9 / 40
9 木津川千鶴2
しおりを挟む
9 木津川千鶴2
「催眠術に興味があるの?」
唐突に、そう聞かれた。
図書室でのことだ。
リカちゃん先生や森下の件以来、俺は睡眠や催眠に関する本を読むようになった。
睡眠の生理学や学説、果ては心理学に至るまで、あれこれ借りては読んでいる。
難しくて、読書中に寝てしまうものも多いけど。
「まあな」
「やっぱり、夢のこと?」
「ああ」
放課後の図書室は、他に誰もいない。
図書委員の木津川と俺だけだ。
「・・・・・・ね、からすまくん」
「ん?」
「インセプションって映画、観たことある?」
うーん。
タイトルからして、洋画だろうな。
「ない」
「夢をテーマにした映画なの。・・・・・・一緒に、観てみない?」
「俺と?」
どういう風の吹き回しだろう。
なにかのドッキリだろうか。
「ほら、一緒に夢の中で飛んだりしたし。あれって現実だったのかなあ、とか今でもたまに思うの」
「いや、夢だけど」
「そうじゃなくて。本当に、からすまくんの夢の中で話したり、飛んだりしたんだよね?からすまくん、つるかめ波とか撃ったりしてたし」
「ああ」
「やっぱりそうだよね。・・・・・・あれ以来、わたしも夢のことについて調べたりしてるの。興味あるし。・・・・・・どう、かな」
「別にいいけど」
しかし、映画館でやってたりするんだろうか?
最新の映画じゃないと、なかなかやってないだろうけど。
「うちにあるから、どう?」
「木津川の家で?」
「うん」
井野口の家の前まで行ったり、森下を家まで送り届けたりしたことをふと思い返した。
「いいけど」
「じゃあ今週土曜日、っていうか明日11時、駅前のラピタスの時計のところで待ってる」
「ああ」
俺は本を持って、図書室を出た。
部活へ向かいつつ、ふと思った。
これって、デートなのかな。
木津川千鶴はそこそこ可愛いけど、さほど男子に人気があるってわけじゃない。
その理由の一つに、あんまり笑わない、ってのがある。と俺は思う。
雨屋みたく、いつも笑顔でみんなに囲まれ頼られてたり、乗宮みたいに身長が頭ひとつ抜け出てたり、真行寺みたいに華やいでたり、森下のように可憐だったりはしない。
井野口みたいなクールって柄でもない。静かなイメージの子だ。良く言えば物静か、悪く言えば根暗。
存在感も薄めで、図書室がよく似合う。
おしゃれってイメージもまるでない。制服姿しか見たことないし。
そんな木津川だから、短めの水色ワンピースにベレー帽、おろしたての白いスニーカー、てな姿でラピタス前にいるのを見た時、ちょっと驚いた。
「に、似合ってない、かな」
「いや、すげー可愛くてびびった」
俺が言うと、恥ずかしそうに赤くなり、帽子で顔を隠していた。
まあ、俺なんかに言われたところで、嬉しくもなんともないだろうけど。
木津川の家につくと、母親が満面の笑みで迎えてくれた。
「あら、あらあらあらまあまあ、チヅちゃんが男の子をうちに連れてくるなんて、あらあら、ちょっとお父さん」
「今夜は祝杯だな」
「も、もう、お母さん、お父さんも、うるさいって」
「ども、お邪魔します」
俺は菓子折りを差し出した。
家にあったものだけど。
「あらあらまあまあ、ご丁寧に。いまどきちゃんとご挨拶されるなんて、なんて育ちの良い____」
「もういいから。・・・・・・こっち、わたしの部屋」
3階に上がり、木津川が扉を開けてくれる。
女子の部屋なんて生まれて初めてだ。緊張するぜ。
てか、家広いな。3階建てかよ。
「入って」
「お、おじゃま・・・・・・う」
なんだこの部屋。
めっちゃ整頓されてる。いや違う、広い。めっちゃ広い。
