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第二夜
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残暑は厳しかった。
8月が終わり9月になっても35度越えの真夏日があり、そこに1、2度低めの日が続く形であった。
東大路将は半月ほどで警察学校を卒業する9月半ばの三連休の一週間前に桐谷世羅に呼び出されて警察庁が入っている合同庁舎へと出向いた。16階の会議室へと案内され中に入るとそこに天童翼と根津省吾が座って待っていた。
天童翼と根津省吾は前回の人狼ゲームである組織の組織員であることが分かりその組織への情報提供と引き換えに二人の身柄の安全と今後の協力のために警察学校ではなく桐谷世羅と共に既に仕事を始めている状態であった。
二人が提出した情報は主に警視庁と警察庁に関するもので他の地域については組織の中でも情報が分断されているらしく末端の二人には分からなかったようである。
ただ、情報は正確で警視庁の名前が挙げられた面々の内偵が警察庁の主導で行われその人物たちは更迭され更なる組織の全容解明のために現在取り調べが行われていたのである。
将については桐谷世羅から
「お前は学校で横の繋がりを作っておけ。あと試験は手を緩めないから勉強も頑張れ」
と言われ、あの時に同行した海野邦男や花村満也、富山春陽や大谷大地、仙石真美也達と警察官同士として交流を深めつつ、猛勉強もしていた。
もちろん、彼ら以外の同僚たちとも積極的に話をして同じ警察学校生として繋がりを築くのも忘れてはいなかった。
そして、今回は警視庁配下の警察学校ではなく大阪府警配下の警察学校のメンバーによる人狼ゲームであった。
……警察庁上層部ではこのゲームのことを『警狼ゲーム』と呼び、組織のことを便宜上『JINROU』からJNRと呼ぶことに決まった……
将が警察庁の会議室に入り待っていた天童翼と根津省吾と合流して
「今回の話は?」
と聞くと、翼が笑みを浮かべて
「ああ、俺たちは先に聞いている」
と応え
「今度は大阪府警の警察学校の人間だそうだ」
と告げた。
「俺も省吾も東京以外は全く情報がわからなかったが……やはり警察も組織だな。どこからか入るみたいだ」
将は頷いて
「そうなんだ」
と呟き
「俺は組織とか全然わからないけど……知っていく必要があるな」
と答えた。
考えればこの部署に配属されることになると複雑な組織対組織の人間の流動を俯瞰してみる力が必要になるのだと将は感じた。
翼も腕を組むと
「確かにそうだよな」
と言い
「この部署って対個人とか対事件と言う感じではないからな」
と答えた。
将は頷いて
「そうだな」
と答えた。
翼は省吾を見ると
「省吾にはちょうど良かったかもしれないけどな」
と告げた。
「いま桐谷課長の指示で情報データの整理をしてる」
将は目を見開くと
「え? もしかして根津はデータ管理が得意だったのか?」
と聞いた。
省吾は笑って
「ああ、俺はどっちかというと対人恐怖症なところがあって人間関係は得意じゃないんだ。ただデータ処理は得意なんだ。プログラムとかもな」
と答えた。
将はうおおおと声を上げて省吾の手を握りしめると
「俺も……プログラマー目指していたんだ」
と告げた。
省吾は笑顔で
「え? マジ? なかーま!」
と手を握り返した。
翼は思わずドン引きしながら
「おいおいおい」
と声を掛けた。
その時、扉が開き桐谷世羅が
「なるほどな。警察辞めてSEになりたかったのか。東大路は」
と言い彼らと向かい合うように座ると書類を置いた。
「これが根津に用意してもらった今回の人狼ゲームの参加者の身上書と顔写真だ」
将は一枚を手に取り
「八重塚悟……22歳。大阪公大法学部卒業か。ん? けど……こいつ……」
と呟いた。
明るい笑顔がそこに映っていた。
将は桐谷世羅を見ると
「この人が組織……JNRの人間の一人ということですか?」
と聞いた。
桐谷世羅は首を振ると
「わからん」
と応え、最後の一枚の置いて
「わかっているのはこの人物がJNRの人間だというだけだ。他の7名はグレーゾーンだ」
と告げた。
「今回の人狼ゲームにはお前たちも連れて行く。お前たちの目で見てこいつの他に狼がいるかを見極めろ」
将は翼と省吾を見た。二人も将を見て頷いた。
将も頷き
「「「はい」」」
と答えた。
晴れ渡った9月の連休の初日。
将は桐谷世羅と翼と省吾の4人で兵庫県に訪れるとあの日の自分たちのようにやってきた面々を姫路港で出迎えた。
今回の舞台は家島諸島の一つである太島であった。砂地で二つの島が連なる無人島で前回と同じように10のテントを設置して人狼ゲームを行うのである。
将はストーリーテイラーとして乗り込んでくる面々の様子を見つめ、翼は船へと全員を案内しながら顔を覚えていた。省吾はタブレットを手に動画撮影をしていたのである。正にそれぞれの適材適所の配置であった。
しかし。
将は乗り込んでくる面々を見ながら首を傾げた。参加者は全員で8人のはずであるが、1人足りないのだ。集合していない人間がいるということである。
桐谷世羅も将と同じように不参加の1人のことを不審に思いつつ時計を見ると
「不参加者は退学だと言っておいたはずだが」
と呟き
「どちらにしても大阪府警に後で連絡して確認するしかない」
と言い、周辺の様子を確認して最後に船に乗り込んだ。
前回の林間学習で警視庁からJNRの人間を更迭した。
「恐らく向こうは警戒しているだろうし、何が起きているのかを探ってくる。もしかしたら……」
世羅はJNR本体の動きの変化を見るのが役割だったのである。
将は組織対組織という構図を理解出来ていないものの取り合えず己の役目を失敗しないように
「よし」
と気合を入れるように心で呟いた。
そして出向と同時に窓から港を振り返ってみて目を細めた。
「?」
長い黒髪を風に梳かせて一人の女性がグラサンをしたまま立っていたのである。一見するとただ海を見ているだけに見えるが将には違和感があったのだ。海を見たいなら港よりも周辺のもっと良い場所があるし
「それにさ」
とチラリと一番後ろに座って窓を見ている女性を見た。
あの時、参加者の写真と身上書が置かれて最後に出された人物『藤原美也子』であった。彼女だけはJNRの人間だと判明しているのである。その彼女がいま将と同じように港の方を見ていたのである。
舟は12人を乗せて瀬戸内海に浮かぶ家島諸島の一つ太島へと向かった。太陽がゆっくりと登り南天を目指す午前10時のことであった。
太島までは姫路港から20分程度の船旅であった。
その島には何もなかった。二つの小島が砂浜で繋がっているだけの無人島である。勿論、宿泊施設も何もない。そこに前回と同じように10個のテントが円形に設置されていたのである。前回の第二海堡は元々が海上防衛のための施設だったので船をつける場所があったが、今回は船をつけて陸に上がることが出来る自然の入り江からテントの場所まで少し海岸を歩く必要があり、将は歩きながら空を見上げ
