眠姦学校

るふぃーあ

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13 真行寺楓2-1

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13 真行寺楓2

「乗宮と、つきあうことになった」
「へえ。・・・・・・・・・・・・おめでとう、やったなさとや」

少し、沈黙があった。

なぜ、とも、どうやって、とも、みつるは聞いてこなかった。
朝の電車。吊り革の隣で、奴はいつもの柔和な笑顔を崩さなかった。

「・・・・・・何も聞かないのか」
「さとやと乗宮、いい組み合わせだと思うぜ」
「けど」

駅に到着し、ゾロゾロと道を歩く。
教室に入るまで、何も話さなかった。

「よ」
「よ」

乗宮が先に来ていて、右手を上げた。みつるも、俺も上げる。
それ以上、特に何も言葉はなかった。

乗宮を見つめた。
一瞬目があって、視線が外れた。

「おはよー!みつるくん」

森下が入ってきた。
いつもの、輝くような笑顔。

乗宮も可愛いけど、やっぱり羨ましい。

「からすまくん、乗宮さんとお付き合いしてらっしゃるのですか?」

突然背後から別の声に聞かれて、俺は振り向いた。
乗宮も、みつるも、森下もそちらを向く。

クールビューティーに微笑んでいるのは、クラス一、いや学年一、いや学園一の美女、真行寺楓だった。


「・・・・・・あいつら、付き合ってるらしいぜ」
「へえ、いつのまに」
「バスケ部だし」
「乗宮の方が、背高くね?」
「もうやってんのかなあ。羨ましいぜ」

昼休み。
周囲から、あれこれ詮索する声が聞こえてきた。

乗宮とのことを、別に隠しておくつもりもなかった。ふたりでそう決めた。
だが、積極的に言いふらすつもりもなかった。それがこんな形で。

しかし、真行寺はなぜ知っていたのか。
昨日、付き合ったばかりだというのに。

「からすまくん」

放課後の屋上で、俺は真行寺を睨みつけた。
彼女から呼び出されたのだ。



「そんなに睨まないで。・・・・・・話してはまずかったかしら?」
「大声で、クラス中に聞こえるように言う必要はなかっただろ」
「あら、ドーナツ店であんなに仲良くキスしておられて。先程よりもずっと、声高に喧伝しておられたわけではなくって?」
「・・・・・・なんでそれを」

あ。そうか。
こいつ、見てたのか。昨日のを。

「おまえ、店内にいたのか」
「ええ。カウンタでドーナツを選んでおりましたの。・・・・・・ちょっと変装しておりましたけれど」
「変装、ね」

真行寺楓。
彼女は絶世の美人、と言って過言ではない容貌の持ち主である。

たぶん雑誌のモデルくらいなら、すぐにでもつとまる。
そうしないのは、ひとえに実家の方針による。

真行寺家。
元は京都の公家の家系らしい。今は一族ごとこっちに引っ越して、有名な日本画家である祖父が一族を掌握し、主に和芸能を中心に強い発言力を持っているのだとか。

そして、その後継者候補にして、聡明かつ美貌の孫娘、真行寺楓。
彼女は幼い頃から日本画、西洋画を学び、他に茶道、華道などの他、剣道や弓道も修めている、文武両道少女である。

そんな彼女を、祖父は賞味期限の短い安直なアイドルとしてではなく、「美しすぎる日本画家」として売り出すつもりらしい。
何せ、日本人はこの「美しすぎるなんとか」が大好物である。一度その座を確保すれば、多少歳をとっても許される。
そんな彼女がミスドことミスタードーナツに並ぶためには、セーラー服ではいけないのだろう。たぶん。

「からすまくんと乗宮さん、本当にお似合いですわ。おふたりともバスケットボール部で、趣味もお合いでしょう?」
「お前には関係のないことだ」
「まあ、そう敵視しないでいただきたいですわ。・・・・・・さきほどの発言、申し訳なく思います。正式に謝罪させていただきます」

彼女は、形の良い長い黒髪を下げた。
多少気取った、あるいは態度がやや尊大に思える時もあるが、こうやって誰にでも正直なところが、彼女の良いところだと思う。
学校中の男子の視線を一心に集める彼女に頭を下げられて、悪い気はしない。

「別に隠しておくつもりもなかった。ただ、いきなり言われて、驚いただけだ。昨日付き合ったばかりだし」
「そうなのですか?まるで昔からの恋人のように、手を繋いでお休みになっておられましたが」
「それは、まあ、ちょっと眠かっただけで」

じろ。
彼女の瞳が、俺を覗き込む。

なんだろう。
その視線はなぜか、居心地が悪かった。

「もう一つ、要件があって参りました。からすまくん」
「何だ」
「あなたは、夢幻術の使い手、ですね?」

え。
なんだそれ。

だが、言葉の意図は分かる。むげん、つまりそれは夢の幻、という意味だろう。
あれ、どっかで聞いたことがあるぞ。どこだっけか?思い出せん。

「・・・・・・どういう意味だ」
「以前、不思議な経験をしましたの。月曜日の5限目、古文の時間はいつもとても眠いのですけれど、その時に見た夢で、あなたが」

そうだ。
以前、真行寺の夢の中へ入った。彼女のペイントナイフを手にして。

そこで、「男たちの視線を一身に集めたい」という彼女の夢を知った。
夢の中で、彼女は裸婦モデルとなり、男どもの視線を感じて感じまくっていた。
そして、そんな彼女に、俺は。

「からすまくん、あなたが出てきたのです。とてもリアリティのある、まるで現実としか思えないような夢でしたわ」
「・・・・・・」
「からすまくんは、わたしの、その、身体を欲し、男性としての欲望を発散しておいででした。あれはあなた自身、ですわね?」
「・・・・・・知らない」
「夢から覚めた後、からすまくんはとてもよく眠っておられました。まるで、昨日のドーナツ店のように」
「・・・・・・」
「わたくしが起こして差し上げた時も、わたくしの胸をじっと見ておられました。まるで、さきほどまでこの胸で、何かをされていたかのように」
「・・・・・・」

だめだ。
いくらでも言い訳はできるだろうが、頭の中は真っ白で、口の中もカラカラだ。

「・・・・・・俺を、どうしようっていうんだ」
「あなたの力をお借りしたいのです」
「ちから?」
「ええ。あなたは夢幻術、夢に入ることができるのでしょう?他人の夢、その中へと」

俺は驚愕した。
今度こそ、まともに声も出ない。

「な、ぜ」
「我が一族に伝わる、古い文献にあるのです。・・・・・・夢の中へ入り、治療する術師がいる、と。夢幻術、そう書かれていました」

真行寺は屋上で、仰々しくスカートの両裾をつまみ、深々と頭を下げた。

「からすまくん。どうか、あなたの能力で、わが兄をお救い下さい」


兄。
真行寺誠、という名らしい。

真行寺家の跡取りとして、妹の楓同様、子供の頃から祖父に期待されて過ごしてきた。
誠氏もよくそれに応え、様々な期待に答え続けてきた。

そんなある日のこと。
真行寺楓が自宅に戻ると、自宅の居間で首を吊っている兄の姿に気づいた。彼女がまだ中学に入ったばかりの頃だった。

彼女は素早く行動した。台所へと走り、椅子と包丁を手に、首を吊っているロープを切断した。兄はどさりと床へ倒れた。
すぐに救急車を要請し、ただちに心肺蘇生行為を開始した。救急隊が到着するまで、胸骨圧迫を続け、人工呼吸を施した。

・・・・・・すげえな真行寺。本当に中学1年生でそんなことができたのかよ。
俺だったら、きっとこの歳でさえ、足がすくんで何もできないだろう。

処置のおかげか、誠氏は一命をとりとめた。玄関先の監視カメラ映像を検証し、帰宅した時間からも、低酸素血症に陥っていたのは長くて10分程度、と思われた。
集中治療室で、低体温療法などの治療を受けた。
回復の見込みはあります、と医師は答えたという。