「・・・・・・なあ木津川」
「うちのお父さん、オーディオとかにこだわりがあって。しょっちゅう買い替えては、古いのをわたしやお兄ちゃんにくれるの。だからこんな感じ」
寝室と勉強部屋、オーディオルームと、3部屋をひとりで使ってる、ってだけでも驚いたが、オーディオルームの「本気度」にびびった。
でかいテレビ。俺の家のテレビより4倍くらいでかい。面積的に。
あちこち光るオーディオ機器とか、ホームセンターでしか見たことがなかったものがたくさん置いてあった。
その後、映画を観て(音声が部屋のあっちこっちから流れてくるのを聴いて)もっとビビることになる。
「ごはん、まだだよね?」
「ああ」
木津川はお昼にオムライスを作ってくれた。
「まあまあまあ、チヅちゃんが珍しく、昨日の夕食に全員分のオムライス作ってくれるっていうから、何があったのかと思ってたけどつまりこういう____」
「もう!静かにしててよ!」
おおう。木津川が怒ってる。珍しい。学校だといっつも無表情なのに。
「木津川、結構表情豊かなんだな」
「こけしみたいな女だって、言いたいんでしょ」
「んなことまだ言ってねー」
「これから言うんでしょ。・・・・・・いただきます」
「いただきます」
オムライスは美味かった。
女子の手作り料理なんて、生まれて初めて食べた。超美味しかった。
アイスティーもしっかり冷えていて、おかわりまでもらった。
「じゃあ、観よっか」
「おう」
女子の部屋で、さほど広くないソファに二人並んで、ってシチュエーションもなかなかにドキドキだったが、映画が始まると面白くて、映像も音楽もすごくて、しっかりと映像の中へ没入できた。
途中で寝ちゃうかとか思ってたけど、最後まで面白かった。
エンディングロールが流れる中、木津川がまたアイスティーを注いでくれた。
「どうだった?」
「おもろかった。最後のあれ、どうなるんだろな」
「いろんな解釈があると思う。ネットとかロッテンとかでも、コマが止まるとか止まらないって言われてるし」
ロッテンってなんだろう。
6ちゃんねるだろうか。
食べ終えた皿を片付けて、木津川が戻ってきた。
そして左手を俺に差し出す。
「???」
「試してみようよ。夢の中の世界」
キーアイテムではなく。
俺は、おずおずと木津川の手を握った。
汗かいてたら恥ずかしいな、と焦ったが、エアコンが心地良くてさほど汗ばんでもいない。
木津川の手は、しっとりと柔らかかった。
「・・・・・・ご両親、入ってきたら」
「鍵、ちゃんと掛けたし」
そっか。
まあいいか。
ドキドキして眠りになど入れない、と思ったが。
映画を見て疲れていたのか、案外すんなりと、俺たちは夢の中へと入っていった。
「入れた、ね」
「だな」
女子と手を繋いで眠れば、夢の中へ入れる。
またひとつ知識が増えた。
使いどころはかなり限られそうだが。
木津川千鶴はさっきまでと同じ、水色のワンピのままだった。
膝よりもだいぶ上まで見えてるので、真正面だとちょっと視線の向けどころに困る。
場所は市立図書館だった。
「わたし、図書館にいる夢、よく見るの」
「なら、これは木津川の夢だな」
どん、と本棚を倒してみた。巨大な書架がいとも簡単に倒れていく。
木津川が非難の眼差しを向けた。
「ダメだよ、本は丁寧に扱わなきゃ」
「まあ夢だし」
近くにあった一冊を手に取った。
何か書いてあるようで、実際は読めないような崩れた文字の羅列だった。夢の中ではなんでも再現できるわけじゃない。
「ね、わたしまた飛んでみたいなあ」
「AVの夢を期待してたのに」
「いつもあんな夢、みてませんよーだ」
