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第1章 王国編 ~悪女の棲む家~

2. レイモンド② ~ベネディクト家 執事~

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「レゼド侯爵様からのお達しでございます…カトリーヌ様をご心配される言葉が本人から聞かれるまで、話してはならぬ、と」

「…なんということだ…ということは…」

 ルパート様は動揺した顔で「いったいどうしたら…」とつぶやいている。

「まずはレゼド侯爵領に行かれてはいかがでしょう。

 モンテグロ侯爵家の馬車なら一日あれば到着します」

「そ、そうだな…少し家に戻って準備してこよう…この事伯爵には…」

「お伝えしません。

 ルパート様からもお伝えになりませんよう。

 そして…よろしければ、ご一緒させていただきたいのですが…」

 さすがに、カトリーヌ様の一大事、現在のベネディクト伯爵家で唯一・・の味方ともいえる私が行かなければいけないととっさに思った。

「…わかった」

 そういってルパート様は一度自宅に戻り、すぐに準備をして伯爵邸に戻ってきた。

 私のほうも、執事見習いの男(完全に旦那様の傀儡)に直近の仕事の指示を与えた。

 生意気にも「そのまま引退されてもいいんですよ?」みたいなことを言ってきたので、「そうだな、そろそろ考えよう」と答えたらうれしそうな顔をした…旦那様に甘言ばかり言って気に入られているので、自分が執事長になると疑わないようだ。

 カトリーヌ様の心配をすることもないので、そろそろ引退しようと思っていたこともあり、今回のレゼド侯爵家に行くついでに、あることを言伝するつもりだ。

「ではまいりましょう…」

 引継ぎを終え、いつもの執事服のまま馬車に乗り私は、ルパート様に声をかけた。

「ああ、馭者、頼む!」

 ルパート様の声とともに、侯爵家の馬車は伯爵家の前から出発した。

「…お嬢様、お労しや…」

 馬車の中でそう思わざるを得なかった。

 

 モンテグロ家の御者は優秀で、そのままとにかく飛ばしてくれたようで、その日の夜は1泊が必要になったが、翌日の昼すぎにはレゼド侯爵邸前にたどり着いた…ベネディクト伯爵家の御者では3日かかるはずが、急ぎというのを理解し早馬のような時間でついてくれた。

「…カトリーヌ様の件で、まいりました、ベネディクト伯爵家執事・レイモンドと、モンテグロ侯爵家令息のルパート様でございます」

 侯爵家の門番殿にそう声をかけると、門番殿はけげんそうな顔で、主人に確認してまいりますと言って中に向かった。

「レイモンド…よく来てくれたな」

「…先代様。

 あ、こちらは、モンテグロ侯爵家の…」

 私たちを出迎えたのは、レゼド公爵様ではなく、レゼド侯爵様と仲のいい先代ベネディクト伯爵様であった。

「知っておる…お前が、ルパート・モンテグロか」

「…は、はい…」

 威厳のある先代伯爵ににらまれ、ルパート様が縮こまる。

「…まぁいい、来たのだから入ってくれ…レゼドの許可は得て居る」

「はい…」

 そういってそのまま私とルパート様は先代ベネディクト伯爵様とともにレゼド侯爵邸にお邪魔することとなった。

 

「ルパート!!!」

 私とルパート様が応接間に入ると、モンテグロ侯爵夫人がルパート様の名前を呼びながら抱き着いてきた。

「は、母上!? …父上も!? な、なぜここに…?」

 その視線の先には、ルパート様のご両親であるモンテグロ侯爵夫妻がおり、ルパート様を迎えた夫人から目を移すと、ソファーには侯爵様が厳しい顔で座っていた。

「レイモンド、よく来たな」

「…レゼド侯爵様、ご無沙汰を致しております」

 先代ベネディクト伯爵の時代からお仕えしている私は、カトリーヌ様の母・ルイーザ様が嫁入りされたときもすでに屋敷の執事を務めており、レゼド侯爵様との面識もあったため、私に声をかけてくださった。

「…レイモンド、ルパートがここにいるということは…」

「はい、ルパート様はカトリーヌ様をご心配されて私に相談をしてくださいました」

「…そうか」

 レゼド侯爵様は、それを聞いて少し考えるようなそぶりをした。

「…ルパート君・」

「…はい、レゼド侯爵様」

 カトリーヌ様以外にはあまり優しげな顔をしないレゼド侯爵様だが、ふっと表情を緩めてあきらめたようにルパート様を敬称付けで呼んだ。

「まずは…こちらへ…もうすでに打ち付けて・・・・・あるが」

「…え?」

 その意味が解らず、唖然とした表情になるルパート様。

 
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