警狼ゲーム

如月いさみ

文字の大きさ
上 下
1 / 64

第一夜

しおりを挟む
 善良な人間の村に狼が紛れ込み、人の姿に擬態し野獣の爪を隠して毎夜闇に紛れて村人を赤く引き裂いていく。
 ……狼を炙り出して村を守るか、狼が全てを切り裂くか……

 その争いをゲームにしたものを『人狼ゲーム』という。

 6月5日午後11時。
 東京の町に深い闇が降っていた。

 埠頭にある巨大なコンテナとコンテナの間にある通路には月の輝きすら届かず真の闇が広がっていた。
 岸壁に当たる波の音もゴォンゴォンと低く響き足音すら消し去っていた。

 警察の制服を纏った吉永進は周囲を見回し一人の人物を闇の中で視認すると駆け寄って
「まさか、貴方があんなことをしていたとは思いませんでした」
 どうか自首を、と言いかけて正面に立って銃を出した人物に目を見開いた。

 まさか、である。

 その人物は闇の中でじっと驚く吉永進を見つめ
「何故『今』『お前』が気付いてしまったんだ」
 と呟いた。

 もう少し後だったら。
 お前じゃなければ。

 吉永進は顔を歪めると胸に当てられた銃口に息を飲み込み
「せんぱ……まさ……」
 か、と呟きかけた。

 最期の言葉と重なるようにパンっと乾いた音が響き、倒れ落ちた吉永進に男は銃を握らせ更に同じ場所にもう一発引き金を引かせかけ近くで鳴ったバイクの音とコンテナの隙間にスーと当たった光に慌ててその場を立ち去った。

 翌朝、吉永進の遺体が東京江東区にある暁埠頭のコンテナ群の一角から発見された。
 手に銃を持ったまま胸を撃ち抜いた彼は『自殺』と断定された。

 翌月7月8日午前6時。
 千葉県鹿嶋市平井海岸の海岸を犬の散歩をしていた女性が波打ち際に俯せで倒れている警察官の制服を着た男性を発見し通報した。

 男性は近くの交番で勤務する松葉晋と言う巡査で近くの波止場の海底から自転車が見つかり巡回中の事故として処理された。

 更に二カ月後の9月10日。
 一人の囚人が神奈川県横浜市港南区にある横浜刑務所内でのたうちながら事切れた。
 囚人は1年前の3月に二人の警察官と代議士の殺人と殺人未遂で逮捕された元神奈川県警本部次長の勝尾源蔵であった。

 それを看守の一人が見つめ
「お疲れ様です、元次長。貴方はとっくに用なしになってます。辰村警備課長も先に逝っているので安心してください」
 と告げると彼の遺体を扉一つ隔てた向こうにしてゆっくりと踵を返して立ち去った。

 翌日、勝尾源蔵の遺体が独房の中で発見され心臓発作の『病死』として取り扱われた。

 これらの『事件』は全て『自殺もしくは事故』として何事もないようにみえる日常の流れの中へと押し流されて誰の記憶の中からも消え去った。

 しかし一通の警告メールがその事件たちをよみがえらせたのである。
 同時に警察に紛れる狼と警察機構との人狼ゲームの始まりを告げたのである。

『警察に二つの組織あり。6月の暁埠頭。7月の鹿島平井。3月横浜山下での魔の1日を再調査されたし』
 短い一文であった。

『警察に二つの組織』とは警察内部に外部組織の人間が紛れ込んでいるという警告である。国民の生活を守るべき警察の内部に私利私欲のための組織の工作員が紛れ込むなどあってはならない話である。

 俄には信じられない話である。
 だからと言って、一笑に付することもできない内容であった。

 その密告メールを目にした第34代警察庁長官・鬼竜院闘平は厳しい表情を浮かべると即座に受話器を手に取った。
「赤木勇介警視監、鷹司警視に連絡を取ってもらいたい」

 ……直ぐにだ……

 常にない重々しい声に警察庁刑事局長を担う赤木勇介はメガネのブリッジを押し上げて
「わかりました」
 と答えると内線を切って即座に個人の携帯電話に指先を伸ばした。

 鷹司陽は階級こそ警視であるが20年前から離島を基本として全国の駐在所を巡回する特別駐在員でどこにいても怪しまれない唯一の警察官である。

 鬼竜院闘平は警察庁が入っている合同庁舎の17階の執務室から窓の外を見つめ
「どんな組織であっても……それこそ政府であっても警察機構を自由にさせるわけにはいかない。そんなことをすれば人間としての国家が崩壊する」
 罪なき人間を投獄し罪人を隠蔽することが可能になる、と呟き
「この密告が戯言であることを祈りたいが……」
 だが事実だったときは、と拳を強く握りしめた。

 去年の6月に暁埠頭で巡回中の警察官が銃で胸を撃ち抜き自殺した事件があった。
 千葉県鹿嶋市平井海岸では7月に近場の駐在所の警察官の遺体が流れ着き、自転車が近くの波止場の海底から見つかったことから事故として処理された事件があった。

 そして2年前の3月下旬に神奈川県横浜市山下公園内で駐在員が射殺され、その人物の同僚である駐在員も翌朝に横浜海浜交番内で銃撃を受け、同日に同じ区域内で選挙演説をしていた議員が狙撃を受けて死亡するという3件の事件が連続して起きた正に魔の1日と呼ばれる日があった。

 しかし、議員を狙撃した犯人はその場で取り押さえられ、駐在員を二人襲撃した犯人も1年を経て逮捕されて終わった事件である。

 三件全てが警察内部では決着のついているコールドケースではない事件である。

 だがそれを敢えて警告に使ってきたのだ。
 その意味。

「それら全てが未だおわっていないというのか? 何か裏の糸で繋がっているというのか?」
 鬼竜院闘平は厳しい表情で呟き、拳を強く握りしめた。

 外では血のように赤い晩冬の夕闇が蠢動する黒い影を覆い隠すように夜へと静かに誘っていた。

 そして、二カ月後に彼は密偵を行った鷹司陽警視から恐ろしい報告を受けたのである。
「警察内部に確かに二つの組織があり異質組織が拡大している可能性がある」
 
 鷹司陽は警察庁長官の執務室を訪れそう告げて、それぞれの調書と一通の遺書を鬼竜院闘平の前に置いた。
「6月に暁埠頭で自殺をした吉永巡査についてだが、自殺した彼の手に硝煙反応が出ていなかった。本来、自ら銃を撃てば手に硝煙反応が残る。なのに、硝煙反応はなかった。本来なら自殺ではなく自殺に見せかけた他殺を疑うところだが……それが分かっていながら自殺と処理されていた」

 他殺を自殺と隠蔽した可能性を彼は示唆したのである。
 鬼竜院闘平は目を細めて頷いた。

 そして遺書を示すと
「その処理を行った角倉警部を問いただしたところ彼は自らが射殺したことを認めた。彼の娘が9月に心臓の手術を受けている。恐らく……その金のために手を染めたのではないかと俺は思っている」
 と言い、小さく息を吐き出すと
「ただ……角倉警部はそのまま所轄で緊急逮捕になったが……自殺を止めることができなかった」
 と顔を伏せた。

