後輩のカノジョ

るふぃーあ

文字の大きさ
上 下
5 / 18

<入院4日目>

しおりを挟む
<入院4日目>

「本当に、ほんっとうに、ごめんなさい!」
「もういいですから」

ぴょこん、と下げた小さな頭。
ストレートの黒髪が、頭と一緒に揺れる。

彼女の名前は元坂舞(もとさか まい)。
元坂商事の社員にして秘書、そして元坂社長の孫だ。

俺を階段から突き落とした張本人でもある。

いつも見積書をじろり、と睨みつけ、その後ぎろり、と顔を睨みつける頑固者で有名な元坂社長だが、この件では申し訳ない、と何度も繰り返し、俺を病院の有料特別室へ入れてくれた。
俺と一緒に階段から落下した、社長秘書こと孫娘も足をくじいていたらしく、4日経ってから謝罪に現れた。

「おじいさ・・・・・・いえ社長が、ちゃんと謝罪して来なさいって」
「だから、もういいですって」

元坂舞。
小柄で若い。大卒、いや短大卒だろうか。まだ20そこそこに見える。というか目鼻立ちもすっきりとして、高校生でも通りそうだ。
背丈は160センチないくらいだろう。タイトスカートから覗く脚なんて、細くて折れそうに見える。よく捻挫で済んだものだ。

「秘書さんも捻挫したんですよね。お大事にして下さい」
「宮田さんが下敷きになってくれなかったら、骨折してただろうって言われました。だから、しばらく宮田さんのお世話をしてこいって」
「結構です。こう見えても28歳ですから、だいたいのことは自分でできます」

なんだかイライラした。
誠実に謝る、というのはいいが、何度も頭を下げられるとかえって鬱陶しい。早くひとりにしてくれ。高梨さんが来てくれるかもしれないし。

「あの、困ること、とかは」
「だからないですって」
「で、でも」
「じゃあ、シャワーとかトイレとか、介助してくれるんですか?失礼ですが、看護師さんでもないし、見た目細そうですし、俺によりかかられたらコケちゃいますよね」
「そ、それは・・・・・・」
「あなたにできることってありますか?ありませんよね?」
「は、話し相手、とか」
「要らないです。ていうか話すことなんてないし」

俺は元々、女子と話すのは苦手だ。高校は男クラだったし、女子と気軽に話をすることなんて無理だ。

「できることならなんでもします!でないと、おじいさ・・・・・・社長に叱られてしまいます」
「それさっきから言ってますけど、あなたが気にしているのは社長に叱られるから、ですよね?あなたが僕に何かしたい、と思ってるわけじゃないでしょ?」

これは言い過ぎたか、元坂嬢は少し黙った。

「自分がそうしたいんです。人の役に立てる人間になりたい、そう思ってましたから。迷惑をおかけして、骨折なんてさせてしまって、申し訳なくて」
「・・・・・・じゃ、して下さい」
「え?」
「何でもしてくれるんですよね。困ってることがあるんです」
「なんですか!?ぜひさせて下さい!」

目を輝かせ、元坂嬢はベッド柵に飛びついてきた。
俺は左手で、下半身を指差す。

「手が使えなくて困ってるんですよ、ここ」
「え?あ、おしっこですか?」
「違います。オナニーです」
「おな、に?」

知らないのかオナニー。
なんか箱入り娘っぽいし。

「男の、自慰行為です。知ってますよね」
「あ、あの」
「パンツ下ろして、チンコしごいて下さいよ。左手だとうまくいかないし、精液がティッシュに受け止めきれないんです。なんでもするって言いましたよね?」
「う・・・・・・」