しかし、周囲の期待に反して、誠氏は目を覚まさなかった。
脳波に反応はあります、fMRIで兆候は見られます、舌骨骨折も頚椎損傷も認めません。
そういう説明を何度も受けたが、それから5年が経過しても、誠氏は東部総合病院のベッドで横たわり、栄養チューブを鼻から入れたまま、徐々に衰弱を続けているという。

「刺激療法や温熱療法、できることは全て行っていただきました。おじいさまの意向により、海外から招聘した医師に診せたり、保険適応外の治療を受けたりもしたのです。しかし、結果は同じでした」

そんな折、真行寺楓は祖父から、奇妙な話を聞いた。
かつて、遥かな昔、先祖が書き残した文章に、夢の中に入って治療を行う夢幻術師、という話があったという。
そんな者がいれば、誠氏も治療ができるかもしれないのに、と。

彼女は、自分でも調べてみた。
しかし、夢幻術、夢幻術師などという術や職業は存在せず、令和の時代になって、そのような怪しげな治療が行われている病院も、施設もなかった。
検索に引っかかるのは、怪しげなオカルト療法や、明らかに金目当てのサイトばかりだった。

もうだめだ、夢幻術など存在しない、そう諦めかけていた彼女は、ある時授業中に、不思議な夢を見た。
まるで現実としか思えないような、写実的な夢を。


週末。真行寺家。
俺は生まれて初めて、リムジンとかいう超巨大な車に乗った。長い。前後も幅も。

「どうかリラックスなさって。何か飲み物でも?」
「ん、じゃ、オレンジジュースを」

着物を着た真行寺は、俺に向かって上等なクリスタルグラスを差し出してくれた。

祖父や父親には、まだ話していないという。
俺もその方が良かった。変な期待を持たせてしまったら、失敗した時に申し訳ないし。

「どうすれば、夢の中へ入ることが?」
「その人の思いが籠もっているキーアイテムを手にするか、あるいは直接手をつなぐのが、一番確実だと思う」
「それで、ドーナツ店のことがあったのですね。乗宮さんと、さぞ良い夢を見られておられたのでしょう」
「ん、まあ。バスケの試合の夢だった」
「それはそれは。・・・・・・色っぽい夢も、ご覧に?」
「さあな」

見てたけど。
別に詳しく言う必要はないし。
真行寺も、それ以上詳しく聞いては来なかった。

和服姿の真行寺を初めて見た。土曜日はこの格好で過ごしているらしい。



改めて、すごい美人だ、と思わずにいられなかった。
和装の彼女は、もの凄く似合っていた。

「兄とは、とても仲良しでした」

真行寺はぽつり、と話した。

「ちょっと無理をされているところはありましたけれど、兄は周囲の期待に応えようと、日々努力されていました。学業のことも、絵画や習い事も、おじいさまのことも」
「それが重かったんじゃないのか」
「そうなのでしょうね。他に理由が思いつきませんから」

大通りを進み、巨大な車は病院の駐車場へ止まった。
人がやってきて、ドアを開けてもらい、真行寺と俺を病院の中へと連れて行った。

面会許可証とか、そういう手続きは要らないらしい。あるいはもうしてもらってあるのか。
とある病室の前で、俺たちは足を止めた。

「真行寺誠」

ネームプレートには、そう記されていた。

部屋に入ると、病院特有の嫌な匂いが鼻についた。
心電図のモニタが、いろんな数字を画面に映し出していた。

「兄、です」
「ども」

俺と真行寺、そして横たわった病人を残して、他の人は去っていった。すぐ外にいるんだろう。気配がした。
「大切なお嬢様」を、見知らぬ同級生の男とふたりっきりにはできないだろうからな。まあふたりっきりじゃないが。