「なるほど、夏まっただ中にしなかったのはこのためか」
と呟いた。
気温は朝の10時30分で28度。天気予報では最高気温が30度。真夏日に比べるとまだマシである。7月の時は日中35度超えだったので暑かったのだ。ただ、歩く距離が違ったので良かったのだ。20分ほど歩いてテントが張られた場所に辿り着き全員をテントが囲む広場の中央へと将は集めた。
ストーリーテイラーはこのゲームの進行役である。将はざわめく面々を見回して
「ここで今日来てもらった君たちに人狼ゲームをしてもらう」
と告げた。
数か月前に言われて将たちが驚いたように集った7人も目を見開いて
「ゲーム??」
「は??」
などなど顔を見合わせて騒めきを広げた。
将は心の中で「その気持ちはよーく分かる」と突っ込みつつも咳払いをして
「今から全員に一人ずつ携帯を渡す。狼の携帯は狼と俺に繋がるように設定されている。村人は誰にも繋がらない」
と言い
「テントの番号を記した紙も同時に渡すのでそれを受け取り10番テントの中から今日の昼食を持って食事と準備をしてもらう。開始は13時。第一回目の投票は16時だ」
と告げた。
「この中で人狼ゲームを知らないものはいるか?」
それに藤原美也子が手をあげた。
「私そういう遊びをしたことが無いので知りません」
将は驚きかけたが
「わかった。ここで説明する」
と告げた。
彼女はそれに首を振ると
「それではご迷惑なので皆さんが準備を終えてから教えていただけますか?」
と告げた。
これはもしかして仕掛けてきているのかもしれない。と将は思ったものの笑顔を浮かべると
「わかった。全員がテントに入った後にここで説明する。もし自信がないモノはテントに入らずにここで待機」
と告げた。
「藤原もそれでいいな」
藤原美也子はそれに僅かに目を見開いたものの
「……はい」
と答えた。
将は頷くと
「では、開始は14時にする」
と変更した。
「14時になったら全員テントから出てゲームを始めるように」
そう告げた。
桐谷世羅は周囲を見回しながら息を吐き出し
「東大路もうまくかわしたようだな」
と心で呟き、テントが張られた海岸沿いの空間の少し山側にある木々の合間から光るものを見つけ口元を歪めた。
「大阪府警は考えていた以上に上が喰われているみたいだな」
警視庁にテコ入れが入ったことは大阪府警でも上層部の一部の人間しか知らない。その上で事前に警察学校で林間合宿を行ったこともその一部のみに回っている。つまり、その上層部の一部の人間が林間合宿から組織の情報が漏洩したと判断しJNRに漏洩した。
そういうことなのだろう。JNRはその対処として林間合宿を先ず邪魔しようと仕組んだということである。
……警察関係以外のJRNの人間も使ってきたということだな……
桐谷世羅は腕を組むと
「これからこういう警察内外からの色々な邪魔を押し退けて進めていかなければならないし……まあ、良い勉強になるだろう」
と判断すると黙って観察だけは忘れずに見逃した。
将はそんな動きが背後であることを知らず全員にテントの番号札と携帯を渡し、最後に残った藤原美也子を中央に立たせて距離を開けて説明をした。
「人狼ゲームは狼と村人に分かれて行うゲームで狼を全員暴き出すと村人の勝ち、反対に狼が見つからず狼と村人が同数になれば狼の勝ちと言うモノだ。狼は狼同士連絡が取れる。村人は誰が村人で狼かは分からない。話をしながら狼を探し出し今回なら16時に投票を行うので狼だと思った人間の名前を提出し一番多い人間をゲームから放逐する。狼は夜に一人だけ村人を放逐できる。それは俺の方に連絡をしてもらう形になる」
将はそう言い
「狼は村人に気付かれないようにする。村人は誰か狼かを見つけ出す。そして投票の時に狼を放逐する。簡単に言えばそれだけのゲームだ」
と告げた。
彼女は視線をせわしく動かしつつ将が説明を終えると敬礼して
「わかりました」
と答え、携帯と番号札を手に4番のテントへと弁当を手に入っていった。
将はこの段に至って
「なるほど、こういう絡繰りになっていたんだ」
と自分たちがしたゲームを思い出しながらその全ての絡繰りを理解したのである。
そして、弁当を持って翼と省吾が待っている9番テントへと戻った。今回は唯一人佐藤正樹という人物だけが参加していないので8番テントは開いたままである。
桐谷世羅は外で見張りをしながら警察庁に連絡を入れ、佐藤優樹の不参加の理由を聞いて驚きに目を見開いた。
そして
「わかりました」
と答えた。
……佐藤正樹巡査は今朝遺体で見つかった……
「犯人は不明のままだ」
恐らくJNRの人間だったのだろう。タイミングがタイミングである。間違いないと桐谷世羅は考えた。
将は三人で食べながら後から入ってきた桐谷世羅を見ると
「桐谷課長……参加していない佐藤は?」
と問いかけた。
桐谷世羅はそれに
「今朝遺体で見つかったそうだ」
と言い
「組織は仕掛けてきている。十分注意してもらいたい」
と告げた。
将は目を見開き翼と省吾を見た。二人は厳しい表情で静かに頷いた。JNRに入っていたのでその恐ろしさを知っているのである。
将は固唾を飲み込み
「そんな組織を……俺は許さない」
と小さく呟き、バグバグと弁当を口に運んだ。
佐藤正樹という人物に会ったことはない。だが。だが。人を殺す組織を、まして同じ組織の人間を殺す組織を許すわけにはいかなかった。
翼も省吾も将の言葉に笑みを浮かべ
「「俺も戦うと決めてる」」
と告げた。
藤原美也子は同じとき息を吐き出すと隠し持っていたスマートウォッチの時計部分だけを手に一人の女性に連絡を入れた。
「酒家さま、林間合宿と言ってもどうやら人狼ゲームをするだけのようです。それぞれ個別にテントに入りその後に5時間ほど自由行動をしてその後に投票するという説明だけで他は何も……八重塚悟が佐藤正樹から何か預かっているかを調べることは昼間は難しそうですが……夜に……ええ、大丈夫です。向こうはこちらが忍び込ませているパパラッチにも気づいていないので」
……問題ありません……
そう言って報告を済ませると藤原美也子は食事を始めたのである。その様子を将と翼と省吾は桐谷世羅から見せられ全員が「「「正に狐と狸の化かし合いだ」」」と心で突っ込んでいた。
恐らく自分たちのことも視られていたのだろう。
だが、確かに携帯電話を持ち込み禁止と言っても彼女のようにこっそり持ち入る人間はいるのだ。ある意味において性善説ではやっていけない部分がある。人殺しをやっている組織の人間の炙り出しであった場合は特にである。
14時になると将はテントから出てぞろぞろと出てきた面々に
「では自由に話を始めてくれ」
と告げた。
出席者はJNRの人間と目される4番テントの藤原美也子を筆頭に1番が石原和則、2番が清水権次、3番が八重塚悟、5番が江口洋一、6番が田中太一、7番が菱谷由衣の7人である。