外に出て、木津川は箒にまたがり空を飛びまわった。
これがすごく楽しいらしい。
俺はスケボーを召喚してみた。下向きにジェット噴射して空が飛べるようなやつだ。
「へええ。楽しいなこれ」
「だよね!開放感がすごいよ!」
屋上まで飛んで、そこから地面へダイブしてみたりした。
トランポリンなイメージなので、落下速度もゆっくりだし地面も全く痛くなくて、ポーンとよく跳ねた。
「あはは!すごいねこれ!」
「だな」
そのあとは、木津川がいろんな「魔法」を見せてくれた。
ざーっと雨を降らせたり、学校のプールをあふれさせてグラウンドを海にしてみたり、海の底にして魚を泳がせたり、空中に氷を放り投げて雪を降らせたり、鏡面反射な湖を作り出して水の上を歩いたりした。
「木津川、想像力すげーな」
「色んな本を読んでるから、たくさん想像しちゃうの」
お菓子の家が建てられ、夢の中でお茶にした。
「夢ってすごいね。このチョコプリンパフェ、美味しくて夢とは思えないよ」
「どんだけ食っても太らんしなぁ」
「それそれ!これ、夢ダイエットとかに使えそう」
「なんだよそれ」
「だって、女の子の夢だよ?お菓子の家を食べ尽くすって」
チョコでできたミルクの風呂に、一緒に浸かった。
「正直なところ、私って可愛いのかな、男子から見て」
俺は木津川を正面から眺めた。
ミルクの風呂だから、首から上しか見えない。
夢の中では、嘘はつきにくい。
自分に正直になってしまう。きっと木津川も、普段はこんなこと言えないんだ。
「うん」
「あ、ちょっと考えた」
「いや、木津川は可愛いよ。クラスでトップ、とかじゃないけど」
「ふーん。でも、えっちなことならできちゃうくらい?」
「ああ」
ざば、と彼女が湯船で立ち上がった。
夢の中では、女子って大胆になるんだろうか。
木津川の肌は、以前と同様にすべすべだった。
「綺麗だな」
「からすまくん、目つきがえっちぃ」
「無表情で眺めて欲しいのか?」
「それもやだ。・・・・・・ね、えっちなこと、しちゃおっか」
「いいのか?」
「現実だったらヤだけど、夢は減らないし。・・・・・・この前の時も、すっごく気持ち良かったし」
「俺も」
夢の中のミルク風呂で、俺は木津川の身体を抱きしめた。
温かなお風呂は死海のように身体が浮き、まるでベッドのようで、俺は彼女を正常位と、そしてバックから1回ずつ抱いた。
甘い風呂の中で、木津川のキスの味もとても甘かった。
細身の木津川の身体は、背後からが素晴らしく良い眺めで、キュッと引き締まったヒップと腰のくびれは、俺を存分に満足させてくれた。
ピピピピッ。
何かが聞こえてきた。
アラームのような音。
「・・・・・・アレクサ、アラームを止めて」
木津川の声で目が覚めた。
彼女の部屋。ソファの上。しっとりと汗ばんだ、彼女の柔らかな手。
暗い部屋にぼんやりと明かりが灯っている。
「夢、だよな」
「うん」
「なあ木津川」
「ん?」
「現実でも、したい」
「それはだめ」
「ちぇっ」
時計は午後4時を指していた。
木津川のお母さんがプリンでも、と言ってくれたが、もうお腹は一杯だった。
駅まで送ってくれた木津川と、改札の前で別れた。
「ね、からすまくん」
「ん?」
「その、また連れてってくれる?夢の世界に」
「もちろん」
彼女は笑顔になった。
こんな表情、いつも見せてくれたらいいのに。
「ありがと。・・・・・・じゃあね」
「またな」
こうして、俺の初デートは終わった。
あとで家に帰ってから、木津川の声や感触を思い出し、ティッシュ箱が空っぽになった。
「催眠術に興味があるの?」
唐突に、そう聞かれた。
図書室でのことだ。
