先日まで最強の聖剣使いでしたが、 今日から治癒術師(Lv1)としてがんばりますっ!

小島 知晴

文字の大きさ
上 下
5 / 21
第一話 今日から正真正銘の治癒術士ですっ!(しょんぼり剣士と共に)

第一話 今日から正真正銘の治癒術士ですっ!(しょんぼり剣士と共に) 5

しおりを挟む

「え? ごめん。後半うまく聞き取れなかったんだけど」
 

 何ごにょごにょ言ってんの? とタカヤが聞き返す。


「だから、エリィ=すにょうごにょごにょ……です!」


 ごにょごにょを繰り返すエリィ。


「エリィすにょう……さん?」


「えっと……だから、エ、エリィとお呼びください!」


「う、うん。それで、そのエリィさんが俺に一体何の用?」


「実はですね……」
 

 戸惑うタカヤに、エリィはいたずらな笑みを浮かべた。


「あなたに是非、私のパーティーに入っていただきたいと思って。そのお誘いに来ました」


「は?」
 

 エリィの言葉にタカヤは間抜けな声を出してしまう。


「いや……君も知ってると思うけど、俺はギルドで……」


「わかっています。わかっているのです。ギルドであまりにも何もできないから誰からもお誘いがかからず、一人しょんぼり逃げてしまったのは知っているのです!」


「え? なんでまた俺の心の傷を抉るの?」


 エリィの言葉はやっぱり容赦がなかった。
 
 タカヤは目頭がきゅっと熱くなってくる。泣きそうだった。
 
 あんまりだと思った。


「その、エリィ……さん?」


「さんはいらないです。エリィとお呼びください」
 

 エリィは手の平をタカヤの顔の前に突き出し、訂正する。
 
 初対面の女の子を呼び捨てにするのは気が引けたが、是非ともっ! と言わんばかりにエリィが鼻の穴を膨らませているので、タカヤは言われた通りに従う事にした。


「えと、じゃあエリィ……そこまでわかってるなら、なんで俺を誘おうとしてるわけ?」


「実は私、先ほど治癒術士になったばかりでして。一緒に依頼をこなしてくれる前衛職の方を探しているのです。そんな時に丁度あなたのお話を聞きまして……」


「事情はわかるけど、俺ほんとに何もできないよ? 君が思ってる十……いや、百倍は何もできないよ? もう、ほんっっとびっくりするぐらい役に立たないかもしれないよ?」
 

 こんな事を自分で言いたくはないが、後になって落胆されたり、険悪な雰囲気になるよりはましだ。

 タカヤは自分の無力さ必死にアピールした。


「そこは大丈夫です。冒険者としての実力はそんなに気にしていないので、とりあえずでもパーティーに入ってもらえれば……」
 

 エリィにはエリィの事情があるにせよ、戦力にならない人間に声をかけるなんて奇特な人間もいたものだ。
 
 とはいえ、タカヤにとってはこの上ない話だ。とてもとてもありがたい。

「なるほど……」
 

「お嬢さん、熱心に話してるところすまないけどな。こっちもそのにーちゃんと話てる途中なんだよ。でかい仕事だけど危ないヤマだからよ、そいつみたいな人の良さそうな奴を使うのが都合いいんでな」
 
