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番外編 ミッション:インポ ッシブル2
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「楓、俺よりももっと適任がいる。そいつらを呼ぶけど、いいか?」
「この際、どんな手段でも構いませんわ。兄と添い遂げる、と誓ったのですから。あなたの判断に従います」
「よし」
強制的に、夢から覚める。
以前、木津川の夢から脱出できなくなったことがあった。
その時は、夢の空間を作っていたラスボス木津川を撃破することで脱出に成功した。
しかし、その後に気づいた。もっと簡単な手段で、夢から自発的に覚めることができるのだ。
その手段、とは_______
こけっ!
俺は、夢の中でコケた。
「はっ!」
・・・・・・
成功だ。
試したことはなかったが、どうやら有効なようだ。夢の中でつま先からコケると、一気に目覚める。
握っていた真行寺の手を離し、俺は後ろの座席へと向かった。朝早かったためか、全員が深く眠っていた。
木津川の席にあった小説の栞と、本織のテーブルにあったまつげビューラーをこっそりと借り、元の席へと戻る。
もう一度、夢の中へ戻った。
「・・・・・・どういうこと?これ」
本織と木津川がいた。
真行寺が作り出したガーデンの入り口で、ふたりが立ちすくんでいた。
「・・・・・・また、あなたの仕業?」
本織がじー、と俺を睨みつける。
木津川は睨んでこそいないが、無表情で俺を眺めていた。
俺は両手を合わせた。
「悪い、ふたりとも。どうか、何も言わずに協力して欲しい」
「ふうん。・・・・・・それって、真行寺さんのこと?」
「ああ」
そりゃまあ、あんなバレバレなくじ引きで隣の席に座ってたら、本織でなくても気づくよな。
真行寺は、決して女子たちのウケが良い生徒ではない。雨屋みたいな、誰とでも仲良く誰にでも頼られる性格ではないのだ。
ともすれば、男子たちの視線を集め、大仰な言い方は尊大に思われることさえある。
だけど、本織はまあいいか、と納得してくれた。
「からすまくんの頼みなら、聞いてあげる。一度だけ」
「私も」
「ありがとう、ふたりとも。・・・・・・この借りはいずれちゃんと返すから」
真行寺のいる、庭の中央テーブルへと戻った。
彼女はまだ、優雅にお茶をしていた。
「お帰りなさい」
「おう」
椅子を2つ作り、本織と木津川がテーブルにつく。
俺は手短に状況を説明した。かくかくしかじか。
「・・・・・・ということなんだ」
彼女が兄と、ということは話していない。さすがに近親相姦、というのは引かれるだろうし、理解されにくいだろう。
ただ、真行寺楓が訳あって、性知識の会得が必要だ、それも早急に、と伝える。
強くなりてェ。短時間で徹底的に、な。
「・・・・・・それで、わたしを呼んだってこと?」
「ああ」
「からすまくん、最低。さいってー」
「分かってる」
本織に頼る、ということは、すなわち彼女がどうしてそんな技術を持っているのか、それが楓に伝わる、ということだから。
同じことが、木津川にも言える。彼女の趣味を知らしめてしまう、ということだ。
「・・・・・・でも、からすまくんには協力するよ。感謝、してるから」
本織がそう言ってくれた。
「うん、わたしも」
木津川も頷く。
楓はよく分からない、という表情で、夢に現れたクラスメイトの女子ふたりを交互に見つめていた。
「あの、状況がよく分かりませんが」
「教師だ」
「・・・・・・は?」
「あたし、元風俗嬢なの」
本織の言葉に、楓は一瞬フリーズした。
「・・・・・・ふう、ぞく、じょう?」
「売春婦、ってこと。お嬢様にも分かりやすく言えば、ね」
「ば、ばいしゅん!?そのようなこと、現代の日本には_____」
「あるんだよ。あんた、知らないの?女子高生って、もの凄く高く売れるんだよ。わたしもあんたくらい美人だったら、あと100万は稼いでたよ」
「・・・・・・そう、でしたか」
楓は絶句していた。
続いて、木津川が口を開く。
「わたしはAV鑑賞が趣味。だから、からすまくんに呼ばれたんだと思う」
「え、えーぶい、ですか」
「そう。アダルトビデオ。18禁の」
「そ、そのようなものは、18歳以下のわたしたちでは」
