眠姦学校

るふぃーあ

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9 木津川千鶴2

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9 木津川千鶴2



「催眠術に興味があるの?」

唐突に、そう聞かれた。
図書室でのことだ。

リカちゃん先生や森下の件以来、俺は睡眠や催眠に関する本を読むようになった。
睡眠の生理学や学説、果ては心理学に至るまで、あれこれ借りては読んでいる。
難しくて、読書中に寝てしまうものも多いけど。

「まあな」
「やっぱり、夢のこと?」
「ああ」

放課後の図書室は、他に誰もいない。
図書委員の木津川と俺だけだ。

「・・・・・・ね、からすまくん」
「ん?」
「インセプションって映画、観たことある?」

うーん。
タイトルからして、洋画だろうな。

「ない」
「夢をテーマにした映画なの。・・・・・・一緒に、観てみない?」
「俺と?」

どういう風の吹き回しだろう。
なにかのドッキリだろうか。

「ほら、一緒に夢の中で飛んだりしたし。あれって現実だったのかなあ、とか今でもたまに思うの」
「いや、夢だけど」
「そうじゃなくて。本当に、からすまくんの夢の中で話したり、飛んだりしたんだよね?からすまくん、つるかめ波とか撃ったりしてたし」
「ああ」
「やっぱりそうだよね。・・・・・・あれ以来、わたしも夢のことについて調べたりしてるの。興味あるし。・・・・・・どう、かな」
「別にいいけど」

しかし、映画館でやってたりするんだろうか?
最新の映画じゃないと、なかなかやってないだろうけど。

「うちにあるから、どう?」
「木津川の家で?」
「うん」

井野口の家の前まで行ったり、森下を家まで送り届けたりしたことをふと思い返した。

「いいけど」
「じゃあ今週土曜日、っていうか明日11時、駅前のラピタスの時計のところで待ってる」
「ああ」

俺は本を持って、図書室を出た。
部活へ向かいつつ、ふと思った。

これって、デートなのかな。


木津川千鶴はそこそこ可愛いけど、さほど男子に人気があるってわけじゃない。
その理由の一つに、あんまり笑わない、ってのがある。と俺は思う。

雨屋みたく、いつも笑顔でみんなに囲まれ頼られてたり、乗宮みたいに身長が頭ひとつ抜け出てたり、真行寺みたいに華やいでたり、森下のように可憐だったりはしない。
井野口みたいなクールって柄でもない。静かなイメージの子だ。良く言えば物静か、悪く言えば根暗。

存在感も薄めで、図書室がよく似合う。
おしゃれってイメージもまるでない。制服姿しか見たことないし。

そんな木津川だから、短めの水色ワンピースにベレー帽、おろしたての白いスニーカー、てな姿でラピタス前にいるのを見た時、ちょっと驚いた。



「に、似合ってない、かな」
「いや、すげー可愛くてびびった」

俺が言うと、恥ずかしそうに赤くなり、帽子で顔を隠していた。
まあ、俺なんかに言われたところで、嬉しくもなんともないだろうけど。

木津川の家につくと、母親が満面の笑みで迎えてくれた。

「あら、あらあらあらまあまあ、チヅちゃんが男の子をうちに連れてくるなんて、あらあら、ちょっとお父さん」
「今夜は祝杯だな」
「も、もう、お母さん、お父さんも、うるさいって」
「ども、お邪魔します」

俺は菓子折りを差し出した。
家にあったものだけど。

「あらあらまあまあ、ご丁寧に。いまどきちゃんとご挨拶されるなんて、なんて育ちの良い____」
「もういいから。・・・・・・こっち、わたしの部屋」

3階に上がり、木津川が扉を開けてくれる。
女子の部屋なんて生まれて初めてだ。緊張するぜ。

てか、家広いな。3階建てかよ。

「入って」
「お、おじゃま・・・・・・う」

なんだこの部屋。
めっちゃ整頓されてる。いや違う、広い。めっちゃ広い。

「・・・・・・なあ木津川」
「うちのお父さん、オーディオとかにこだわりがあって。しょっちゅう買い替えては、古いのをわたしやお兄ちゃんにくれるの。だからこんな感じ」