リカちゃん先生や森下の件以来、俺は睡眠や催眠に関する本を読むようになった。
睡眠の生理学や学説、果ては心理学に至るまで、あれこれ借りては読んでいる。
難しくて、読書中に寝てしまうものも多いけど。
「まあな」
「やっぱり、夢のこと?」
「ああ」
放課後の図書室は、他に誰もいない。
図書委員の木津川と俺だけだ。
「・・・・・・ね、からすまくん」
「ん?」
「インセプションって映画、観たことある?」
うーん。
タイトルからして、洋画だろうな。
「ない」
「夢をテーマにした映画なの。・・・・・・一緒に、観てみない?」
「俺と?」
どういう風の吹き回しだろう。
なにかのドッキリだろうか。
「ほら、一緒に夢の中で飛んだりしたし。あれって現実だったのかなあ、とか今でもたまに思うの」
「いや、夢だけど」
「そうじゃなくて。本当に、からすまくんの夢の中で話したり、飛んだりしたんだよね?からすまくん、つるかめ波とか撃ったりしてたし」
「ああ」
「やっぱりそうだよね。・・・・・・あれ以来、わたしも夢のことについて調べたりしてるの。興味あるし。・・・・・・どう、かな」
「別にいいけど」
しかし、映画館でやってたりするんだろうか?
最新の映画じゃないと、なかなかやってないだろうけど。
「うちにあるから、どう?」
「木津川の家で?」
「うん」
井野口の家の前まで行ったり、森下を家まで送り届けたりしたことをふと思い返した。
「いいけど」
「じゃあ今週土曜日、っていうか明日11時、駅前のラピタスの時計のところで待ってる」
「ああ」
俺は本を持って、図書室を出た。
部活へ向かいつつ、ふと思った。
これって、デートなのかな。
木津川千鶴はそこそこ可愛いけど、さほど男子に人気があるってわけじゃない。
その理由の一つに、あんまり笑わない、ってのがある。と俺は思う。
雨屋みたく、いつも笑顔でみんなに囲まれ頼られてたり、乗宮みたいに身長が頭ひとつ抜け出てたり、真行寺みたいに華やいでたり、森下のように可憐だったりはしない。
井野口みたいなクールって柄でもない。静かなイメージの子だ。良く言えば物静か、悪く言えば根暗。
存在感も薄めで、図書室がよく似合う。
おしゃれってイメージもまるでない。制服姿しか見たことないし。
そんな木津川だから、短めの水色ワンピースにベレー帽、おろしたての白いスニーカー、てな姿でラピタス前にいるのを見た時、ちょっと驚いた。
「に、似合ってない、かな」
「いや、すげー可愛くてびびった」
俺が言うと、恥ずかしそうに赤くなり、帽子で顔を隠していた。
まあ、俺なんかに言われたところで、嬉しくもなんともないだろうけど。
木津川の家につくと、母親が満面の笑みで迎えてくれた。
「あら、あらあらあらまあまあ、チヅちゃんが男の子をうちに連れてくるなんて、あらあら、ちょっとお父さん」
「今夜は祝杯だな」
「も、もう、お母さん、お父さんも、うるさいって」
「ども、お邪魔します」
俺は菓子折りを差し出した。
家にあったものだけど。
「あらあらまあまあ、ご丁寧に。いまどきちゃんとご挨拶されるなんて、なんて育ちの良い____」
「もういいから。・・・・・・こっち、わたしの部屋」
3階に上がり、木津川が扉を開けてくれる。
女子の部屋なんて生まれて初めてだ。緊張するぜ。
てか、家広いな。3階建てかよ。
「入って」
「お、おじゃま・・・・・・う」
なんだこの部屋。
めっちゃ整頓されてる。いや違う、広い。めっちゃ広い。
「・・・・・・なあ木津川」
「うちのお父さん、オーディオとかにこだわりがあって。しょっちゅう買い替えては、古いのをわたしやお兄ちゃんにくれるの。だからこんな感じ」
