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2 中学校時代の恩師 乙原光昭《おとはらみつあき》の話
6.中学校時代の恩師 乙原光昭《おとはらみつあき》の話 ①
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(録音開始)
おおっ、新聞記者さんですか。
いや、これはどうも。
生まれて初めて新聞に取材をされるので、緊張しますよ、ははは。
改めて、はじめまして。
市立西陣中学校で国語を教えています、乙原光昭です。
ご覧の通り、立派な中年ですが、いくつに見えます?
四十代半ば?
あら、見抜かれてしまいましたか。
そうです、僕はことしで四十四歳になります。
これでも生徒からは、若い若いと言われるのですけれどね。
ううん、残念。せめて、三十代に見られたかったなあ。
いや、生徒たちが言う若いっていうのは、考え方や精神のことかもな。
心はいつでも十五歳。
生徒の気持ちが分かるためにね! ははは。
ええ、本来なら取材は、学校とか教育委員会を通してでないと、ダメなのですよ。
でも、僕はいいですよ。名前さえ出さないなら、いくらでも取材をお引き受けします。
僕は自分で言うのもなんですが、型破りな教師ですからね。
それで何度、校長や教頭に怒られたことか。
おっと、いけない。
怒られた、ではなくて、叱られる、ですね。
校長先生方は僕のことを思って、愛の鞭をふるってくださったのだから。
こういうのを怒るではなく、叱ると表現するのです。
怒るではありませんよ。叱るなのです。
このあたりをはき違えると、大変なことになりますからね。
近頃の若い先生は、そのあたりをよく勘違いしていますがね。ははは。
ところで取材はこんな道ばたでいいのですかね?
どこか喫茶店にでも、入ったりしないのですか?
取材費が出ない?
おお、なんてことだ。
新聞社ともあろう大企業が、社会の木鐸を名乗るものが、取材対象にコーヒー代を出すことさえケチるとは。世知辛いですねえ。
いえいえ。
いいのですよ。
僕は理解できます。なんといっても不景気ですからね。
はい。僕は型破りなので!
取材は外でも全然オーケーです。
今日は天気もいいですし、そこのベンチに腰かけて話しましょうか。
ええ、コーヒーは、そこの自動販売機の缶コーヒーでも飲みましょう。
僕がおごりますよ。
なに、これくらい、いいでしょう。
会社に叱られますか? 取材対象におごってもらったなんて話がばれたら。
なんの、黙っていればいいのですよ。
バレなければ、どうということはない!
なんてね。ははは、僕は型破りでしょう?
さて。
二見華子さんの話ですね。
先日、異様な殺され方をしたという。
テレビのニュースで見ました。
初めて見たときは思わず「あっ!」と叫んでしまいましたよ。
彼女のことはよく覚えています。
十三年、いや十四年前か。
僕が三十歳のときに着任した藤崎中学校で、国語を教えた女子生徒です。
彼女は中学二年生でした。
万事、飲み込みが早くてね。
これはいい生徒だと思ったものです。
読書の趣味も合いましてね。
僕は横溝正史など昔のミステリー小説が大好きなのですが、彼女も同様だったんです。
趣味が合うと、年齢など関係なくなるんです。
僕と彼女はすぐに打ち解けて、仲良くなったわけですよ。
時間を見つけては、よく本の話をしたものです。
えこひいきに繋がるから、特定の生徒と仲良くしてはいかん、と教頭先生から叱られましたがね。
教師も人間ですから、相性ってものがありますよね。
僕は二見華子と、どんどん親しくなっていったんです。
仲良くなることで、教師と生徒の間に生まれる絆が、確かにあるんです。
そこから生徒たちが抱えるトラブルを解決することも多い。
だから僕は、どんどん生徒と仲良くなります。
どうです?
ははは、僕は型破りでしょう?
それで、二見華子の印象ですか?
それはもう、類い希なる完璧な美少女、という感じですね。
ええ、そうです。本当に綺麗な女の子でしたよ。
テレビやネットで出ている彼女の写真は、卒業アルバムのものでしょう?
無表情で、目つきが暗くて……。
あれでは彼女がかわいそうです。
あの写真は写りが悪すぎます。
実際に、動いている彼女を見たら分かるのですよ。
生気溌剌というか、表情や立ち振る舞いからエネルギーが満ちあふれていましたね。そして顔立ちも美形そのものでした。教師が、生徒をこんな風に表現するのはどうかと思いますが、実際にそうだったんです。
サラサラの黒髪に、シミひとつない白磁のごとき肌。
スラリとした細身の肢体も特に印象的です。
常に明るく、賢く、優しく、好奇心旺盛で。
最高の生徒でしたね。二見華子という少女は。
だからですかね。
多くの生徒からは、嫉妬されていましたよ。
特に女子生徒からは。なにしろあの賢さと美しさですから。
ええ、こんな話、絶対に僕がしたと言わないでくださいよ。
いくら型破りといっても、さすがに表で言っちゃいけないこともありますから。
だから、どこまでも、秘密を厳守してほしいのですが。
僕は、二見華子に告白されたのです。
「好きです。付き合ってください」
彼女が中学二年生のときの、冬でした。
二見華子は、誰もいない校舎裏で、僕に向かって瞳を潤ませ、そう告げてきたのです。
おおっ、新聞記者さんですか。
いや、これはどうも。
生まれて初めて新聞に取材をされるので、緊張しますよ、ははは。
改めて、はじめまして。
市立西陣中学校で国語を教えています、乙原光昭です。
ご覧の通り、立派な中年ですが、いくつに見えます?
