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18 雪原リカ3-1
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18 雪原リカ3
うちの学校には、保健室に女神様がいる。
雪原リカ、通称リカちゃん先生。男性生徒や女子生徒から高い人気を誇る、美しき養護の先生である。
高校生にもなって保健室かよ、と笑わないで欲しい。身体の悩み、心の悩み、誰かに聞いて欲しい、共有してもらいたいことはたくさんあるのだ。
親にも、仲のいい友人にも言えないことは色々とある。
そんな時、リカちゃん先生はとても頼りになる。
俺たち生徒にとっては、同じ学校の卒業生であり、勉強も恋も進路も、何でも相談したら何でも答えてくれる。
学生の頃はバイトで予備校の講師をしていたそうだから、宿題だって教えてくれる。
もちろん、簡単に解決できるものばかりじゃないけど。
でも、吐き出すことで楽になることも多い。
「リカちゃん先生に話したら、なんだかすっきりしちゃった」
クラスのみんなの聞き役であるはずの雨屋でさえ、そんなふうに言うのだから。
誰かの言葉に傷ついた時、恋に悩んだ時、何もかもが嫌になった時。
保健室の扉を開く。
「保健室に来るだけでも、登校になるわよ。ここで休んでなさい。先生やお母さんには、わたしから連絡しておくから」
「きっとうまくいくわ。だめならまたチャレンジすればいいし、別の道もあるわよ?」
「それはつらいね。わたしも泣けてきちゃった。・・・・・・放課後時間を作るから、あとでゆっくり話そ?」
先生の言葉は、だいたいポジティブだ。
こんなこと話したら怒られるかなあ、てなことでも、優しく怒ってくれる。励ましてくれる。
女子の間では、困ったらリカちゃん先生に、てのは常識である。
医学的な知識も(高校生よりは)あるから、男子の悩みも聞いてくれたりする。
運動部員はたいていお世話になるし、テーピングのし方とか、捻挫した時の冷やし方とかも教えてくれる。
本当は病院に行くべきなんだろうけど、ちょっとしたことでフォローしてくれるのは本当に嬉しいしありがたい。
俺もしょっちゅう左の足首を捻挫するから、何度もお世話になった。
3年生の野球部のピッチャーも、2年の終わりに肩を壊して、もう投げられないと一度部活を辞めちゃったけど、リカちゃん先生のところに通って、リハビリして、カウンセリングまでしてもらって、またマウンドに立つことができた。今年また、甲子園を目指す。
男子高校生が抱えがちな煩悩にも、笑顔で応えてくれたりする。
それをいいことに、セクシャルなハラスメント的発言に及ぶ不届き者もいるけど。
「リカちゃんって、処女ですか?」
「そう見える?だったら嬉しいなあ」
「彼氏います?」
「世の中の男がほっとくと思う?」
「リカちゃん、セックス好き?」
「もちろんよ。愛し合えるって、とても素晴らしいことよ」
「リカちゃん、ちょっとゴムの使い方教えてください。俺のちんぽに」
「こら。でも指ならいいわよ。はい、中指出して。・・・・・・ほら、こうやってつけるのよ。先端の空気をちゃんと抜いて、表と裏を間違えないでね。ちゃんとした知識、身につけて」
「リカちゃん先生!俺の指、しゃぶって下さい!」
「そゆこと、クラスの女子に言っちゃだめよー」 (でこぴんのまね)
誰もリカちゃんには敵わない。
そんなみんなの尊敬を集める、知的でポジティブで笑顔でキュートでセクシーな先生が、俺は好きだ。
ある日、家に帰ると、玄関に見慣れないでかいシューズが置いてあった。
「兄貴」
「おう、サトヤ。ただいま」
「おかえり。どうしたの?」
「いや、たまには帰ってこないとな。・・・・・・今帰りか。今日は部活か?」
「うん」
「がんばってるな。バスケ、楽しんでるか?」
「うん。でも、やっぱり補欠だけど」
8コ上の兄貴、鴉間星矢はうちの高校のバスケ部OBである。普段、隣の県に住んでいる。大学を出て、就職して。