寝室と勉強部屋、オーディオルームと、3部屋をひとりで使ってる、ってだけでも驚いたが、オーディオルームの「本気度」にびびった。
でかいテレビ。俺の家のテレビより4倍くらいでかい。面積的に。
あちこち光るオーディオ機器とか、ホームセンターでしか見たことがなかったものがたくさん置いてあった。
その後、映画を観て(音声が部屋のあっちこっちから流れてくるのを聴いて)もっとビビることになる。
「ごはん、まだだよね?」
「ああ」
木津川はお昼にオムライスを作ってくれた。
「まあまあまあ、チヅちゃんが珍しく、昨日の夕食に全員分のオムライス作ってくれるっていうから、何があったのかと思ってたけどつまりこういう____」
「もう!静かにしててよ!」
おおう。木津川が怒ってる。珍しい。学校だといっつも無表情なのに。
「木津川、結構表情豊かなんだな」
「こけしみたいな女だって、言いたいんでしょ」
「んなことまだ言ってねー」
「これから言うんでしょ。・・・・・・いただきます」
「いただきます」
オムライスは美味かった。
女子の手作り料理なんて、生まれて初めて食べた。超美味しかった。
アイスティーもしっかり冷えていて、おかわりまでもらった。
「じゃあ、観よっか」
「おう」
女子の部屋で、さほど広くないソファに二人並んで、ってシチュエーションもなかなかにドキドキだったが、映画が始まると面白くて、映像も音楽もすごくて、しっかりと映像の中へ没入できた。
途中で寝ちゃうかとか思ってたけど、最後まで面白かった。
エンディングロールが流れる中、木津川がまたアイスティーを注いでくれた。
「どうだった?」
「おもろかった。最後のあれ、どうなるんだろな」
「いろんな解釈があると思う。ネットとかロッテンとかでも、コマが止まるとか止まらないって言われてるし」
ロッテンってなんだろう。
6ちゃんねるだろうか。
食べ終えた皿を片付けて、木津川が戻ってきた。
そして左手を俺に差し出す。
「???」
「試してみようよ。夢の中の世界」
キーアイテムではなく。
俺は、おずおずと木津川の手を握った。
汗かいてたら恥ずかしいな、と焦ったが、エアコンが心地良くてさほど汗ばんでもいない。
木津川の手は、しっとりと柔らかかった。
「・・・・・・ご両親、入ってきたら」
「鍵、ちゃんと掛けたし」
そっか。
まあいいか。
ドキドキして眠りになど入れない、と思ったが。
映画を見て疲れていたのか、案外すんなりと、俺たちは夢の中へと入っていった。
「入れた、ね」
「だな」
女子と手を繋いで眠れば、夢の中へ入れる。
またひとつ知識が増えた。
使いどころはかなり限られそうだが。
木津川千鶴はさっきまでと同じ、水色のワンピのままだった。
膝よりもだいぶ上まで見えてるので、真正面だとちょっと視線の向けどころに困る。
場所は市立図書館だった。
「わたし、図書館にいる夢、よく見るの」
「なら、これは木津川の夢だな」
どん、と本棚を倒してみた。巨大な書架がいとも簡単に倒れていく。
木津川が非難の眼差しを向けた。
「ダメだよ、本は丁寧に扱わなきゃ」
「まあ夢だし」
近くにあった一冊を手に取った。
何か書いてあるようで、実際は読めないような崩れた文字の羅列だった。夢の中ではなんでも再現できるわけじゃない。
「ね、わたしまた飛んでみたいなあ」
「AVの夢を期待してたのに」
「いつもあんな夢、みてませんよーだ」
外に出て、木津川は箒にまたがり空を飛びまわった。
これがすごく楽しいらしい。
俺はスケボーを召喚してみた。下向きにジェット噴射して空が飛べるようなやつだ。