話を始めだした彼らを9番テントの前から将は見つめ目を細めていた。今回の内容を聞いた時に最初にした八重塚悟の写真を見て気になったのだ。明るい笑顔で笑っているだけの写真なのだが。八重塚悟はどちらかというとかっこいいというよりは可愛らしい系のアイドル顔なのだがメガネが特徴的な黒ぶちと言うのが将の目を引いたのである。
「あれだけ可愛いんだったらもっと形の良いメガネか……視力悪くないんだ。メガネをしなければいいのに」
だが八重塚悟は眼鏡をしているのだ。
将の視界の中で7人は会話を始めたのである。最初に積極的に話を始めたのが清水権次であった。
「こんなリアルな人狼ゲームは初めてなんだけどさ、登場人物が狼と村人だけで助かった」
そう石原和則に笑いながら告げた。
人数が多くなれば複雑な登場人物が多数現れるのだ。占い師、狩人、村人でありながら狼に協力する狂人などだ。それこそ大混乱である。
将はそれを見ながら
「そうなると管理するこっちも大変だ」
と心で呟いた。
本来の目的が分からなくなるので、今後もこの形が続くだろうと将は考えていた。
清水権次と石原和則が話し始めると江口洋一と田中太一も近寄り話し始めた。藤原美也子は菱谷由衣と話し始めた。が、菱谷由衣は彼女を誘って清水権次に交わろうとした。藤原美也子は頷いて一人少し離れて立っていた八重塚悟のところへ行くと声を掛けて誘った。
藤原美也子に先の翼と省吾のような人に見つからない暗号を送る様子はない。
将はそれを見ながら
「彼女の様子からJNRの人間はいないみたいだけど」
と呟いた。
翼と省吾の例を見ても後ろ暗い組織の関係は周囲に分からないように意思の疎通を行うのでそれを重点に観察しているがそういう素振りは見られない。ただ、藤原美也子の視線が時々八重塚悟を見ていることについては疑惑を覚えた。
「でも仲間に向けるというよりは様子を伺っているって感じなんだよな。でもそれとなく話をしているのがなぁ」
将はそう考えた。
太陽は日射しを投げかけながら西へと傾き、空が茜色に染まるころ将は時計を見て手をあげた。
「今から投票する。全員背を向けて丸くなれ」
そしてペンと紙を渡して名前を書くのを待った。意外と全員迷いなく書いていたので将は誰かに誘導されたのだろうと感じた。それが無ければ大抵は迷っている人間が一人や二人はいるのだ。
将は一番の石原和則から順に紙を受け取りながら紙に書かれた人物を見て
「なるほど」
と心で呟いた。
始め集まっていた清水権次と石原和則と他の面々は『菱谷由衣』を書いていた。藤原美也子と八重塚悟、そして、菱谷由衣はバラバラであった。
藤原美也子は清水権次を書き、菱谷由衣は八重塚悟を書き、八重塚悟は藤原美也子と書いていていた。つまり、初っ端に狼が処刑されたのである。
菱谷由衣は処刑されるとさっぱりと
「高みの見学をさせていただきます」
と敬礼した。
石原和則と清水権次と江口洋一と田中太一の4人は顔を見合わせて頷いた。将はその様子を見て彼らの中の誰かの進言で一致したのだろうと理解した。
所謂、将がしたことと同じことをした人間がいるのだ。ただ『それが村人』であるかどうかが問題なのだ。『狼が生き残るために狼を売る』ということをしていたら長引くだろうと将は考えながら全員に弁当を持ってテントに戻るように告げた。
「次は明日の朝6時から開始する。それまでテントから出ることは禁じる」
その後、昼と同じように全員がお弁当を手にそれぞれのテントへと戻った。この間に狼は人を一人排除するのである。
将は食事を終えて少ししてから狼の清水権次から『標的は八重塚悟』と携帯で聞いた。将は彼の思惑を理解した。
そして
「わかった」
と応え、携帯を切ると立ち上がった。
瞬間であった。テントが囲む中央で悲鳴が響いたのである。慌てて将も翼も省吾も桐谷世羅も飛び出した。その目の前……テントの囲む広間の中央で藤原美也子が上着のはだけた姿でナイフを手に立っていたのである。同時に彼女の前に八重塚悟が倒れていたのである。
桐谷世羅は直ぐに背後の山の方を見て
「お前らは八重塚の手当てと藤原を確保しろ!!」
と駆けだした。
将は頷いて駆け出して尚も八重塚悟を刺そうとする藤原美也子の手を掴んで地につけた。
「天童!!」
翼は直ぐに藤原美也子の手に手錠をかけた。将は八重塚悟を抱き上げると9番テントに戻り服を剥ぐと
「これは……手当の為だからな」
と告げた。
八重塚悟は驚いて
「いつ? 何故?」
と聞いた。
将はそれに
「メガネ、写真を見た時から」
と応え、八重塚悟の傷を抑えて
「本当の名前……」
と聞いた。
八重塚悟は涙を流しながら
「八重塚……圭……悟は……一つ上の兄の名前なの……殺された兄の……」
と告げて唇を噛み締めた。
外では省吾が他の面々をテントに戻し、翼は藤原美也子を8番テントに入れた。桐谷世羅はカメラを手にした男を逮捕して戻り、将を見ると「彼女の様子はどうだ?」と聞いた。
将は桐谷世羅も気付いていたのだと理解し
「止血はしました。でも応急手当なので」
と告げた。
桐谷世羅は頷くと
「わかった。藤原美也子とこいつを連れて飛ぶか」
と呟いた。
が、それに八重塚圭は身体を起こすと
「待ってください……私、あの女に聞かないといけないことがあるんです」
と言い
「兄の遺体をどこに埋めたのか。正樹兄さんは兄さんが殺されたことを知って全てをこの林間を利用して皆さんに組織のことを言おうと思っていたんです。なのに……正樹兄さんまで」
と泣きながら告げた。
それに桐谷世羅もカメラを手にしていた人物も目を見開いた。カメラを手にしていた人物は
「悟くんは……やはり殺されていたのか……圭ちゃんが……成り代わっていたから……もしやとは思っていたが……」
と呟いた。
桐谷世羅は彼を見ると
「知っているのか?」
と聞いた。
カメラを手にした人物は涙を滲ませて頷き帽子を脱ぐと
「圭ちゃん、俺だ」
と笑みを浮かべた。
八重塚圭は目を見開くと
「遠野のお兄さん」
と呟いた。
遠野秋日は土下座するように頭を下げて
「すまない! 本当に申し訳ない!」
と叫んだ。
「二人に良かれと俺が……組織に誘ったんだ。二人とも頭も良かったし……組織に入れば就職にも困らないと思って幸せになると思って……俺たちは就職が難しい。どうしても両親や家族を調べられて……口利きでもない限り良い就職が出来ない。だが……間違っていた」
……就職先の心配はないがそれは最初だけだった。直ぐに組織からこういう記事を書けとかこの記事を書いた人間を知らせろと言われて……
「もし警察でそんなことになったらと心配になって二人に連絡をとったら悟の行方がわからないと正樹に聞いて……正樹は圭ちゃんと自分が調べるからと……そうしたら警察学校では悟がいるし……圭ちゃんだと分かったけどそれが組織に分かると思うと圭ちゃんまで巻き込むと思って下手に動けなくて正樹が死んだと聞いて、それで酒家が悟が通っているのを不審に思っていて藤原美也子に何かを仕掛けさせようとしたので……この林間計画を破壊するための記事を書くということでこちらに乗り込んだんだ」
桐谷世羅は息を吐き出し
「それで降りてきていたのか」
と呟いた。
