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十七夜 その11
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翼は腕を組みながら
「この二人さ、幼稚園から高校まで全部一緒なんだが町名がな」
とぴらりと見せた。
「田中龍之介は横江町で三井一哉は新横江なんだ」
省吾は少し悩みながら
「あのさ、横江町もあるし新横江もあるんだけど……横江町は惜陰で、新横江は鯖江東なんだ」
と告げた。
「それから田中龍之介の住所……ふれあい会館になってる。三井一哉はコーポ鯖江で書いている通り」
全員が顔を見合わせた。
将は顔を顰めると
「マジか」
と呟いた。
「つまり、田中龍之介は……身上書を偽造している可能性があるってことか」
由衣は冷静に
「まさか、名前すらも違うってことはない……わよね」
と呟いた。
翼はあっさりと
「それは保証できないな」
と答えた。
そこへ紙袋を手に桐谷世羅が会議室へと戻り
「どうだ?」
と声を掛けた。
将は田中龍之介と三井一哉の身上書をおいて
「この二人小学校から高校まで一緒で住所も似ているんですが……田中龍之介の住所はふれあい会館で住居ではないことと、この横江町は小学校の学区が新横江と違って惜陰小学校なので小学校名が間違っていることが分かりました」
と告げた。
「三井一哉はコーポで学区もあっていますが」
それを手に桐谷世羅はにやりと笑った。
「なるほど、何処かの誰かを仕立てた可能性があるな」
そう言って
「これで少し揺さぶりをかけてみるか」
と告げて紙袋から調書のコピーを出した。
「今回、福井県警に仕掛ける理由となった事件だ。後学のために見て俺に感想を言え」
翼も省吾も由衣も全員が立ち上がって調書を見た。将は最初に手に取りパラリと捲った。
それは福井県警の情報技術企画課の篠塚春樹という警察官の事故の調書であった。実際、将も翼も省吾も由衣も警察学校からそのまま内部組織犯罪対策課に来たので事件の調書を手にすることが少ない。
だが、時として鹿児島県警の時のように侵入組織の工作員によって隠蔽された事件の再捜査をしなければならないこともあるのだ。見抜く目は必要なのだ。
事故はなだらかな住宅街の坂の下でスピードを出したままT字路を右折して電柱にぶつかる自損事故であった。が、将は事故現場の写真を見ると
「ブレーキ痕がない」
と呟いた。
それに翼は
「悪い、貸してくれ」
と手にすると事故を起こした人物の血液検査などを見て
「睡眠薬もないな」
と言い
「つまり、居眠りの可能性があるのか?」
と呟いた。
由衣は冷静に横から見ながら
「それはないわね」
と告げた。
「この大きなカーブの形だと恐らく途中で気付いて正面の家へ突っ込むのを避けようとしていたと思えるわ。居眠りならそのまま突っ込むか……もしくはもっと鋭角に曲がって車が横転する可能性もあったはず」
つまり。
省吾は「それって」と言うと
「本人は起きていてブレーキが利かないことに途中で気付いて回避しようとして電柱にぶつかったってこと?」
と告げた。
翼は調書を捲りながら
「と言うことは当然車の……」
と目を見開いた。
「車の情報が全くない。っていうか、あり得ないだろ」
将は桐谷世羅を見ると
「そして、事故にあった人物は情報技術企画課ということは佐賀でもそうだったけど……データを紛れ込ませるための改ざんに関連して口封じされた可能性がある」
と告げた。
桐谷世羅は頷くと
「そうだ」
と答え
「それに見てもらえばわかるだろうと思うが、これはデータ化されたもので手書きの本当の調書は行方不明だ」
と告げた。
「そこには車の情報があった可能性がある」
由衣は目を細めると
「つまり、データを管理している警務部の情報技術企画課……事故にあった人物が所属していた部署」
と呟いた。
「この二人さ、幼稚園から高校まで全部一緒なんだが町名がな」
とぴらりと見せた。
「田中龍之介は横江町で三井一哉は新横江なんだ」
省吾は少し悩みながら
「あのさ、横江町もあるし新横江もあるんだけど……横江町は惜陰で、新横江は鯖江東なんだ」
と告げた。
「それから田中龍之介の住所……ふれあい会館になってる。三井一哉はコーポ鯖江で書いている通り」
全員が顔を見合わせた。
将は顔を顰めると
「マジか」
と呟いた。
「つまり、田中龍之介は……身上書を偽造している可能性があるってことか」
由衣は冷静に
「まさか、名前すらも違うってことはない……わよね」
と呟いた。
翼はあっさりと
「それは保証できないな」
と答えた。
そこへ紙袋を手に桐谷世羅が会議室へと戻り
「どうだ?」
と声を掛けた。
将は田中龍之介と三井一哉の身上書をおいて
「この二人小学校から高校まで一緒で住所も似ているんですが……田中龍之介の住所はふれあい会館で住居ではないことと、この横江町は小学校の学区が新横江と違って惜陰小学校なので小学校名が間違っていることが分かりました」
と告げた。
「三井一哉はコーポで学区もあっていますが」
それを手に桐谷世羅はにやりと笑った。
「なるほど、何処かの誰かを仕立てた可能性があるな」
そう言って
「これで少し揺さぶりをかけてみるか」
と告げて紙袋から調書のコピーを出した。
「今回、福井県警に仕掛ける理由となった事件だ。後学のために見て俺に感想を言え」
翼も省吾も由衣も全員が立ち上がって調書を見た。将は最初に手に取りパラリと捲った。
それは福井県警の情報技術企画課の篠塚春樹という警察官の事故の調書であった。実際、将も翼も省吾も由衣も警察学校からそのまま内部組織犯罪対策課に来たので事件の調書を手にすることが少ない。
だが、時として鹿児島県警の時のように侵入組織の工作員によって隠蔽された事件の再捜査をしなければならないこともあるのだ。見抜く目は必要なのだ。
事故はなだらかな住宅街の坂の下でスピードを出したままT字路を右折して電柱にぶつかる自損事故であった。が、将は事故現場の写真を見ると
「ブレーキ痕がない」
と呟いた。
それに翼は
「悪い、貸してくれ」
と手にすると事故を起こした人物の血液検査などを見て
「睡眠薬もないな」
と言い
「つまり、居眠りの可能性があるのか?」
と呟いた。
由衣は冷静に横から見ながら
「それはないわね」
と告げた。
「この大きなカーブの形だと恐らく途中で気付いて正面の家へ突っ込むのを避けようとしていたと思えるわ。居眠りならそのまま突っ込むか……もしくはもっと鋭角に曲がって車が横転する可能性もあったはず」
つまり。
省吾は「それって」と言うと
「本人は起きていてブレーキが利かないことに途中で気付いて回避しようとして電柱にぶつかったってこと?」
と告げた。
翼は調書を捲りながら
「と言うことは当然車の……」
と目を見開いた。
「車の情報が全くない。っていうか、あり得ないだろ」
将は桐谷世羅を見ると
「そして、事故にあった人物は情報技術企画課ということは佐賀でもそうだったけど……データを紛れ込ませるための改ざんに関連して口封じされた可能性がある」
と告げた。
桐谷世羅は頷くと
「そうだ」
と答え
「それに見てもらえばわかるだろうと思うが、これはデータ化されたもので手書きの本当の調書は行方不明だ」
と告げた。
「そこには車の情報があった可能性がある」
由衣は目を細めると
「つまり、データを管理している警務部の情報技術企画課……事故にあった人物が所属していた部署」
と呟いた。
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