 鬼竜院闘平は遺書とその日付を見て
「恐らく、覚悟をしていたんだろう」
 と小さく呟いた。
 既に先に書かれていたものだったからである。

 鷹司陽は「かも知れないが」と小さく頷き
「更に7月の千葉県鹿嶋市平井海岸に流れ着いた松葉晋巡査に関しても自転車は海底から見つかり、事故と処理されていたが、松葉晋巡査の血中から僅かながら睡眠薬成分が見つかっていた。しかも、自転車が海底から見つかった波止場には自転車のタイヤ跡がなかった。つまり、松葉晋巡査は睡眠薬を飲まされ海に投げ込まれ、自転車を波止場に沈ませたということが考えられる。なのに、巡回中の自転車による転落事故として処理されていた」
 と言い
「自転車のタイヤ痕もないのに自転車は見つかった。その発見に至った自転車の捜査と調書作成は佐藤警部が行っている。それに関しても佐藤警部に問いただして自供させました。いま、所轄で裏取りと再捜査を行っている。最後の魔の一日に関しては辰村孝一と勝尾源蔵の二人が逮捕されたが……二人とも服役中に死亡している。原因は両方ともが心臓発作で同日の看守が同じ人物で問いただそうとしたが行方不明になっている」
 と告げた。
「これらの事件について俺はこの角倉警部の遺書に書かれていることは真実だと思っている。三件の事件には裏の共通項があるからな」

 鬼竜院闘平は三件の調書を見直して
「全て埠頭ということか」
 と告げた。

 鷹司陽は頷いて
「更に言えば辰村孝一と勝尾源蔵が供述していた船舶による密輸を隠蔽できる駐在所ばかりと言うこと」
 と告げた。
「もしかすると密輸によって得られる利益が何かの組織の資金源となっているのかもしれない」

 つまり、それに気付いた駐在員を事故や自殺に見せかけて口封じをして殺していたということである。その上で警察内部にいる組織の人間が隠蔽を測ったということである。

 しかも遺書には
『私以外にも金で動いた警察官がいる。そして、彼らを使って本当の組織の人間を新人警察官として入れ込もうとしている。地獄へ持って行こうと思っていたがそれはならないと。吉永には決して許されないことをしたと思っている』
 ……俺は地獄で苦しみ続けようと思う……
 と書かれていたのである。

 三件の事件は同じ県警内ではない。その浸食はかなり進んでいると考えて良い状態にある
 事態は一刻の猶予も出来ない状態まで来ていたのである。

 しかも『本当の組織の人間を新人警察官として入れ込もうとしている』と書かれているのだ。

 鬼竜院闘平は静かな声で戦線布告するように呟いた。
「警察機構に食いついてきた狼を狩らねばならない」

 大ナタを振るうことにしたのである。


 奇しくも同じ時、警察官採用通知を一人の青年がマンションの一角にある自宅のリビングで受け取り蒼褪めていた。
 東大路将はプルプル震えながら
「マジか……受かってしまった」
 とぼやくと、ガッと膝をついて崩れ落ちながら涙を落した。

 警察官になるには3月中に各県警の採用サイトから採用申し込みを行い4月中旬に筆記の一次試験を受けて、5月中旬頃に面接及び体力などの身体的試験を受け、2か月ほどしてから合否通知を手にすることになる。
 それに合格していれば警察官となることが出来るのである。
 その第一回目採用試験を皮切りに9月に二回目、1月に三回目と一年を通じて採用試験が行われる。

 その最後の三回目の採用試験に合格したのである。

 隣でそれを見ていた姉の茉莉は狂喜乱舞すると
「やぁったー!」
 と将を抱きしめ、少し離れると
「絶対に行きなさいよ」
 わかったわね! とビシッと指をさして告げた。

 将はクゥと呻き声を上げると
「俺はIT企業に行きたかった」
 とさめざめと涙を流した。

 警察官だった父親の後をどうしても継いでほしいと願う母親と姉のごり押し強制で、一度だけ採用試験を受けて落ちたらIT企業に就活して良いという約束をしていたのである。
 本当は、受かりたくなかった。拒否して拒否して、最後に一度だけと言うことで滑り込み申し込みで試験を受けて受かってしまったのだ。受ける以上は手を抜くつもりにならない性格が災いをしてしまったということである。

 項垂れる弟を見下ろして彼女はふふっと笑みを浮かべると
「お父様もこれでご安心なされるわ。将、お父様に恥じ入ることのない警察官になるのよ」
 と壁に備え付けられている棚の上に置かれた位牌に向かって両手を合わせながら告げた。

 順位は2位だった。この時点で将の未来は決定した。駐在員をした後に刑事。本人自身も、警視庁の採用試験を受けるように強要した姉の茉莉も誰もがそう思っていた。

 しかし、4月に警察学校へ行き、6カ月の警察学校での訓練の最中に将は大きく運命を変えることになるのである。

 
 将が警察学校に入学した4月1日、一人の男が第34代警察庁長官の鬼竜院闘平に警察庁が入っている合同庁舎の17階にある執務室に呼び出されていた。
 男はズボンのポケットに手を入れたまま、窓を背にして立っている鬼竜院闘平を見ると肩を竦めて苦い笑みを浮かべた。

「一課で刑事やってた頃に上司だった杉浦さんから浜中警察庁長官が豪快な男に後を継がせたぞっと聞いていたんだが……あの人が言っていた事は本当みてぇだな。とんでもねぇこと考える」

 それに鬼竜院闘平は静かだが重厚な笑みを浮かべ
「密告があり内偵をしたが二件は他殺の疑いがあったが自殺と事故で処理され、もう一件は犯人として警察官が捕まったが……その警察官二人共が服役中に『心臓発作』で死んでいることが分かった。再調査をして二件は隠蔽と判明して裏取りを中心に動いている。服役中の病死の件については看守が行方不明での行方を追って事情を聞かなければならない状態だ」
 そしてその一件の隠蔽をした警部が残した遺書がそれだ。と告げた。

 男は呆れたように苦く笑うと
「なるほど」
 と言い
「まあ、『刑務所で心臓発作』も同じ穴のムジナだろうぜ」
 んなもん、見え見えの口封じだろう、と肩を竦めた。

 鬼竜院闘平は頷き
「その通りだ。つまり警告は事実とみて間違いない。その上で今の警察の自浄能力では追いつかないということが分かったのでな」
 受けてもらえるようで助かった、と告げた。
「桐谷世羅警部」

 桐谷世羅はふっと笑うと
「だが、一つ言っておくが、俺は俺のやり方でする。まあ、十年以上も警察離れてりゃ警察組織のやり方なんて忘れるぜ」
 あんたもそのつもりで杉浦さんを通してこの俺を呼んだんだろ? と告げた。

