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第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)

第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 3

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 そんな事を考えながら歩いていると、エリィは妙な気配を感じた。

 誰かが、こちらを見ているような気配。


「タカヤさん、止まってください!」

 
 エリィは咄嗟に叫ぶ。次の一歩を踏み出しかけていたタカヤは、なんとかその場に踏み留まった。

 ビュンッ!

 風切り音が聞こえたかと思った瞬間、タカヤの足元に勢いよく一本の矢が突き刺さった。


「どわっ! あっぶなっ!」


 タカヤは思わず後ろに飛び退く。

 エリィが声をかけていなければ、今頃は足の甲に矢が命中していただろう。

 エリィは矢が飛んできた方向を凝視する。

 視線の先、巨木の枝の上には人影が……正確には少女が弓矢を構えて立っていた。

 ピンと尖った耳から、少女がエルフである事がわかる。


「ここから先は、用件を言ってくれないと通せないよ」


 二人の位置からでは顔はよく見えないが、ハスキーながらも高いトーンの声から、エルフの少女はエリィと同じぐらいの年齢の印象だ。

 少女の矢尻がエリィとタカヤの額を交互に狙い、左右に揺らめいている。

 タカヤはいつでも抜けるように腰の剣に手をかける。


「動かないでっ!」


 エルフの少女は弓矢の狙いをタカヤに定める。

 これ以上ぴくりとでも動けば、すぐにでも矢を放ちそうな殺気の籠った目で、エルフの少女は睨んでいる。

 場に緊張が走るのを感じる。

 が、


「えっと、確かこの辺にしまったはずなんですが……」


 エリィは探しものを見つけるため、鞄をごそごそと漁る。


「ちょっと、動かないでって言ってるでしょっ!」


 少女は狙いをエリィに移した。

 しかし、気にせず探しものを続ける。


「もうちょっとお待ちください、見せたいものがあるので」


 いつ矢が飛んできて頭を射抜かれてもおかしくない状況だが、少女の誤解を解くには、探しているものが見つからないと話にならない。
 

「馬鹿みたいに図太い精神力だ」

 
 タカヤが恐ろしい物でも見るような顔をしている。


「タカヤさん減点しておきますね。3回減点でグーパンチなのです」

 
 鞄の中で手を動かしながら、機械的にエリィは言う。


「ごめんね?」

 
 タカヤがすぐに謝ってくる。


「あ、あった。これだこれだ」

 
 ほっと胸を撫でおろし、鞄から筒状に丸められた羊皮紙を取り出すと、エリィは少女に向かって広げて見せた。
 
 
 ギルドからの公式な紹介状だった。


「私達はギルドの依頼を受けてやってきたのですが、依頼主の方はいらっしゃいますか?」


 エルフの少女は目を細めて紹介状を凝視する。

 どうやらエルフの少女にはしっかり見えているらしく、紹介状の内容をふむふむと頷きながら読んでいるようだ。


「あー、ギルドからの人ね。おっけおっけ」
 

 ひと通り内容を読んだのかエルフの少女は表情を和らげ、木の枝から飛び降りると、二人の前にひらりと着地した。


「え? なんか、めちゃくちゃノリ軽くない?」


「ちゃらちゃらしてますね」


 エリィとタカヤはそのがギャップに思わずツッコむ。

 緊張感のある表情を崩した事で、さっきまで少女が纏っていた神秘的な雰囲気が、一気になくなったからだ。


「ほら、エルフも世代交代? していってるからさー。私ら世代はこんな感じだよー」
 

 構えていた矢を矢筒に戻しながら、少女はあははと笑った。


「私は治癒術士のエリィ、こちらは剣士のタカヤさんです」


「エリリンにタカヤっちね。おっけーだよ」

 エリリン? 

 タカヤっち?