「手に入るの。簡単に。たぶん、100本は観た」
え。
それは初耳だぞ木津川。
「あと、からすまくんと夢の世界で会った。何度か」
「それは、わたくしもお会いしましたわ」
「うん、わたしも」
楓と本織が言う。
でも、と木津川が首を振った。
「ううん、違う。からすまくんと夢の世界に住んでたの。一緒に。3年くらい」
「はぁぁぁぁ!?」
「さ、さんねん?どういうことですか!?」
「子供も産んだし」
「ええええええええ!?」
「・・・・・・からすまくん、あなたって人は」
ううう。
ふたりの視線が痛い。
「は、話はまた後だ。詳しいことを話してたら沖縄に着いてしまう。・・・・・・ふたりとも、とりあえず今のところは協力してくれ。楓の、真行寺の将来とか人生に直結することなんだ」
きりっ。
真面目な顔を作ると、皆も黙ってくれた。
「・・・・・・んじゃ、手っ取り早くいくね。じゃあ真行寺さん、フェラしてみて」
「・・・・・・は?」
「は?じゃないでしょ。あんた、男をおっ立てたいんでしょ?じゃあ実践あるのみよ。さあ、からすまくんのをフェラしてみせて。どのくらいできるのかで、助言のしようもあるでしょ?」
「うん」
本織と木津川に言われて、楓ははあ、と言い、思い直したように俺に顔を向ける。
「やらせていただきますわ。・・・・・・わたくしも、生半可な気持ちでここにいるわけではありません。それを、お二方にも分かっていただきますから」
「お、おう」
意を決したように、楓が俺のズボンに手をかけた。
じー、と前のチャックを下ろし、中からモノを取り出す。
そこへ唇を捧げた。まだ萎びたままのそれを口に含み、ゆっくりと上下する。
ああ。ああ。
楓が。俺のを。ああ。
ゆっくりとした行為。
それでも俺のマイサンは、少しずつ力を込め始めて______
「なにそれ」
冷たい声に、タマがひゅん、となった。
本織が睨んでいる。
「なにそれ、それで本気のフェラしてるつもり?」
「え、いえ、その、こういうものだと_____」
「はああ!?あんたね、フェラチオ舐めてんでしょ!いい?風俗には、ホントいろんな男の人がやって来るの。奥さんで勃たなくなった人とか、若い女に縁がなくなって寂しいとか、愛人と中折れして別れそうとか。生まれた時から障碍があって、まともに女性と付き合うなんて絶対に無理、なんて脳性麻痺の息子を親が連れてきたりすることもあるの。一生で一度だけでも、良い体験をさせてやりたいって。そんな人の気持ち、あんたに分かる!?その人は人生最高の体験をしたい、と思ってわたしのところに来るわけ。その人に、そんなおざなりで気持ちのこもらないフェラするつもり?風俗嬢舐めてんじゃないわよ!」
俺も楓も、あっけに取られてまくし立てる本織の顔を眺めていた。
本織は普段、クラスでも目立たない存在だ。こんなふうに感情を露わにする場面など、見たこともない。
「い、いや、本織、おまえ」
「あんたは黙ってて!・・・・・・相手が喜んでくれて嬉しい、気持ち良くなって欲しい、最高の思い出にしたい。そんな気持ちが足りないよ、あんた」
「そう、ですか・・・・・・」
「代わって」
選手交代。
本織が、俺の股間へとかがみ込む。
れろ。れろ。
ゆっくりとした舌使いが、萎えきったそこを少しずつ元気にさせる。
指が、根本を、亀頭を刺激する。
舌と指、どちらも使って。
あっというまに勃ってきた。
そこを、口の中へと吸い込まれる。
「あう、う」
あああ。気持ちいい。
なんだろう、絶妙な強弱。強すぎれば痛いし、弱すぎると感じない。
これは、会話だ。
本織は、俺の身体と会話していた。
ひとりよがりの行為ではなく、俺の陰茎、俺の睾丸、俺の声や表情、それらを読み取って、どこが感じるのか、どこをして欲しいのか、それを丁寧に聞き取り調査しながら、行為を行ってくれている。
そうだよな。俺だって乗宮と何度も何度も夢で身体を重ねたけど、あいつの気持ちいい部分を探しながらやってた。それにはかなりの時間と回数が必要だったけど、本織はそれを1回目で探り当てようとしてくれている。
自分がしたい行為じゃなく、相手がして欲しい行為を、本織は実践していた。
「も、本織、もう」
指の動きが早くなった。
根本が、竿が、すごい勢いでこすられている。
先端がはむ、と咥えられ、口の中で舌が蛇のように巻き付く。
「うっ!」
びゅるるるっ!
