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6 蜂谷クリニック院長 蜂谷康三《はちやこうぞう》の話
18.蜂谷クリニック院長 蜂谷康三《はちやこうぞう》の話 ①
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(録音開始)
おーい、みどり。
ん? おや。おたくはどちら様ですか?
患者さんでしたら、今日はもうおしまい……ではない。んん?
ほう。
新聞記者さん。
またですか。ああ、華子の話でしょう。うん。
みどり、ああ、篠原さんが対応していたのですか。
あのひともよく勝手に、ひとの客を通したり追い返したりするからね。
どうして、ああいうひとになってしまったんだかね。昔はもっと……。
すみません。
おたくには関係のないことですな。
いや、しかし、篠原さんはどこに行ったのかな。話があったんだが。
まぁいい。
華子についての取材ですかな。
うん、まあ、ここまで入ってこられたのなら、受けますとも。逃げも隠れもしませんよ。
ああ、華子は確かにぼくの娘です。
もう、隠してもどうにもならないし、他のマスコミにも伝えたから、お答えするけれどね。
三十年近く前に、ぼくが、当時交際していた女性との間に作った子供です。
とはいえ、その女性とは結婚せず、関係もそこで途切れたからね。
養育費だけは送り続けたけれども。華子とはほとんど会ったことがない。
生まれたときと、七歳のときと、二十二歳のときに数回。
そして今回。
亡くなってからの対面だ。
生きているときに、数えるほどしか顔を合わせていない娘だ。
今回、遺体の確認をするときでも、なんだか亡くなったという実感が湧かなくてね。
それもあんな異様な殺され方だ。不謹慎だが、映画でも鑑賞しているような気分だったよ。
ん?
七歳のときの話?
華子と七歳のときに会ったことを、覚えているかって?
そりゃ、覚えているさ。
二十年以上前の話だから、完璧な記憶ではないけれどね。
うん、篠原さんがうちに来る前の話だから、彼女は知らないだろう。大した話でもないしね。
七歳の華子の話か。
それが今回の事件と関係あるのかね。
どんな些細なことでも、か。
ふうん、そうだな。
あの子が生きていた証しだ。
どんな話でも語っておくべきだな。
といっても、本当に物凄い話じゃない。
小学一年生のときに華子が、このクリニックに突然やってきたときの話だ。
華子はね。
家出をしたんだ。
七歳の女の子がだよ。
藤崎町からここまで、大人でも、歩いたら一時間はかかる道なのに。
住所を調べて、何時間も歩いて、へとへとになりながらやってきたのだ。
「お父さん、いますか?」
クリニックの入り口に、ヨレヨレのTシャツと、薄汚れたミニスカートで登場した七歳の華子を、ぼくはしっかりと覚えている。
「ぼくがお父さんだ。君は華子だね?」
「うん」
「どうしてここに来たんだ。淳子、いや、君のお母さんは? あのひともいっしょなのかい?」
「ううん」
華子は、力なくかぶりを振った。
僕はとりあえず、診察室の横にある事務室に華子を通した。
事務室はそのまま裏口に繋がっていたから、そのまま外に出て、自販機でジュースを買ってきたのを覚えているよね。
華子はそのジュースに、むしゃぶりついた。
まるで何日も食事をしていないようだった。
その姿は痛ましかった。
淳子は。
華子の母親は、なにをしているのだ、と思ったよ。
その後、診察が終わって、ぼくは華子と二人きりになってね。
事務室に、重苦しい沈黙がおとずれた。
そりゃそうだ。
生まれたとき以来、顔を合わせていない親子だ。
それがいきなり、こうして会うことになってしまった。当然、気まずいよね。
でも、七歳の子供がこうして父親を頼ってきたからには、なにか理由があるはずだ。
僕は尋ねてみたよ。
「お母さんはどうしたの? 華子はなぜ、このクリニックに来ようと思ったの?」
「お母さんは、お酒を飲んで寝てる。……わたしはね」
「うん」
「わたしはお母さんが大嫌い。もうあの家に住みたくない。お父さんといっしょに暮らしたい。だから、ここまできたの」
おーい、みどり。
ん? おや。おたくはどちら様ですか?