将は立ちがあがると
「俺は絶対に許さない」
と言い
「人の不幸や人殺しの上に成り立つ組織を存在させるわけにはいかない」
と告げた。
省吾も頷いた。
「俺も組織にいたけど……上層部だけが全てを手に入れるだけで俺たちは駒なんだと……上層部は俺たちの名前すらも知らない。そんな駒なんだって……でも裏切ったら翼も俺も殺されると思ってずっと言うことを聞いてきた」
そうなのだ。入る時は全てを隠して両手を広げて誘い、入ると恐怖政治で縛り付けるのだ。逆らうと殺され、その死は様々なところに入り込んでいる組織の人間が隠蔽する構図が出来ているのだ。
密告を受けて警察にその構図を入れさせるわけにはいかないと動いたのが警察庁長官である鬼竜院闘平だったのだろう。それに呼応したのが桐谷世羅など警察官なのだ。
将は桐谷世羅を見ると
「大阪府警を壊しましょう」
と告げた。
省吾も桐谷世羅も遠野秋日も八重塚圭も驚いて将を見た。しかし、桐谷世羅は笑って
「それくらいの意気がねぇとな」
と言い
「ああ、大改造だ」
と告げた。
八重塚圭は涙を浮かべ
「ありがとうございます」
と告げた。
桐谷世羅は彼女を抱き上げて
「藤原美也子に会え。会って聞け」
と告げた。
「それくらいは持つな」
彼女は頷いた。
「はい」
そして、8番テントに行き翼が見張っている藤原美也子に向き合った。藤原美也子は泣きながら
「私、その八重塚悟に襲われたんです!! だから刺したんです! 学校でも厭らしい目で見ていたから……まさかとおもっていたんですけど……」
と訴えた。
それに八重塚圭は桐谷世羅の腕から降りて上着を脱ぎ
「それはないわ。私は八重塚悟の妹の八重塚圭なんですもの」
と告げた。
藤原美也子は目を見開き
「ま、さか……」
と慌てて周囲を見回した。
桐谷世羅は冷静に
「全てを話してもらう。組織のこと全てな。お前のことは全部わかっている」
と告げた。
藤原美也子は俯きながら長い沈黙の後で
「わ、わかったわ……府警に戻ったら話すわ。それまで心の整理をさせて」
と答えた。
将も翼も省吾も誰もが沈黙を守った。
桐谷世羅は息を吐き出すと
「わかった。その前に一つだけ確認したい。佐藤正樹を殺したのはお前だな? 八重塚悟は何処に埋めた」
と聞いた。
「妹がここまでしたんだ。それくらいは言っていけ」
彼女は圭を見ると
「私よ。あいつが組織のデータを抜き取ったのが分かったから……そう命令されたのよ。私も組織を抜けるから助けてって会うように言ったら騙されてやってきたわ。それで毒を飲ませたのよ。八重塚悟は自分と正樹は抜けるって警察を裏切るようなことは出来ないって言ってきたのよ。隠蔽するために警察官になったんじゃないって……琵琶湖に沈めたわ」
と告げた。
圭は両手で顔を塞ぐと堪えきれない嗚咽を漏らした。どれほど悔しく、どれほど悲しいか。将は彼女をそっと抱きしめると唇を噛み締めた。
遠野秋日も無言で涙を落として唇を噛み締めていた。
桐谷世羅は携帯で多々倉聖に連絡を入れると
「兵庫県警の本部長の長柄に連絡を入れて船を寄越すように言ってくれ。けが人がいる」
と告げた。
多々倉聖はそれに
「了解した。連絡を入れて俺も向かう」
と告げた。
桐谷世羅はそれに
「頼む」
と言い携帯を切った。
20分ほどで兵庫県警の船が到着し桐谷世羅と翼が八重塚圭と藤原美也子を連れて立ち去った。遠野秋日は残ることになったのである。
将と省吾は残って人狼ゲームを最後まですることと今回の件をそれとなく伝えるようにと言われたのである。翌朝、恐らく昨夜のことが気になって眠れなかったらしい面々がそれでも6時に姿を見せた。
残りは石原和則、清水権次、江口洋一、田中太一、菱谷由衣の5人でその内の菱谷由衣はゲームでは排除されたので4番テント前で立つように指示した。
将は彼らの前に立ち
「ゲームは続行する。ただ、昨夜のことが気になっているので報告する」
と言い
「藤原美也子は彼女が警察とは違う組織に所属しており佐藤正樹と八重塚悟の殺害を自供したために逮捕した」
と告げた。
省吾は固唾を飲み込んだ。そんなことを言ってJNRに情報が渡ったらと考えたのである。将はなおも続けた。
「佐藤正樹と八重塚悟は国民を……人を守る警察を裏切ることが出来ないと反発したために殺されたことが分かった」
……警察は人間の最後の良心でなければならない……
「俺は未熟ものだしみんなと同じ警察官になったばかりだが、そうでありたいと思った」
全員が息を飲み込んだ。菱谷由衣は敬礼すると
「私もそうありたいと思います!!」
と告げた。
「警察が良心と正義を失えば国は終わりです!」
そこにいた全員が立ち上がり敬礼をした。
将は笑むと
「そのために巧みに甘い言葉で歩み寄る狼を見抜く力も必要だ。だから、このゲームは続ける」
と告げた。
「色々心配もあると思うが今敬礼した全員が仲間だ。だから何かあったら相談し誰一人この先の長い警察人生から転落することなく進んでいくことを祈る!」
全員が顔を見合わせて笑みを浮かべた。
将は笑って
「但しゲームは頑張れ」
と付け加えて笑いを誘った。
ゲームは狼の清水権次が最初に菱谷由衣を狼として仲間売りをしたことで田中太一と残るまで進み、狼の勝利となったのである。全員が『なるほど、仲間と示し合わせて信用させるかぁ』と村人側はがっくりと肩を落としたのである。
石原和則は途中で疑ったが最初のことがあったので迷ったことを言い
「示し合わせもあるんだよな。組織の中でも信頼させるためにこういう方法もあるってことだな」
と呟いていた。
将もそれを見て
「確かに、勉強になるな」
と心で呟き、無事に迎えに来た船でその日の夕方に姫路港へと戻った。
その時、一人の女性が自分たちを見て立ち去るのを見て写真を撮った。出港の時にもいてあの藤原美也子が見ていたのだ。気になっていたのである。
将と省吾が戻ると八重塚圭は手当てを受けて今兵庫県警の保護下で入院していることを桐谷世羅から聞き、同時に藤原美也子は大阪府警に引き渡したが拘置所で首を括って亡くなっているのが見つかった。
遠野秋日は下船時に一枚の名刺を将に渡して
「酒家美咲という女に気を付けろ」
と言い残すとそのまま姿を消し、表向き立て続けに起きた拘置所内の自殺と警察官不祥事によって大々的に大阪府警の人事が動きJNRの人間が同時に更迭された。
大阪府警本部の副本部長もJNRの人間だったのである。それが分かったのは翼が八重塚圭の成り代わっていた八重塚悟の部屋に隠されていたUSBを見つけて一覧を手に入れたからである。
翼はそのことについては
「佐藤正樹は自分のところだと直ぐに調べられると思って彼女のところへ隠したんだろうと思ってな」
と告げた。
流石である。
一か月後、三人は無事に警察学校を卒業し本格的に警察庁刑事局組織犯罪対策部内部組織犯罪対策課へと配属が決まったのである。本格的なJNRとの戦いが始まるのである。
そして、課として始動して初の仕事が名古屋県警での人狼ゲームであった。