どく。どく。どく。
本織の口の中に、たくさんの液体が飲み込まれていった。
あー。たまらん。
彼女のフェラはこれで2回目だけど、やっぱりすげえ、と思ってしまう。リカちゃん先生のリアルフェラと遜色ない。
ちゅうううう。
ちろ。ちろ。ちろ。
まだお掃除してくれている本織のウェーブがかかった髪を、よしよしと撫でてしまった。
「どう?全然違うでしょ?」
「本当に・・・・・・わたくしが思っていたものとは、全く」
本織が口を離した。
ああ、名残惜しい。
だが、そこへ木津川が割り込んできた。
「木津川さん?」
「・・・・・・テクニックは大事。だけど、シチュエーションも、大事」
場面が変わった。
俺たちは教室にいた。
これは、古文の授業だ。先生がぼそぼそとした声で話し、生徒たちは全員机に向かって突っ伏している。
ああ、眠い。
夢の中ですら、俺はうとうととし始めた。
だが。
ガタッ。
足元に違和感があった。
机の下を見て、俺は驚いた。
「き、木津川!?」
木津川千鶴が、俺の机の下でしゃがみこんでいた。
「しっ」
彼女が、指を口に当てる。
そっと、俺のズボンのジッパーを下ろす。
ああ。
まさか。これは。
男子生徒たちの妄想の頂点である、授業中に誰にも見られないで女子にフェラしてもらうという、夢の中の夢である、あれか。
俺のオットセイがぽろん、と取り出された。
木津川が指で柔らかくはさみ、口の中へ含む。
ああ。ああ。
そんなことしたら。誰かに見られる。
だけど、全員が眠っていた。
乗宮も。森下も。雨屋でさえも。
あっという間に、俺は大きくなった。
木津川の唇が、俺の股間を出入りする。何度も。
ああ。もうだめだ。
「ち、千鶴っ!」
彼女の頭を、強く掻き抱いた。
喉の奥へと突き刺す。
だが彼女は苦しがりも嫌がりもせず、喉奥でむしろ締め付けてきた。
とくん。とくん。
彼女の喉の奥へと、ザーメンが流れ込んでいく。
「・・・・・・さすがね。AV観てないと、こんなの思いつかないかも」
隣の席にいた、本織がじー、と見つめていた。
「でも負けないわよ。今度はあたしの番」
本織が、ぎゅっと目を瞑る。
また、背景が変わった。
電車の中だ。
がたん。ごとん。
朝の満員電車で吊り革を握っている俺は、いつものように単語帳を手にしていた。
「今日、英語の小テストだったよな。さとや、予習した?」
「いましてる」
「だよな。俺も」
毎日一緒に通学している、左隣のみつるが笑う。
いつもの、毎日の風景だ。
違う点が、ひとつあった。
眼の前に、クラスメイトが座っていたのだ。
木津川、本織、そして真行寺。
俺の目の前、真ん中の本織がふふ、と俺を見上げる。
いたずらな顔で、じー、とファスナーを下ろす。
ちょっと、本織、そんなことしたら。
だが、周囲の乗客も、みつるも、そんなことに気づいていない。
気づいているのは、目の前にいるクラスメイトの女子3人だけだ。
ぴょこん、と飛び出した、俺のど根性ガエル。
ああ。だめだ。昨日はちょっと睡眠不足で、いまもちょっと朝勃ちが残ってるんだ。眠い日の朝って、なぜか勃起が止まらないんだ。
そんなカエルくんを見て、本織が笑う。
ちろ、といたずらに舌先を突き出す。ちろ。ちろちろ。
あああ。亀頭を。そんなとこ。ちろちろされたら。もう半太刀がフルボッキしちゃうじゃないか。
本織が、俺を口いっぱいに頬張る。
ちゅうう。ちゅうううう。
満員電車の中で、俺をしっかり根本まで含んだまま、本織が顔を回転させる。
ひくひく、と腰がひくつく。
ああ、出したい、出したい。
ここで、電車の中で。本織の口の中に。
どうっ。
俺のハイドロポンプが放出される。
本織は何度も蠢く俺を吸い込み、舐め取り、飲み下し。
ちろ、と先っぽをキレイにしてから、ズボンの中へ戻してくれた。
「こういうことでしょ?」
「・・・・・・なるほど、殿方を悦ばせるには、技術だけではなく、雰囲気や感情も大切、ということですね」
「そういうこと」
「わたくしも、負けてはいられません」
木津川の返事に、真行寺も目を閉じた。
祈りを捧げるように。
みたび、背景が変わった。
ここは、夏祭りだ。
神社の境内へと続く階段に、たくさんの提灯が点っていた。
笛の音色が響き、子どもたちが走り回っている。たこ焼きや射的、金魚すくいなどの屋台が所狭しと並ぶ通路を、大勢の浴衣姿の男女が綿あめやりんご飴を手に笑顔で歩いていた。
「からすまくん!」
声をかけられて、振り向く。
そこには、和装の美人がいた。笑顔で俺に近づいてくる。
「真行寺」
「良かったですわ、今年の夏祭りは、からすまくんと一緒に行きたかったのです」
腕を組む。
左腕に、柔らかな感触が当たっていた。真行寺の、大きな胸が当たっているのだ。どうしても意識してしまう。
「今日は簡素な浴衣ですが、いかがでしょうか?」
「すごくよく似合うよ」
下着をつけていない、とすぐ分かるほどに、浴衣の胸の部分にふたつの突起が浮いていた。
否応なしに、視線がそこに吸い付けられてしまう。
ごく。喉が鳴った。
「ラムネでも、飲みましょうか?」
「だな。喉乾いたし」
ごく。ごく。ごく。
上を向いてラムネの瓶を口にする真行寺の、真っ白な喉が目に焼き付いた。
ああ。あそこに吸い付きたい。
ふう、とラムネを飲み干し、真行寺が俺の視線に気づく。
ちろ、と舌を出し、瓶の先端を舐めた。なにかに見立てるように。
俺の視線を感じて、ふふ、と妖艶に笑う。
ああ。もう我慢できない。
境内の裏へ、彼女を連れ込む。
階段に座って股を広げた俺に、真行寺が奉仕してくれていた。
さっき飲んだラムネのせいで、彼女の口の中がひんやりして気持ちいい。