「へええ。楽しいなこれ」
「だよね!開放感がすごいよ!」
屋上まで飛んで、そこから地面へダイブしてみたりした。
トランポリンなイメージなので、落下速度もゆっくりだし地面も全く痛くなくて、ポーンとよく跳ねた。
「あはは!すごいねこれ!」
「だな」
そのあとは、木津川がいろんな「魔法」を見せてくれた。
ざーっと雨を降らせたり、学校のプールをあふれさせてグラウンドを海にしてみたり、海の底にして魚を泳がせたり、空中に氷を放り投げて雪を降らせたり、鏡面反射な湖を作り出して水の上を歩いたりした。
「木津川、想像力すげーな」
「色んな本を読んでるから、たくさん想像しちゃうの」
お菓子の家が建てられ、夢の中でお茶にした。
「夢ってすごいね。このチョコプリンパフェ、美味しくて夢とは思えないよ」
「どんだけ食っても太らんしなぁ」
「それそれ!これ、夢ダイエットとかに使えそう」
「なんだよそれ」
「だって、女の子の夢だよ?お菓子の家を食べ尽くすって」
チョコでできたミルクの風呂に、一緒に浸かった。
「正直なところ、私って可愛いのかな、男子から見て」
俺は木津川を正面から眺めた。
ミルクの風呂だから、首から上しか見えない。
夢の中では、嘘はつきにくい。
自分に正直になってしまう。きっと木津川も、普段はこんなこと言えないんだ。
「うん」
「あ、ちょっと考えた」
「いや、木津川は可愛いよ。クラスでトップ、とかじゃないけど」
「ふーん。でも、えっちなことならできちゃうくらい?」
「ああ」
ざば、と彼女が湯船で立ち上がった。
夢の中では、女子って大胆になるんだろうか。
木津川の肌は、以前と同様にすべすべだった。
「綺麗だな」
「からすまくん、目つきがえっちぃ」
「無表情で眺めて欲しいのか?」
「それもやだ。・・・・・・ね、えっちなこと、しちゃおっか」
「いいのか?」
「現実だったらヤだけど、夢は減らないし。・・・・・・この前の時も、すっごく気持ち良かったし」
「俺も」
夢の中のミルク風呂で、俺は木津川の身体を抱きしめた。
温かなお風呂は死海のように身体が浮き、まるでベッドのようで、俺は彼女を正常位と、そしてバックから1回ずつ抱いた。
甘い風呂の中で、木津川のキスの味もとても甘かった。
細身の木津川の身体は、背後からが素晴らしく良い眺めで、キュッと引き締まったヒップと腰のくびれは、俺を存分に満足させてくれた。
ピピピピッ。
何かが聞こえてきた。
アラームのような音。
「・・・・・・アレクサ、アラームを止めて」
木津川の声で目が覚めた。
彼女の部屋。ソファの上。しっとりと汗ばんだ、彼女の柔らかな手。
暗い部屋にぼんやりと明かりが灯っている。
「夢、だよな」
「うん」
「なあ木津川」
「ん?」
「現実でも、したい」
「それはだめ」
「ちぇっ」
時計は午後4時を指していた。
木津川のお母さんがプリンでも、と言ってくれたが、もうお腹は一杯だった。
駅まで送ってくれた木津川と、改札の前で別れた。
「ね、からすまくん」
「ん?」
「その、また連れてってくれる?夢の世界に」
「もちろん」
彼女は笑顔になった。
こんな表情、いつも見せてくれたらいいのに。
「ありがと。・・・・・・じゃあね」
「またな」
こうして、俺の初デートは終わった。
あとで家に帰ってから、木津川の声や感触を思い出し、ティッシュ箱が空っぽになった。
32
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。




極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる