眠姦学校

るふぃーあ

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16 本織朱音2-2

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「だめだ、本織」
「どうして?わたしがこういうことしてて、からすまくんに関係がありますか?」

関係は、ない。
一発ハメてしまえば、きっとこれからも本織は推しを応援できるし、俺も気持ちよくなれる。Win-Winだ。

だけど。

「関係は、ないな」
「じゃあ____」
「だけど、嫌だ」

さっきおっさんが本織の肩を抱き、嬉しそうにラブホへ連れ込んでいるのを見た時、違うと思った。
青臭い言い方かもしれないが、やっぱりそういう行為は、好きな人とするべきだ。
女子高生が、金のためにおっさんに身体を売るのは、間違ってる。

いや、違うな。
俺はただ、惜しかったのかもしれない。
別に好きでもないけど、本織はクラスメイトであり、言うなれば俺たちクラスの男子たちの所有物だ。どうせ股を開くなら、俺らに開けよ。

俺は彼女に、イヤホンを差し出した。

スマホに録音された、古文の授業、という名の睡眠兵器。
あっけなく、彼女はラブホのベッドで眠りに落ちた。
ちょっとイタズラしちゃいたい、あるいはパンツ姿をスマホに収めたい、などという欲求に抗い、俺もイヤホンを耳に押し込む。


そこは、大音響が鳴り響くライブ会場だった。
武道館など到底及ばない、教室よりも狭い小部屋。
そのステージの上で、5人組の男たちがマイクを握り、ギターをかき鳴らし、ドラムを叩いていた。

バンド名、「ピュア・ハートビート」。
熱狂的なファンたち、ほとんどすべて女性であり、ごく一部の男性も混じったファンたちが、手に手にペンライトを振りながら声援を送っていた。
ただうるさいだけの演奏が終わり、拍手喝采が起こる。

「みんなぁ、いつも応援、ありがとー!」

中央の金髪ピアスがマイクを握ると、また歓声が沸き起こった。
隣で本織も叫んでいた。

「りっくーん!」

りっくん、はリーダーのようだ。
彼はニヤついた顔で、紙を取り出した。

「では、恒例の発表。・・・・・・今月一番ボクのチェキを買ってくれたのは・・・・・・アキナ!」
「やったー!」

本織が叫び、周囲の女子たちが目に見えて落胆する。
アキナ、てのは本織のことなんだろう。めちゃ喜んでる。
他にも、メンバー別に最も「買ってくれた」ファンの名前を呼び、そのたびにあちこちで歓声が上がった。

「では、さっき名前を呼ばせてもらったみんなには、あとでメンバーとふたりっきりの撮影が許されるよ!特別なハグつき握手会と、メンバーのオリジナル写真も。トップの子には特別に、個人的なLIMEアドレスの交換もね!」

どっ、とまた歓声が上がった。
これを手に入れるために、彼女たち(一部彼氏たち)は毎月、売り上げを競う。
全く馬鹿な話だ、と思った。だけど、どこかで見た光景でもある。CDに握手券を入れるのと、やってることは何ら変わらない。

「みんな、僕たちはここから、日本を代表するミュージシャンになるって誓うよ!いつかみんなに恩返しできる日がくるから、それまで応援、どうぞよろしくね!ここにいるみんなが頼りだよ!」

どうっ。
最大の歓声と拍手に見送られて、5人がステージを後にした。

隣で声を枯らしていた本織は、まだ興奮冷めやらない、という顔をしていた。

「やった、からすまくん、ついにやったよ!りっくんのチェキ、ついに1位だよ!」
「良かったな」

ここまでは、彼女が「見たかった夢」だ。
さあ、次は「現実」を見に行こう。

俺は本織の手を引いて、ライブ会場を出た。
誰もいない廊下を歩く。

「どこへ行くの?からすまくん」
「真実を見に行くのさ」

俺は、ひとつの部屋の前で立ち止まった。
「ピュア・ハートビート様 控室」とある。
細く扉が開いていた。その隙間から、中の声が漏れ出していた。

「全く、馬鹿な連中だぜ」
「だな」

笑いが起こる。
さっきマイクを握っていた、「りっくん」の声だ。

「あいつら、こんな1枚十数円のチェキなんかに2000円も費やして、ばっかじゃねーの?」
「言えてる。脳みそ入ってないよな」

また笑い。
隣で、本織が息を呑む。

「まあでも、そのおバカで頭の足りない連中がいるからこそ、俺たちこうやって活動してられるっしょ?」
「だよな。あーあ、こんなちっさいハコじゃなくて、もっとでっけえところでライブがしたいぜ」
「メジャーデビュー、決まらないかなあ」
「決まったら、ソッコーでこんなとこオサラバだぜ。あのブタ女どもとも、早くオサラバできねえかなー」
「だよな。揃いも揃ってブタ小屋みたいにブッサイクばっかり集いやがって、ちょっとはマシな女も来いっての」

ひゃはは、と下卑た笑い。
そういえばさ、と誰かが言う。

「先週の女、あれどうなった?リック」
「え?ああ、あいつ。最後のカラオケまでノコノコついてきたから、あとでボッサいラブホ連れ込んで楽しんでやったぜ。ユーゾーとふたりでな」
「おおう、3Pかよ。うらやましー」
「へへ。写真見るか?これ」
「お、おお、バックとフェラかよ。すげえ」
「あとでアナルも味わってやったぜ。そしたらすげえ痛がりやがって、泣き叫んでやんの。マジウケたわ」
「なんだよおまえらだけ、アナルなら今度俺も呼べよ」
「やだよ、おまえ5人で中学生マワした時、処女奪いやがっただろ?俺もあの子の処女膜、欲しかったのになー」
「あーあ、いい女とやりてぇ。最っ高の女にシャブ射って、キメセクしてぇぜ」
「最近ヤク高いよな。質も悪いし」
「だよな。もっとチェキ売れねえかなー」

得体のしれない、煙の匂いがした。
タバコとはまた違う、嫌な匂い。

「そうだ、リック」
「ん?」
「今月お前のチェキ一番買った女、何だっけ?」
「ああ。えーと、アキナ、かな」
「そうそう、アキナ、あの女、風俗嬢らしいぜ?」

さっきよりも深く、息を呑む声。

「マジ?タダでやらせてくんねえかなー」
「ちらっと見たけど、あいつJKだよな。まあまあいい女だったぜ。今度呼び出して一緒にマワさね?」
「おう、いいな」
「オイまじかよ、オレっちも呼べよ」
「じゃあ5人でヤるか。順番はじゃんけんなー」
「5人で?鬼畜だなあ」
「だって風俗嬢っしょ?んなもん、毎日オヤジのチンポをよろこんでくわえてんだろ?5人でも10人でも一緒っしょ」
「汚ったねえよなあ。風俗嬢なんて、マジ生きてる意味ある?社会の最底辺だよな」
「口の中とか、チンカスとザーメンの臭いしそうだぜ」
「あはは。オヤジのチンカスの匂いとか、嗅いじゃったらマジ死ぬわー」

がたん。
本織が、おしりから床に崩折れた。

「何だ?今の音。見てこいよ」

ギイ。
扉が開いた。

ニヤリ、と男が唇の端を歪めた。


がこっ!
ブーツが腹に突き刺さり、俺は苦悶の表情で床をのたうち回った。

「覗き見とは、いけない子たちだねー」
「それ言うなら、覗き聞きじゃね?」
「盗み聞きだろ」
「どっちでもいいよ。こいつ、マジ弱いなー」

ガスッ。
頭を蹴られた。
派手に鼻血が噴出する。

「やめて!からすまくんに、ひどいことしないで!」

本織の叫ぶ声。
彼女は椅子に座らされ、俺が5人から交代で暴行を受ける光景を見せられていた。

りっくん、と呼ばれたリーダーが、タバコの火を俺に押し付けた。
じゅうう、と嫌な音がして、俺が絶叫する。

「ぎゃははは!こいつ、涙流してやんの!ウケるわー」
「灰皿にちょうどいいよね」
「お前なんなん?アキナちゃんの。ひょっとして彼氏?」

うう。
うめき声しか出ない。

口の中で、数本歯が折れていた。
最初の頃、何度もテーブルの端にぶつけられたせいだ。

「やめて!りっくん、どうかやめて!からすまくんに、そんなこと」
「からすまくん、アキナちゃんがこう言ってくれてるけど、どう?」
「うう、う」
「ほら、もっと遊びたいって言ってるよ。俺たちと。・・・・・・そうだ、君、風俗嬢なんだって?」
「・・・・・・」

5人の視線が、本織へと注がれた。
下品さをむき出しにした視線。

本織が腕で身体をかばう。

「どうかな、彼氏の前で、順番にってのは」
「いいね。賛成」
「アキナちゃん、チェキ買ってくれてありがとう。お礼にハメてあげるね。5人で」

ぎゃはははは。
りっくんはじー、とジッパーを下ろした。
萎びたモノがたらん、と垂れ下がっていた。

「さあ、まずは口でしてくれよ」
「・・・・・・嫌」
「はあ?聞こえないなあ」
「・・・・・・そんなの、いや」
「はあ?・・・・・・下品な風俗嬢のくせしやがって、お前に他になんの価値があんの?とっととしゃぶれよ!」

ずい、と本織の眼前に、それが突き出された。

「・・・・・・嫌い」
「は?」
「嫌い、きらい、きらい、りっくんも、ユーゾーも、全員、ぜんぶ、嫌い、嫌い!大嫌い!」

本織が叫ぶ。
その髪を、りっくんがキツくつかみ上げた。

「い、痛っ!」
「ああん?お前、立場分かってんの?ここ、男5人よ?君の彼氏は床でおねんね、ちゃんと理解できてる?できてないか、あたまソープだし」
「は、離してっ!た、たすけて、からすまくん、助けて!」
「・・・・・・おう」
「は?」