「なあ、真行寺」
「ふぁい?」
「あれ、してくれよ」
彼女に頼むことといえば。
真行寺は頷くと、胸元を大きく開き、ふたつの乳房で俺の股間を包んだ。
ああ。ああ。
柔らかな肌の感触。すべすべだ。
「し、真行寺、パイズリ、上手くなったな」
「ふふ。からすまくんには、何度も練習させられましたから」
れろ。
挟まれた胸の間に飛び出した亀頭へと、真行寺の舌が伸びた。
そこは未だに冷たい感触が残っていて、胸に挟まれた竿の温もりとアンバランスさに、俺は開栓に失敗したラムネのように、勢いよく噴出させてしまった。
「きゃっ!?」
メントスコーラのごとく噴き出した白濁液が、真行寺の顔や髪を汚し、浴衣へと降りかかる。
ああ。パイズリって、いい。すごすぎる。
その様子を影で見ていたふたりが、こっちへ近づいてきた。
「・・・・・・悔しいけど」
「持てる者と持たざる者の差を、感じた」
本織と木津川が、大噴火してしまった俺を見てそう言った。
本織がにこ、と笑う。
「真行寺さん、やるじゃない。すごく良かったよ」
「うん」
「ありがとう、お二人とも。・・・・・・何か、大切なものを掴んだ気がします。少し自信がつきました」
「その調子。相手が気持ち良くなってくれる時の感覚って、病みつきになっちゃうわよ?」
「わかる」
「はい。そんな気がします」
誇らしげな表情で、真行寺は言った。
だけど、と本織が続けた。
「あんた、すごい美人なんだから、あんまり相手を萎縮させないことね」
「萎縮、ですか?」
「そ。軽い気持ちで抱ける女っていいのよ。遊び感覚っていうか、リラックスできるの。でも、あんたくらい美人だと、相手も身構えちゃう」
「しかし、顔を変えることなど」
「それはしょうがないから。だからせめて、最初の時みたいに張り詰めた表情してたりとか、ここで失敗しちゃ終わりとか、相手にそんなふうに思わせないこと。失敗しても、次またすればいいの。何度だってチャンスはある。リラックスして副交感神経高めないと、男って勃たないわよ?」
「そうなのですか」
「お堅いイメージのある服装もだめ。汚しちゃだめって気になっちゃうし。もっとカジュアルで、自然な服装とかでいいの。髪型も含めてね」
「はい」
「あとは______」
本織は、ちら、と俺を見た。
「実践あるのみ、かな」
「実践、ですか」
「そ。わたしなんて、もう何十人も抱かれてる。今さら誰か一人くらい、どうってことないわ。だからセックスってなっても緊張なんてしない。木津川さん、からすまくんとはもう、何回もしたんでしょ?3年間の間に」
「2000回くらい」
「え!?」
「えっ?」
・・・・・・そんなにしたっけか。
まあ3年間の間、ほぼ毎日朝晩としてたしな。いや、1日5回くらいしてた日もあったような。
ふたたび、ふたりから浴びせられる白い視線が痛い。
「・・・・・・ま、まあ、そのくらいしてたら、たぶんもう緊張もしないわよ。たいていのことではね。・・・・・・でも2000回はすごいね、それってもう夫婦じゃない?」
「かも」
「泳ぐのも、絵を書くのも同じ。初心者が最初の1回でうまくいくわけない。でも、それってあとで分かることでしょ?だから実践あるのみよ」
「積み重ねた経験も大切、ということですね。分かりました」
ぽーん。ぽーん。ぽーん。
外から音がした。
「・・・・・・そろそろ、着陸するようですわ。皆様、本当に勉強になりました。ぜひ、うまくやってみせますわ」
「うん、その調子」
「がんばって」
本織と木津川の姿が消えていく。
俺も、ぼんやりと真行寺の姿が薄れていった。
俺たちは、真行寺とその一族のおかげで、とても楽しい沖縄無人島ツアーを過ごした。
無人島とはいえ、テントもバンガローもあったし冷房完備だし、食料も運び込まれていたし、至れ尽くせりで何も不自由はなかった。
帰りの飛行機でも、真行寺の隣の席だった。
そこでどんな夢を見たか、それはもうクドいし、いまさら言うまでもない。
夏休み明け、学校で真行寺と顔を合わせた。
「よ」
「おはようございます、からすまくん」
真行寺の顔は、とても晴れ晴れとしていた。
どうなったかは、聞くまでもなかった。
「うまくいったみたいね」
「だな」
俺は隣の席の本織と、密かに笑いあった。
(あとがき)
これにて全編終了です。
ここまでお読みくださった方、ありがとうございました。
この作品の内容は、文中にも出てきますが、クリストファー・ノーラン監督作の「インセプション」という映画へのオマージュになっています。兄貴の恋人「斎藤」という名前もそこから。
「みんなで眠れる装置」が思い浮かばなかったので、古文の先生の魔力を借りた。ごめんね先生、名前も考えてあったのに使わんかった。
あと、夢繋がりで言えばインセプションだけでなく、筒井康隆氏の「パプリカ」や、押井守監督の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」にも影響を受けております。
同じものを「小説家になろう」ノクターンノベルズにも掲載しています。一部イラストが違うだけで同じものです。
「この際、どんな手段でも構いませんわ。兄と添い遂げる、と誓ったのですから。あなたの判断に従います」
「よし」
強制的に、夢から覚める。
以前、木津川の夢から脱出できなくなったことがあった。
その時は、夢の空間を作っていたラスボス木津川を撃破することで脱出に成功した。
しかし、その後に気づいた。もっと簡単な手段で、夢から自発的に覚めることができるのだ。
その手段、とは_______
こけっ!