 鬼竜院闘平は笑みを深め
「そういうことだな」
 と答えた。

 ……闇は闇を知る……

 そう告げて
「俺からのストップは一度だけにする」
 終わる時だけにな、と答えた。

 つまり、ダメだと思ったら即終了するということを告げたのである。桐谷世羅はにやりと笑うと「それは了解した」というと二人の間にある机の上に置かれた警察手帳と手錠を受け取り内ポケットへと入れた。
 そして
「じゃあ、7月13日から15日に第二海堡……あの東京湾の島を使えるように手続きしておいてくれ。それからその期間中だけ多々倉を借りるぜ」
 と告げた。

 鬼竜院闘平は頷くと
「やはり、当時の相棒は相棒のままのようだな」
 と笑み
「その件は了承した。多々倉と海自に連絡を入れておく」
 と答えた。

 桐谷世羅は背を向けると戸口に向かい
「警察内部に入った狼狩り……警狼ゲームを楽しみにしておいてくれ」
 先ずはガキから狩るか、と立ち去った。

 鬼竜院闘平は少し考えながら
「なるほど、警狼ゲームか……言い得て妙だな」
 と呟いた。

 それは一見、警察学校へ通い出したばかりの将に関係あるとは思えない出来事であったが、4月も過ぎ去りGWも立ち去った6月初めの月曜日のホームルームで一枚の紙が配られたのである。

「今、紙を渡されたものは7月13日から15日まで林間合宿に行ってもらう。本来休日だが休日出勤扱いになるので超過勤務手当はつく。安心してもらいたい」

 本来、土日祝は休みである。全寮制なので多くは昇級の為に寮内で勉強をしたり仲良くなった同僚と交流したりして時間を過ごす。中には外泊申請を出して実家へ帰る者もいるが、将は多くの同僚がしているように寮内で勉強をして今後の昇進試験を見据えて過ごしていた。
 交番勤務になっても勉強をして昇級試験を受けて受からなければ警部補や警部になれないのである。

 その為の勉強を疎かにするわけにはいかなかった。

 8時30分からのホームルームの席で将は受け取った紙を目に、隣で同じように紙を受け取っていた天童翼に視線を向け
「天童、お前もか」
 と呼びかけた。
 天童翼は頷いて
「ああ、7月13日の8時30分に久里浜港に集合のようだな」
 と答えると周囲を見回して
「大谷に海野、根津、それに花村、富山、仙石の6人か」
 全員で8人だな、と付け加えた。

 将は頷いて
「実地研修かもしれないな」
 と呟いて、教官が前に立って
「授業を始める」
 と告げた瞬間に紙を机の中に入れて号令と共に立ちあがり挨拶をすると授業にのめり込んだ。

 警察学校は大学とは違って警察官として法律の勉強をしたり、体力づくりや銃器の取り扱いなどもする。より実践的な学習をして交番勤務へと入っていくのである。

 つまり、学生と警察官の橋渡し部分が警察学校であった。なので給料は出るし警察官として実践授業もある。将は今回の林間合宿もそういうモノだと高を括っていたのである。
 それが全く違うものだと気付いたのは7月13日に小型船に乗るために久里浜港へ着いた時であった。

 将は天童翼と共に8時頃に到着し待合室に姿を見せた。遅刻は厳禁である。
 そこに二人の制服を着た警察官が立っており既に他の6人も到着して集まっていた。将は二人を見ると彼らが林間合宿の教官なのだとこの時は何となく考えた。
 その内の少し背の低い目つきの悪い警察官が将と天童翼が到着すると
「よし、全員揃ったな」
 と言い
「俺は今回のゲームのストーリーテイラーをする桐谷世羅だ」
 と告げた。

 将は目を見開くと
「ゲーム??」
 と小さく呟いた。

 驚きは将だけではなく天童翼を始め集まっている全員が同じでざわめきが広がった。警察学校の林間合宿と聞くと実地訓練などを誰もが想定していたのに……ゲーム? 全く意味が分からなかった。

 将は首を傾げながら目の前に立つ二人の教官を見つめ、その内心を探るように表情を伺った。

 桐谷世羅はざわめく全員をスーと見まわして笑みを浮かべると
「先ず俺から言うことは二つだけだ」
 とざわめきを鎮めるように告げ
「一つは参加しなければ警察学校を退学してもらう。二つはゲームの処刑者の中で一定以下の人間も警察学校を退学してもらう可能性がある」
 と、さも極々普通といった具合に告げた。

 警察学校を退学……というのは言い換えれば『警察官をクビ』ということだ。将は目を見開き、思わず両手を組み合わせて泣きそうになった。
「こんなところにマジ……チャンスが隠れていたなんて」
 俺の人生捨てたもんじゃない! と心で叫んだ。

 ゲームで敗れてクビになったのなら姉の茉莉も母親も諦めてくれるだろう。己は精一杯やった! でもダメだった! 父の後を継いで警察官になれなかったのは申し訳ないが己の人生は己のモノだ。きっとあの世の父親も許してくれるだろう。

 将はそんなことを考えながら
「やります!」
 とビシッと敬礼した。

 あまりの厳しい内容にどよめく他の7人の面々も慌てて敬礼すると
「「「「「「「俺も勿論!」」」」」」」
 と応えた。

 将と共にいた天童翼は彼の肩を叩くと
「お前、すげぇやる気あるな」
 と笑った。

 全員が参加の意思を見せると桐谷世羅は隣に立っているもう一人の教官役をする多々倉聖を見た。
「さて、始めるか」

 多々倉聖は真面目な表情で頷いた。

 将は二人の教官をチラリと見て
「何か、割れ鍋に綴じ蓋ではないけど……なんか凸凹がちょうど合致した感じのコンビに見える」
 と心で呟き、停泊していた小型船へとその二人に誘われて乗り込んだ。

 林間合宿の場所は久里浜港から富津へ向かってその手前にある人工島……第二海堡であった。
 
 東京湾の孤島。
 そこで行われるゲームに将は息を飲み込んでいた。

 青い東京湾に浮かぶ第二海堡は人工島で人は住んでいない。ただ、今回のために10個のテントが円形に急設されていた。
 船が到着すると桐谷世羅と多々倉聖が最初に降り立ち、続いて天童翼、大谷大地、根津省吾、花村満也、海野邦男、富山春陽、仙石真美也、そして最後に将が降り立った。

 この10人で二泊するということである。

 桐谷世羅は設置されたテントの前に来ると一人一人番号札を渡し
「この番号のテントで二泊してもらう。食事は10番のテントに一日の弁当を朝一番に用意しているのでそれぞれ持って自身のテントの中に持ち入って後は自由に食してくれ。飲み物は各人のテントの冷蔵庫にあるので自由に飲んでもらいたい。足りなくなったときは10番のテントから持って行ってもらっていい」
 と説明した。

 将は頷きながら
「それで、ゲームというのは?」
 と聞いた。

 桐谷世羅はチラリと多々倉聖を見た。多々倉聖は頷いて9番のテントから箱を持って戻ってきた。
 桐谷世羅は彼の持ってきた箱から携帯を一つ出すと
「1番札」
 と呼びかけた。

 全員が渡された札を見た。
 桐谷世羅は「早くしろ!」と告げた。

 それに富山春陽が手をあげて前に走った。
「一番です!」
 と、敬礼して告げた。

 桐谷世羅はその携帯を渡した。
「誰にも見せるなよ。見せたら即失格だ」

 富山春陽は慌てて敬礼すると内ポケットに入れて立ち去った。
 将は自身の『2』と書かれた札を見て
「次だ!」
 と心で叫び、呼ばれた瞬間に走って敬礼した。
「2番!」

