忘れられし被害者・二見華子 その人生と殺人事件について

菱沼新聞 五月二十四日 朝刊

１．菱沼新聞 五月二十四日 朝刊

　五月二十三日午前六時半ごろ、菱沼市藤崎町ひしぬましふじさきまちの用水路で、女性がうつ伏せの状態になっているのを近くの住民が発見した。

　住民は近隣在住の会社員男性で、ジョギングをしていたところ、幅二メートル、深さ八十センチほどの用水路内で女性を見つけたもの。

　不審に思い声をかけたところ返事がなかったため、警察に通報。
　駆けつけた警察官二名によって女性は引き上げられたが、すでに亡くなっていた。

　警察によると、女性の遺体は、二十代から三十代までの成人。
　身長百五十八センチ、体重四十四キロの痩せ型。
　黒髪のショートカット。

　上半身は裸のまま。
　下半身は下着のみ着用。
　下着の中に、母子手帳が一冊入っていた。

　遺体については、後頭部に強打した痕跡が複数あり、これが死因とみられている。

　さらに、目元からくちびるにかけて、ノコギリのような刃物で何度も切り裂いたような傷がつけられており、これによって顔面の損傷が著しいものとなっている。

　また左の乳首から内側へ七センチの箇所に、証明写真のような小さな写真が、画鋲《がびょう》を用いて、身体に刺されて貼られていた。

　画鋲は写真の四隅に刺されているが、これは女性の死後に行われたものとみられている。

　下着の中に入っていた母子手帳は、用水路沿いのアパート『大濠荘』の一階に居住する二十八歳の女性、二見華子ふたみはなこさんのものであった。

　また、その後の捜査で、遺体の胸に画鋲で刺し貼られていた写真は証明写真ではなく、二見さんの中学時代の写真を、中学校の卒業アルバムからハサミで切り取ったものということが分かった。

　さらに、大濠荘の入り口付近の歩道と、二見さんの部屋の床に、血痕が発見されている。

　歩道の血痕から二見さんの部屋まで、引きずったような痕跡があることから、警察では、アパートの門前で何者かに襲撃され、殺害された二見さんが、その後、犯人によって自分の部屋に引きずられていき、部屋の鍵を奪われて室内に侵入され、顔面を傷つけられたうえ、卒業写真を画鋲で刺されたものと推測している。

　警察は遺体や現場の状況から、殺人事件と断定して捜査本部を設置。
　近隣住民への聞き込みを開始した。