四十代半ば?
あら、見抜かれてしまいましたか。
そうです、僕はことしで四十四歳になります。
これでも生徒からは、若い若いと言われるのですけれどね。
ううん、残念。せめて、三十代に見られたかったなあ。
いや、生徒たちが言う若いっていうのは、考え方や精神のことかもな。
心はいつでも十五歳。
生徒の気持ちが分かるためにね! ははは。
ええ、本来なら取材は、学校とか教育委員会を通してでないと、ダメなのですよ。
でも、僕はいいですよ。名前さえ出さないなら、いくらでも取材をお引き受けします。
僕は自分で言うのもなんですが、型破りな教師ですからね。
それで何度、校長や教頭に怒られたことか。
おっと、いけない。
怒られた、ではなくて、叱られる、ですね。
校長先生方は僕のことを思って、愛の鞭をふるってくださったのだから。
こういうのを怒るではなく、叱ると表現するのです。
怒るではありませんよ。叱るなのです。
このあたりをはき違えると、大変なことになりますからね。
近頃の若い先生は、そのあたりをよく勘違いしていますがね。ははは。
ところで取材はこんな道ばたでいいのですかね?
どこか喫茶店にでも、入ったりしないのですか?
取材費が出ない?
おお、なんてことだ。
新聞社ともあろう大企業が、社会の木鐸を名乗るものが、取材対象にコーヒー代を出すことさえケチるとは。世知辛いですねえ。
いえいえ。
いいのですよ。
僕は理解できます。なんといっても不景気ですからね。
はい。僕は型破りなので!
取材は外でも全然オーケーです。
今日は天気もいいですし、そこのベンチに腰かけて話しましょうか。
ええ、コーヒーは、そこの自動販売機の缶コーヒーでも飲みましょう。
僕がおごりますよ。
なに、これくらい、いいでしょう。
会社に叱られますか? 取材対象におごってもらったなんて話がばれたら。
なんの、黙っていればいいのですよ。
バレなければ、どうということはない!
なんてね。ははは、僕は型破りでしょう?
さて。
二見華子さんの話ですね。
先日、異様な殺され方をしたという。
テレビのニュースで見ました。
初めて見たときは思わず「あっ!」と叫んでしまいましたよ。
彼女のことはよく覚えています。
十三年、いや十四年前か。
僕が三十歳のときに着任した藤崎中学校で、国語を教えた女子生徒です。
彼女は中学二年生でした。
万事、飲み込みが早くてね。
これはいい生徒だと思ったものです。
読書の趣味も合いましてね。
僕は横溝正史など昔のミステリー小説が大好きなのですが、彼女も同様だったんです。
趣味が合うと、年齢など関係なくなるんです。
僕と彼女はすぐに打ち解けて、仲良くなったわけですよ。
時間を見つけては、よく本の話をしたものです。
えこひいきに繋がるから、特定の生徒と仲良くしてはいかん、と教頭先生から叱られましたがね。
教師も人間ですから、相性ってものがありますよね。
僕は二見華子と、どんどん親しくなっていったんです。
仲良くなることで、教師と生徒の間に生まれる絆が、確かにあるんです。
そこから生徒たちが抱えるトラブルを解決することも多い。
だから僕は、どんどん生徒と仲良くなります。
どうです?
ははは、僕は型破りでしょう?
それで、二見華子の印象ですか?
それはもう、類い希なる完璧な美少女、という感じですね。
ええ、そうです。本当に綺麗な女の子でしたよ。
テレビやネットで出ている彼女の写真は、卒業アルバムのものでしょう?
無表情で、目つきが暗くて……。
あれでは彼女がかわいそうです。
あの写真は写りが悪すぎます。
実際に、動いている彼女を見たら分かるのですよ。
生気溌剌というか、表情や立ち振る舞いからエネルギーが満ちあふれていましたね。そして顔立ちも美形そのものでした。教師が、生徒をこんな風に表現するのはどうかと思いますが、実際にそうだったんです。
サラサラの黒髪に、シミひとつない白磁のごとき肌。
スラリとした細身の肢体も特に印象的です。
常に明るく、賢く、優しく、好奇心旺盛で。
最高の生徒でしたね。二見華子という少女は。
だからですかね。
多くの生徒からは、嫉妬されていましたよ。
特に女子生徒からは。なにしろあの賢さと美しさですから。
ええ、こんな話、絶対に僕がしたと言わないでくださいよ。
いくら型破りといっても、さすがに表で言っちゃいけないこともありますから。
だから、どこまでも、秘密を厳守してほしいのですが。
僕は、二見華子に告白されたのです。
「好きです。付き合ってください」
彼女が中学二年生のときの、冬でした。
二見華子は、誰もいない校舎裏で、僕に向かって瞳を潤ませ、そう告げてきたのです。
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