 同じように携帯を渡され、その後も全員一つずつ配布された。配布が終わると多々倉聖が唇を開いた。
「これから君たちにしてもらうのは人狼ゲームというゲームだ。ゲームを知らないものはいるだろうか?」

 将は少し前に流行った騙し騙されの知能ゲームを思い出した。ストーリーテイラー役の人物が狼と村人など配役を決めてある村の中に人に化けた狼が入り込み夜に一人ずつ殺していくが、村人は夜の前に狼が誰かを投票で決めて一人ずつ刑に処していく。
 最終的に狼が全員いなくなるか、村人と狼が同じ人数になるかで勝ち負けが決まるゲームである。

 将は知っていたので手をあげることはしなかった。他の誰も手をあげることはなかった。

 10秒ほどして桐谷世羅が「よし」というと
「いま渡した携帯は村人のものは誰にも通じない。狼同士だけ通話ができるようにしている。それと狼の携帯は同時に俺たちの携帯にも通じるので夜になったら誰をアウトにするか言ってくれ。今からテントに入って確認してもらいたい」
 と言い時計を見ると
「9時30分だから10時になったらテントを出て自由に行動してもらう。もちろん、このテントの囲む中だけでな。携帯は常に持ち歩いてもらう。手放した瞬間に退学だ。11時になったら俺がテントの中央に全員を集めるのでそこで紙を配って狼と思う人間を書いてもらう」
 と言い
「それが一日目だ」
 と告げた。
「狼は二人だ」

 ……では、人狼ゲームならぬ警狼ゲームを開始する……
 重々しい声が響いた。

 将は2番のテントに入り携帯の電源ボタンを押した。画面は立ち上がったがそれだけで電話帳には何も登録されていなかった。

『村人』ということだ。

 だが、こんなことをして何の意味があるのか分からなかった。確かにこれから交番勤務やそれこそ転属になって他の部署に行った時にそういう嘘を見抜くことをしなければならない事があるだろう。
 警察官の相手は犯罪に関わった人々なのだ。嘘と虚構で固められた人と対峙することになる。
「でもゲームと現実は違うだろ。天下の警察が……ゲームで訓練って」
 思わずそうぼやいた。

 将が溜息を零しているとき9番のテントの中では桐谷世羅と多々倉聖はそれぞれのテントの中に設置したカメラの映像を前に顔を見合わせていた。
多々倉聖は息を吐き出し
「見抜く人間いませんですかね?」
 と告げた。
 桐谷世羅はハハッと乾いた笑いを零して
「もしあっちの人間じゃない奴が見抜いたらこっちに引き込む。あっちの人間なら口を封じるだけだろ?」
 と言い
「だが気付かねぇよ」
 と答えた。
「せいぜい、現実とゲームは違うってあざ笑う程度だろ。だが、ゲームでも奴らの子犬はこのゲームに勝ち残らないとダメだと思うだろう」

 多々倉聖は息を吐き出して
「確かに生命線ですからね、しかし……そうそう上手くいくか」
 と呟いた。

 将は10時になるとテントから出て身体を伸ばした。村人だからバレたらどうしようとビクビクする必要もないし、ゲームに負けてキックされたら
「IT企業に就活だ」
 と軽い気持ちで周囲を見回した。

 全員がテントから出て同じように身体を軽く動かした。だが、どうしたらいいのか。人狼ゲームを知っていても現実こんな状況でのめり込むことは難しい。
 だが、将は『落ちたら進みたかった道』という気軽さから息を一つ吐き出すと全員がチラチラと警戒するように見合っている中で天童翼を見ると
「天童、お前は村人だった?」
 と聞いた。
 全員がぎょっと見た。だが、人狼ゲームは話をして相手の様子や言葉などから狼であるかどうかを見抜く必要があるのだ。話をしなければ始まらないのだ。

 天童翼は目を瞬かせて「あ、ああ」と応え笑むと
「村人……だぜ。お前もか」
 と告げた。

 将は目を僅かに細めつつ頷いて
「そうそう、だから気が楽でさ」
 と笑った。

 天童翼は引き攣った笑いを零した。
「確かにな」

 それに大谷大地が近寄り
「へー、人狼ってさ……村人アピールする奴が怪しいけどな」
 と業と告げた。
 ワラワラと海野邦男や根津省吾も近寄り
「そうだな」
「でも、俺は村人だよ」
 とそれぞれ告げた。

 天童翼は彼らを見ると
「確かに根津さんは演技できなさそうだから狼だったら一発に分かるよな」
 と笑った。

 それに大谷大地が目を見開くと
「え? いやいや、天童。俺もだろ?」
 と自分に指をさした。

 海野邦男が指さしながら
「その慌てぶり、大谷怪しい」
 と笑った。
 
 将は笑いながら彼らの表情や動作をそれとなく見た。将の周囲には4人。少し離れたテントの前に花村満也と戸山春陽と仙石真美也の3人が集まって話をしている。
 その様子を9番テントの前で教官の桐谷世羅と多々倉聖が見ていた。将はわぁわぁと話し始めた天童翼や海野邦男たちからそっと離れて花村満也たちの集うところへと足を向けた。
 三人は顔を突き合わせて話をしていたが、向こう側とは会話の内容が違っていたのである。

 花村満也は腕を組むと
「この人狼ゲームって嘘を見抜く訓練かもしれないけどな」
 でも、現実とは違うだろ。とぼやいた。

 それに将は輪の中に入ると
「俺、狼二人わかった」
 と告げた。

 三人は驚いて将を見た。
 
 花村満也の隣にいた富山春陽が
「ってことは俺たちが村人ってことは信じるんだな?」
 と聞き返した。
「向こうに狼が二人いるってことだろ?」

 将は頷いて
「天童と大谷」
 と告げた。
「俺は村人だからな」

 三人はそれにジーと将を見た。『天童と大谷』と言いながら将が狼で一人でも消し去ろうとしているのではないかと疑ったのである。

 将は三人を見て
「もし俺を狼だと疑うんだったら最初の投票で俺は天童を書くからお前たちも天童を書いて奴が狼なら信じてくれたらいい、違ったら次の投票で俺の名前を書いて良いぜ」
 と告げた。

 花村満也は唇に手を当てると考えた。確かに二人しかいない狼が相棒を売る訳がない。まして、最初の投票というと村人が全員生きている状態でのものだ。そこまでのリスクを背負ってまで仲間を売るタイミングではない。

 つまり、信用していいかもしれないということだ。
 
 将は三人を見て
「どうする? 花村、仙石、富山、そして、俺だったら4人で半数だろ? 向こうがばらけたら狼を一人消せる。俺たちが助かる可能性は高い」
 と告げた。

 仙石真美也は腕を組んで
「確かに、それで違ったとしてもその時は東大路に投票して狼を一人完全に葬れる」
 と告げた。
 
 将はその瞬間に3人の心が決まったことを感じた。3人が村人であることは天童翼と大谷大地が狼だと判断した瞬間に確信していたのである。
 ただ一つ気にかかったことは天童翼が何故同じ狼仲間の大谷大地より根津省吾をフォローしたのかである。そのお陰で大谷大地と天童翼が繋がっており狼だと理解したのである。
 大谷大地の表情と言葉から『同じ狼仲間なのに何故俺じゃなくて根津をフォローする?』という気持ちが読み取れたからである。