患者さんでしたら、今日はもうおしまい……ではない。んん?
ほう。
新聞記者さん。
またですか。ああ、華子の話でしょう。うん。
みどり、ああ、篠原さんが対応していたのですか。
あのひともよく勝手に、ひとの客を通したり追い返したりするからね。
どうして、ああいうひとになってしまったんだかね。昔はもっと……。
すみません。
おたくには関係のないことですな。
いや、しかし、篠原さんはどこに行ったのかな。話があったんだが。
まぁいい。
華子についての取材ですかな。
うん、まあ、ここまで入ってこられたのなら、受けますとも。逃げも隠れもしませんよ。
ああ、華子は確かにぼくの娘です。
もう、隠してもどうにもならないし、他のマスコミにも伝えたから、お答えするけれどね。
三十年近く前に、ぼくが、当時交際していた女性との間に作った子供です。
とはいえ、その女性とは結婚せず、関係もそこで途切れたからね。
養育費だけは送り続けたけれども。華子とはほとんど会ったことがない。
生まれたときと、七歳のときと、二十二歳のときに数回。
そして今回。
亡くなってからの対面だ。
生きているときに、数えるほどしか顔を合わせていない娘だ。
今回、遺体の確認をするときでも、なんだか亡くなったという実感が湧かなくてね。
それもあんな異様な殺され方だ。不謹慎だが、映画でも鑑賞しているような気分だったよ。
ん?
七歳のときの話?
華子と七歳のときに会ったことを、覚えているかって?
そりゃ、覚えているさ。
二十年以上前の話だから、完璧な記憶ではないけれどね。
うん、篠原さんがうちに来る前の話だから、彼女は知らないだろう。大した話でもないしね。
七歳の華子の話か。
それが今回の事件と関係あるのかね。
どんな些細なことでも、か。
ふうん、そうだな。
あの子が生きていた証しだ。
どんな話でも語っておくべきだな。
といっても、本当に物凄い話じゃない。
小学一年生のときに華子が、このクリニックに突然やってきたときの話だ。
華子はね。
家出をしたんだ。
七歳の女の子がだよ。
藤崎町からここまで、大人でも、歩いたら一時間はかかる道なのに。
住所を調べて、何時間も歩いて、へとへとになりながらやってきたのだ。
「お父さん、いますか?」
クリニックの入り口に、ヨレヨレのTシャツと、薄汚れたミニスカートで登場した七歳の華子を、ぼくはしっかりと覚えている。
「ぼくがお父さんだ。君は華子だね?」
「うん」
「どうしてここに来たんだ。淳子、いや、君のお母さんは? あのひともいっしょなのかい?」
「ううん」
華子は、力なくかぶりを振った。
僕はとりあえず、診察室の横にある事務室に華子を通した。
事務室はそのまま裏口に繋がっていたから、そのまま外に出て、自販機でジュースを買ってきたのを覚えているよね。
華子はそのジュースに、むしゃぶりついた。
まるで何日も食事をしていないようだった。
その姿は痛ましかった。
淳子は。
華子の母親は、なにをしているのだ、と思ったよ。
その後、診察が終わって、ぼくは華子と二人きりになってね。
事務室に、重苦しい沈黙がおとずれた。
そりゃそうだ。
生まれたとき以来、顔を合わせていない親子だ。
それがいきなり、こうして会うことになってしまった。当然、気まずいよね。
でも、七歳の子供がこうして父親を頼ってきたからには、なにか理由があるはずだ。
僕は尋ねてみたよ。
「お母さんはどうしたの? 華子はなぜ、このクリニックに来ようと思ったの?」
「お母さんは、お酒を飲んで寝てる。……わたしはね」
「うん」
「わたしはお母さんが大嫌い。もうあの家に住みたくない。お父さんといっしょに暮らしたい。だから、ここまできたの」
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