 いきなり物凄いフレンドリーだ。
 
 心の距離をぐいぐい詰めてくる。
 
 見ればタカヤも複雑そうな表情をしている。


「私はリフィリット。よろしくねー」


 ちっすちっすと、リフィリットは挨拶をする。

 タカヤは頭を下げながら、リフィリットの顔をまじまじと見ている。


「どうしましたか? タカヤさん」

「あれれ? 私の美しさに見惚れちゃった?」

 エリィの言葉にリフィリットが乗っかってくる。

「いや、その。俺、エルフって初めて見るからさ」

 タカヤは言いづらそうに口を開いた。


「えー! 本当に? 最近はエルフもいろんな場所に住んでるから、珍しくもないと思うけどー?」


 リフィリットは口元を手で押さえて驚く。

 エルフは森や渓谷に居を構える、自然と共に暮らす種族だ。見た目は人間とほとんど変わらないが、尖った耳が大きな特徴だ。

 男女問わず整った顔立ちの者が多く、もちろんリフィリットも例外ではない。色白の肌に切れ長の目。太陽の光を受けてきらきらと輝く腰まで伸びた白金色の髪。

 まるで美術品の彫像のような、完璧な美しさだった。

 そんな彼女が、

「そっかぁ。タカヤっちはエルフ見た事なかったんだね。私で良かったら一杯見て良いからねー」

 などと軽口を叩いているのだから、リフィリットから感じるギャップは相当なものだ。


「わかります。辺境の町の出身だとエルフの方を見る機会もあまりないですからね」


 エリィは大きく頷いた。


「いや、別に俺は辺境出身ってわけじゃ……」


「よいのです、恥ずかしがらなくてよいのですよ。私も辺境の出身なのでよくわかります」


「本当に違うんだけど……」


 タカヤは否定するが、エリィにも同じような経験がある。

 大した娯楽もなく、他の町とも交流の少ない辺境出身者は、エルフやドワーフ、リザードマンなど、他の種族と会う機会がほとんどない。

 エリィだって、他の種族を初めて見たのは、前回の冒険で大きな町に立ち寄った時だった。


「んじゃ、とりあえず私達の村に案内するね。依頼主の長老もそこにいるから」


 慣れた足取りで、森の更に奥へと歩き出すリフィリットの後に、二人も続いた。

 最初は道の形を確認できたが、ほんの十分ほど進んだだけで、どんどんと険しくなり、そのうち道が失われ、ついには獣道さえ消えた。

 足元にはなんの道標もない。リフィリットを見失うと、すぐにでも迷ってしまいそうだった。

 スキップでもするようにリフィリットは険しい道を進んでいく。

 エリィは黙々とリフィリットの後に続く……が、タカヤだけはすでに息も絶え絶えに、かなり遅れて付いてきている。

 死にそうな顔だ。


「二人……とも……ちょっ……ちょっまっ……待って……」


 まっすぐ進んでいるだけなのに、伸び放題に伸びて露出した木の根っこや、ごろごろと転がる石を避けながら歩くのは、それだけで体力の消耗が半端ではない。

 ちょっとした登山でもしているようなものだ。


「えー……なんかタカヤっち、すんごい頼りなさそだけど、だいじょぶー?」


 リフィリットは切れ長の目を細め、じろりとタカヤを見る。

 冒険者としての実力を疑われている?

 慌ててエリィは間に割って入った。


「そこはもう、ばっちりお任せください! 私達は今売り出し中のパーティーなので! 治癒術士エリィと剣士タカヤといえば、引く手数多の人気コンビですので!」


「いや……さすがにそれは言い過ぎじゃないか?……」


 勢いで話すエリィに息を整えながらタカヤがこそこそと耳打ちしてくる。


「こういうのは少しオーバーに言っておいたほうが良いんですよ。相手も安心できますし」
 

 肘でつついて、タカヤに話を合わせるように促す。

 一瞬、え? という顔をするタカヤにエリィはもう一度、肘でつついた。

「そ……そうなんだよ……こういう道に慣れてないだけで、それ以外はもう、ば、ばっちりだから」


 慌ててタカヤも話をあわせる。


「そっかぁー、人気の冒険者が来てくれたなら安心かもだねー」
 

 リフィリットは素直に信じたようだ。
 
 先程と違い、二人に対して期待の眼差しを向けている。


「もうさ、ゴブリン達にはほんと困ってんだよねー」
 

 ムカつく。とリフィリットは零した。


「みなさんの安全は私とタカヤさんが必ずや取り戻します。ゴブリンなんて何匹きてもボコボコにしてやりますよっ!」


 そんなやりとりや、なんて事ない世間話を(主にエリィとリフィリットが)していると、ほどなくしてエルフたちの住む谷に到着した。
 
 
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