 村人ならあんな驚き方はしない。狼だからこその態度だったのだ。

 将は心の中で「よし」と攻略の道筋が見えた瞬間にハッとした。自分の望みは当たり障りなくこのゲームでダメだしされて警察をさることだったのだ。なのに、なのに。

「しまった!!」

 そう思ったが、全ては後の祭りであった。将は己の迂闊さに心で涙をこぼした。だが、わかったのだ。将は花村満也と富山春陽と仙石真美也の三人と話をしながらソッと横目で天童翼と根津省吾を見た。
 何故、天童翼は最初に根津省吾をフォローしたのか? それが気になったのだ。通常は大谷大地が思うように『狼同士』フォローをする。

 それが通例である。ましてクビが掛かっているのだ。
 
 将の中には幾つかのシミュレーションフローが描かれていたのである。それは元々幼い頃からプログラムを組むのが好きで幾つものプログラムフローチャートを作ってきたことによる癖であった。
 入力と出力を決め『どうすればそうできるのか』という道筋の整理、手順書のようなものである。

 今回の場合は天童翼と大谷大地と根津省吾の三人が入力で出力は天童翼が本来優先すべき大谷大地より根津省吾を優先させたということ。

 ブラックボックスは天童翼の心の動きである。

「俺のように警察を辞めたい人間なら早く負けるために相手を裏切って他を助けるってあるあるだけど、だったら最初に大谷は近付いてこないだろ。恐らく大谷と天童の間では狼組としてのやり取りは成立していた。でもそれよりも根津を優先させた。つまり、天童は根津を生き残らせたかった」

……根津を生き残らせる必要があった……

 将はそう考えて
「それって俺と正反対の理論だよな」
 と心で呟き、不意に名前を呼ばれて顔を向けた。
「え?」

 仙石真美也が笑いながら
「いや、俺たちが今回選ばれた理由ってなんだろうなって話」
 と告げた。
 富山春陽は頷き
「そうそう、もしかしたら警察学校の中でも交流の少ない人間をセレクトしたのかもしれないって話をしていたんだ。ここにいる全員があまり学校でも寮でも言葉を交わすことがなかったなってさ」
 と告げた。

 将は目を見開くと
「あ、確かに」
 と呟いた。

 将は元々が姉と母が病死した父親の後を継いで警察官になることを望んだために無理やりこの道に入らされたのだ。考えれば毎日『辞めたい』という気持ちがあふれ出ていた。だから、交流はすれども限定的だったかもしれない。
 あちらこちらの人間に話しかけたりはしていなかったのだ。

「でも、天童は良く話しかけてきてくれていたから話していた気がするけど」

 花村満也は目を瞬かせて
「そうか……」
 と言い
「でも仲の良い奴でも狼だと分かれば対処するんだな」
 と告げた。

 将は罰が悪そうに
「あ、いや……まあ、わかったからな」
 と答えた。

 富山春陽がそれに
「だが、実際問題として警察内部でそういう事態が起きた時はゲームなんかより仲間意識や迷いが発生するから、ここで割り切れるのは大切だと思う」
 と言い、9番テントの前に立つ桐谷世羅と多々倉聖を見て
「もしかしたら、そういうのも視られているのかもしれないな。本当に警察学校を退学させられるとかはただの脅しかもしれないし」
 と告げた。

 仙石真美也も富山春陽も将自身もハッとして二人の教官を見た。確かにゲームで負けたら退学って言うのは行き過ぎだと誰もが考えたのである。が、完全否定できないのは人間の悲しい性である。

 ただ、将の中ではそれ以上に天童翼と根津省吾のことが気になっていた。今、仙石真美也に指摘されたように交流という点では天童翼と自分は話をする方だった。
 天童翼は何かにつけて将に声を掛けてくれていたのだ。考えれば自分と天童はそれなりに交流がある。
 しかし、天童翼と根津省吾の交流はほとんど感じられなかった。天童翼と学校や寮でも良く一緒にいたが今言われて考えれば天童翼が根津省吾といるところを見たことが無い。

「ということは、二人には俺が知っている以上の裏の関係があるってことなのか?」
 
 将は時計を見ると
「11時5分前か」
 と言い
「それも後5分でわかるかもしれない」
 と心で呟いた。

 自分は天童翼に入れる。恐らく目の前にいる3人も入れるに違いない。天童翼はいま集まるグループ以外の人間であり、しかも、将が嘘をつく狼だったとしても彼らはその次で殺せると分かっているからである。

 最初はきっと自分の指示に従うだろう。
 彼らが甘受するラインを考えて申し入れたからである。

 反対に天童翼や大谷大地、海野邦男に根津省吾がいるところで先と同じことを言えば失敗にしたに違いない。天童翼と大谷大地は反対しただろうし入れない。根津省吾は先の流れから考えれば入れないだろう。疑いながら入れるとすれば海野邦男くらいだ。
 将はそこまで考えて11時と共に響いた桐谷世羅の声に足を向けた。

 桐谷世羅は全員を輪にして紙とペンを渡すと
「よし全員、背を向けて書け。俺が集めて回る」
 と告げた。

 将は己の思ったままに『天童翼』と書いた。他の花村満也も富山春陽も仙石真美也も実は同じように『天童翼』と書いたのである。それで第一回目は全員助かると判断したからである。
 桐谷世羅は1番から順に一人ずつ集めて回り、将の紙を手にした瞬間に僅かに目を細めて口元を歪めた。もちろん、何かを言うことはなかった。

8人全員の紙を回収して桐谷世羅は
「村人が選んだ狼は『天童翼』だ」
 と告げた。

 将は瞬間に根津省吾の様子を見た。根津省吾は腰を浮かして唇を開きかけた。が、それを堪えると座り直した。
 天童翼は立ち上がると携帯を出して桐谷世羅に渡した。
 桐谷世羅は携帯を受け取り
「天童翼は……狼だ」
 と言い
「他は10番テントから昼食を持って自身のテントに戻れ。次は14時から始めて15時に投票する。二日目だ」
 と告げた。

 将は息を吐き出して立ち上がり天童翼以外の面々と10番テントへと向かい弁当を持って自身のテントへと入った。

 多々倉聖は一人残った天童翼を見ると
「ま、最初に処刑されたからと言って退学になる訳じゃない」
と耳元で小さな声で言い、驚いて見た彼に
「天童、君も10番テントからお弁当を持って自身のテントに戻り14時になったら9番テントの前に来るように」
 と告げた。

 天童翼は敬礼すると10番テントに入り弁当を手にすると自身のテントに戻った。
 
 将は弁当を食べながら
「天童、大丈夫かな」
 と呟いた。
 自身の欠点としてゲームにしても試験にしても攻略に妥協がないところだと今回はよく理解した。
「でもなー」
 と呟いた瞬間にテントの入口が開き桐谷世羅が入ってきた。

「東大路、お前が今回ドボンだ」
 にやりと笑って告げた。

 将はハッとして
「狼にやられた村人」
 と呟き、パァと笑みを浮かべ
「ってことは、俺……退学ですよね」
 ハワワワと満面の笑みを浮かべて告げた。感情が抑えられなかったのだ。
 ゲームで凡ミスをした訳もなくただ狼組から目を付けられてやられた村人だ。その上で下からNo2ってことは自身に責任なく退学なのだ。これ以上はないベスト退学である。

「よし!」

 ……。
 ……。
 桐谷世羅はテントの中に入ってガッツポーズをする将を見つめ暫く思案するように凝視した。
「……東大路、お前、警察を辞めたいのか?」
 将はギクッと視線を逸らせると
「その、まあ……姉と母には言えませんが」
 と返した。

 瞬間に桐谷世羅がこれ以上はないというくらい意味深な笑みを浮かべて
「お前は退学じゃねぇよ」
 誰も絶対とはいってねぇ可能性と言っただけだ、と言い
「だが、お前も天童翼と同様に飯食って14時になったら9番テントの前に来い……長引くかと思ったが次で終わりだからな。お前の仕掛けでな」
 と立ち去った。

 将は目を見開くと
「へ?」
 と声を零して呆然と桐谷世羅を見送った。

 将は落胆と緊張からの解放からの安堵感との狭間で
「……今の俺自身の気持ちがわからない」
 と呆然と呟くだけであった。

 同じとき、9番テントでは桐谷世羅と多々倉聖が共に食事をしていた。桐谷世羅は多々倉聖に
「次回はお前の代わりに東大路を連れて行く」
 と告げた。

 多々倉聖は笑みを浮かべると
「了解した」
 と答えた。
「しかし、想定以上に早く終わりそうだな。これじゃあ、密告の一人だけしか割り出せそうにないな」

 桐谷世羅は多々倉聖を見ると
「まあ、元々そいつ以外にいるかどうか分からなかったからな……ゼロの可能性もある」
 と言い
「だが、お前は相変わらず鈍いな」
 と口の端を上げて
「もう一人割り出せる」
 と告げた。

 多々倉聖はそれに目を見開き
「え?」
 と桐谷世羅を見た。

 桐谷世羅はそれ以上を言うことなく昼食を終えると先ほど8人に書かせた紙を見つめた。
 天童翼は4人。根津省吾に1人。将に3人が票をいれていたのだ。

 14時になり将はテントを出ると桐谷世羅の指示通りに9番テントの前に集った。それに他の面々は驚いて将を見た。狼が目を付けたのが将だと理解したのである。
 一番驚いていたのは海野邦男であった。彼は天童翼たちに言われて将に入れたからである。
 だが、天童翼は狼で将は村人であった。つまり、自分以外の大谷大地と根津省吾のどちらかが狼の可能性があるということだ。
 
 海野邦男は花村満也と富山春陽と仙石真美也が集まっているのを見て彼らの方へと向かった。将はその様子を見て「やっぱり海野は普通だったんだ」と心で呟いた。直ぐに視線を戻した将に桐谷世羅は2番のテントを指さすと
「東大路はお前のテントの前に立ってろ。口は開くな」
 と告げた。

 将は敬礼すると走って自分のテントの前に立った。桐谷世羅は天童翼にその対極となる7番テントの前に立たせた。太陽は南天を少し過ぎてゆっくりと西に傾き始めていた。
 将は自分が抜けて海野邦男が混じりそれに釣られるように残りの大谷大地と根津省吾が加わって大きな輪になって話をしている面々を一瞥し、直ぐに天童翼の方をそれとなく観察した。

 対極にいるので見やすいのだ。

 将は彼の視線の先をゆっくりと追いかけながら
「人が集まり過ぎてわからない」
 と目を細めた。

 全員が輪になって団子状だからである。

 将は小さく息を吐き出しかけて僅かに動いた天童翼の指先を見て目を細めた。軽く指先で太ももを叩いているだけだがそうじゃない。
 規則正しい動きで叩いているのだ。
「モールス信号か? それくらいしか思い浮かばない」
 将はそのトントントンと言う指の動きを見て目を見開いた。

『処刑順で退学にならない』
 そんなメッセージを誰かに送っているのだ。

将は狼組の大谷大地と問題の根津省吾を見た。誰にそんな情報を漏洩しているのかが酷く気になったのである。将は息を潜めて視線を動かし目を細めた。
 根津省吾がすっと天童翼の方を見ていたのだ。反対に大谷大地は背を向けて皆と話をしていたのである。
 背を向けている相手にそんな指先のモールス信号を送ることはない。とすれば間違いなく根津省吾に送ったことになる。

 二人は特別な関係なのだと確信を持った。いや、もしかしたらもっと他の人間の可能性もあるが、視線の方向からそう感じたのである。

 将は直立不動で見つめながら
「マジかよ」
 と心で呟いていた。

 ただ天童翼と根津省吾の関係を聞かれてもきっと言えるのは『特別仲が良い関係にある』ということだけだ。
「考えたら、本当にそれだけなんだよな」

 ぼんやりと考えていた将に多々倉聖が近寄ると
「軽く足を広げて体制を長く保つ姿勢で構わないから」
 と苦笑しながら告げた。

 将は敬礼をすると
「はい!」
 と答えて、少し足を開いて姿勢を崩した。そして、立ち去ろうとした多々倉聖に
「このゲームの参加者は警察学校で交流の少ない人間をただ選んだだけですか?」
 と聞いた。

 多々倉聖は冷静に笑みを深め
「それは今この時に言うべきことじゃない」
 と答えて立ち去った。

 将はそれに息を飲み込むと恐らく自分たちが考える以上に深い意味があることに気付いたのである。それが何なのか分からない。
 わからないが『ただの林間合宿ではない』ということだけは理解したのである。

 太陽はゆっくりと西へと角度を少しだけ低くした。
 15時になると11時の時と同じように桐谷世羅が中央に生き残った6人を集めて輪にすると背中を向けさせて座らせ、紙とペンを配った。

「よし、今から狼だと思う人間をかけ」
 そう告げた。

 その間も将と天童翼は立ったままであった。そして、紙を桐谷世羅が集めて唇を開いた。
「処刑対象は大谷大地だ。大谷大地5票。根津省吾1票」

 大谷大地は大きく息を吐き出して立ち上がると携帯を出して
「あっさりゲームエンドだ」
 と苦く笑った。
 それに誰もが息を吐き出した。

 が、その時。
 仙石真美也が立ち上がり
「その、東大路や天童、大谷は本当に退学になるのでしょうか?」
 と聞いた。
「こう言っては何ですが人狼ゲームは確かに洞察力や人の心理を見抜くことに優れていないと勝利は難しいゲームですが負けたら即退学と言うのは安易だと思います」