ごき。
りっくんの身体は斜め45度の角度で飛び、頭が天井に突き刺さった。
首から下だけがぴくぴく、と痙攣している。

「て、てめ」
「んのやろ!」

バキッ。ガスッ。ドカッ。
今回は、ストリートバスターターボくらいをイメージしてみました。
なかなか、いいコンボって決まりにくいよね。

「か、からすま、くん、大丈夫、なの?」
「んなわけねーだろ。・・・・・・まあ、ひどい目にはあったな」

夢だと分かっていても、結構痛かったぜ。
もう次はごめんだな。こういうやられ役は。

床にノビている奴らを放っておいて、俺たちは外へ出た。
ちょうど夜明けだった。徐々に上がってくる朝陽が眩しい。

「・・・・・・あんな人たちに、わたし、熱中してたのかな」
「さあな」
「なんだか、少し、ううん、すっかり夢から醒めちゃった。・・・・・・あんなふうに言われるって、つらいね」
「だな」

風俗嬢に対する評価。
あれは、俺の。それとも彼女自身の。
自分を汚れた存在と思って、それでも金を得るために必死だったんだろうか。

「・・・・・・キレイに、なれるかな」
「なれるさ」
「もう、汚れちゃってるのに?」
「洗濯して消毒して、あとはおひさまによーく干せばいい。それだけだろ」
「そっか。からすまくんが言うなら、そうなんだよね」

妙に納得した顔。
眩しい朝陽に手をかざして、本織は微笑んだ。

「ね、からすまくん」
「ん?」
「わたしね、からすまくんが好きなの」
「・・・・・・は?」
「好き、なの。知らなかった、でしょ?」
「ああ」

これは、彼女の本心なんだろうか。
それとも、助けてもらったことで、そういう気持ちが生まれたのか。

「ずっと、好きだよ。中学の頃から」
「・・・・・・」
「知らなかったでしょ?からすまくん、わたしと同じ中学だったこと」
「うん」
「あの頃から、ずっと好き。だから乗宮さんとのこと聞いた時、ショックだった。もう目の前真っ暗、みたいな」
「・・・・・・」
「そして、風俗とかパパ活とか、こんなのもからすまくんに知られちゃって、もうだめかなって」
「・・・・・・」
「だから、だからね、本当はしたかったんだよ。あの時。ラブホの時」
「・・・・・・」
「あれ、ラブホの時って、えーと・・・・・・あれ、これ、もしかして、夢____」

ぢりりりりりりん。
大きなベルの音がした。

ぱちり。
目を覚ますと、ラブホの天井の大きな鏡が見えた。
本織と手を繋いで、ベッドに転がっていた。

ぢりりりりりりん。
ベッドサイドの電話機が鳴っていた。
俺は受話器を取った。

「・・・・・・はい」
「フロントです。もうすぐお時間です。延長、されますか?」
「・・・・・・いえ」
「超過なしですね。料金は受け取っておりますので、キーはフロントのボックスへお返し下さい。またのご利用をお待ちしております」

いや、もう利用しないと思うけど。
受話器を置いた。

「・・・・・・さっきの、夢?」
「ああ」
「・・・・・・ものすごく、本物っぽかったけど・・・・・・」
「出ようぜ、本織」

俺は服を着た。
彼女も制服を身に着けた。その仕草だけで、ごはん2杯はいけそうだった。

外に出ると、もう夜だった。
俺と本織は、駅に向かって歩いた。

「・・・・・・からすまくん、さっきの」
「ああ」
「あれはただの夢、なんだよね?りっくんたち、あんなこと、しないよね?」
「さあな」

どこまでが俺の「想像かつ創造」なのか、あるいは本織が心の底で思っていることなのか。
俺はバンドの名前もメンバーも知らない。だから、俺だけが悪意を持って作り出した光景じゃない。
まあ、本物はあそこまで鬼畜じゃない、と信じたい。

「まだお布施、続けるのか?」
「・・・・・・分かんない。明日になったらまた、りっくん推しに戻ってるかもしれないし」
「もうやめろよ、本織。俺、そんなお前見てて嬉しくないからさ」
「うん。・・・・・・あ」

本織が、急に立ち止まった。
顔が赤い。どうしたんだ?

「あ、あ、あの、からすま、くん」
「ん?」
「そ、その、ちゅうがくの、ころ、とか」
「え?ああ、同じ中学だったよな。忘れてたぜ」
「あ、お、覚えてるの?その、好き、とか、言ったの」
「覚えてる」
「わ、忘れて!ぜんぶ!」

そう言うと、本織は脱兎のごとく駅へと駆け出していった。
俺は置いてきぼりになり、ぽかーんとしていた。

何だ、今の。
夢の中で好き、とか言うくらい、別にいいだろうに。
俺はまたひとりでトボトボと、駅へ向かって歩いた。
週末の駅前は、あちこちで光が瞬き、走り去る自動車と電車の音、ティッシュ配りの声が飛び交っていた。


この時、俺はまだ気づいていなかった。
俺と本織がラブホから出てくるのを、じっと見ていた視線に。
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