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16 本織朱音2-1
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16 本織朱音2
「んっ・・・・・・は、はああっ・・・・・・」
くぐもった音が、耳に届く。
エアコンをものともしない、強い夏の日光が差し込む俺の部屋で、俺たちは口づけを交わしていた。
親は下にいるけど、構うもんか。
つう、と彼女の喉を、汗が伝う。
いや、唾液かもしれない。俺か彼女の、あるいは両方の。
「か、カラスマ、こん、なの」
また唇を重ねる。
何度やっても飽きない。どんどん欲望が膨らむばかりだ。
俺は胸に手を当てた。そっと。
薄い胸だが、何もないわけじゃない。
Tシャツと、スポブラと、その向こうにある膨らみの弾力が、手のひらに伝わってきた。
「も、もう!調子乗りすぎ!」
「嫌か?」
「イヤとかじゃ、ないけどさ・・・・・・」
Tシャツを、脱がせる。
予想通りのライトブルーなスポーツブラが、外気と俺の目に露わとなった。
「は、恥ずかしいよ、カラスマ」
乗宮が、見せまいと腕で胸をかき抱く。
その仕草が可愛くて、俺は強引に腕を剥がし、谷間のないフラットな胸元へと口づけをした。
あれから、何も変わらなかった。
森下と全く喋らなくなった、てわけでもない。むしろよく話すようになった。
4人でLIMEグループ作ったり、スタバの新作ドリンクを試しに行ったり、図書館で勉強会したり、買い物に出かけたりもした。
トイレのタイミングとかで偶然、森下とふたりきりになっても、大して気まずさも感じなかった。普通にしゃべるれし、森下も笑顔だし、視線もあう。すぐに逸らされるけど。
何も言っていないのだろう、みつるの態度も変わらなかった。
乗宮にも。森下の件で浮気を責められたりはしなかった。
しばらくは怯えていたが、そのうち何とも思わなくなった。
むしろ、乗宮に対して大胆になった。毎日のようにキスするようになった。それ以上のことも。
最初は軽く身体に触れるだけで怒ってきたが、そのうちされるがままになり、「勉強会」と称して互いの家に上がり込み、キスしたり身体に触れ合ったり、互いの性器に服の上から触れたりした。
乗宮は父親と二人暮らしであり、夜帰ってくるのが遅かった。だから何度も学校帰りに「寄り道」して、彼女の部屋で愛撫しあった。
まだブラやショーツを外したことはないが、下着で抱き合ったことだって一度や二度ではない。
夢の中では、もう何度もセックスをした。
夢の中の乗宮は、俺に対して従順だった。言われるままに口で奉仕し、身体を貫かれて愉悦の声を上げた。
「だって、夢の中では我慢できないんだもん、声が」
どく。どく。どく。
毎回、彼女の膣内に出した。孕ませたかった。
夢の中だけの世界があれば、もうとっくに妊娠してるんじゃないかと思えた。
森下のことも。
本当は嫌がってなかったんじゃないか、そんなふうに思えた。
もう一度催眠をかければ、次こそ落とせるんじゃないか、そう思った。
だから、乗宮の身体を貪った。計画通り森下と付き合うことになれば、乗宮はもう恋人ではなくなる。こんなことやあんなこともできなくなる。
だから、今のうちに。できるだけ、やれるだけのことを。
ぱち。
ブラのホックが偶然、背中で外れた。
「え、や、やだ」
「これって、いいってことだよな」
「だめ、だめぇ!」
ブラを剥ぎ取った。
剥き出しになった乳首は、夢の中のものとは少し違った。あれは俺と乗宮の、空想上の産物なのだから。
本物の乗宮の乳首はより大きくて、しっかりと前へ突き出していた。
「へえ、本当はこんな、なんだ」
「やだあ、見ないで・・・・・・」
俺は舌を伸ばし、その突起部分を舐めた。何度も。
吸い付き、甘噛みしてみた。でも夢と違って、甘い蜜は出なかった。
「・・・・・・い、痛いよ、カラスマ」
「悪い」
夢では痛みなど訴えない。やっぱり生身とは違う。
でもどっちがいいって、生身のほうが何十倍も良かった。
ショーツに手を掛けた。
乗宮は、今度こそはっきりと拒絶した。
「だめ!」
「いいだろ、やらせろよ」
「だめ!ダメだよカラスマ!わたしたちの関係、忘れたの!?嘘の関係なんだよ!?これ以上はだめ、絶対にだめだからね!」
「・・・・・・分かってる」
彼女の瞳に涙が浮かんでいた。
やりすぎだ。
もう、帰る時間だった。乗宮はこれから塾がある。
互いの衣服を直し、俺の部屋を出た。
「お邪魔、しましたあ」
「あら乗宮さん、いつも勉強見てくれて、ありがとね。・・・・・・里矢、乗宮さんに変なこと、してないでしょうね?」
「してねーよ」
母親に平然と嘘をつき、外へ出た。
じゃあここで、と彼女は途中の公園で手を振る。
送っていく、と言ったが、乗宮は電車の時間ギリだし走る、と駆けて行ってしまった。この暑い中、よく平気なもんだ。
はあ。
俺はひとりトボトボと道を歩いた。行くあてもなく。
だんだん、分からなくなっていた。
俺は本当に、森下が好き、なんだろうか。
もしかして、乗宮のことが好きなんじゃないのか。
森下は可愛い。今でも好きなことには違いない。
でも、乗宮以上、なんだろうか。
乗宮の声、乗宮の笑顔、乗宮の身体に慣れすぎてしまっている。
もし森下と付き合ったとして、森下はここまでさせてくれるんだろうか。みつるとキスもしてなかったのに。
もし、拒否されたら?
清いお付き合い、それでもいいと、ついこないだまで思っていた。
でも今は違う。何もさせてくれない森下よりも、夢の中でいつもフェラしてくれて、好き放題セックスさせてくれて、現実世界でも触らせてくれたり、触ってくれる乗宮の方がいい。それは間違いない。
男って、単純なもんだな。
いや、男だけだろうか。
乗宮は、今でもみつるが好きなのか?本当に?
(あれ、本織じゃね?)
横断歩道を横切る女子高生。
別の学校の制服だ。一見別人に見えるが、こないだすぐ真近でこの制服姿を見た俺には、間違えようもなかった。
(出勤、かな)
彼女はれっきとした高校生だ。だが隠れて裏のバイトをしていることを、俺だけが知っている。
うちの学校は基本バイト禁止だ。いやそれ以前に、彼女のバイトは絶対に認められないだろう。
風俗嬢。
先日彼女の夢に入ってから、ちょっとネットで調べてみた。
(うわ、これだ)
狭い部屋に、ベッドとお風呂。真ん中に穴の開いた金色の椅子。
あれは間違いなく風俗だ。彼女が風俗店に客として入っているはずもないから、やはり嬢としてバイトしているんだろう。
(風俗嬢って柄には、思えないけどなあ)
どっちかっていうと、地味な印象のクラスメイトである。
髪はちょっとパーマっぽくて木津川ほど地味ではないが、他にギャルっぽいのはもっといるし、本織が風俗、てのはイメージに泡無い、いや合わない。
俺も他人から聞いただけでは、まず「人違いじゃね?」とか思ってしまうだろう。
まあ、そういう嬢こそウケるのかもしれないが。おっさんあたりに。
俺はあとをつけた。今日は塾も用事もない。
彼女の足は駅へと向かっていた。電車に乗り込み、街へと向かう。
思っていたよりも遠い駅に、彼女は降り立った。スマホをちらちらと見ながら、古そうな商店街を抜け、角をいくつか曲がる。
(ん?喫茶店?)
一軒の喫茶店へ、彼女は入っていった。
コーヒーでも飲みに来ただけなのか?わざわざこんな遠い場所まで?
そう思っていると、すぐに彼女は出てきた。ただし、二人連れで。
パパ活。あるいは援交。
一瞬でそんな言葉が浮かんだ。
うつむいて歩く本織の肩を、ニヤけた顔の中年のハゲたおっさんが嬉しそうに抱きながら、細い裏通りを歩いていく。
やがて、一軒の建物の前で止まった。
そこは、薄汚れた古いラブホだった。
おっさんがラブホを指差し、本織が頷く。
何かを本織に渡していた。
おっさんと本織は、中へ入っていった。
俺は気づかれないように、そっと入口をくぐった。
ひっそりとしたフロント。小さな窓しかないそこから、おっさんは鍵を受け取っていた。
そのまま階段を昇る。とある部屋の前で立ち止まり、鍵を開けて本織を中へ入れた。
扉が閉まる直前、俺は廊下をダッシュしてドアの隙間に足先を突っ込んだ。
強引に扉を開ける。
「な、何だね君は____」
パシャ。
スマホのフラッシュを焚いた。
おっさんの顔と、その奥でソファに座る本織。
「騒げば警察へ通報する」
「な」
おっさんは絶句した。
一瞬、険しい表情で俺を睨んだ。暴力で言うことを聞かせれば、とでも思ったのだろう。
だが、観念した顔になった。警察沙汰になれば、困るのはどちらか明らかだ。
「・・・・・・写真を、消してくれ」
「素直に出ていったらそうする」
そう言うと、おっさんは残念そうに本織を振り返り、金を返せ、と言った。
本織が諭吉たちを差し出すと、奪うように掴み、俺をひと睨みして去っていった。
「本織」
俺が名前を呼ぶと、彼女はびく、と肩を震わせた。
ソファに座ったままで。
「・・・・・・からすま、くん」
「おまえ」
なんと言えばいいのか、分からなかった。
売春などするな、とか?
俺になんの権利があるっていうんだ。
「・・・・・・なんで分かったの」
「こないだ、夢で」
はっとした表情で、俺の顔を見つめる。
「・・・・・・からすまくん、あれって、本当の夢だったの?」
「まあ、夢だな」
「あなたは何者なの?どうして人の夢を覗けるの?」
「さあ。時々、居眠りすると、誰かの夢に入ったりすることがある」
本当はキーアイテムとかあるが、詳しくは言うまい。
「・・・・・・どうしたら」
「ん?」
「何をしたら、このこと黙っててくれますか?親とか学校とかに」
やっぱり、内緒なんだ。
そりゃそうだよな。こんなことしてて、喜ぶ親はいないだろう。
何をしたら、か。
やっぱりお金か。
あるいは、ナニか。うへへへ、黙っておいてやるからヤラせろよ。
本織が俺を見た。
「・・・・・・その、一回だけ、でどうかな」
「え?」
俺はごく、と唾を飲み込んだ。
「一回だけ、させてあげます。からすまくんに。それで、黙っててくれますか?」
「・・・・・・」
「学校とか親にチクったら、乗宮さんに言いつけます」
う。
そりゃまあ、したいけど。
でも、乗宮に言いつけられるのは。
たった1回のことで彼女を失うのは、割に合わん。
「そんなことより、辞めろよ、こんなの。売春だろ」
「パパ活、です」
「同じだろうが。言葉が違うだけだ。おまえ、風俗もやってるだろ」
「・・・・・・あちらは辞めました。身バレが怖いから」
「さっきのおっさんは?」
「その時のお客さんとかが、今でもついてくれて。個人的に会ってるだけです。あと、SNSで募集したりとか」
「なんでそんなことを」
「・・・・・・お金が、いるんです。どうしても」
金?
彼女の家は、娘を売春させなければならないほど貧乏なんだろうか。そんな噂は聞いたこともなかったが。
「金って、家が貧乏なのか?」
「違います。自分で使えるお金がいるんです。チェキを買うお金が」
「チェキ?」
「はい。・・・・・・推しの地下アイドルがいるんです。その人のこと、めっちゃ応援してるんです。その人のライブ行って、グッズとかチェキ買って、その人の売り上げをグループで1位にしたら、すっごく喜ばれます。ありがとうって、たくさん買ったら手も握ってくれるし、すっごく伸ばせば、ほっぺにキスとかもしてくれたり」
「・・・・・・」
なんだそれ。
ただのヒモじゃないか。いや、ヒモとは違うか。
「・・・・・・おまえなあ」
「推しの気持ちなんて、他の人には分からないです。今はその人のことしか考えられない。その人が笑顔になれば、それがわたしの幸せだから」
だめだ。完全に狂ってやがる。
「推しのためなら、わたしなんでもします。・・・・・・からすまくんが、黙っててくれたら」
ぱさ。
彼女がスカートを外した。床に落ちる。
真っ白なパンティが、目と脳天に突き刺さる。
彼女が近づいてきた。
風俗嬢をしていた彼女のテクは、俺も身をもって知っている。
あれが、現実でも味わえるのなら。
夢の中で、俺は何人もの女性と関係を持った。
だけど、リアルではしたことがない。
したい。
したい。したい。セックスしたい。それは健全なる男子高校生として、嘘偽りのない感情だった。
ヤりたい。本物の、本織の身体を抱いてみたい。あの夢の中みたいに。
きっと、ものすごい快感なのだろう。
彼女の手を、口を、膣の感触を味わってみたかった。
心臓が高鳴り、チンコの血管が切れそうなほどに怒張しているのがわかった。
そっと、彼女の腕を掴む。
「んっ・・・・・・は、はああっ・・・・・・」
くぐもった音が、耳に届く。
エアコンをものともしない、強い夏の日光が差し込む俺の部屋で、俺たちは口づけを交わしていた。
親は下にいるけど、構うもんか。
つう、と彼女の喉を、汗が伝う。
いや、唾液かもしれない。俺か彼女の、あるいは両方の。
「か、カラスマ、こん、なの」
また唇を重ねる。
何度やっても飽きない。どんどん欲望が膨らむばかりだ。
俺は胸に手を当てた。そっと。
薄い胸だが、何もないわけじゃない。
Tシャツと、スポブラと、その向こうにある膨らみの弾力が、手のひらに伝わってきた。
「も、もう!調子乗りすぎ!」
「嫌か?」
「イヤとかじゃ、ないけどさ・・・・・・」
Tシャツを、脱がせる。
予想通りのライトブルーなスポーツブラが、外気と俺の目に露わとなった。
「は、恥ずかしいよ、カラスマ」
乗宮が、見せまいと腕で胸をかき抱く。
その仕草が可愛くて、俺は強引に腕を剥がし、谷間のないフラットな胸元へと口づけをした。
あれから、何も変わらなかった。
森下と全く喋らなくなった、てわけでもない。むしろよく話すようになった。
4人でLIMEグループ作ったり、スタバの新作ドリンクを試しに行ったり、図書館で勉強会したり、買い物に出かけたりもした。
トイレのタイミングとかで偶然、森下とふたりきりになっても、大して気まずさも感じなかった。普通にしゃべるれし、森下も笑顔だし、視線もあう。すぐに逸らされるけど。
何も言っていないのだろう、みつるの態度も変わらなかった。
乗宮にも。森下の件で浮気を責められたりはしなかった。
しばらくは怯えていたが、そのうち何とも思わなくなった。
むしろ、乗宮に対して大胆になった。毎日のようにキスするようになった。それ以上のことも。
最初は軽く身体に触れるだけで怒ってきたが、そのうちされるがままになり、「勉強会」と称して互いの家に上がり込み、キスしたり身体に触れ合ったり、互いの性器に服の上から触れたりした。
乗宮は父親と二人暮らしであり、夜帰ってくるのが遅かった。だから何度も学校帰りに「寄り道」して、彼女の部屋で愛撫しあった。
まだブラやショーツを外したことはないが、下着で抱き合ったことだって一度や二度ではない。
夢の中では、もう何度もセックスをした。
夢の中の乗宮は、俺に対して従順だった。言われるままに口で奉仕し、身体を貫かれて愉悦の声を上げた。
「だって、夢の中では我慢できないんだもん、声が」
どく。どく。どく。
毎回、彼女の膣内に出した。孕ませたかった。
夢の中だけの世界があれば、もうとっくに妊娠してるんじゃないかと思えた。
森下のことも。
本当は嫌がってなかったんじゃないか、そんなふうに思えた。
もう一度催眠をかければ、次こそ落とせるんじゃないか、そう思った。
だから、乗宮の身体を貪った。計画通り森下と付き合うことになれば、乗宮はもう恋人ではなくなる。こんなことやあんなこともできなくなる。
だから、今のうちに。できるだけ、やれるだけのことを。
ぱち。
ブラのホックが偶然、背中で外れた。
「え、や、やだ」
「これって、いいってことだよな」
「だめ、だめぇ!」
ブラを剥ぎ取った。
剥き出しになった乳首は、夢の中のものとは少し違った。あれは俺と乗宮の、空想上の産物なのだから。
本物の乗宮の乳首はより大きくて、しっかりと前へ突き出していた。
「へえ、本当はこんな、なんだ」
「やだあ、見ないで・・・・・・」
俺は舌を伸ばし、その突起部分を舐めた。何度も。
吸い付き、甘噛みしてみた。でも夢と違って、甘い蜜は出なかった。
「・・・・・・い、痛いよ、カラスマ」
「悪い」
夢では痛みなど訴えない。やっぱり生身とは違う。
でもどっちがいいって、生身のほうが何十倍も良かった。
ショーツに手を掛けた。
乗宮は、今度こそはっきりと拒絶した。
「だめ!」
「いいだろ、やらせろよ」
「だめ!ダメだよカラスマ!わたしたちの関係、忘れたの!?嘘の関係なんだよ!?これ以上はだめ、絶対にだめだからね!」
「・・・・・・分かってる」
彼女の瞳に涙が浮かんでいた。
やりすぎだ。
もう、帰る時間だった。乗宮はこれから塾がある。
互いの衣服を直し、俺の部屋を出た。
「お邪魔、しましたあ」
「あら乗宮さん、いつも勉強見てくれて、ありがとね。・・・・・・里矢、乗宮さんに変なこと、してないでしょうね?」
「してねーよ」
母親に平然と嘘をつき、外へ出た。
じゃあここで、と彼女は途中の公園で手を振る。
送っていく、と言ったが、乗宮は電車の時間ギリだし走る、と駆けて行ってしまった。この暑い中、よく平気なもんだ。
はあ。
俺はひとりトボトボと道を歩いた。行くあてもなく。
だんだん、分からなくなっていた。
俺は本当に、森下が好き、なんだろうか。
もしかして、乗宮のことが好きなんじゃないのか。
森下は可愛い。今でも好きなことには違いない。
でも、乗宮以上、なんだろうか。
乗宮の声、乗宮の笑顔、乗宮の身体に慣れすぎてしまっている。
もし森下と付き合ったとして、森下はここまでさせてくれるんだろうか。みつるとキスもしてなかったのに。
もし、拒否されたら?