 富山春陽も立ち上がって
「俺もそう思います。現実問題として今回の天童と大谷を最初に狼だと見抜いたのは東大路でした」
 と敬礼した。

 大谷大地は肩を竦めて
「そこは天童の言う通りだったんだ」
 とぼやいた。
「いや、俺……天童が東大路を推したけど、入れなくってさぁ」
 そう言って天童翼の方を見ると両手を合わせて
「悪かった」
 と告げた。

 根津省吾はそれに苦笑して
「でも別に処刑された順じゃないから大丈夫だよ。ゲームで負けたら退学っておかしいからな」
 と告げた。

 花村満也は目を見開くと安堵の息を吐き出して
「なんだ~、あー、ビビった」
 と答えた。
 海野邦男も頷いて
「ああ、本当に良かった」
 と安堵の息を吐き出した。

 将は視線を伏せて口を噤んでいた。

 それに桐谷世羅は将を見て
「おい、東大路。何かあれば言え」
 と告げた。
「言わなかったらお前は退学だ」

 全員が将を見た。

 将は息を吐き出すと
「俺は退学で良いですけど」
 と言い
「ただ、このゲームで情報漏洩した人間がいる」
 と告げた。

 全員が目を見開いて互いに顔を見合わせた。ただ一人だけじっと自分を見ているのに気づいていた。天童翼である。頭がいいのだ。自分を生贄に選んだのが天童翼だということは将にはわかっていた。

 その時、桐谷世羅が手を叩いて視線を自身に戻させると
「天童、お前。根津にモールス信号送っていただろ? 指先の動きを見ればわかる。いや、あの状況で人に分からないように送れるのはハンドサインかモールス信号くらいだからな。そして受け取り側が見なければそれらは意味がない。つまり、二人は常に視線を交わし合う関係だったということだ」
 と告げた。
「不正をした二人と東大路以外は10番テントで弁当を手に自身のテントでゆっくりしろ。明日は余った時間で友好を深めてもらう」

 全員が顔を見合わせたが多々倉聖が
「直ぐに動く!」
 というとバッと立ち上がり全員が弁当を手に自分のテントへと戻った。

 将は天童翼と根津省吾と共に桐谷世羅と多々倉聖の元へと集った。桐谷世羅と多々倉聖は顔を見合わせて頷くと3人を連れて9番テントの中へと入った。

 そして、桐谷世羅は輪になって座ると
「天童と根津はもう気付いたな」
 と告げた。
「いや、天童は気付いているか」

 天童翼は目を細めて
「これは俺たちを炙り出すためのゲームだったんですね」
 と告げた。

 桐谷世羅は笑むと
「そうだ」
 と答えた。
「もっともこっちが分かっていたのは根津だけだったがな」

 それに根津省吾も天童翼も桐谷世羅を見た。桐谷世羅は息を吐き出すと
「天童、お前は採用試験の順位を覚えているか?」
 と聞いた。

 天童翼は頷くと
「確か1位だったと」
 と告げた。
 将は目を見開くと
「お」
 と呟いた。

 つまり、天童翼の次が自分だったのだ。
 自分の順位は2位だったからである。

 桐谷世羅は笑むと
「根津、お前は試験落ちしていたんだ」
 と告げた。

 根津省吾は息を飲み込んで俯いた。

 多々倉聖がそれに
「だが、警務部人事課の人間が君を合格に切り替えた。結果を知っていた人事課内の人間が不審に思い密告してきた。そして我々は君に目を付けた。
 と告げた。
「ただ、もしかしたら君以外にも紛れ込んでいる人間がいるかもしれないと今回のゲームに思しき人間を選んで呼び寄せたということだ」

 ……根津、今回選ばれた人間は我々が君を観察しに行って君が視線でよく見ていた人物と君の近くの席に座っている。若しくは、寮で君の近くの部屋の人間をチョイスした……

 将は固唾を飲み込んで周囲を見回した。意味が全く分からなかったのだ。

 桐谷世羅は将を見て
「天童、お前は上手く紛れ込んでいた。しかも、東大路に近付くことで根津との関係を隠していた。根津の視線からお前と東大路を疑っていた。だが、最初の遣り取りでお前を俺はリストに入れ東大路がどうかを睨んだが、東大路がお前の名前を最初に書いた時点で疑いが緩んだ。そして、東大路の言葉でこいつは違うと理解した」
 と苦く笑った。

 それは自分が言外に告げた『警察辞めたい』だろうと将は理解した。これで三人仲良くじゃないが退学だから望みは叶ったのだ。そう考えて笑みを浮かべた。

 桐谷世羅は天童翼と根津省吾に
「警察に残るつもりならお前たちの背後を全て吐いてもらう。できなければ退学だ」
 と告げた。

 ……もっとも退学だけでは終わらないがな……
「それはわかっているな?」

 天童翼は視線を伏せると
「本当のゲームエンドだ」
 と呟いて、将を見た。
「俺は東大路、お前を組織にいれようと思っていた。別に教官たちの目を巻こうと思っていたわけじゃない。お前と話していて気付いた。お前は怖い奴だ。だからこそ味方に引き入れたらこれ以上はない仲間になると思っていた」

 将は目を見開くと
「は? 俺? 俺にはそんな力はないよ」
 と言い
「お前と根津の関係が変だと思ったのだって教官たちが言っていた天童……お前の第一声だったからな」
 お前の行動を俺のせいにするなよ! とビシッと告げた。
「そのお陰で大谷が狼だってことにも気づいたけど」

 ……二人が二人とも互いを絶対に退学にならせたくなかったのが滲み出ていたんだ。ゲーム以前にな……

 根津省吾は突然泣き出すと
「もう終わりだ! 俺も翼も殺される!! お願いします!! 翼だけでも助けてください!!」
 と叫んだ。
 天童翼は慌てて
「省吾! お前!」
 と止めるように
「それ以上は喋るなって!」
 と告げた。

 根津省吾は首を振ると
「だって! いつも俺ばっかりがヘマやって俺が試験に落ちてなかったらこんなことにならなかったのに……翼は何時も俺のしりぬぐいで……でももう駄目だ。警察をクビになったら絶対に許されない。殺される……俊也だって……警察を辞めて……新しい仕事だって言ったけど死んだじゃん。事故じゃねぇよ……殺されたんだ。俺たち唯の駒なんだ! 殺されるしかない!」
 と叫んだ。

 天童翼はグッと口を噤むと視線を逸らせた。

 将は桐谷世羅を見ると
「俺は事情が全く分からないですけど、天童と根津が互いを守ろうとしているのは分かる。それに多分……そのこのままだと天童と根津が殺される可能性があるのも冗談じゃないと分かる。甘いと思うし人の心は分からないけど二人を見殺しにせず二人を守るのも警察の仕事だと思います」
 と告げた。
「犯罪を未然に防ぐ。被害者を守る」

