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番外編 鴉間神社2
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山道を歩いていた。
真っ暗だった。月明かりしか見えない。
足元だけを見ながら、転ばないように歩いていた。
と、遠くに明かりが見えた。
人家だ。
近づくと、そこは旅館だった。
ガラ。
「こんばんは」
「あらどうも、からすまさんとこ?」
人の良さそうな浴衣のおばあさんが顔を出した。
「はい、あの、ここは」
「ささ、あがって。ゆっくりしていってね」
古い温泉旅館だった。
木張りの、歩くたびにぎしぎし鳴る床に古びた障子。でも小綺麗で虫が這ってたりもしない。
どこかで宴会の声が聞こえてきた。
「繁盛してるんですね」
「たまたまよ。普段は誰も来ないから。時々、団体さんが来てくれるの」
バスの人々を思い出した。
あの団体だろうか。
と、廊下で誰かに会った。
「あ」
「おや、からすまくんやないか。どうしてここに?」
マヤさんだった。
「いや、なんか、夜道を歩いてたら」
「おーおーおー、縁があるなあ。さあいこ、一緒に行こ」
「え、いこって、どこへ」
「んなもん、宴会に決まっとるやないか」
「いやでも、俺」
「ええ。ええんや。考えんのはあとやあとあと。いくで!」
腕を掴んでズルズルと引き摺られていく。
見かけによらず、すごい力だ。
あっという間に、広間まで連れられていった。
ガラ、と障子が開く。
「おー、みんな、からすまくん、捕まえてきたで!」
「「「おおおー」」」
全員が一斉に振り向く。
大広間にいたのは、やっぱりマヤさん同様、あのバスの団体様だった。
捕まえてきた、て。俺はカブトムシかよ。
「さ、ここ座り。はよすわり」
「ザブトンどこやー、箸と、コップも」
「いや俺、お金もってな」
「あらあら、お客さんもお知り合いでしたの?なら、食事も追加しておきますね」
コップにウーロン茶が注がれる。
「さあさあ、飲んでや」
「ども、いただきます」
大人数に囲まれる。
うう。コミュ障にはつらいぜ。
だけど、マヤさん達の団体はあんまり大はしゃぎする人も少なく(マヤさんは例外だったが)、話づらさはなかった。
あちこち旅行してるというだけあって、すごく知識も豊富で、全国各地の楽しい話を聞かせてくれた。
バスの先頭に座っていた老人、ノッポの人もひとり離れ静々と呑んでいた。
「あの人、藤さん、言うんやけどな」
「ええ」
「うちらの代表や。ホントは毎回旅行に行きたいんやけど、なかなかくじ引きに当たらんくてなあ」
「くじ引きで決めてんですか」
「うん。会員、800万人以上おるでなあ」
「は、はっぴゃくまんにん!?」
なんか有名な団体なんだろか。
「最初の頃に藤さん自身が決めたらしくてなあ、くじ引きで公正に、て。でもなかなか当たらんで、自分でやきもきしとるんや。今回はえろう機嫌がええで。うちもいすずも、ほんま久々や。やから、今日は騒ぐで!」
席の隣に、また別の女性が座った。
なんか、綺麗な人ばかりでほんと驚く。
「こんばんは、からすまさん。吉野、と申します」
「あ、ども」
「こちらでは初めまして、ですわね?」
「吉野さんも、バスに?」
「ええ。後ろに座っていましたもので。ご挨拶もできず、失礼致しました」
「いえ、そんな」
じ、と見つめられて、ちょっとドギマギしてしまう。
うちの学校の保健室の先生はすごい美人なのだが、その人に近い。胸なんて、リカちゃんを上回っているかもしれない。
さあ、と差し出され、つい飲んでしまってから、ウーロン茶とは違うような味がした。
あ、やべ。まあいいか。
「あーっ、よしの!あんた、うちのからすまくんになにしてんの!」
「あら、あなたのものじゃありませんわ、マヤ」
「てめえの魂胆は分かってんぜ、飲ませて部屋へ連れ込んで、若い肉体を根っこの根元まで味わう気やろ!?図星やろ!?」
「まあ、はしたなくて聴き苦しい言葉ですわ。あなたと一緒にしないで頂戴」
「こっちのセリフやあああ!」
「静かにせい!なちさんの前ぞ!」
突然、大声でノッポ老人が叫んだ。全員が押し黙る。
ぐ、とマヤさんも黙り込み、しおしおと座布団へ座った。
なちさん、らしき上座に座った小柄なおばあさんが、ニコニコしながら、まあまあ、とノッポ老人を宥めた。
「みなさん、仲良くお過ごし下さいね」
柔和な笑顔に、またあちこちで歓談が再開した。
いすずさんが、マヤさんにめっ、する。
「ほーら怒られた。ふたりとも、藤さんとなちさんに謝っといで」
「そうですわね。言いがかりをつけられただけですが、宴席を穢したことは謝るべきでしょう。さあ、行きますよマヤ」
「・・・・・・はーい」
マヤさんは吉野さんに連れられて、藤さん、と呼ばれたノッポ老人さんの前に正座させられ、頭を下げていた。
なちさん、と呼ばれた小柄なおばあさんは、ニコニコと笑ったままだった。
残ったいすずさんが、はぁい、とまたウーロン茶を注いでくれた。
「あのノッポの人、威厳ありますね」
「うん、うちらの代表やからねぇ。それにあの人ぉ、怒ると怖いんよぉ。とーんでもなく」
「そうなんだ」
「うん。いつやったかなぁ・・・・・・もうだいぶ前になるけどぉ、藤さんが怒ったもんで、しばらく旅行も中止ぃなってたしなぁ」
「それは・・・・・・怖いですね」
「怖かったよぉ。誰も話しかけられんかったしさぁ。何年もぉ」
「そんなに」
ノッポさんは怒らせちゃだめ。覚えた。
その後も宴会が続き、俺は食事も飲み物も、たくさん頂いた。
俺に出されたお膳よりも、お肉やら刺し身やら、上等のも。
「少年、お腹いっぱいになったかね?」
まだ落花生の袋を持ちながら、ナリタさんが声をかけてくれた。
「ええ、とても」
「なら、風呂に行こう」
ナリタさんに言われて、俺ははい、と立ち上がった。
大浴場の暖簾をくぐる。
「あ」
「あ」
目が合った。
イブキさんと。
彼女は、脱衣所で巫女の服装を脱ぎかけていた。
ぷるん、とたわわな何かが揺れる。
「あ、こ、これは、その」
「やあ、イブキさんも今から?」
「はい」
ナリタさんは何の躊躇もなく笑顔で言い、イブキさんも前を隠すことなく、むしろ下半身まで脱ぎ始めた。
いや、そ、そんなことしたら。ああ。ああ。あああ。
俺は前かがみになりつつ、慌てて目をそらし、その実しっかりと横目で観察しながら、自分の浴衣を脱いだ。
なんだろう、混浴だったのだろうか。最初、入る場所を間違えたのかと思った。
しかし、浴場はひとつしかないようだ。やっぱり混浴か。
ガララ
ガラス戸を開けると、湯けむりの向こうに、桃源郷が広がっていた。
一部枯れたお方もお見えだが、ちゃんとしっかりと、あちこちでたわわに花実が咲き誇っていた。たわわ。たわわ。
「やあ、もう洗い場がいっぱいだねえ」
ナリタさんはこともなげに言う。
いつもこんななんだろうか。
「仕方ない、先に湯に浸かろうか?」
「は、はい」
タオルで前を隠す。
混浴。こんよく。生まれて初めての混浴。
まさか、そんなものに出会うとは思ってなかった。
これじゃ、大浴場が大欲情になってしまう。
「おー、来たねえさとやくん。どう?ここの湯は」
「え、と、とてもいいと、思いまふ」
右腕をマヤさんに挟まれている。
女性一人に挟まれる、という謎の現象。どこに挟まれているんだろう。腕がナニか、柔らかいものに挟まれていた。
「あらあ、さきほどは途中で、失礼しましたわ。さあ、どうぞゆっくり、浸かっていって下さいね?」
今度は、左腕が挟まれた。
吉野さん。マヤさんよりもさらに大きなナニかに、左腕が挟み込まれていた。
「あらぁ、大人気やねぇ」
ほわん。
今度は背中にナニかが押し付けられている。
丸い、柔らかいなにか。ああ。ああ。
「ちょ、ちょっと吉野、あといすず、うちのからすまくんに手出しはなしやで」
「あら、いつからあなたのからすまくんになったのかしら?あんたみたいな年増、お呼びではないのではなくて?」
「だ、誰が年増や!吉野てめえ、おめえのほうが年増だろうがよ!」
「もうぅ、うるさいねぇこの人たち。ねぇからすまくん、一緒に、洗いっこしよかぁ?」
「は、はあ」
な、なんだこの展開。
人生で一度もモテたこともない俺が、どうして三方を美女に取り囲まれているんだ???
と、残り一方、前方から侵入する影があった。
イブキさんだった。
じー。
俺と他3人を見つめながら、お湯の中を近寄ってくる。
両腕と背中を押さえ込まれて動けない俺の、つま先に触れた。次に足首、膝。そして、ふともも。
ああ。あかん。そこから先は。
あ。
ああ。
イブキさんの細い指が、縮んだままのマイサンをつまんだ。
くにくに、と刺激する。
ずぼ。
イブキさんの身体が、風呂の中へと沈んだ。
頭が近づいてくる。俺の、股間へと。
風呂の中だというのに。
彼女は大きく口を開け、俺を口の中へと_____
「ちょおおおっと待ったぁ!」
ざばぁ。
マイサンが唇に触れる直前、イブキさんの身体が風呂から持ち上げられた。
マヤさんと吉野さんに捕獲されて。
「い、イブキあんた、うちらが睨み合ってる間に、ぬけぬけと」
「全く、油断も隙もありはしませんわ。抜け駆けは許しませんことよ?」
「うう」
かくん、とイブキさんが残念そうな顔をする。
いやそんな顔されても。こっちが残念なんですが。
と、3人が争っている間に、背中にいたいすずさんの手が、前に回ってきた。
半勃ちのマイサンをそっと握り、上下にこする。しこ。しこ。
「ほう、キミ、なかなかのもんやねえ。なぁ、あんなん放っといて、ふたりでええことしよ?はよぉ身体洗うて、ね?」
「は、はあ」
細い指で上下にこすられ、半太刀はいつか一本満足へと進化した。
いすずさんが嬉しそうに、顔を寄せてくる。
「わ、すごく立派。ああ、もう我慢できへんわぁ、もう、ここではよぉ_____」
するり、と前に回ったいすずさんが、俺の膝の上におしりを下ろす。
生のおしりの感触に、マイサンは天頂に光る一等星ベガを向いて直立する。
いすずさんはゆっくりと腰を上げ、胸元に俺の頭を抱きしめ、先端をあてがうと、徐々に腰を下ろして_______
「こらぁ!いすず!なにやっとんの!」
「泥棒猫が多すぎて困りますわ。これは、お仕置きが必要ですわね?」
「い、いや、うちはただ_____」
じたばたしながら、いすずさんがマヤさんと吉野さんに連行されていく。
あひぃぃ、と遠くで悲鳴が聞こえた。
ふう。
熱い。熱い。だめだ。もうのぼせそうだ。
「だ、大丈夫ですか?」
残っていたらしいイブキさんが、そっと俺のおでこに手を当ててくれた。
「いや、あの」
「水分補給を」
イブキさんが風呂のすぐ傍にあった筒を口に含み、俺の唇に押し当ててきた。
え。え。これって。
ごく。
冷たくて、濃厚な味わいの液体が、喉を通り過ぎていく。
うあ。
キス、してしまった。
でも、とても冷たくて、ものすごく美味しかった。
「もう一口、いかがですか?」
「い、いただきます」
イブキさんが、またとっくりを口に含む。
・・・・・・ん?とっくり?
てことは、これ。まさか。
イブキさんの唇が近づく。
んんっ、と俺の唇に触れて。
中の液体が、俺の口腔へと注ぎ込まれた。
ごく。ごく。飲み干す。
ああ。冷たい。氷水のようだ。
冷たくて、美味しい。
「・・・・・・もっと」
「はい」
イブキさんの頭を掴んだ。
今度は俺の方から、強く押し付ける。
彼女の舌が入ってきた。
れろ、れろ、と口の中をかき回される。
俺も、負けじと舌を侵入させた。
イブキさんの温かで冷たい口の中を、存分に味わう。
ああ。ああ。
美味しい。気持ちいい。冷たい。温かい。
ああ。
もうだめだ、のぼせそうだ。
体中が熱くなってきた。
イブキさんの唇の感触だけを感じながら。
俺は、意識を失った。
熱い。
暑い。
汗だくだ。
「・・・・・・さとや、さとや」
「・・・・・・ん」
「起きなさい、朝だよ」
じっちゃんの声。
俺は身体を起こした。
そこは、昨夜眠った伽藍のお堂の中だった。
まだ朝だが、セミたちがジイジイと鳴いていた。布団の中も、とても暑かった。
あれ、温泉旅館は、お風呂はどこだ。
「じっちゃん、俺、なんか、変な夢」
「朝の準備ができとるぞ。食べなさい」
「・・・・・・はい」
たくあんを食べながら、昨日の夢はなんだったんだろう、と思い浮かべた。
あれは夢だったんだろうか。現実としか思えないほどのリアリティ、そして感触だった。
ふと、神棚に供えられた一升瓶を見た。
俺が昨日運んできたもの。
それは、少し減っているように見えた。
真っ暗だった。月明かりしか見えない。
足元だけを見ながら、転ばないように歩いていた。
と、遠くに明かりが見えた。
人家だ。
近づくと、そこは旅館だった。
ガラ。
「こんばんは」
「あらどうも、からすまさんとこ?」
人の良さそうな浴衣のおばあさんが顔を出した。
「はい、あの、ここは」
「ささ、あがって。ゆっくりしていってね」
古い温泉旅館だった。
木張りの、歩くたびにぎしぎし鳴る床に古びた障子。でも小綺麗で虫が這ってたりもしない。
どこかで宴会の声が聞こえてきた。
「繁盛してるんですね」
「たまたまよ。普段は誰も来ないから。時々、団体さんが来てくれるの」
バスの人々を思い出した。
あの団体だろうか。
と、廊下で誰かに会った。
「あ」
「おや、からすまくんやないか。どうしてここに?」
マヤさんだった。
「いや、なんか、夜道を歩いてたら」
「おーおーおー、縁があるなあ。さあいこ、一緒に行こ」
「え、いこって、どこへ」
「んなもん、宴会に決まっとるやないか」
「いやでも、俺」
「ええ。ええんや。考えんのはあとやあとあと。いくで!」
腕を掴んでズルズルと引き摺られていく。
見かけによらず、すごい力だ。
あっという間に、広間まで連れられていった。
ガラ、と障子が開く。
「おー、みんな、からすまくん、捕まえてきたで!」
「「「おおおー」」」
全員が一斉に振り向く。
大広間にいたのは、やっぱりマヤさん同様、あのバスの団体様だった。
捕まえてきた、て。俺はカブトムシかよ。
「さ、ここ座り。はよすわり」
「ザブトンどこやー、箸と、コップも」
「いや俺、お金もってな」
「あらあら、お客さんもお知り合いでしたの?なら、食事も追加しておきますね」
コップにウーロン茶が注がれる。
「さあさあ、飲んでや」
「ども、いただきます」
大人数に囲まれる。
うう。コミュ障にはつらいぜ。
だけど、マヤさん達の団体はあんまり大はしゃぎする人も少なく(マヤさんは例外だったが)、話づらさはなかった。
あちこち旅行してるというだけあって、すごく知識も豊富で、全国各地の楽しい話を聞かせてくれた。
バスの先頭に座っていた老人、ノッポの人もひとり離れ静々と呑んでいた。
「あの人、藤さん、言うんやけどな」
「ええ」
「うちらの代表や。ホントは毎回旅行に行きたいんやけど、なかなかくじ引きに当たらんくてなあ」
「くじ引きで決めてんですか」
「うん。会員、800万人以上おるでなあ」
「は、はっぴゃくまんにん!?」
なんか有名な団体なんだろか。
「最初の頃に藤さん自身が決めたらしくてなあ、くじ引きで公正に、て。でもなかなか当たらんで、自分でやきもきしとるんや。今回はえろう機嫌がええで。うちもいすずも、ほんま久々や。やから、今日は騒ぐで!」
席の隣に、また別の女性が座った。
なんか、綺麗な人ばかりでほんと驚く。
「こんばんは、からすまさん。吉野、と申します」
「あ、ども」
「こちらでは初めまして、ですわね?」
「吉野さんも、バスに?」
「ええ。後ろに座っていましたもので。ご挨拶もできず、失礼致しました」
「いえ、そんな」
じ、と見つめられて、ちょっとドギマギしてしまう。
うちの学校の保健室の先生はすごい美人なのだが、その人に近い。胸なんて、リカちゃんを上回っているかもしれない。
さあ、と差し出され、つい飲んでしまってから、ウーロン茶とは違うような味がした。
あ、やべ。まあいいか。
「あーっ、よしの!あんた、うちのからすまくんになにしてんの!」
「あら、あなたのものじゃありませんわ、マヤ」
「てめえの魂胆は分かってんぜ、飲ませて部屋へ連れ込んで、若い肉体を根っこの根元まで味わう気やろ!?図星やろ!?」
「まあ、はしたなくて聴き苦しい言葉ですわ。あなたと一緒にしないで頂戴」
「こっちのセリフやあああ!」
「静かにせい!なちさんの前ぞ!」
突然、大声でノッポ老人が叫んだ。全員が押し黙る。
ぐ、とマヤさんも黙り込み、しおしおと座布団へ座った。
なちさん、らしき上座に座った小柄なおばあさんが、ニコニコしながら、まあまあ、とノッポ老人を宥めた。
「みなさん、仲良くお過ごし下さいね」
柔和な笑顔に、またあちこちで歓談が再開した。
いすずさんが、マヤさんにめっ、する。
「ほーら怒られた。ふたりとも、藤さんとなちさんに謝っといで」
「そうですわね。言いがかりをつけられただけですが、宴席を穢したことは謝るべきでしょう。さあ、行きますよマヤ」
「・・・・・・はーい」
マヤさんは吉野さんに連れられて、藤さん、と呼ばれたノッポ老人さんの前に正座させられ、頭を下げていた。
なちさん、と呼ばれた小柄なおばあさんは、ニコニコと笑ったままだった。
残ったいすずさんが、はぁい、とまたウーロン茶を注いでくれた。
「あのノッポの人、威厳ありますね」
「うん、うちらの代表やからねぇ。それにあの人ぉ、怒ると怖いんよぉ。とーんでもなく」
「そうなんだ」
「うん。いつやったかなぁ・・・・・・もうだいぶ前になるけどぉ、藤さんが怒ったもんで、しばらく旅行も中止ぃなってたしなぁ」
「それは・・・・・・怖いですね」
「怖かったよぉ。誰も話しかけられんかったしさぁ。何年もぉ」
「そんなに」
ノッポさんは怒らせちゃだめ。覚えた。
その後も宴会が続き、俺は食事も飲み物も、たくさん頂いた。
俺に出されたお膳よりも、お肉やら刺し身やら、上等のも。
「少年、お腹いっぱいになったかね?」
まだ落花生の袋を持ちながら、ナリタさんが声をかけてくれた。
「ええ、とても」
「なら、風呂に行こう」
ナリタさんに言われて、俺ははい、と立ち上がった。
大浴場の暖簾をくぐる。
「あ」
「あ」
目が合った。
イブキさんと。
彼女は、脱衣所で巫女の服装を脱ぎかけていた。
ぷるん、とたわわな何かが揺れる。
「あ、こ、これは、その」
「やあ、イブキさんも今から?」
「はい」
ナリタさんは何の躊躇もなく笑顔で言い、イブキさんも前を隠すことなく、むしろ下半身まで脱ぎ始めた。
いや、そ、そんなことしたら。ああ。ああ。あああ。
俺は前かがみになりつつ、慌てて目をそらし、その実しっかりと横目で観察しながら、自分の浴衣を脱いだ。
なんだろう、混浴だったのだろうか。最初、入る場所を間違えたのかと思った。
しかし、浴場はひとつしかないようだ。やっぱり混浴か。
ガララ
ガラス戸を開けると、湯けむりの向こうに、桃源郷が広がっていた。
一部枯れたお方もお見えだが、ちゃんとしっかりと、あちこちでたわわに花実が咲き誇っていた。たわわ。たわわ。
「やあ、もう洗い場がいっぱいだねえ」
ナリタさんはこともなげに言う。
いつもこんななんだろうか。
「仕方ない、先に湯に浸かろうか?」
「は、はい」
タオルで前を隠す。
混浴。こんよく。生まれて初めての混浴。
まさか、そんなものに出会うとは思ってなかった。
これじゃ、大浴場が大欲情になってしまう。
「おー、来たねえさとやくん。どう?ここの湯は」
「え、と、とてもいいと、思いまふ」
右腕をマヤさんに挟まれている。
女性一人に挟まれる、という謎の現象。どこに挟まれているんだろう。腕がナニか、柔らかいものに挟まれていた。
「あらあ、さきほどは途中で、失礼しましたわ。さあ、どうぞゆっくり、浸かっていって下さいね?」
今度は、左腕が挟まれた。
吉野さん。マヤさんよりもさらに大きなナニかに、左腕が挟み込まれていた。
「あらぁ、大人気やねぇ」
ほわん。
今度は背中にナニかが押し付けられている。
丸い、柔らかいなにか。ああ。ああ。
「ちょ、ちょっと吉野、あといすず、うちのからすまくんに手出しはなしやで」
「あら、いつからあなたのからすまくんになったのかしら?あんたみたいな年増、お呼びではないのではなくて?」
「だ、誰が年増や!吉野てめえ、おめえのほうが年増だろうがよ!」
「もうぅ、うるさいねぇこの人たち。ねぇからすまくん、一緒に、洗いっこしよかぁ?」
「は、はあ」
な、なんだこの展開。
人生で一度もモテたこともない俺が、どうして三方を美女に取り囲まれているんだ???
と、残り一方、前方から侵入する影があった。
イブキさんだった。
じー。
俺と他3人を見つめながら、お湯の中を近寄ってくる。
両腕と背中を押さえ込まれて動けない俺の、つま先に触れた。次に足首、膝。そして、ふともも。
ああ。あかん。そこから先は。
あ。
ああ。
イブキさんの細い指が、縮んだままのマイサンをつまんだ。
くにくに、と刺激する。
ずぼ。
イブキさんの身体が、風呂の中へと沈んだ。
頭が近づいてくる。俺の、股間へと。
風呂の中だというのに。
彼女は大きく口を開け、俺を口の中へと_____
「ちょおおおっと待ったぁ!」
ざばぁ。
マイサンが唇に触れる直前、イブキさんの身体が風呂から持ち上げられた。
マヤさんと吉野さんに捕獲されて。
「い、イブキあんた、うちらが睨み合ってる間に、ぬけぬけと」
「全く、油断も隙もありはしませんわ。抜け駆けは許しませんことよ?」
「うう」
かくん、とイブキさんが残念そうな顔をする。
いやそんな顔されても。こっちが残念なんですが。
と、3人が争っている間に、背中にいたいすずさんの手が、前に回ってきた。
半勃ちのマイサンをそっと握り、上下にこする。しこ。しこ。
「ほう、キミ、なかなかのもんやねえ。なぁ、あんなん放っといて、ふたりでええことしよ?はよぉ身体洗うて、ね?」
「は、はあ」
細い指で上下にこすられ、半太刀はいつか一本満足へと進化した。
いすずさんが嬉しそうに、顔を寄せてくる。
「わ、すごく立派。ああ、もう我慢できへんわぁ、もう、ここではよぉ_____」
するり、と前に回ったいすずさんが、俺の膝の上におしりを下ろす。
生のおしりの感触に、マイサンは天頂に光る一等星ベガを向いて直立する。
いすずさんはゆっくりと腰を上げ、胸元に俺の頭を抱きしめ、先端をあてがうと、徐々に腰を下ろして_______
「こらぁ!いすず!なにやっとんの!」
「泥棒猫が多すぎて困りますわ。これは、お仕置きが必要ですわね?」
「い、いや、うちはただ_____」
じたばたしながら、いすずさんがマヤさんと吉野さんに連行されていく。
あひぃぃ、と遠くで悲鳴が聞こえた。
ふう。
熱い。熱い。だめだ。もうのぼせそうだ。
「だ、大丈夫ですか?」
残っていたらしいイブキさんが、そっと俺のおでこに手を当ててくれた。
「いや、あの」
「水分補給を」
イブキさんが風呂のすぐ傍にあった筒を口に含み、俺の唇に押し当ててきた。
え。え。これって。
ごく。
冷たくて、濃厚な味わいの液体が、喉を通り過ぎていく。
うあ。
キス、してしまった。
でも、とても冷たくて、ものすごく美味しかった。
「もう一口、いかがですか?」
「い、いただきます」
イブキさんが、またとっくりを口に含む。
・・・・・・ん?とっくり?
てことは、これ。まさか。
イブキさんの唇が近づく。
んんっ、と俺の唇に触れて。
中の液体が、俺の口腔へと注ぎ込まれた。
ごく。ごく。飲み干す。
ああ。冷たい。氷水のようだ。
冷たくて、美味しい。
「・・・・・・もっと」
「はい」
イブキさんの頭を掴んだ。
今度は俺の方から、強く押し付ける。
彼女の舌が入ってきた。
れろ、れろ、と口の中をかき回される。
俺も、負けじと舌を侵入させた。
イブキさんの温かで冷たい口の中を、存分に味わう。
ああ。ああ。
美味しい。気持ちいい。冷たい。温かい。
ああ。
もうだめだ、のぼせそうだ。
体中が熱くなってきた。
イブキさんの唇の感触だけを感じながら。
俺は、意識を失った。
熱い。
暑い。
汗だくだ。
「・・・・・・さとや、さとや」
「・・・・・・ん」
「起きなさい、朝だよ」
じっちゃんの声。
俺は身体を起こした。
そこは、昨夜眠った伽藍のお堂の中だった。
まだ朝だが、セミたちがジイジイと鳴いていた。布団の中も、とても暑かった。
あれ、温泉旅館は、お風呂はどこだ。
「じっちゃん、俺、なんか、変な夢」
「朝の準備ができとるぞ。食べなさい」
「・・・・・・はい」
たくあんを食べながら、昨日の夢はなんだったんだろう、と思い浮かべた。
あれは夢だったんだろうか。現実としか思えないほどのリアリティ、そして感触だった。
ふと、神棚に供えられた一升瓶を見た。
俺が昨日運んできたもの。
それは、少し減っているように見えた。
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「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
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