寝室と勉強部屋、オーディオルームと、3部屋をひとりで使ってる、ってだけでも驚いたが、オーディオルームの「本気度」にびびった。
でかいテレビ。俺の家のテレビより4倍くらいでかい。面積的に。
あちこち光るオーディオ機器とか、ホームセンターでしか見たことがなかったものがたくさん置いてあった。

その後、映画を観て(音声が部屋のあっちこっちから流れてくるのを聴いて)もっとビビることになる。

「ごはん、まだだよね?」
「ああ」

木津川はお昼にオムライスを作ってくれた。

「まあまあまあ、チヅちゃんが珍しく、昨日の夕食に全員分のオムライス作ってくれるっていうから、何があったのかと思ってたけどつまりこういう____」
「もう!静かにしててよ!」

おおう。木津川が怒ってる。珍しい。学校だといっつも無表情なのに。

「木津川、結構表情豊かなんだな」
「こけしみたいな女だって、言いたいんでしょ」
「んなことまだ言ってねー」
「これから言うんでしょ。・・・・・・いただきます」
「いただきます」

オムライスは美味かった。
女子の手作り料理なんて、生まれて初めて食べた。超美味しかった。
アイスティーもしっかり冷えていて、おかわりまでもらった。

「じゃあ、観よっか」
「おう」

女子の部屋で、さほど広くないソファに二人並んで、ってシチュエーションもなかなかにドキドキだったが、映画が始まると面白くて、映像も音楽もすごくて、しっかりと映像の中へ没入できた。
途中で寝ちゃうかとか思ってたけど、最後まで面白かった。

エンディングロールが流れる中、木津川がまたアイスティーを注いでくれた。

「どうだった?」
「おもろかった。最後のあれ、どうなるんだろな」
「いろんな解釈があると思う。ネットとかロッテンとかでも、コマが止まるとか止まらないって言われてるし」

ロッテンってなんだろう。
6ちゃんねるだろうか。

食べ終えた皿を片付けて、木津川が戻ってきた。
そして左手を俺に差し出す。

「???」
「試してみようよ。夢の中の世界」

キーアイテムではなく。
俺は、おずおずと木津川の手を握った。

汗かいてたら恥ずかしいな、と焦ったが、エアコンが心地良くてさほど汗ばんでもいない。
木津川の手は、しっとりと柔らかかった。

「・・・・・・ご両親、入ってきたら」
「鍵、ちゃんと掛けたし」

そっか。
まあいいか。

ドキドキして眠りになど入れない、と思ったが。
映画を見て疲れていたのか、案外すんなりと、俺たちは夢の中へと入っていった。


「入れた、ね」
「だな」

女子と手を繋いで眠れば、夢の中へ入れる。
またひとつ知識が増えた。
使いどころはかなり限られそうだが。

木津川千鶴はさっきまでと同じ、水色のワンピのままだった。
膝よりもだいぶ上まで見えてるので、真正面だとちょっと視線の向けどころに困る。

場所は市立図書館だった。

「わたし、図書館にいる夢、よく見るの」
「なら、これは木津川の夢だな」

どん、と本棚を倒してみた。巨大な書架がいとも簡単に倒れていく。
木津川が非難の眼差しを向けた。

「ダメだよ、本は丁寧に扱わなきゃ」
「まあ夢だし」

近くにあった一冊を手に取った。
何か書いてあるようで、実際は読めないような崩れた文字の羅列だった。夢の中ではなんでも再現できるわけじゃない。

「ね、わたしまた飛んでみたいなあ」
「AVの夢を期待してたのに」
「いつもあんな夢、みてませんよーだ」

外に出て、木津川は箒にまたがり空を飛びまわった。
これがすごく楽しいらしい。

俺はスケボーを召喚してみた。下向きにジェット噴射して空が飛べるようなやつだ。

「へええ。楽しいなこれ」
「だよね!開放感がすごいよ!」

屋上まで飛んで、そこから地面へダイブしてみたりした。
トランポリンなイメージなので、落下速度もゆっくりだし地面も全く痛くなくて、ポーンとよく跳ねた。

「あはは!すごいねこれ!」
「だな」

そのあとは、木津川がいろんな「魔法」を見せてくれた。
ざーっと雨を降らせたり、学校のプールをあふれさせてグラウンドを海にしてみたり、海の底にして魚を泳がせたり、空中に氷を放り投げて雪を降らせたり、鏡面反射な湖を作り出して水の上を歩いたりした。

「木津川、想像力すげーな」
「色んな本を読んでるから、たくさん想像しちゃうの」

お菓子の家が建てられ、夢の中でお茶にした。

「夢ってすごいね。このチョコプリンパフェ、美味しくて夢とは思えないよ」
「どんだけ食っても太らんしなぁ」
「それそれ!これ、夢ダイエットとかに使えそう」
「なんだよそれ」
「だって、女の子の夢だよ?お菓子の家を食べ尽くすって」

チョコでできたミルクの風呂に、一緒に浸かった。

「正直なところ、私って可愛いのかな、男子から見て」

俺は木津川を正面から眺めた。
ミルクの風呂だから、首から上しか見えない。

夢の中では、嘘はつきにくい。
自分に正直になってしまう。きっと木津川も、普段はこんなこと言えないんだ。

「うん」
「あ、ちょっと考えた」
「いや、木津川は可愛いよ。クラスでトップ、とかじゃないけど」
「ふーん。でも、えっちなことならできちゃうくらい?」
「ああ」

ざば、と彼女が湯船で立ち上がった。 
夢の中では、女子って大胆になるんだろうか。
木津川の肌は、以前と同様にすべすべだった。

「綺麗だな」
「からすまくん、目つきがえっちぃ」
「無表情で眺めて欲しいのか?」
「それもやだ。・・・・・・ね、えっちなこと、しちゃおっか」
「いいのか?」
「現実だったらヤだけど、夢は減らないし。・・・・・・この前の時も、すっごく気持ち良かったし」
「俺も」

夢の中のミルク風呂で、俺は木津川の身体を抱きしめた。
温かなお風呂は死海のように身体が浮き、まるでベッドのようで、俺は彼女を正常位と、そしてバックから1回ずつ抱いた。
甘い風呂の中で、木津川のキスの味もとても甘かった。
細身の木津川の身体は、背後からが素晴らしく良い眺めで、キュッと引き締まったヒップと腰のくびれは、俺を存分に満足させてくれた。

ピピピピッ。
何かが聞こえてきた。
アラームのような音。

「・・・・・・アレクサ、アラームを止めて」

木津川の声で目が覚めた。
彼女の部屋。ソファの上。しっとりと汗ばんだ、彼女の柔らかな手。

暗い部屋にぼんやりと明かりが灯っている。

「夢、だよな」
「うん」
「なあ木津川」
「ん?」
「現実でも、したい」
「それはだめ」
「ちぇっ」

時計は午後4時を指していた。
木津川のお母さんがプリンでも、と言ってくれたが、もうお腹は一杯だった。

駅まで送ってくれた木津川と、改札の前で別れた。

「ね、からすまくん」
「ん?」
「その、また連れてってくれる?夢の世界に」
「もちろん」

彼女は笑顔になった。
こんな表情、いつも見せてくれたらいいのに。

「ありがと。・・・・・・じゃあね」
「またな」

こうして、俺の初デートは終わった。
あとで家に帰ってから、木津川の声や感触を思い出し、ティッシュ箱が空っぽになった。
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