 ……死んだ後で解決しても死者は生き返らない……
「事件を未遂に防ぐことこそ警察官の役目だと俺は……大切な人に教わりました」

 天童翼も根津省吾も将を見た。

 桐谷世羅は息を吐き出すと
「俺も且つてお前達の組織と似た組織にいた。お前たちの組織の背後はまだ見えないから全く同じとは言えないが、やり方は同じだった。警察や日本の国家、また世論を左右する報道機関の中枢に狼を忍び込ませて組織に不利益なものを消し去ってそれを隠蔽し、利益になることはやりやすく手配させる。そうやって権力や財力を手に大きくなっていこうとする組織にな」
 と言い
「だがな、利益は全て上の奴等だけのもので駒はしょせん駒だ。いらなくなれば利用されて殺される。上の奴らは己たちの理想の実現や己たちの利益のためだけに駒に最初だけ甘い言葉は吐いて誘き寄せ利用するだけして用なしになったら始末して終わりだ。駒の名前すら知らねぇ。そういうもんだ」
 と告げた。
「天童、お前は頭も良い。わかっていたんだろ?」

 天童翼は強く桐谷世羅を見ると
「俺は、省吾とそいつらの上に立つつもりだった」
 と告げた。
 桐谷世羅は冷静に
「立てねぇよ。頭だけじゃ立てねぇんだ。どんなに頭が切れても駒は駒以上にはなれねぇんだ。それこそお前が根津を切り捨てて殺せるくらいにならねぇ限りはな」
 と答えた。
「お前にはできない。それが出来るような人でなしにもなってもらいたくはないがな」

 ……お前は結局、根っこのところはマトモだってことだ……

 将は両手を握りしめてじっと見つめた。
 天童翼は暫く俯き顔を上げると
「省吾を……守れますか?」
 と告げた。
「わかってた。組織にいても何れは殺される。そんなことはわかっていた。一人で省吾を守りきるなんてこともできないとわかってた。だけど! 引き返す道がなかった!! 勉強もさせてもらえて就職もさせてもらえて……凄く良いところだと誘われて入ったけど……違った。良かったのは最初だけだった……利也が先に気が付いて出来ないことは出来ないと断ったら……事故に見せかけられて殺さて……逃げようがなかった……」

 組織からの足抜けは死を意味する。そういうモノなのだ。

 天童翼は桐谷世羅と多々倉聖を見つめ
「……警察に残って……省吾を守ることが出来るのなら俺は……組織を裏切ります」

 ……俺が守りたいのは省吾だけだから……

 多々倉聖が強い口調で
「必ず」
 と答えた。

 桐谷世羅は少々
「あーあ、相変わらず即答しちまったよ、こいつ」
 と言う感じの視線を向けたものの仕方ないという笑みで
「その代わり、こちらの要求も呑んでもらう。お前が知っている組織の全てを話してもらう」
 タダで何て都合のいいことは出来ないのはわかっているな? と告げた。

 天童翼も根津省吾も静かに頷いた。
 そして天童翼は静かに笑むと
「最初の任務の前にこの状態になったのは……幸運だったかもしれない」
 と呟いた。

 桐谷世羅は笑むと
「よし。天童、根津、東大路、お前たちを俺の部下にする。人狼ゲームで言うところのお前たちは狩人……いや騎士団だ」
 と告げた。
「ただ狩人も騎士団も守るだけだがお前たちは狼を逮捕する仕事も負うことになる」

 天童翼と根津省吾は「「はい!」」と答えた。

 将は「ん? んん?」と考えて
「ってことは」
 と呟いた。

 桐谷世羅はビシッと指さし
「お前も警察に居残りだ」
 と告げた。

 将はガックシと肩を落とした。

 天童翼は笑って
「東大路、お前は警察に向いてる。俺を追い落としたくらいだからな」
 と告げた。

 将は困ったように笑いながら
「向いてるとは思わないけど……精一杯頑張ってみるよ。お前たちが心配になったからな」
 と答えた。

 翌日、第二海堡を昼まで見て回り船に乗って久里浜港へと戻ると天童翼と根津省吾以外は全員が真実を知らないまま警察学校へと戻り、将もまたいつもと同じ勉強と訓練の日々を開始することになった。

 天童翼と根津省吾については二人が知っている組織の情報の聞き取りと警察学校で学ぶはずだった学科学習が個別で行われた。
 ただ、組織でも下っ端だった二人が知っている情報はそれほど多くはなかった。しかし、その組織が海外の犯罪組織と結びつき、警察庁長官を始め警察庁の上層部が危惧していた通りに組織の犯罪の隠蔽などをさせるために想像以上に人を送り込んでいたことが明らかになったのである。

 全容解明までには至らなかったが、危惧すべき組織が警察に浸食していることの確たる証拠にはなった。同時に組織の中でも天童翼と根津省吾のいる区域……つまり警視庁の中にいた組織の人間の洗い出しと更迭が行われたのである。

 将は卒業した後は桐谷世羅が長を務める警察庁刑事局組織犯罪対策部内部組織犯罪対策課という警察局の裏の課へ配属が決まっており、階級もその時に特例で巡査から巡査部長へと上がることになっていた。
 勿論、特別に試験が行われるのでそれに受かることが前提であった。そのため猛勉強を泣く泣くすることになったのである。

 ただ警狼ゲームは一回で終わりではなかったのである。

 警察に内部に入り込んだ狼が一匹見つかり、残暑厳しい9月半ばに二度目の狼狩りが行われることになったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ファクト ~真実~

華ノ月
ミステリー
 特別編からはお昼の12時10分に更新します。  主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。  そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。  その事件がなぜ起こったのか?  本当の「悪」は誰なのか?  そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。  こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!  よろしくお願いいたしますm(__)m

九龍城寨図書館と見習い司書の事件簿~忘れられたページと願いの言葉~

長谷川ひぐま
ミステリー
「あらゆる本が集まる」と言われる無許可の図書館都市、『九龍城寨図書館』。 ここには、お酒の本だけを集めた図書バーや、宗教的な禁書のみを扱う六畳一間のアパート、届かなかった手紙だけを収集している秘密の巨大書庫……など、普通では考えられないような図書館が一万六千館以上も乱立し、常識では想像もつかない蔵書で満ち溢れている。 そんな図書館都市で、ひょんなことから『見習い司書』として働くことになった主人公の『リリカ』は、驚異的な記憶力と推理力を持つ先輩司書の『ナナイ』と共に、様々な利用者の思い出が詰まった本や資料を図書調査(レファレンス)していくことになる。 「数十年前のラブレターへの返事を見つけたいの」、「一説の文章しかわからない作者不明の小説を探したいんだ」、「数十年前に書いた新人賞への応募原稿を取り戻したいんです」……等々、奇妙で難解な依頼を解決するため、リリカとナナイは広大な図書館都市を奔走する。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

10u

朽縄咲良
ミステリー
【第6回ホラー・ミステリー小説大賞奨励賞受賞作品】  ある日、とある探偵事務所をひとりの男性が訪れる。  最近、妻を亡くしたというその男性は、彼女が死の直前に遺したというメッセージアプリの意味を解読してほしいと依頼する。  彼が開いたメッセージアプリのトーク欄には、『10u』という、たった三文字の奇妙なメッセージが送られていた。  果たして、そのメッセージには何か意味があるのか……? *同内容を、『小説家になろう』『ノベルアッププラス』『ノベルデイズ』にも掲載しております。

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

秘められた遺志

しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...