俺は、夢の中でコケた。
「はっ!」
・・・・・・
成功だ。
試したことはなかったが、どうやら有効なようだ。夢の中でつま先からコケると、一気に目覚める。
握っていた真行寺の手を離し、俺は後ろの座席へと向かった。朝早かったためか、全員が深く眠っていた。
木津川の席にあった小説の栞と、本織のテーブルにあったまつげビューラーをこっそりと借り、元の席へと戻る。
もう一度、夢の中へ戻った。
「・・・・・・どういうこと?これ」
本織と木津川がいた。
真行寺が作り出したガーデンの入り口で、ふたりが立ちすくんでいた。
「・・・・・・また、あなたの仕業?」
本織がじー、と俺を睨みつける。
木津川は睨んでこそいないが、無表情で俺を眺めていた。
俺は両手を合わせた。
「悪い、ふたりとも。どうか、何も言わずに協力して欲しい」
「ふうん。・・・・・・それって、真行寺さんのこと?」
「ああ」
そりゃまあ、あんなバレバレなくじ引きで隣の席に座ってたら、本織でなくても気づくよな。
真行寺は、決して女子たちのウケが良い生徒ではない。雨屋みたいな、誰とでも仲良く誰にでも頼られる性格ではないのだ。
ともすれば、男子たちの視線を集め、大仰な言い方は尊大に思われることさえある。
だけど、本織はまあいいか、と納得してくれた。
「からすまくんの頼みなら、聞いてあげる。一度だけ」
「私も」
「ありがとう、ふたりとも。・・・・・・この借りはいずれちゃんと返すから」
真行寺のいる、庭の中央テーブルへと戻った。
彼女はまだ、優雅にお茶をしていた。
「お帰りなさい」
「おう」
椅子を2つ作り、本織と木津川がテーブルにつく。
俺は手短に状況を説明した。かくかくしかじか。
「・・・・・・ということなんだ」
彼女が兄と、ということは話していない。さすがに近親相姦、というのは引かれるだろうし、理解されにくいだろう。
ただ、真行寺楓が訳あって、性知識の会得が必要だ、それも早急に、と伝える。
強くなりてェ。短時間で徹底的に、な。
「・・・・・・それで、わたしを呼んだってこと?」
「ああ」
「からすまくん、最低。さいってー」
「分かってる」
本織に頼る、ということは、すなわち彼女がどうしてそんな技術を持っているのか、それが楓に伝わる、ということだから。
同じことが、木津川にも言える。彼女の趣味を知らしめてしまう、ということだ。
「・・・・・・でも、からすまくんには協力するよ。感謝、してるから」
本織がそう言ってくれた。
「うん、わたしも」
木津川も頷く。
楓はよく分からない、という表情で、夢に現れたクラスメイトの女子ふたりを交互に見つめていた。
「あの、状況がよく分かりませんが」
「教師だ」
「・・・・・・は?」
「あたし、元風俗嬢なの」
本織の言葉に、楓は一瞬フリーズした。
「・・・・・・ふう、ぞく、じょう?」
「売春婦、ってこと。お嬢様にも分かりやすく言えば、ね」
「ば、ばいしゅん!?そのようなこと、現代の日本には_____」
「あるんだよ。あんた、知らないの?女子高生って、もの凄く高く売れるんだよ。わたしもあんたくらい美人だったら、あと100万は稼いでたよ」
「・・・・・・そう、でしたか」
楓は絶句していた。
続いて、木津川が口を開く。
「わたしはAV鑑賞が趣味。だから、からすまくんに呼ばれたんだと思う」
「え、えーぶい、ですか」
「そう。アダルトビデオ。18禁の」
「そ、そのようなものは、18歳以下のわたしたちでは」
「手に入るの。簡単に。たぶん、100本は観た」
え。
それは初耳だぞ木津川。
「あと、からすまくんと夢の世界で会った。何度か」
「それは、わたくしもお会いしましたわ」
「うん、わたしも」
楓と本織が言う。
でも、と木津川が首を振った。
「ううん、違う。からすまくんと夢の世界に住んでたの。一緒に。3年くらい」
「はぁぁぁぁ!?」
「さ、さんねん?どういうことですか!?」
「子供も産んだし」
「ええええええええ!?」
「・・・・・・からすまくん、あなたって人は」
ううう。
ふたりの視線が痛い。
「は、話はまた後だ。詳しいことを話してたら沖縄に着いてしまう。・・・・・・ふたりとも、とりあえず今のところは協力してくれ。楓の、真行寺の将来とか人生に直結することなんだ」
きりっ。
真面目な顔を作ると、皆も黙ってくれた。
「・・・・・・んじゃ、手っ取り早くいくね。じゃあ真行寺さん、フェラしてみて」
「・・・・・・は?」
「は?じゃないでしょ。あんた、男をおっ立てたいんでしょ?じゃあ実践あるのみよ。さあ、からすまくんのをフェラしてみせて。どのくらいできるのかで、助言のしようもあるでしょ?」
「うん」
本織と木津川に言われて、楓ははあ、と言い、思い直したように俺に顔を向ける。
「やらせていただきますわ。・・・・・・わたくしも、生半可な気持ちでここにいるわけではありません。それを、お二方にも分かっていただきますから」
「お、おう」
意を決したように、楓が俺のズボンに手をかけた。
じー、と前のチャックを下ろし、中からモノを取り出す。
そこへ唇を捧げた。まだ萎びたままのそれを口に含み、ゆっくりと上下する。
ああ。ああ。
楓が。俺のを。ああ。
ゆっくりとした行為。
それでも俺のマイサンは、少しずつ力を込め始めて______
「なにそれ」
冷たい声に、タマがひゅん、となった。
本織が睨んでいる。
「なにそれ、それで本気のフェラしてるつもり?」
「え、いえ、その、こういうものだと_____」
「はああ!?あんたね、フェラチオ舐めてんでしょ!いい?風俗には、ホントいろんな男の人がやって来るの。奥さんで勃たなくなった人とか、若い女に縁がなくなって寂しいとか、愛人と中折れして別れそうとか。生まれた時から障碍があって、まともに女性と付き合うなんて絶対に無理、なんて脳性麻痺の息子を親が連れてきたりすることもあるの。一生で一度だけでも、良い体験をさせてやりたいって。そんな人の気持ち、あんたに分かる!?その人は人生最高の体験をしたい、と思ってわたしのところに来るわけ。その人に、そんなおざなりで気持ちのこもらないフェラするつもり?風俗嬢舐めてんじゃないわよ!」
俺も楓も、あっけに取られてまくし立てる本織の顔を眺めていた。
本織は普段、クラスでも目立たない存在だ。こんなふうに感情を露わにする場面など、見たこともない。
「い、いや、本織、おまえ」
「あんたは黙ってて!・・・・・・相手が喜んでくれて嬉しい、気持ち良くなって欲しい、最高の思い出にしたい。そんな気持ちが足りないよ、あんた」
「そう、ですか・・・・・・」
「代わって」
選手交代。
本織が、俺の股間へとかがみ込む。
れろ。れろ。
ゆっくりとした舌使いが、萎えきったそこを少しずつ元気にさせる。
指が、根本を、亀頭を刺激する。
舌と指、どちらも使って。
あっというまに勃ってきた。
そこを、口の中へと吸い込まれる。
「あう、う」
あああ。気持ちいい。
なんだろう、絶妙な強弱。強すぎれば痛いし、弱すぎると感じない。
これは、会話だ。
本織は、俺の身体と会話していた。
ひとりよがりの行為ではなく、俺の陰茎、俺の睾丸、俺の声や表情、それらを読み取って、どこが感じるのか、どこをして欲しいのか、それを丁寧に聞き取り調査しながら、行為を行ってくれている。
そうだよな。俺だって乗宮と何度も何度も夢で身体を重ねたけど、あいつの気持ちいい部分を探しながらやってた。それにはかなりの時間と回数が必要だったけど、本織はそれを1回目で探り当てようとしてくれている。
自分がしたい行為じゃなく、相手がして欲しい行為を、本織は実践していた。
「も、本織、もう」
指の動きが早くなった。
根本が、竿が、すごい勢いでこすられている。
先端がはむ、と咥えられ、口の中で舌が蛇のように巻き付く。
「うっ!」
びゅるるるっ!