8月が終わり9月になっても35度越えの真夏日があり、そこに1、2度低めの日が続く形であった。
東大路将は半月ほどで警察学校を卒業する9月半ばの三連休の一週間前に桐谷世羅に呼び出されて警察庁が入っている合同庁舎へと出向いた。16階の会議室へと案内され中に入るとそこに天童翼と根津省吾が座って待っていた。
天童翼と根津省吾は前回の人狼ゲームである組織の組織員であることが分かりその組織への情報提供と引き換えに二人の身柄の安全と今後の協力のために警察学校ではなく桐谷世羅と共に既に仕事を始めている状態であった。
二人が提出した情報は主に警視庁と警察庁に関するもので他の地域については組織の中でも情報が分断されているらしく末端の二人には分からなかったようである。
ただ、情報は正確で警視庁の名前が挙げられた面々の内偵が警察庁の主導で行われその人物たちは更迭され更なる組織の全容解明のために現在取り調べが行われていたのである。
将については桐谷世羅から
「お前は学校で横の繋がりを作っておけ。あと試験は手を緩めないから勉強も頑張れ」
と言われ、あの時に同行した海野邦男や花村満也、富山春陽や大谷大地、仙石真美也達と警察官同士として交流を深めつつ、猛勉強もしていた。
もちろん、彼ら以外の同僚たちとも積極的に話をして同じ警察学校生として繋がりを築くのも忘れてはいなかった。
そして、今回は警視庁配下の警察学校ではなく大阪府警配下の警察学校のメンバーによる人狼ゲームであった。
……警察庁上層部ではこのゲームのことを『警狼ゲーム』と呼び、組織のことを便宜上『JINROU』からJNRと呼ぶことに決まった……
将が警察庁の会議室に入り待っていた天童翼と根津省吾と合流して
「今回の話は?」
と聞くと、翼が笑みを浮かべて
「ああ、俺たちは先に聞いている」
と応え
「今度は大阪府警の警察学校の人間だそうだ」
と告げた。
「俺も省吾も東京以外は全く情報がわからなかったが……やはり警察も組織だな。どこからか入るみたいだ」
将は頷いて
「そうなんだ」
と呟き
「俺は組織とか全然わからないけど……知っていく必要があるな」
と答えた。
考えればこの部署に配属されることになると複雑な組織対組織の人間の流動を俯瞰してみる力が必要になるのだと将は感じた。
翼も腕を組むと
「確かにそうだよな」
と言い
「この部署って対個人とか対事件と言う感じではないからな」
と答えた。
将は頷いて
「そうだな」
と答えた。
翼は省吾を見ると
「省吾にはちょうど良かったかもしれないけどな」
と告げた。
「いま桐谷課長の指示で情報データの整理をしてる」
将は目を見開くと
「え? もしかして根津はデータ管理が得意だったのか?」
と聞いた。
省吾は笑って
「ああ、俺はどっちかというと対人恐怖症なところがあって人間関係は得意じゃないんだ。ただデータ処理は得意なんだ。プログラムとかもな」
と答えた。
将はうおおおと声を上げて省吾の手を握りしめると
「俺も……プログラマー目指していたんだ」
と告げた。
省吾は笑顔で
「え? マジ? なかーま!」
と手を握り返した。
翼は思わずドン引きしながら
「おいおいおい」
と声を掛けた。
その時、扉が開き桐谷世羅が
「なるほどな。警察辞めてSEになりたかったのか。東大路は」
と言い彼らと向かい合うように座ると書類を置いた。
「これが根津に用意してもらった今回の人狼ゲームの参加者の身上書と顔写真だ」
将は一枚を手に取り
「八重塚悟……22歳。大阪公大法学部卒業か。ん? けど……こいつ……」
と呟いた。
明るい笑顔がそこに映っていた。
将は桐谷世羅を見ると
「この人が組織……JNRの人間の一人ということですか?」
と聞いた。
桐谷世羅は首を振ると
「わからん」
と応え、最後の一枚の置いて
「わかっているのはこの人物がJNRの人間だというだけだ。他の7名はグレーゾーンだ」
と告げた。
「今回の人狼ゲームにはお前たちも連れて行く。お前たちの目で見てこいつの他に狼がいるかを見極めろ」
将は翼と省吾を見た。二人も将を見て頷いた。
将も頷き
「「「はい」」」
と答えた。
晴れ渡った9月の連休の初日。
将は桐谷世羅と翼と省吾の4人で兵庫県に訪れるとあの日の自分たちのようにやってきた面々を姫路港で出迎えた。
今回の舞台は家島諸島の一つである太島であった。砂地で二つの島が連なる無人島で前回と同じように10のテントを設置して人狼ゲームを行うのである。
将はストーリーテイラーとして乗り込んでくる面々の様子を見つめ、翼は船へと全員を案内しながら顔を覚えていた。省吾はタブレットを手に動画撮影をしていたのである。正にそれぞれの適材適所の配置であった。
しかし。
将は乗り込んでくる面々を見ながら首を傾げた。参加者は全員で8人のはずであるが、1人足りないのだ。集合していない人間がいるということである。
桐谷世羅も将と同じように不参加の1人のことを不審に思いつつ時計を見ると
「不参加者は退学だと言っておいたはずだが」
と呟き
「どちらにしても大阪府警に後で連絡して確認するしかない」
と言い、周辺の様子を確認して最後に船に乗り込んだ。
前回の林間学習で警視庁からJNRの人間を更迭した。
「恐らく向こうは警戒しているだろうし、何が起きているのかを探ってくる。もしかしたら……」
世羅はJNR本体の動きの変化を見るのが役割だったのである。
将は組織対組織という構図を理解出来ていないものの取り合えず己の役目を失敗しないように
「よし」
と気合を入れるように心で呟いた。
そして出向と同時に窓から港を振り返ってみて目を細めた。
「?」
長い黒髪を風に梳かせて一人の女性がグラサンをしたまま立っていたのである。一見するとただ海を見ているだけに見えるが将には違和感があったのだ。海を見たいなら港よりも周辺のもっと良い場所があるし
「それにさ」
とチラリと一番後ろに座って窓を見ている女性を見た。
あの時、参加者の写真と身上書が置かれて最後に出された人物『藤原美也子』であった。彼女だけはJNRの人間だと判明しているのである。その彼女がいま将と同じように港の方を見ていたのである。
舟は12人を乗せて瀬戸内海に浮かぶ家島諸島の一つ太島へと向かった。太陽がゆっくりと登り南天を目指す午前10時のことであった。
太島までは姫路港から20分程度の船旅であった。
その島には何もなかった。二つの小島が砂浜で繋がっているだけの無人島である。勿論、宿泊施設も何もない。そこに前回と同じように10個のテントが円形に設置されていたのである。前回の第二海堡は元々が海上防衛のための施設だったので船をつける場所があったが、今回は船をつけて陸に上がることが出来る自然の入り江からテントの場所まで少し海岸を歩く必要があり、将は歩きながら空を見上げ
「なるほど、夏まっただ中にしなかったのはこのためか」
と呟いた。
気温は朝の10時30分で28度。天気予報では最高気温が30度。真夏日に比べるとまだマシである。7月の時は日中35度超えだったので暑かったのだ。ただ、歩く距離が違ったので良かったのだ。20分ほど歩いてテントが張られた場所に辿り着き全員をテントが囲む広場の中央へと将は集めた。
