忘れられし被害者・二見華子 その人生と殺人事件について

須崎正太郎

文字の大きさ
上 下
8 / 30
2 中学校時代の恩師 乙原光昭《おとはらみつあき》の話

8.中学校時代の恩師 乙原光昭《おとはらみつあき》の話 ③

しおりを挟む
 ちょいちょい。
 ちょいちょい。

 うん?
 何だなんだ?
 誰かが、寝ている僕のほっぺをつんつんとしているぞ。
 うーん、少し眠いけど起きてみるか。

「あ、にーにおきた!」
 
 目覚めると、ミカエルの顔のドアップがあった。
 うん、目覚めでいきなり人の顔のアップはきついから止めておこうね。
 ベッドから体を起こすと、ベッドの周りには皇都の孤児院から避難してきた子ども達が僕とリズの寝ているベッドを囲んでいた。
 因みにリズは、スラちゃんとプリンと共にまだ夢の中だった。
 窓の外を見ると、陽が高く上っていた。
 そろそろお昼頃かな?

「ミカエル、どうして僕の事を起こしたの?」
「ごはん!」

 どうやら昼食の時間になったので、ミカエルは孤児院の子ども達と共に僕の事を起こした様だ。
 ミカエルは元気よく両手をあげて、僕に向かって答えていた。

「ごはん!」

 そして、何故か寝ていたリズとスラちゃんとプリンも、ミカエルのごはんの一言で飛び起きた。

「ねーね、おきた!」

 ミカエルはリズが飛び起きて喜んでいるが、僕にとってはリズとスラちゃんとプリンが食いしん坊である事が証明されただけだった。

「いっぱい魔法を使ったから、お腹がぺこぺこ!」

 リズとスラちゃんとプリンは余程お腹が空いているのか、パンとスープをあっという間にたいらげた。
 僕もお腹はぺこぺこだったけど、流石に落ち着いて食べます。

「でも、そんな大変な事があったのですね。大教会の中を破壊する程の被害とは」
「まあ、魔獣化したアホスタイル枢機卿はそんなに強くなかったので、対応自体は難しくなかったですけどね」
「リズは魔法一発しかやっていないんだよ」

 昼食後に孤児院のシスターと話をしているけど、戦闘時間も短かったしこちらには全く被害がなかった。
 ジンさんの剣が聖剣になったくらいだよね。

「しかし、ジンの剣が聖剣になるとはね。面白い事もあるもんだね」
「二つ名もますます大きくなるだろうし、教皇国でのジンの様子を見てみたいもんだね」

 そして僕が屋敷に戻っていると聞いて、レイナさんとカミラさんも屋敷に来ています。
 ジンさんの活躍を聞いているけど、二人ともびっくりはしていない様だ。
 昼食も食べ終えたので、僕はリズと孤児院のシスターとサンディを連れて教皇国に戻ります。

「にーに、いってらー」

 ミカエルは、孤児院の子ども達と庭で遊ぶようだ。
 レイナさんとカミラさんも子ども達の様子を見てくれているので、おまかせしよう。

「あら、もう帰ってきたの?」
「はい、昼食も食べてきました」

 皆を連れて大教会に戻ると、殆ど後始末が終わっていた。
 たまたまなのか、庭にいたティナおばあさまと遭遇する事ができた。
 大教会内は一般の人は立ち入り禁止になっているのだが、僕もいるという事でサンディと孤児院のシスターに現場を見てもらう事になった。

「うわあ、教会の中がそこら中穴だらけですね」
「こんなに教会が壊れる程の激しい戦いがあったのですね」

 瓦礫は殆ど運び出されたのだが、かえってボコボコに空いた穴の大きさがよく分かる。
 あのアホスタイル枢機卿だったものは、僕が思ったよりも派手に暴れたみたいだ。
 祭壇の近くに進むと、床が四角に切り取られている場所があった。
 これって、もしかして……

