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第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 4
しおりを挟む谷には何軒もの木製の家が立ち並び、ひとつの村を形成していた。
村の中央には川が流れ、エルフの子供達が水遊びをしながらはしゃいでいる。
なんとものどかな光景からは、冒険者の助けを必要としているようにはとても見えない。
平和そのもの。と言ってもおかしくない景色が広がっている。
時折すれ違う住人のエルフ達に会釈しながら、エリィとタカヤは更にリフィリットの後を付いていく。
「ほい、到着。ここが長老の家だよ」
リフィリットが立ち止まった先には、他よりも幾分大きく、幾分立派な家が建っていた。
「ちょーろー。冒険者さん達が来たよー」
ドアノッカーを数回叩き、リフィリットが長老を呼び出す。
しばらくの間があって、ゆっくりとドアが開かれた。
家の中から現れたのは、人間でいえば七十代ぐらいの老人だった。
老人の耳はリフィリットと同じく尖っており、彼もまたエルフである事を語っている。
「よく来てくださった、私は長老のエイドラッヒと申します」
にこにこと笑顔を絶やさぬエイドラッヒは、人の好い好々爺といった印象だ。
「ここに辿り着くまでにさぞお疲れになったでしょう、どうぞ中へ」
エリィとタカヤは家の中へと通される。
室内は広さの割には質素なものだった。
部屋の中央に六人がけのテーブルと椅子。壁に本棚が二つと、そのすぐ近くにベッドが二つ。あとは、食器棚と調理場ぐらいしか見当たらない。
「何にもないけど、二人ともゆっくりしていってね」
慣れた様子で食器棚を開け、リフィリットは勝手に紅茶の準備を始める。
「え? 勝手に触って怒られませんか?」
「え? 勝手に触って怒られない?」
二人の声がハモる。
エリィとタカヤは同じ首の動きでリフィリットの方を見る。
「ああ、本人が言っていませんでしたか。リフィリットはわしの孫です」
心配そうな二人に、エイドラッヒは笑う。
「さすがに私も他人の家で勝手にお茶の準備なんてしないってばー」
ぶー。と、思いきり頬を膨らませ、リフィリットは口を尖らせる。
「まったく、そそっかしい孫ですみませんな……これでも弓矢の腕前は村で一番なんですよ」
「これでもは余計だしっ! 他にも色々できるしっ! 紅茶とかも淹れられるしっ!」
全力で否定した後、リフィリットは怒った様子でお茶の用意を続ける。
「人前ではおじーちゃんって呼ぶなとか、自分の家なのにドアを開ける時はノックしろとか、おじーちゃんほんとうるさいからさー……どっちでも良いじゃんね?」
今しがた言われた事への反抗のつもりだろうか? リフィリットの言葉には少し棘があった。
ねー。っと、リフィリットはこちらに同意を求めてくるが、エイドラッヒを目の前にしてエリィもタカヤもどう反応していいかわからない。適当な愛想笑いを浮かべて受け流すしかない。
「こら、だから人前では長老と呼べと言っとるじゃろ」
エイドラッヒはたしなめる。
「自分の家だからだいじょぶだしっ!」
リフィリットはムキになって言い返す。
「お客様の前じゃ」
「エリリンとタカヤっちは友達だからいいんだもーん」
いつの間に友達っ!? 驚いた表情で二人はリフィリットを凝視する。
「まったく……」
深いため息をつくと、エイドラッヒはやれやれ、と頭を抱えた。
エルフの長老は反抗期の孫娘に苦労しているようだ。
エイドラッヒとのやりとりをしている間も手を動かしていたのか、準備を終えたリフィリットがトレイを持ってやってきた。
人数分の紅茶と焼き菓子がそれぞれの前に置かれる。
「それで……本題なのですが」
紅茶をひと口飲み、エリィが静かに話を切り出した。
「ギルドへの依頼は村を襲撃にくるゴブリンの撃退。という事で伺っているのですが……」
「いかにもです」
長老の皺だらけの顔に、さらに深い皺が寄る。
「ここのところ……もちろん、今までもそういった事がなかったわけではありませんが。最近はその頻度が異常に増えておりましてな」
朗らかで優しかった長老の声は、一段低くなる。それだけで、エリィが思っているよりも事態が深刻な事を物語っていいた。
「でも、エルフがゴブリンに遅れをとるとは思えません。村を見た感じ、戦えそうな若者も多そうですし」
エリィの隣で紅茶をすすりながらタカヤが深く頷く。
実際のところ、タカヤもエリィと同意見だった。森の入り口で見たリフィリットの身のこなしや弓矢の腕を見れば、エルフだってかなり戦う力があるのはわかる。
いくらリフィリットが村一番の弓矢の使い手でも、他のエルフ達との実力差が、まさかエリィとタカヤほどある。という事はないだろう。
ゴブリンを見た事も戦った事もないので、確証は持てないが……
自分を連れて初めて引き受ける依頼に選ぶぐらいだ。エリィの話を信じるなら、普通に戦う能力を持つ者にとって、ゴブリンがそこまで脅威な存在ではない事は、タカヤにも想像できる。
「村の若者で対応できる数なら問題ないのですが、なにぶん数が多いのです……」
「そんなに多いのですか?」
エリィの声にも徐々に真剣さが増していく。
どういう方向に話が進もうとしているのかタカヤにはまだわからない。直観だが、どうにも嫌なものを感じる。
「この間……といっても、三日前の事ですが。その時はおよそ百匹ほどのゴブリンが村に攻めてきました」
「ひゃくっ!?」
思わずタカヤは大声を出してしまう。
「ほ、本当に初心者に最適な依頼……なんだよな?」
念のため小声でエリィに確認するタカヤ。
「依頼書の内容だけで言えば……そうでした」
エリィは依頼書の内容を、すでに過去のものとして話す。
「村をゴブリンの襲撃から守ってほしいという内容でしたので、私もせいぜい二十匹ぐらいを倒すお手伝いなのかなーって思っていたのですけど」
実際の数は二十どころか百である。エリィが想定していた数をかなり上回っている。
「じゃあギルドに頼んで、もっと冒険者の応援を呼んだほうが」
提案するタカヤに、エイドラッヒは首を振る。
「それもなかなか難しいのです……」
「ギルドにお願いするのにお金いっぱいかかるからねー」
話そうとしたエイドラッヒの代わりに、リフィリットが割ってはいる。
「でも、俺たちみたいな初心者なら安く済むんじゃ……」
この依頼の報酬がどれほどかは知らないが、エリィが気楽に受けてくるぐらいだから、そんなに高額はわけはないだろうとタカヤは思っていた。
「普通の街や村ならそうかもだけど。でも、私達は自分達で食べるぶんだけを狩りで捕ってきて暮らしてるからさ……余った肉や魚を売って貯めた僅かなお金をそんなにじゃぶじゃぶ使えないんだよね」
明るく話しているが、リフィリットの口調はどこか悲しそうだった。
「本当はもっとお金になる鉱石とか宝石が採れればいいんだけどさ……」
寂しそうな笑顔でそう付け加える。
「私達が受けとる報酬は全体のほんの一部なのです。実際は報酬よりもっと多くのお金が依頼主からギルドに支払われているのですよ」
エリィの説明を受けて、タカヤは納得するしかなかった。
世知辛い世の中である。
とにかく自分達を含めた、この村にいる人数でなんとかするしかない。という事だけは確かだ。
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