ストーリーテイラーはこのゲームの進行役である。将はざわめく面々を見回して
「ここで今日来てもらった君たちに人狼ゲームをしてもらう」
と告げた。
数か月前に言われて将たちが驚いたように集った7人も目を見開いて
「ゲーム??」
「は??」
などなど顔を見合わせて騒めきを広げた。
将は心の中で「その気持ちはよーく分かる」と突っ込みつつも咳払いをして
「今から全員に一人ずつ携帯を渡す。狼の携帯は狼と俺に繋がるように設定されている。村人は誰にも繋がらない」
と言い
「テントの番号を記した紙も同時に渡すのでそれを受け取り10番テントの中から今日の昼食を持って食事と準備をしてもらう。開始は13時。第一回目の投票は16時だ」
と告げた。
「この中で人狼ゲームを知らないものはいるか?」
それに藤原美也子が手をあげた。
「私そういう遊びをしたことが無いので知りません」
将は驚きかけたが
「わかった。ここで説明する」
と告げた。
彼女はそれに首を振ると
「それではご迷惑なので皆さんが準備を終えてから教えていただけますか?」
と告げた。
これはもしかして仕掛けてきているのかもしれない。と将は思ったものの笑顔を浮かべると
「わかった。全員がテントに入った後にここで説明する。もし自信がないモノはテントに入らずにここで待機」
と告げた。
「藤原もそれでいいな」
藤原美也子はそれに僅かに目を見開いたものの
「……はい」
と答えた。
将は頷くと
「では、開始は14時にする」
と変更した。
「14時になったら全員テントから出てゲームを始めるように」
そう告げた。
桐谷世羅は周囲を見回しながら息を吐き出し
「東大路もうまくかわしたようだな」
と心で呟き、テントが張られた海岸沿いの空間の少し山側にある木々の合間から光るものを見つけ口元を歪めた。
「大阪府警は考えていた以上に上が喰われているみたいだな」
警視庁にテコ入れが入ったことは大阪府警でも上層部の一部の人間しか知らない。その上で事前に警察学校で林間合宿を行ったこともその一部のみに回っている。つまり、その上層部の一部の人間が林間合宿から組織の情報が漏洩したと判断しJNRに漏洩した。
そういうことなのだろう。JNRはその対処として林間合宿を先ず邪魔しようと仕組んだということである。
……警察関係以外のJRNの人間も使ってきたということだな……
桐谷世羅は腕を組むと
「これからこういう警察内外からの色々な邪魔を押し退けて進めていかなければならないし……まあ、良い勉強になるだろう」
と判断すると黙って観察だけは忘れずに見逃した。
将はそんな動きが背後であることを知らず全員にテントの番号札と携帯を渡し、最後に残った藤原美也子を中央に立たせて距離を開けて説明をした。
「人狼ゲームは狼と村人に分かれて行うゲームで狼を全員暴き出すと村人の勝ち、反対に狼が見つからず狼と村人が同数になれば狼の勝ちと言うモノだ。狼は狼同士連絡が取れる。村人は誰が村人で狼かは分からない。話をしながら狼を探し出し今回なら16時に投票を行うので狼だと思った人間の名前を提出し一番多い人間をゲームから放逐する。狼は夜に一人だけ村人を放逐できる。それは俺の方に連絡をしてもらう形になる」
将はそう言い
「狼は村人に気付かれないようにする。村人は誰か狼かを見つけ出す。そして投票の時に狼を放逐する。簡単に言えばそれだけのゲームだ」
と告げた。
彼女は視線をせわしく動かしつつ将が説明を終えると敬礼して
「わかりました」
と答え、携帯と番号札を手に4番のテントへと弁当を手に入っていった。
将はこの段に至って
「なるほど、こういう絡繰りになっていたんだ」
と自分たちがしたゲームを思い出しながらその全ての絡繰りを理解したのである。
そして、弁当を持って翼と省吾が待っている9番テントへと戻った。今回は唯一人佐藤正樹という人物だけが参加していないので8番テントは開いたままである。
桐谷世羅は外で見張りをしながら警察庁に連絡を入れ、佐藤優樹の不参加の理由を聞いて驚きに目を見開いた。
そして
「わかりました」
と答えた。
……佐藤正樹巡査は今朝遺体で見つかった……
「犯人は不明のままだ」
恐らくJNRの人間だったのだろう。タイミングがタイミングである。間違いないと桐谷世羅は考えた。
将は三人で食べながら後から入ってきた桐谷世羅を見ると
「桐谷課長……参加していない佐藤は?」
と問いかけた。
桐谷世羅はそれに
「今朝遺体で見つかったそうだ」
と言い
「組織は仕掛けてきている。十分注意してもらいたい」
と告げた。
将は目を見開き翼と省吾を見た。二人は厳しい表情で静かに頷いた。JNRに入っていたのでその恐ろしさを知っているのである。
将は固唾を飲み込み
「そんな組織を……俺は許さない」
と小さく呟き、バグバグと弁当を口に運んだ。
佐藤正樹という人物に会ったことはない。だが。だが。人を殺す組織を、まして同じ組織の人間を殺す組織を許すわけにはいかなかった。
翼も省吾も将の言葉に笑みを浮かべ
「「俺も戦うと決めてる」」
と告げた。
藤原美也子は同じとき息を吐き出すと隠し持っていたスマートウォッチの時計部分だけを手に一人の女性に連絡を入れた。
「酒家さま、林間合宿と言ってもどうやら人狼ゲームをするだけのようです。それぞれ個別にテントに入りその後に5時間ほど自由行動をしてその後に投票するという説明だけで他は何も……八重塚悟が佐藤正樹から何か預かっているかを調べることは昼間は難しそうですが……夜に……ええ、大丈夫です。向こうはこちらが忍び込ませているパパラッチにも気づいていないので」
……問題ありません……
そう言って報告を済ませると藤原美也子は食事を始めたのである。その様子を将と翼と省吾は桐谷世羅から見せられ全員が「「「正に狐と狸の化かし合いだ」」」と心で突っ込んでいた。
恐らく自分たちのことも視られていたのだろう。
だが、確かに携帯電話を持ち込み禁止と言っても彼女のようにこっそり持ち入る人間はいるのだ。ある意味において性善説ではやっていけない部分がある。人殺しをやっている組織の人間の炙り出しであった場合は特にである。
14時になると将はテントから出てぞろぞろと出てきた面々に
「では自由に話を始めてくれ」
と告げた。
出席者はJNRの人間と目される4番テントの藤原美也子を筆頭に1番が石原和則、2番が清水権次、3番が八重塚悟、5番が江口洋一、6番が田中太一、7番が菱谷由衣の7人である。
話を始めだした彼らを9番テントの前から将は見つめ目を細めていた。今回の内容を聞いた時に最初にした八重塚悟の写真を見て気になったのだ。明るい笑顔で笑っているだけの写真なのだが。八重塚悟はどちらかというとかっこいいというよりは可愛らしい系のアイドル顔なのだがメガネが特徴的な黒ぶちと言うのが将の目を引いたのである。
「あれだけ可愛いんだったらもっと形の良いメガネか……視力悪くないんだ。メガネをしなければいいのに」