「ティナおばあさま、ジンさんの剣が刺さっていた床をそっくり切り取ったんですね」
「聖剣の生まれた場所という事で、教皇国の博物館に飾られるらしいわよ。ジンはサインを書いたり証言の為に話をしたりと、結構大変そうだったわ」

 ふふふと他人事の様に笑うティナおばあさまを見ると、面倒ごとを全てジンさんに押し付けた様だ。
 
「後ね、迎賓館の施設にも破損が見られるそうよ。兵が無理矢理ドアを開けたり暴れたりしたから、ドアとかが壊れてしまった様ね」
「兵も強引に侵入したんですね。これでは宿泊は無理ですね」
「医療施設に入院していたシスターももう大丈夫の様だし、今日はシェジェク伯爵とクレイモアさんも屋敷で宿泊ね」

 流石に海外からの来賓を鍵の無い部屋に泊めさせる訳にはならないので、今日は全員僕の屋敷にご招待。
 念の為に、辺境伯様にも僕の屋敷にシェジェク伯爵とクレイモアさんが泊まるという情報を共有しておいた。
 と、ここでだいぶ疲れた様子のジンさんにカレン様とルーカスお兄様とアイビー様が大教会の中にやってきた。
 うん、ジンさんはだいぶヘロヘロになっているぞ。

「ティナ様、逃げるなんて酷いですよ……」
「聖剣はジンの話なのだから、ジンが対応するのは当たり前よ」
「あの、私も巻き込まれたんですけど」

 ぼそっとルーカスお兄様も愚痴を溢していたのを見ると、どうもジンさん以外にカレン様とルーカスお兄様とアイビー様も色々と話を聞かれまくった様だ。
 この辺の面倒くさい事を切り抜けるうまさは、圧倒的にティナおばあさまの方が上だった様だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

九竜家の秘密

しまおか
ミステリー
【第6回ホラー・ミステリー小説大賞・奨励賞受賞作品】資産家の九竜久宗六十歳が何者かに滅多刺しで殺された。現場はある会社の旧事務所。入室する為に必要なカードキーを持つ三人が容疑者として浮上。その内アリバイが曖昧な女性も三郷を、障害者で特殊能力を持つ強面な県警刑事課の松ヶ根とチャラキャラを演じる所轄刑事の吉良が事情聴取を行う。三郷は五十一歳だがアラサーに見紛う異形の主。さらに訳ありの才女で言葉巧みに何かを隠す彼女に吉良達は翻弄される。密室とも呼ぶべき場所で殺されたこと等から捜査は難航。多額の遺産を相続する人物達やカードキーを持つ人物による共犯が疑われる。やがて次期社長に就任した五十八歳の敏子夫人が海外から戻らないまま、久宗の葬儀が行われた。そうして徐々に九竜家における秘密が明らかになり、松ヶ根達は真実に辿り着く。だがその結末は意外なものだった。

若月骨董店若旦那の事件簿~満開の櫻の下に立つ~

七瀬京
ミステリー
梅も終わりに近付いたある日、若月骨董店に一人の客が訪れた。 彼女は香住真理。 東京で一人暮らしをして居た娘が遺したアンティークを引き取って欲しいという。 その中の美しい小箱には、謎の物体があり、若月骨董店の若旦那、春宵は調査をすることに。 その夜、春宵の母校、聖ウルスラ女学館の同級生が春宵を訪ねてくる。 「君の悪いノートを手に入れたんだけど、なんだかわかる……?」 同時期に持ち込まれた二件の品物。 その背後におぞましい物語があることなど、この時、誰も知るものはいなかった……。

この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
 幾度繰り返そうとも、匣庭は――。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。 舞台は繰り返す。 三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。 変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。 科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。 人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。 信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。 鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。 手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。

どんでん返し

井浦
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~ ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが… (「薪」より)

秘められた遺志

しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

処理中です...