
エリィはタカヤの顔をじっと見る。
「ん?」
何故見られているのかわからず、タカヤはきょとんとしている。
「心配ですねぇ……」
ぷいっ、とそっぽを向いてエリィは再び考えはじめた。
意味がわからず、タカヤはショックを受けている。
タカヤを守りながら戦うという事態も考慮する必要がある。
うぅ……私がもう一人いれば。エリィは頭を抱えた。
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