だが八重塚悟は眼鏡をしているのだ。
将の視界の中で7人は会話を始めたのである。最初に積極的に話を始めたのが清水権次であった。
「こんなリアルな人狼ゲームは初めてなんだけどさ、登場人物が狼と村人だけで助かった」
そう石原和則に笑いながら告げた。
人数が多くなれば複雑な登場人物が多数現れるのだ。占い師、狩人、村人でありながら狼に協力する狂人などだ。それこそ大混乱である。
将はそれを見ながら
「そうなると管理するこっちも大変だ」
と心で呟いた。
本来の目的が分からなくなるので、今後もこの形が続くだろうと将は考えていた。
清水権次と石原和則が話し始めると江口洋一と田中太一も近寄り話し始めた。藤原美也子は菱谷由衣と話し始めた。が、菱谷由衣は彼女を誘って清水権次に交わろうとした。藤原美也子は頷いて一人少し離れて立っていた八重塚悟のところへ行くと声を掛けて誘った。
藤原美也子に先の翼と省吾のような人に見つからない暗号を送る様子はない。
将はそれを見ながら
「彼女の様子からJNRの人間はいないみたいだけど」
と呟いた。
翼と省吾の例を見ても後ろ暗い組織の関係は周囲に分からないように意思の疎通を行うのでそれを重点に観察しているがそういう素振りは見られない。ただ、藤原美也子の視線が時々八重塚悟を見ていることについては疑惑を覚えた。
「でも仲間に向けるというよりは様子を伺っているって感じなんだよな。でもそれとなく話をしているのがなぁ」
将はそう考えた。
太陽は日射しを投げかけながら西へと傾き、空が茜色に染まるころ将は時計を見て手をあげた。
「今から投票する。全員背を向けて丸くなれ」
そしてペンと紙を渡して名前を書くのを待った。意外と全員迷いなく書いていたので将は誰かに誘導されたのだろうと感じた。それが無ければ大抵は迷っている人間が一人や二人はいるのだ。
将は一番の石原和則から順に紙を受け取りながら紙に書かれた人物を見て
「なるほど」
と心で呟いた。
始め集まっていた清水権次と石原和則と他の面々は『菱谷由衣』を書いていた。藤原美也子と八重塚悟、そして、菱谷由衣はバラバラであった。
藤原美也子は清水権次を書き、菱谷由衣は八重塚悟を書き、八重塚悟は藤原美也子と書いていていた。つまり、初っ端に狼が処刑されたのである。
菱谷由衣は処刑されるとさっぱりと
「高みの見学をさせていただきます」
と敬礼した。
石原和則と清水権次と江口洋一と田中太一の4人は顔を見合わせて頷いた。将はその様子を見て彼らの中の誰かの進言で一致したのだろうと理解した。
所謂、将がしたことと同じことをした人間がいるのだ。ただ『それが村人』であるかどうかが問題なのだ。『狼が生き残るために狼を売る』ということをしていたら長引くだろうと将は考えながら全員に弁当を持ってテントに戻るように告げた。
「次は明日の朝6時から開始する。それまでテントから出ることは禁じる」
その後、昼と同じように全員がお弁当を手にそれぞれのテントへと戻った。この間に狼は人を一人排除するのである。
将は食事を終えて少ししてから狼の清水権次から『標的は八重塚悟』と携帯で聞いた。将は彼の思惑を理解した。
そして
「わかった」
と応え、携帯を切ると立ち上がった。
瞬間であった。テントが囲む中央で悲鳴が響いたのである。慌てて将も翼も省吾も桐谷世羅も飛び出した。その目の前……テントの囲む広間の中央で藤原美也子が上着のはだけた姿でナイフを手に立っていたのである。同時に彼女の前に八重塚悟が倒れていたのである。
桐谷世羅は直ぐに背後の山の方を見て
「お前らは八重塚の手当てと藤原を確保しろ!!」
と駆けだした。
将は頷いて駆け出して尚も八重塚悟を刺そうとする藤原美也子の手を掴んで地につけた。
「天童!!」
翼は直ぐに藤原美也子の手に手錠をかけた。将は八重塚悟を抱き上げると9番テントに戻り服を剥ぐと
「これは……手当の為だからな」
と告げた。
八重塚悟は驚いて
「いつ? 何故?」
と聞いた。
将はそれに
「メガネ、写真を見た時から」
と応え、八重塚悟の傷を抑えて
「本当の名前……」
と聞いた。
八重塚悟は涙を流しながら
「八重塚……圭……悟は……一つ上の兄の名前なの……殺された兄の……」
と告げて唇を噛み締めた。
外では省吾が他の面々をテントに戻し、翼は藤原美也子を8番テントに入れた。桐谷世羅はカメラを手にした男を逮捕して戻り、将を見ると「彼女の様子はどうだ?」と聞いた。
将は桐谷世羅も気付いていたのだと理解し
「止血はしました。でも応急手当なので」
と告げた。
桐谷世羅は頷くと
「わかった。藤原美也子とこいつを連れて飛ぶか」
と呟いた。
が、それに八重塚圭は身体を起こすと
「待ってください……私、あの女に聞かないといけないことがあるんです」
と言い
「兄の遺体をどこに埋めたのか。正樹兄さんは兄さんが殺されたことを知って全てをこの林間を利用して皆さんに組織のことを言おうと思っていたんです。なのに……正樹兄さんまで」
と泣きながら告げた。
それに桐谷世羅もカメラを手にしていた人物も目を見開いた。カメラを手にしていた人物は
「悟くんは……やはり殺されていたのか……圭ちゃんが……成り代わっていたから……もしやとは思っていたが……」
と呟いた。
桐谷世羅は彼を見ると
「知っているのか?」
と聞いた。
カメラを手にした人物は涙を滲ませて頷き帽子を脱ぐと
「圭ちゃん、俺だ」
と笑みを浮かべた。
八重塚圭は目を見開くと
「遠野のお兄さん」
と呟いた。
遠野秋日は土下座するように頭を下げて
「すまない! 本当に申し訳ない!」
と叫んだ。
「二人に良かれと俺が……組織に誘ったんだ。二人とも頭も良かったし……組織に入れば就職にも困らないと思って幸せになると思って……俺たちは就職が難しい。どうしても両親や家族を調べられて……口利きでもない限り良い就職が出来ない。だが……間違っていた」
……就職先の心配はないがそれは最初だけだった。直ぐに組織からこういう記事を書けとかこの記事を書いた人間を知らせろと言われて……
「もし警察でそんなことになったらと心配になって二人に連絡をとったら悟の行方がわからないと正樹に聞いて……正樹は圭ちゃんと自分が調べるからと……そうしたら警察学校では悟がいるし……圭ちゃんだと分かったけどそれが組織に分かると思うと圭ちゃんまで巻き込むと思って下手に動けなくて正樹が死んだと聞いて、それで酒家が悟が通っているのを不審に思っていて藤原美也子に何かを仕掛けさせようとしたので……この林間計画を破壊するための記事を書くということでこちらに乗り込んだんだ」
桐谷世羅は息を吐き出し
「それで降りてきていたのか」
と呟いた。
将は立ちがあがると
「俺は絶対に許さない」
と言い
「人の不幸や人殺しの上に成り立つ組織を存在させるわけにはいかない」
と告げた。
省吾も頷いた。
「俺も組織にいたけど……上層部だけが全てを手に入れるだけで俺たちは駒なんだと……上層部は俺たちの名前すらも知らない。そんな駒なんだって……でも裏切ったら翼も俺も殺されると思ってずっと言うことを聞いてきた」