清いお付き合い、それでもいいと、ついこないだまで思っていた。
でも今は違う。何もさせてくれない森下よりも、夢の中でいつもフェラしてくれて、好き放題セックスさせてくれて、現実世界でも触らせてくれたり、触ってくれる乗宮の方がいい。それは間違いない。
男って、単純なもんだな。
いや、男だけだろうか。
乗宮は、今でもみつるが好きなのか?本当に?
(あれ、本織じゃね?)
横断歩道を横切る女子高生。
別の学校の制服だ。一見別人に見えるが、こないだすぐ真近でこの制服姿を見た俺には、間違えようもなかった。
(出勤、かな)
彼女はれっきとした高校生だ。だが隠れて裏のバイトをしていることを、俺だけが知っている。
うちの学校は基本バイト禁止だ。いやそれ以前に、彼女のバイトは絶対に認められないだろう。
風俗嬢。
先日彼女の夢に入ってから、ちょっとネットで調べてみた。
(うわ、これだ)
狭い部屋に、ベッドとお風呂。真ん中に穴の開いた金色の椅子。
あれは間違いなく風俗だ。彼女が風俗店に客として入っているはずもないから、やはり嬢としてバイトしているんだろう。
(風俗嬢って柄には、思えないけどなあ)
どっちかっていうと、地味な印象のクラスメイトである。
髪はちょっとパーマっぽくて木津川ほど地味ではないが、他にギャルっぽいのはもっといるし、本織が風俗、てのはイメージに泡無い、いや合わない。
俺も他人から聞いただけでは、まず「人違いじゃね?」とか思ってしまうだろう。
まあ、そういう嬢こそウケるのかもしれないが。おっさんあたりに。
俺はあとをつけた。今日は塾も用事もない。
彼女の足は駅へと向かっていた。電車に乗り込み、街へと向かう。
思っていたよりも遠い駅に、彼女は降り立った。スマホをちらちらと見ながら、古そうな商店街を抜け、角をいくつか曲がる。
(ん?喫茶店?)
一軒の喫茶店へ、彼女は入っていった。
コーヒーでも飲みに来ただけなのか?わざわざこんな遠い場所まで?
そう思っていると、すぐに彼女は出てきた。ただし、二人連れで。
パパ活。あるいは援交。
一瞬でそんな言葉が浮かんだ。
うつむいて歩く本織の肩を、ニヤけた顔の中年のハゲたおっさんが嬉しそうに抱きながら、細い裏通りを歩いていく。
やがて、一軒の建物の前で止まった。
そこは、薄汚れた古いラブホだった。
おっさんがラブホを指差し、本織が頷く。
何かを本織に渡していた。
おっさんと本織は、中へ入っていった。
俺は気づかれないように、そっと入口をくぐった。
ひっそりとしたフロント。小さな窓しかないそこから、おっさんは鍵を受け取っていた。
そのまま階段を昇る。とある部屋の前で立ち止まり、鍵を開けて本織を中へ入れた。
扉が閉まる直前、俺は廊下をダッシュしてドアの隙間に足先を突っ込んだ。
強引に扉を開ける。
「な、何だね君は____」
パシャ。
スマホのフラッシュを焚いた。
おっさんの顔と、その奥でソファに座る本織。
「騒げば警察へ通報する」
「な」
おっさんは絶句した。
一瞬、険しい表情で俺を睨んだ。暴力で言うことを聞かせれば、とでも思ったのだろう。
だが、観念した顔になった。警察沙汰になれば、困るのはどちらか明らかだ。
「・・・・・・写真を、消してくれ」
「素直に出ていったらそうする」
そう言うと、おっさんは残念そうに本織を振り返り、金を返せ、と言った。
本織が諭吉たちを差し出すと、奪うように掴み、俺をひと睨みして去っていった。
「本織」
俺が名前を呼ぶと、彼女はびく、と肩を震わせた。
ソファに座ったままで。
「・・・・・・からすま、くん」
「おまえ」
なんと言えばいいのか、分からなかった。
売春などするな、とか?
俺になんの権利があるっていうんだ。
「・・・・・・なんで分かったの」
「こないだ、夢で」
はっとした表情で、俺の顔を見つめる。
「・・・・・・からすまくん、あれって、本当の夢だったの?」
「まあ、夢だな」
「あなたは何者なの?どうして人の夢を覗けるの?」
「さあ。時々、居眠りすると、誰かの夢に入ったりすることがある」
本当はキーアイテムとかあるが、詳しくは言うまい。
「・・・・・・どうしたら」
「ん?」
「何をしたら、このこと黙っててくれますか?親とか学校とかに」
やっぱり、内緒なんだ。
そりゃそうだよな。こんなことしてて、喜ぶ親はいないだろう。
何をしたら、か。
やっぱりお金か。
あるいは、ナニか。うへへへ、黙っておいてやるからヤラせろよ。
本織が俺を見た。
「・・・・・・その、一回だけ、でどうかな」
「え?」
俺はごく、と唾を飲み込んだ。
「一回だけ、させてあげます。からすまくんに。それで、黙っててくれますか?」
「・・・・・・」
「学校とか親にチクったら、乗宮さんに言いつけます」
う。
そりゃまあ、したいけど。
でも、乗宮に言いつけられるのは。
たった1回のことで彼女を失うのは、割に合わん。
「そんなことより、辞めろよ、こんなの。売春だろ」
「パパ活、です」
「同じだろうが。言葉が違うだけだ。おまえ、風俗もやってるだろ」
「・・・・・・あちらは辞めました。身バレが怖いから」
「さっきのおっさんは?」
「その時のお客さんとかが、今でもついてくれて。個人的に会ってるだけです。あと、SNSで募集したりとか」
「なんでそんなことを」
「・・・・・・お金が、いるんです。どうしても」
金?
彼女の家は、娘を売春させなければならないほど貧乏なんだろうか。そんな噂は聞いたこともなかったが。
「金って、家が貧乏なのか?」
「違います。自分で使えるお金がいるんです。チェキを買うお金が」
「チェキ?」
「はい。・・・・・・推しの地下アイドルがいるんです。その人のこと、めっちゃ応援してるんです。その人のライブ行って、グッズとかチェキ買って、その人の売り上げをグループで1位にしたら、すっごく喜ばれます。ありがとうって、たくさん買ったら手も握ってくれるし、すっごく伸ばせば、ほっぺにキスとかもしてくれたり」
「・・・・・・」
なんだそれ。
ただのヒモじゃないか。いや、ヒモとは違うか。
「・・・・・・おまえなあ」
「推しの気持ちなんて、他の人には分からないです。今はその人のことしか考えられない。その人が笑顔になれば、それがわたしの幸せだから」
だめだ。完全に狂ってやがる。
「推しのためなら、わたしなんでもします。・・・・・・からすまくんが、黙っててくれたら」
ぱさ。
彼女がスカートを外した。床に落ちる。
真っ白なパンティが、目と脳天に突き刺さる。
彼女が近づいてきた。
風俗嬢をしていた彼女のテクは、俺も身をもって知っている。
あれが、現実でも味わえるのなら。
夢の中で、俺は何人もの女性と関係を持った。
だけど、リアルではしたことがない。
したい。
したい。したい。セックスしたい。それは健全なる男子高校生として、嘘偽りのない感情だった。
ヤりたい。本物の、本織の身体を抱いてみたい。あの夢の中みたいに。
きっと、ものすごい快感なのだろう。
彼女の手を、口を、膣の感触を味わってみたかった。
心臓が高鳴り、チンコの血管が切れそうなほどに怒張しているのがわかった。
そっと、彼女の腕を掴む。
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