どく。どく。どく。
本織の口の中に、たくさんの液体が飲み込まれていった。
あー。たまらん。
彼女のフェラはこれで2回目だけど、やっぱりすげえ、と思ってしまう。リカちゃん先生のリアルフェラと遜色ない。
ちゅうううう。
ちろ。ちろ。ちろ。
まだお掃除してくれている本織のウェーブがかかった髪を、よしよしと撫でてしまった。
「どう?全然違うでしょ?」
「本当に・・・・・・わたくしが思っていたものとは、全く」
本織が口を離した。
ああ、名残惜しい。
だが、そこへ木津川が割り込んできた。
「木津川さん?」
「・・・・・・テクニックは大事。だけど、シチュエーションも、大事」
場面が変わった。
俺たちは教室にいた。
これは、古文の授業だ。先生がぼそぼそとした声で話し、生徒たちは全員机に向かって突っ伏している。
ああ、眠い。
夢の中ですら、俺はうとうととし始めた。
だが。
ガタッ。
足元に違和感があった。
机の下を見て、俺は驚いた。
「き、木津川!?」
木津川千鶴が、俺の机の下でしゃがみこんでいた。
「しっ」
彼女が、指を口に当てる。
そっと、俺のズボンのジッパーを下ろす。
ああ。
まさか。これは。
男子生徒たちの妄想の頂点である、授業中に誰にも見られないで女子にフェラしてもらうという、夢の中の夢である、あれか。
俺のオットセイがぽろん、と取り出された。
木津川が指で柔らかくはさみ、口の中へ含む。
ああ。ああ。
そんなことしたら。誰かに見られる。
だけど、全員が眠っていた。
乗宮も。森下も。雨屋でさえも。
あっという間に、俺は大きくなった。
木津川の唇が、俺の股間を出入りする。何度も。
ああ。もうだめだ。
「ち、千鶴っ!」
彼女の頭を、強く掻き抱いた。
喉の奥へと突き刺す。
だが彼女は苦しがりも嫌がりもせず、喉奥でむしろ締め付けてきた。
とくん。とくん。
彼女の喉の奥へと、ザーメンが流れ込んでいく。
「・・・・・・さすがね。AV観てないと、こんなの思いつかないかも」
隣の席にいた、本織がじー、と見つめていた。
「でも負けないわよ。今度はあたしの番」
本織が、ぎゅっと目を瞑る。
また、背景が変わった。
電車の中だ。
がたん。ごとん。
朝の満員電車で吊り革を握っている俺は、いつものように単語帳を手にしていた。
「今日、英語の小テストだったよな。さとや、予習した?」
「いましてる」
「だよな。俺も」
毎日一緒に通学している、左隣のみつるが笑う。
いつもの、毎日の風景だ。
違う点が、ひとつあった。
眼の前に、クラスメイトが座っていたのだ。
木津川、本織、そして真行寺。
俺の目の前、真ん中の本織がふふ、と俺を見上げる。
いたずらな顔で、じー、とファスナーを下ろす。
ちょっと、本織、そんなことしたら。
だが、周囲の乗客も、みつるも、そんなことに気づいていない。
気づいているのは、目の前にいるクラスメイトの女子3人だけだ。
ぴょこん、と飛び出した、俺のど根性ガエル。
ああ。だめだ。昨日はちょっと睡眠不足で、いまもちょっと朝勃ちが残ってるんだ。眠い日の朝って、なぜか勃起が止まらないんだ。
そんなカエルくんを見て、本織が笑う。
ちろ、といたずらに舌先を突き出す。ちろ。ちろちろ。
あああ。亀頭を。そんなとこ。ちろちろされたら。もう半太刀がフルボッキしちゃうじゃないか。
本織が、俺を口いっぱいに頬張る。
ちゅうう。ちゅうううう。
満員電車の中で、俺をしっかり根本まで含んだまま、本織が顔を回転させる。
ひくひく、と腰がひくつく。
ああ、出したい、出したい。
ここで、電車の中で。本織の口の中に。
どうっ。
俺のハイドロポンプが放出される。
本織は何度も蠢く俺を吸い込み、舐め取り、飲み下し。
ちろ、と先っぽをキレイにしてから、ズボンの中へ戻してくれた。
「こういうことでしょ?」
「・・・・・・なるほど、殿方を悦ばせるには、技術だけではなく、雰囲気や感情も大切、ということですね」
「そういうこと」
「わたくしも、負けてはいられません」
木津川の返事に、真行寺も目を閉じた。
祈りを捧げるように。
みたび、背景が変わった。
ここは、夏祭りだ。
神社の境内へと続く階段に、たくさんの提灯が点っていた。
笛の音色が響き、子どもたちが走り回っている。たこ焼きや射的、金魚すくいなどの屋台が所狭しと並ぶ通路を、大勢の浴衣姿の男女が綿あめやりんご飴を手に笑顔で歩いていた。
「からすまくん!」
声をかけられて、振り向く。
そこには、和装の美人がいた。笑顔で俺に近づいてくる。
「真行寺」
「良かったですわ、今年の夏祭りは、からすまくんと一緒に行きたかったのです」
腕を組む。
左腕に、柔らかな感触が当たっていた。真行寺の、大きな胸が当たっているのだ。どうしても意識してしまう。
「今日は簡素な浴衣ですが、いかがでしょうか?」
「すごくよく似合うよ」
下着をつけていない、とすぐ分かるほどに、浴衣の胸の部分にふたつの突起が浮いていた。
否応なしに、視線がそこに吸い付けられてしまう。
ごく。喉が鳴った。
「ラムネでも、飲みましょうか?」
「だな。喉乾いたし」
ごく。ごく。ごく。
上を向いてラムネの瓶を口にする真行寺の、真っ白な喉が目に焼き付いた。
ああ。あそこに吸い付きたい。
ふう、とラムネを飲み干し、真行寺が俺の視線に気づく。
ちろ、と舌を出し、瓶の先端を舐めた。なにかに見立てるように。
俺の視線を感じて、ふふ、と妖艶に笑う。
ああ。もう我慢できない。
境内の裏へ、彼女を連れ込む。
階段に座って股を広げた俺に、真行寺が奉仕してくれていた。
さっき飲んだラムネのせいで、彼女の口の中がひんやりして気持ちいい。
「なあ、真行寺」
「ふぁい?」
「あれ、してくれよ」
彼女に頼むことといえば。
真行寺は頷くと、胸元を大きく開き、ふたつの乳房で俺の股間を包んだ。
ああ。ああ。
柔らかな肌の感触。すべすべだ。
「し、真行寺、パイズリ、上手くなったな」
「ふふ。からすまくんには、何度も練習させられましたから」
れろ。
挟まれた胸の間に飛び出した亀頭へと、真行寺の舌が伸びた。
そこは未だに冷たい感触が残っていて、胸に挟まれた竿の温もりとアンバランスさに、俺は開栓に失敗したラムネのように、勢いよく噴出させてしまった。
「きゃっ!?」
メントスコーラのごとく噴き出した白濁液が、真行寺の顔や髪を汚し、浴衣へと降りかかる。
ああ。パイズリって、いい。すごすぎる。
その様子を影で見ていたふたりが、こっちへ近づいてきた。
「・・・・・・悔しいけど」
「持てる者と持たざる者の差を、感じた」
本織と木津川が、大噴火してしまった俺を見てそう言った。
本織がにこ、と笑う。
「真行寺さん、やるじゃない。すごく良かったよ」
「うん」
「ありがとう、お二人とも。・・・・・・何か、大切なものを掴んだ気がします。少し自信がつきました」
「その調子。相手が気持ち良くなってくれる時の感覚って、病みつきになっちゃうわよ?」
「わかる」
「はい。そんな気がします」
誇らしげな表情で、真行寺は言った。
だけど、と本織が続けた。
「あんた、すごい美人なんだから、あんまり相手を萎縮させないことね」
「萎縮、ですか?」
「そ。軽い気持ちで抱ける女っていいのよ。遊び感覚っていうか、リラックスできるの。でも、あんたくらい美人だと、相手も身構えちゃう」
「しかし、顔を変えることなど」
「それはしょうがないから。だからせめて、最初の時みたいに張り詰めた表情してたりとか、ここで失敗しちゃ終わりとか、相手にそんなふうに思わせないこと。失敗しても、次またすればいいの。何度だってチャンスはある。リラックスして副交感神経高めないと、男って勃たないわよ?」
「そうなのですか」
「お堅いイメージのある服装もだめ。汚しちゃだめって気になっちゃうし。もっとカジュアルで、自然な服装とかでいいの。髪型も含めてね」
「はい」
「あとは______」
本織は、ちら、と俺を見た。
「実践あるのみ、かな」
「実践、ですか」
「そ。わたしなんて、もう何十人も抱かれてる。今さら誰か一人くらい、どうってことないわ。だからセックスってなっても緊張なんてしない。木津川さん、からすまくんとはもう、何回もしたんでしょ?3年間の間に」
「2000回くらい」
「え!?」
「えっ?」
・・・・・・そんなにしたっけか。
まあ3年間の間、ほぼ毎日朝晩としてたしな。いや、1日5回くらいしてた日もあったような。
ふたたび、ふたりから浴びせられる白い視線が痛い。
「・・・・・・ま、まあ、そのくらいしてたら、たぶんもう緊張もしないわよ。たいていのことではね。・・・・・・でも2000回はすごいね、それってもう夫婦じゃない?」
「かも」
「泳ぐのも、絵を書くのも同じ。初心者が最初の1回でうまくいくわけない。でも、それってあとで分かることでしょ?だから実践あるのみよ」
「積み重ねた経験も大切、ということですね。分かりました」
ぽーん。ぽーん。ぽーん。
外から音がした。
「・・・・・・そろそろ、着陸するようですわ。皆様、本当に勉強になりました。ぜひ、うまくやってみせますわ」
「うん、その調子」
「がんばって」
本織と木津川の姿が消えていく。
俺も、ぼんやりと真行寺の姿が薄れていった。
俺たちは、真行寺とその一族のおかげで、とても楽しい沖縄無人島ツアーを過ごした。
無人島とはいえ、テントもバンガローもあったし冷房完備だし、食料も運び込まれていたし、至れ尽くせりで何も不自由はなかった。
帰りの飛行機でも、真行寺の隣の席だった。
そこでどんな夢を見たか、それはもうクドいし、いまさら言うまでもない。
夏休み明け、学校で真行寺と顔を合わせた。
「よ」
「おはようございます、からすまくん」
真行寺の顔は、とても晴れ晴れとしていた。
どうなったかは、聞くまでもなかった。
「うまくいったみたいね」
「だな」
俺は隣の席の本織と、密かに笑いあった。
(あとがき)
これにて全編終了です。
ここまでお読みくださった方、ありがとうございました。
この作品の内容は、文中にも出てきますが、クリストファー・ノーラン監督作の「インセプション」という映画へのオマージュになっています。兄貴の恋人「斎藤」という名前もそこから。
「みんなで眠れる装置」が思い浮かばなかったので、古文の先生の魔力を借りた。ごめんね先生、名前も考えてあったのに使わんかった。
あと、夢繋がりで言えばインセプションだけでなく、筒井康隆氏の「パプリカ」や、押井守監督の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」にも影響を受けております。
同じものを「小説家になろう」ノクターンノベルズにも掲載しています。一部イラストが違うだけで同じものです。
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