バスケの道には進まなかった。進学すると聞いた時に、NBA目指さないの?と真顔で聞いた俺に、そこまでうまくねーよ、と笑った。
時刻は夕方の18時、空腹で胃が痛い。
兄貴はソファで長い脚を組み、テレビを見ながらワイシャツのまま缶ビールを飲んでいた。我が兄ながら、こういうのが似合う男だ、と思ってしまう。
兄貴はちら、と俺を見た。
「あのさ、サトヤ」
「ん?」
「今度、付き合ってる人を連れてこようと思ってる」
「へえ。兄貴、結婚するの?」
「まあな。そういう前提だ。ちょっと驚くかもしれないが」
「別に。誰でもいいよ、兄貴が決めたんなら」
ふと、ある女性の顔が浮かんだ。
「そういえばさ、兄貴」
「ん?」
「雪原リカって名前、知ってる?」
「え?・・・・・・まあ、知ってるというか、覚えてるというか。高校の後輩だ。可愛い子だったな」
やっぱ覚えてるんだ。
夢に出てきた高校生の頃のリカちゃんも、可愛かったもんな。
「いま、保健室の先生してる。うちの学校で」
「おう。へえ。あいつがねえ。綺麗になってるんだろうな」
「うん。男子の人気がすげえ」
「なんとなく分かる、それ」
兄貴が笑い、俺も笑った。
ぐび、とビールを空ける。
「俺もさ、兄貴」
「ん?」
「カノジョ、いるんだ。また連れてくるよ」
「そうか、楽しみだな。美人か?」
「ん、まあまあ。兄貴の恋人がどんな人か分からないし」
「そうだな。・・・・・・まあ、想像に任せるよ」
「こっちも、想像に任せようかな」
また沈黙。
俺は、兄貴に聞きたいことがあった。
夢の中。
(時々ね、眠い授業の時、センパイが夢に出てきたの。・・・・・・楽しくて、ちょっとエッチなセンパイが、ね)
リカちゃん先生は、そう言っていた。
ってことは。
「兄貴」
「サトヤ」
口を出したのは、ほぼ同時。
兄貴は、ソファに座ったまま俺を振り向いた。
「お前も、夢に入れるんだな」
母さんがトンカツとか唐揚げとか大量に買ってきて、ちょっとしたパーティみたいになった。
兄貴はビールをガンガン飲み、父さんも嬉しそうに飲んでいた。成人した息子と飲むビールって美味しいんだろうか。
「まあまあ、父さん、調子に乗っちゃって」
んで、父さんは眠った。
俺は風呂に入り、部屋に兄貴を呼びに行った。
もう家を出ていったが、荷物はまだまだ置いてあるし、いつでも帰ってこられるよう、部屋もそのままだ。
「兄貴、次、風呂」
「おう」
宿題をしていると、ノックがして兄貴が入ってきた。
タオルで髪を拭いている。
「サトヤ、さっきの話」
「うん」
「夢の話、しようか」
「うん」
兄貴の話は、だいたい俺の予想通りだった。
兄貴は高校生の頃、不思議な体験をした。
古文の授業中(なんと、8年前から今と同じ教師だった)、眠くて仕方がない時、同級生の女の子に借りたシャーペンを握っていたら、その子の夢を見た。
あとで聞くと、その子も同じ夢を見ていた。
「夢の中でさ、もう、好き放題しちゃってさ」
「俺も同じ」
健全な男子高校生が、クラスメイトの女子の夢でヤることなど決まっている。
以来、盛ったサルのように、夢に侵入しては楽しんだ。
「兄貴はそんなことしないと思ってたけど」
「バカ言え。眼の前にチャンスがあって、むざむざ見逃せるかよ」
「うん、同感」
怖い夢を見たり、追いかけられたり。夢から出られなくなったり。
俺と同じことを、兄貴も体験していた。
悪いことばかりではなかった。夢で告白されたりしたという。
それもまた、俺と似ていた。
「雪原もそうだったな。あの子、後輩にめちゃ人気があってさ」
「だろな」
「でも、俺も気になっててさ。なんとか雪原のブルマとか手に入れて」
「変態だな兄貴」
「だけど、嬉しかったなあ。俺のこと好きだ、とか話してくれてさ。もう他に好きな人がいたから無理だったけど、誰もいなかったら、とか考えたよ」
ところが、異変が起こった。
「18歳の誕生日を迎えた途端、夢の能力が使えなくなったのさ」
「え!?」
「それ以来、もうあんな経験はできてないな。最後に何かしてしまったのか、とか、あの能力を使いすぎたとか、あとで色々考えたけど、やっぱり18歳になると消える能力だったのかもしれない。今は後悔してるよ。あの能力がずっとあれば、今の人間関係とかも、もっとうまくいくのにな」
18歳の誕生日。
それって、来月じゃないか。
なんてこった。俺はどこか、この能力がずっと永遠に続くもの、と思いこんでいた。
「どうしてこんな能力が?俺たち兄弟だけ」
「さあな。父さんにもそれっぽく聞いてみたことあるけど、ぜんぜん知らないようだった。父さんは17歳の頃に気づかなかったのか、あるいはそもそもなかったのかもしれない。もしかすると、忘れてしまったって可能性もある。俺だって、さっきお前の顔を見るまで、夢の能力のことはすっかり忘れてたよ」
「・・・・・・」
17歳の頃、女子の近くで、キーアイテムを持ったまま同時に眠る。
ありえそうで、なかなか気づかなくても不思議じゃない。
あるいはいずれ、記憶が消えてしまうんだろうか。夢だし。そんな映画、あったなあ。
「あと1ヶ月で誕生日だな。今を楽しめよ、サトヤ」
「うん」
「ちなみに、今のカノジョはあの能力でゲットしたのか?」
「ん、そうでもない。無関係じゃないけど」
ぱたん。
扉が閉まった。
俺は呆然としていた。
あと1ヶ月。短すぎる。
もし月曜5限に使うとすれば、あと4回しか使えない。もっと、もっともっと、楽しみたかったのに。
それと。
兄貴が話していないことがあった。
催眠だ。
森下を多目的トイレへ連れ込み、リカちゃん先生にフェラしてもらった、あの能力。
兄貴が言ってなかったってことは、あれは俺だけの能力なのか。あるいは、兄貴はそのタイミングで夢に入れなかったのか。
よし。決めた。
もう、躊躇している場合じゃない。
いま行動しなければ、あとで一生後悔する羽目になる。いつやるの?今でしょ?
チャンスは最大限に活かす。それが俺の主義だ。
最後まで、この力を目一杯使ってやる。
うちの学校には、保健室に女神様がいる。
雪原リカ、通称リカちゃん先生。男性生徒や女子生徒から高い人気を誇る、美しき養護の先生である。
高校生にもなって保健室かよ、と笑わないで欲しい。身体の悩み、心の悩み、誰かに聞いて欲しい、共有してもらいたいことはたくさんあるのだ。
親にも、仲のいい友人にも言えないことは色々とある。
そんな時、リカちゃん先生はとても頼りになる。
俺たち生徒にとっては、同じ学校の卒業生であり、勉強も恋も進路も、何でも相談したら何でも答えてくれる。
学生の頃はバイトで予備校の講師をしていたそうだから、宿題だって教えてくれる。
もちろん、簡単に解決できるものばかりじゃないけど。
でも、吐き出すことで楽になることも多い。
「リカちゃん先生に話したら、なんだかすっきりしちゃった」
クラスのみんなの聞き役であるはずの雨屋でさえ、そんなふうに言うのだから。
誰かの言葉に傷ついた時、恋に悩んだ時、何もかもが嫌になった時。
保健室の扉を開く。
「保健室に来るだけでも、登校になるわよ。ここで休んでなさい。先生やお母さんには、わたしから連絡しておくから」
「きっとうまくいくわ。だめならまたチャレンジすればいいし、別の道もあるわよ?」
「それはつらいね。わたしも泣けてきちゃった。・・・・・・放課後時間を作るから、あとでゆっくり話そ?」
先生の言葉は、だいたいポジティブだ。
こんなこと話したら怒られるかなあ、てなことでも、優しく怒ってくれる。励ましてくれる。
女子の間では、困ったらリカちゃん先生に、てのは常識である。
医学的な知識も(高校生よりは)あるから、男子の悩みも聞いてくれたりする。
運動部員はたいていお世話になるし、テーピングのし方とか、捻挫した時の冷やし方とかも教えてくれる。
本当は病院に行くべきなんだろうけど、ちょっとしたことでフォローしてくれるのは本当に嬉しいしありがたい。
俺もしょっちゅう左の足首を捻挫するから、何度もお世話になった。
3年生の野球部のピッチャーも、2年の終わりに肩を壊して、もう投げられないと一度部活を辞めちゃったけど、リカちゃん先生のところに通って、リハビリして、カウンセリングまでしてもらって、またマウンドに立つことができた。今年また、甲子園を目指す。
男子高校生が抱えがちな煩悩にも、笑顔で応えてくれたりする。
それをいいことに、セクシャルなハラスメント的発言に及ぶ不届き者もいるけど。
「リカちゃんって、処女ですか?」
「そう見える?だったら嬉しいなあ」
「彼氏います?」
「世の中の男がほっとくと思う?」
「リカちゃん、セックス好き?」
「もちろんよ。愛し合えるって、とても素晴らしいことよ」
「リカちゃん、ちょっとゴムの使い方教えてください。俺のちんぽに」
「こら。でも指ならいいわよ。はい、中指出して。・・・・・・ほら、こうやってつけるのよ。先端の空気をちゃんと抜いて、表と裏を間違えないでね。ちゃんとした知識、身につけて」
「リカちゃん先生!俺の指、しゃぶって下さい!」
「そゆこと、クラスの女子に言っちゃだめよー」 (でこぴんのまね)
誰もリカちゃんには敵わない。
そんなみんなの尊敬を集める、知的でポジティブで笑顔でキュートでセクシーな先生が、俺は好きだ。
ある日、家に帰ると、玄関に見慣れないでかいシューズが置いてあった。
「兄貴」
「おう、サトヤ。ただいま」
「おかえり。どうしたの?」
「いや、たまには帰ってこないとな。・・・・・・今帰りか。今日は部活か?」
「うん」
「がんばってるな。バスケ、楽しんでるか?」
「うん。でも、やっぱり補欠だけど」
8コ上の兄貴、鴉間星矢はうちの高校のバスケ部OBである。普段、隣の県に住んでいる。大学を出て、就職して。
バスケの道には進まなかった。進学すると聞いた時に、NBA目指さないの?と真顔で聞いた俺に、そこまでうまくねーよ、と笑った。
時刻は夕方の18時、空腹で胃が痛い。
兄貴はソファで長い脚を組み、テレビを見ながらワイシャツのまま缶ビールを飲んでいた。我が兄ながら、こういうのが似合う男だ、と思ってしまう。
兄貴はちら、と俺を見た。
「あのさ、サトヤ」
「ん?」
「今度、付き合ってる人を連れてこようと思ってる」
「へえ。兄貴、結婚するの?」
「まあな。そういう前提だ。ちょっと驚くかもしれないが」
「別に。誰でもいいよ、兄貴が決めたんなら」
ふと、ある女性の顔が浮かんだ。
「そういえばさ、兄貴」
「ん?」
「雪原リカって名前、知ってる?」
「え?・・・・・・まあ、知ってるというか、覚えてるというか。高校の後輩だ。可愛い子だったな」
やっぱ覚えてるんだ。
夢に出てきた高校生の頃のリカちゃんも、可愛かったもんな。
「いま、保健室の先生してる。うちの学校で」
「おう。へえ。あいつがねえ。綺麗になってるんだろうな」
「うん。男子の人気がすげえ」
「なんとなく分かる、それ」
兄貴が笑い、俺も笑った。
ぐび、とビールを空ける。
「俺もさ、兄貴」
「ん?」
「カノジョ、いるんだ。また連れてくるよ」
「そうか、楽しみだな。美人か?」
「ん、まあまあ。兄貴の恋人がどんな人か分からないし」
「そうだな。・・・・・・まあ、想像に任せるよ」
「こっちも、想像に任せようかな」
また沈黙。
俺は、兄貴に聞きたいことがあった。
夢の中。
(時々ね、眠い授業の時、センパイが夢に出てきたの。・・・・・・楽しくて、ちょっとエッチなセンパイが、ね)
リカちゃん先生は、そう言っていた。
ってことは。
「兄貴」
「サトヤ」
口を出したのは、ほぼ同時。
兄貴は、ソファに座ったまま俺を振り向いた。
「お前も、夢に入れるんだな」
母さんがトンカツとか唐揚げとか大量に買ってきて、ちょっとしたパーティみたいになった。
兄貴はビールをガンガン飲み、父さんも嬉しそうに飲んでいた。成人した息子と飲むビールって美味しいんだろうか。
「まあまあ、父さん、調子に乗っちゃって」
んで、父さんは眠った。
俺は風呂に入り、部屋に兄貴を呼びに行った。
もう家を出ていったが、荷物はまだまだ置いてあるし、いつでも帰ってこられるよう、部屋もそのままだ。
「兄貴、次、風呂」
「おう」
宿題をしていると、ノックがして兄貴が入ってきた。
タオルで髪を拭いている。
「サトヤ、さっきの話」
「うん」
「夢の話、しようか」
「うん」
兄貴の話は、だいたい俺の予想通りだった。
兄貴は高校生の頃、不思議な体験をした。
古文の授業中(なんと、8年前から今と同じ教師だった)、眠くて仕方がない時、同級生の女の子に借りたシャーペンを握っていたら、その子の夢を見た。
あとで聞くと、その子も同じ夢を見ていた。
「夢の中でさ、もう、好き放題しちゃってさ」
「俺も同じ」
健全な男子高校生が、クラスメイトの女子の夢でヤることなど決まっている。
以来、盛ったサルのように、夢に侵入しては楽しんだ。
「兄貴はそんなことしないと思ってたけど」
「バカ言え。眼の前にチャンスがあって、むざむざ見逃せるかよ」
「うん、同感」
怖い夢を見たり、追いかけられたり。夢から出られなくなったり。
俺と同じことを、兄貴も体験していた。
悪いことばかりではなかった。夢で告白されたりしたという。
それもまた、俺と似ていた。
「雪原もそうだったな。あの子、後輩にめちゃ人気があってさ」
「だろな」
「でも、俺も気になっててさ。なんとか雪原のブルマとか手に入れて」
「変態だな兄貴」
「だけど、嬉しかったなあ。俺のこと好きだ、とか話してくれてさ。もう他に好きな人がいたから無理だったけど、誰もいなかったら、とか考えたよ」
ところが、異変が起こった。
「18歳の誕生日を迎えた途端、夢の能力が使えなくなったのさ」
「え!?」
「それ以来、もうあんな経験はできてないな。最後に何かしてしまったのか、とか、あの能力を使いすぎたとか、あとで色々考えたけど、やっぱり18歳になると消える能力だったのかもしれない。今は後悔してるよ。あの能力がずっとあれば、今の人間関係とかも、もっとうまくいくのにな」
18歳の誕生日。
それって、来月じゃないか。
なんてこった。俺はどこか、この能力がずっと永遠に続くもの、と思いこんでいた。
「どうしてこんな能力が?俺たち兄弟だけ」
「さあな。父さんにもそれっぽく聞いてみたことあるけど、ぜんぜん知らないようだった。父さんは17歳の頃に気づかなかったのか、あるいはそもそもなかったのかもしれない。もしかすると、忘れてしまったって可能性もある。俺だって、さっきお前の顔を見るまで、夢の能力のことはすっかり忘れてたよ」
「・・・・・・」
17歳の頃、女子の近くで、キーアイテムを持ったまま同時に眠る。
ありえそうで、なかなか気づかなくても不思議じゃない。
あるいはいずれ、記憶が消えてしまうんだろうか。夢だし。そんな映画、あったなあ。
「あと1ヶ月で誕生日だな。今を楽しめよ、サトヤ」
「うん」
「ちなみに、今のカノジョはあの能力でゲットしたのか?」
「ん、そうでもない。無関係じゃないけど」
ぱたん。
扉が閉まった。
俺は呆然としていた。
あと1ヶ月。短すぎる。
もし月曜5限に使うとすれば、あと4回しか使えない。もっと、もっともっと、楽しみたかったのに。
それと。
兄貴が話していないことがあった。
催眠だ。
森下を多目的トイレへ連れ込み、リカちゃん先生にフェラしてもらった、あの能力。
兄貴が言ってなかったってことは、あれは俺だけの能力なのか。あるいは、兄貴はそのタイミングで夢に入れなかったのか。
よし。決めた。
もう、躊躇している場合じゃない。
いま行動しなければ、あとで一生後悔する羽目になる。いつやるの?今でしょ?
チャンスは最大限に活かす。それが俺の主義だ。
最後まで、この力を目一杯使ってやる。
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