そうなのだ。入る時は全てを隠して両手を広げて誘い、入ると恐怖政治で縛り付けるのだ。逆らうと殺され、その死は様々なところに入り込んでいる組織の人間が隠蔽する構図が出来ているのだ。
密告を受けて警察にその構図を入れさせるわけにはいかないと動いたのが警察庁長官である鬼竜院闘平だったのだろう。それに呼応したのが桐谷世羅など警察官なのだ。
将は桐谷世羅を見ると
「大阪府警を壊しましょう」
と告げた。
省吾も桐谷世羅も遠野秋日も八重塚圭も驚いて将を見た。しかし、桐谷世羅は笑って
「それくらいの意気がねぇとな」
と言い
「ああ、大改造だ」
と告げた。
八重塚圭は涙を浮かべ
「ありがとうございます」
と告げた。
桐谷世羅は彼女を抱き上げて
「藤原美也子に会え。会って聞け」
と告げた。
「それくらいは持つな」
彼女は頷いた。
「はい」
そして、8番テントに行き翼が見張っている藤原美也子に向き合った。藤原美也子は泣きながら
「私、その八重塚悟に襲われたんです!! だから刺したんです! 学校でも厭らしい目で見ていたから……まさかとおもっていたんですけど……」
と訴えた。
それに八重塚圭は桐谷世羅の腕から降りて上着を脱ぎ
「それはないわ。私は八重塚悟の妹の八重塚圭なんですもの」
と告げた。
藤原美也子は目を見開き
「ま、さか……」
と慌てて周囲を見回した。
桐谷世羅は冷静に
「全てを話してもらう。組織のこと全てな。お前のことは全部わかっている」
と告げた。
藤原美也子は俯きながら長い沈黙の後で
「わ、わかったわ……府警に戻ったら話すわ。それまで心の整理をさせて」
と答えた。
将も翼も省吾も誰もが沈黙を守った。
桐谷世羅は息を吐き出すと
「わかった。その前に一つだけ確認したい。佐藤正樹を殺したのはお前だな? 八重塚悟は何処に埋めた」
と聞いた。
「妹がここまでしたんだ。それくらいは言っていけ」
彼女は圭を見ると
「私よ。あいつが組織のデータを抜き取ったのが分かったから……そう命令されたのよ。私も組織を抜けるから助けてって会うように言ったら騙されてやってきたわ。それで毒を飲ませたのよ。八重塚悟は自分と正樹は抜けるって警察を裏切るようなことは出来ないって言ってきたのよ。隠蔽するために警察官になったんじゃないって……琵琶湖に沈めたわ」
と告げた。
圭は両手で顔を塞ぐと堪えきれない嗚咽を漏らした。どれほど悔しく、どれほど悲しいか。将は彼女をそっと抱きしめると唇を噛み締めた。
遠野秋日も無言で涙を落として唇を噛み締めていた。
桐谷世羅は携帯で多々倉聖に連絡を入れると
「兵庫県警の本部長の長柄に連絡を入れて船を寄越すように言ってくれ。けが人がいる」
と告げた。
多々倉聖はそれに
「了解した。連絡を入れて俺も向かう」
と告げた。
桐谷世羅はそれに
「頼む」
と言い携帯を切った。
20分ほどで兵庫県警の船が到着し桐谷世羅と翼が八重塚圭と藤原美也子を連れて立ち去った。遠野秋日は残ることになったのである。
将と省吾は残って人狼ゲームを最後まですることと今回の件をそれとなく伝えるようにと言われたのである。翌朝、恐らく昨夜のことが気になって眠れなかったらしい面々がそれでも6時に姿を見せた。
残りは石原和則、清水権次、江口洋一、田中太一、菱谷由衣の5人でその内の菱谷由衣はゲームでは排除されたので4番テント前で立つように指示した。
将は彼らの前に立ち
「ゲームは続行する。ただ、昨夜のことが気になっているので報告する」
と言い
「藤原美也子は彼女が警察とは違う組織に所属しており佐藤正樹と八重塚悟の殺害を自供したために逮捕した」
と告げた。
省吾は固唾を飲み込んだ。そんなことを言ってJNRに情報が渡ったらと考えたのである。将はなおも続けた。
「佐藤正樹と八重塚悟は国民を……人を守る警察を裏切ることが出来ないと反発したために殺されたことが分かった」
……警察は人間の最後の良心でなければならない……
「俺は未熟ものだしみんなと同じ警察官になったばかりだが、そうでありたいと思った」
全員が息を飲み込んだ。菱谷由衣は敬礼すると
「私もそうありたいと思います!!」
と告げた。
「警察が良心と正義を失えば国は終わりです!」
そこにいた全員が立ち上がり敬礼をした。
将は笑むと
「そのために巧みに甘い言葉で歩み寄る狼を見抜く力も必要だ。だから、このゲームは続ける」
と告げた。
「色々心配もあると思うが今敬礼した全員が仲間だ。だから何かあったら相談し誰一人この先の長い警察人生から転落することなく進んでいくことを祈る!」
全員が顔を見合わせて笑みを浮かべた。
将は笑って
「但しゲームは頑張れ」
と付け加えて笑いを誘った。
ゲームは狼の清水権次が最初に菱谷由衣を狼として仲間売りをしたことで田中太一と残るまで進み、狼の勝利となったのである。全員が『なるほど、仲間と示し合わせて信用させるかぁ』と村人側はがっくりと肩を落としたのである。
石原和則は途中で疑ったが最初のことがあったので迷ったことを言い
「示し合わせもあるんだよな。組織の中でも信頼させるためにこういう方法もあるってことだな」
と呟いていた。
将もそれを見て
「確かに、勉強になるな」
と心で呟き、無事に迎えに来た船でその日の夕方に姫路港へと戻った。
その時、一人の女性が自分たちを見て立ち去るのを見て写真を撮った。出港の時にもいてあの藤原美也子が見ていたのだ。気になっていたのである。
将と省吾が戻ると八重塚圭は手当てを受けて今兵庫県警の保護下で入院していることを桐谷世羅から聞き、同時に藤原美也子は大阪府警に引き渡したが拘置所で首を括って亡くなっているのが見つかった。
遠野秋日は下船時に一枚の名刺を将に渡して
「酒家美咲という女に気を付けろ」
と言い残すとそのまま姿を消し、表向き立て続けに起きた拘置所内の自殺と警察官不祥事によって大々的に大阪府警の人事が動きJNRの人間が同時に更迭された。
大阪府警本部の副本部長もJNRの人間だったのである。それが分かったのは翼が八重塚圭の成り代わっていた八重塚悟の部屋に隠されていたUSBを見つけて一覧を手に入れたからである。
翼はそのことについては
「佐藤正樹は自分のところだと直ぐに調べられると思って彼女のところへ隠したんだろうと思ってな」
と告げた。
流石である。
一か月後、三人は無事に警察学校を卒業し本格的に警察庁刑事局組織犯罪対策部内部組織犯罪対策課へと配属が決まったのである。本格的なJNRとの戦いが始まるのである。
そして、課として始動して初の仕事が名古屋県警での人狼ゲームであった。
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大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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