 すっかり忘れ去られていた男が、二人の会話に割って入ってくる。
 
 しかも、考えている悪事がだだ漏れだった。
 
 結果的にエリィが間に割って入ってくれたので、男に押し切られずに済んだ事にタカヤは感謝した。
 
 あのまま問答を続けていれば、最後には無理矢理男の悪事を手伝わされていたかもしれない。


「……いかがでしょう?」


 ちらりと男のほうを一瞥して、エリィはすぐに視線をタカヤに戻す。

 男の存在を一応確認はしたが、取るに足らないと判断したのか、男を空気のように扱い無視を決め込むつもりのようだ。

 その余裕はどこから来るのか? 男とエリィを交互に観ながらタカヤは戸惑った。


「いかがでょうって……」

 
 じっ……とエリィはタカヤを見つめている。

 エリィの本気を感じとり、タカヤは逡巡する。

 確かにこのままどこにも所属せずふらふらしていても、いずれ野垂れ死ぬかさっきのように悪党に利用されて、とんでもない事をさせられるのが関の山だろう。

 正直、本当にどうにもならなければどこかの店に頼み込んで働かせてもらうという事も考えていた。

 しかし今、目の前には動機はどうあれ、自分を必要としてくれている人がいる。

 タカヤとしては、その事については感謝しかない。


「おいっ! こっちの話を無視するんじゃねぇっ!」
 
 
 何度も無視された男は、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、大声で怒鳴りながらエリィの肩を掴もうと手を伸ばした。


「うるさいですっ!」

 
 男の手が肩を掴むよりも早く、エリィはその場で跳躍し男の脳天に垂直にチョップを叩きこむ。
 
 
 ゴッ! と鈍い音が鳴り、男は白目を剥いてゆっくりとその場に倒れ込んだ。
 
 割れたんじゃないか? ざわめく周りの客の口からそんな言葉が聞こえてくる。


「えぇー……」


 あまりに鮮やかにチョップが決まった事。

 エリィのような華奢な女の子が荒くれ者の男を見事に倒してしまった事。

 しかも倒された男は白目を剥いて床で大の字で気を失っている事。

 目の前で起こったすべての出来事に、タカヤは驚きで呆気にとられてしまう。
 
 なんなら、ちょっと引いていた。
 
 周囲の反応など気に留めず、エリィはこほんと小さく咳払いする。


「失礼しました。それで、あの、お返事のほうは……」

 
 男をのした事などすでに忘れたように、何事もなくエリィは笑顔で再びタカヤに聞いてくる。
 
 表情が完全に引きつっているのが自分でもわかった。
 
 怖っ! この子、怖っ!! タカヤは心の中で叫ぶ。
 
 先程まで芽生えていた、エリィの誘いに乗ってもいいかも? という気持ちは一瞬で消し飛んだ。

 エリィは笑顔で返事を待っている。タカヤにはそれが無言の圧のように感じられた。

 断るんですか? そう言っているようにも見える。

 ……実際のところ、エリィはまったくそんな事を思う事もなく。ただ、どうかな? どうかな? とタカヤの返事を待っているだけなのだが……。

 とにかく、タカヤにはそう見えた。

 床に倒れてまだ目を覚まさない男と、笑顔のエリィを交互に見比べる。

 本当はすぐに断って、この場を立ち去りたい。

 でも、もし断ったら自分も男と同じように白目を剥くようなチョップを叩きこまれるかもしれない。

 いや、チョップならまだいい。(良くはないが)これがもし拳だったら……。

 ……死ぬ。絶対に死んでしまう。

 タカヤの背中に寒気が走る。
 
 それは絶対に嫌だと思った。

「わかった、君のパーティーに入るよ」

 タカヤは素直に首を縦に振った。
 
 拒否権はなかった。


「これからよろしくお願いしますね! タカヤさん」


 ぎゅっとエリィが手を握る。


「っっ!! 指っ!」


 反射的にタカヤは体を強張らせた。

 
「ゆび?」


 タカヤの手を握ったまま、不思議そうにエリィは目を瞬かせる。


「ほ……骨」


「ほね?」


 指の骨が折れる。と言いかけたが、その心配は杞憂に終わった。
 
 タカヤの指は無事である。
 
 今もエリィの指に優しく包まれている。


「いや、なんでもない」


「はぁ……」


 エリィは意味がよくわからないのか、曖昧な相槌を打つ。

 当然だが手を握った相手が、自分に指をへし折られるんじゃないか、と怯えているなどとは思うはずもない。


「これで……良かったんだよな」


 エリィはエリィでさっきの男とは別の意味で怖いけれど、少なくとも悪人ではない。というのは話していてわかる。

 誰にも必要とされず、無理矢理悪事に手を染めるよりは全然マシだろう。

 かなり勢いで決めてしまった事は否めないが、必要としてもらえるならできる限りがんばろう。タカヤはそう思った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

処理中です...