チューブに繋がれたのは、痛々しい姿の男性だった。
顔色は真っ白に青ざめ、鼻から太い管が突っ込まれていた。栄養や水分を入れる医療器具だろう。

両目は閉じ、髪の毛は剃られていた。まるで生きているように見えなかった。
だけど、夢の中で見た男性と、どこか似ていた。

「では、さっそく」
「始めようか」

俺の要求通り、病室にふたりがけのソファが置かれていた。
真行寺を座らせ、俺も隣に座る。

「さあ、寝てくれ真行寺」
「ええ、そうなのでしょうが、まだお昼前ですし、こう明るくては」
「これを」

俺はイヤホンを差し出した。
真行寺は乗宮同様、訝しげにそれを受け取り、耳に差し込んだ。

1分後。
真行寺は深い眠りに落ちていた。
さすが古文の呪文だ。ミスドだろうが病室だろうが、どこでも寝かせちゃうぜ。

ちょっと真行寺のリアルおっぱいの感触を味わってみたかったが、ここで起こしてしまっては元も子もない。
俺は欲望を堪えるとイヤホンを耳に入れ、真行寺の手を左手に、誠氏の手を右手に持ち。
アラームを1時間後にセットして。
目を、閉じた。


「・・・・・・ここが、兄の夢の中、ですの?」
「らしいな」

夢の中の真行寺も、和服だった。
さっき見たのとはまた柄が違っている。いつも和服のイメージなのだろう。

暗い空間だった。
天井があるのか、あるいは夜空なのかも分からない。だが、どこか洞窟のような感じがした。

「暗いですね」
「明かりが欲しいな」

俺は手のひらに光を灯した。
真行寺が、目を丸くする。

「一体、どうやってそれを?」
「ここは夢の中だからな。イメージすれば、たいていのことは可能だ」

俺は光の玉を、前方へと飛ばした。
それは音もなく暗闇を切り裂いて飛び、10秒ほど経ってから闇の中へと飲み込まれていった。

「行くぞ」
「ええ」

どこへ、とも、いつまで、とも、聞いてこなかった。俺も答えようがなかった。
何も目印もなく、目標もない暗闇の中を、俺の手の中の光を頼りに、俺たちは歩き続けた。

「これが兄の夢の中だとすれば、兄は夢を見ていない、ということでしょうか?」
「かもしれん。あるいは、全く意識がないのかもしれない」

そもそも、脳が働いていないのだとしたら。
どこまで行っても、何もないかもしれない。だとしたら、徒労に終わるだろう。

そんな不安を抱く中、どのくらい歩いただろうか。
ついに、真行寺が音を上げた。

「・・・・・・これは、きっと限度がありませんね。どこまでも続く闇、そんな気がします」
「そうだな」
「ここが夢の中で、夢の中ならどんなイメージも可能、なのですね?」
「まあ、グランドキャニオンを幅跳びとかはできないけどな」
「グランドキャニオン?」

あれは失敗だった。
楽しかったけど。

「お兄さんの好きだったものとか、なにか思いつくか?」
「そうですね。・・・・・・絵本とか、機関車のおもちゃとかがお好きでしたが。それは幼少の頃で」
「中学生、高校生になってからは?」
「さあ、あまり何かに執着される性格ではありませんでしたが・・・・・・」

うーん、と考え込む真行寺。

「・・・・・・書道、は、お好きでした」
「なら、書いてみるか」

俺は右手を差し出した。
ジェネレート、墨と筆、硯。そして半紙。ついでに文鎮。

床に半紙を広げ、そこへ真行寺がサラサラと文字を書いた。
「誠」の字。そして、真行寺楓、と。

「・・・・・・何も反応がないな」
「では」

真行寺が、目を閉じてイメージを作り上げた。
巨大なキャンバス。そこへ絵の具を塗りつける。
それは、彼女の家だった。夢の中でも、絵が上手だ。

しかし、周囲の闇はそのままだった。

そこから、茶道、弓道、剣道などの物品を出してみたり、扱ってみたりしたが、やはり時間が経過するだけだった。
体感では、もうすぐ外で1時間が経過する。アラームで覚めてしまう。

こりゃ徒労だったかな。俺は半ばあきらめた。

「・・・・・・真行寺、悪いけど、今日のところは」
「花火」
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