元坂嬢はおずおずと、俺のトランクスに手を伸ばした。
だが俺の体重、特に腰を持ち上げることなどできず、また勃起しているのでうまく下がらない。

しかし、偶然トランクスの裂け目からチンチンが躍り出た。病室の天井を向いて屹立する。
ひっ、と彼女が息を呑む。

「手でして下さい」
「・・・・・・」
「口でもいいですよ」
「く、くち、そんな」
「なんでもするんですよね?」
「え、え、え」

元坂嬢は、キッと俺を睨みつけた。

「え、えっちなのはだめです!」



あーあ、やり過ぎたかな。
孫娘は今頃、爺社長に言いつけているだろうか。性的な行為を要求された、と。

あの社長、怒っているだろうな。ここへ怒鳴り込んでくるかもしれない。
逆ギレしてやろうか。なんでもするって言ったから頼んだだけだ、と。

いや、うちの社長にも言いつけられたらどうする。下手すると契約破棄、俺は降格か。セクハラで訴えられたらクビもあり得る。
夜の検温が終わった病室で、俺は見るともなく部屋のテレビを眺めていた。

ノックの音。

「失礼しまーす」
「高梨さん?」
「お休みでしたか?」
「いえ、まだ起きてました。今日は非番日じゃ」

音を立てないよう、するりと入ってきた。かちゃ、とドアが閉まる。

「宮田さん、スイカ、食べませんか?」
「おお、いいですね」

ベッドサイドに赤いスイカが並んだ。
スイカは大好物だ。左手で食べられるよう、細く小さめに切ってくれてある。

「買ってきてくれたんですか?」
「いえ、一昨日実家から届いて。冷やしてありますから」
「じゃ、遠慮なく」

しゃり。

うーん、よく冷えていて美味い。
自分ひとりじゃ買わないから、食べるのは数年ぶりだ。味気ない病院食ばかりだから、ますます胃に染み渡る。

「うまいっすね。よく熟れてて」
「うちの実家で作ってるんです。毎年送ってくれるんです」
「いいなあ。俺もスイカ農家に生まれたかったです。大好物なんで」
「本当ですか?良かった」

実は、とスイカを食べながら、高梨さんが話してくれた。

今日、本当は辻村に会うつもりだったらしい。だからスイカを冷やしておいた。
だが、なかなか連絡がつかず、夕方連絡がついたが夕食はもう食べたから、と断られたらしい。

「それに、亮くんはスイカ嫌いだって」
「あいつ・・・・・・」

偏食だとは思っていたが、彼女の、しかも実家から送ってもらったものを断るとか、どういう神経をしているんだ。
しゃこしゃこ、と俺は盛大に食べた。どうせ切ってあるんだし、残す必要もない。

「なまもの持ち込むとか、病院にバレてもいいんですか?」
「絶対ダメです。でも、なんだか宮田さんに食べもらいたくて」
「嬉しいです。スイカ数年ぶりなんで特に。生まれてから一番美味いスイカって気がします」
「良かった。ありがとうございます」
「こちらこそ」

ふたりして、大量のスイカを平らげた。
あー、美味かった。

スイカの皮やタネを片付けると、高梨さんはゴミ袋へとしまった。

「あの、亮くん、辻村さんのこと、なんですけど」

高梨さんは、暗い病室で訥々と話した。

最近、なかなか会えないらしい。連絡がつかなかったり、予定していてもすっぽかされたり。
自分も交代勤務で忙しく、夜勤明けに会うのをドタキャンしたりしたこともあったという。それで辻村が怒ってLIMEに返さなかったりしたそうだ。

「私も悪いんですけど、どうしても体調が良くない時もあって」
「看護師さんは激務ですからね」
「亮くん、マッチングですぐ連絡くれて、最初の頃すごく優しかったんです。明るいし、勤務とかも気遣ってくれて、無理しなくていいよって・・・・・・でも最近、なんだか冷たく感じるんです。ふたりでいる時もスマホ見てるし、料理作ったよって来ても、コンビニ弁当買って食べてたりとか」
「・・・・・・」
「宮田さん、辻村さんとは長いんですよね?」
「あいつが新人の時から指導してます」
「本当は、別に彼女がいるんじゃないかって思うんです。違いますか?」
「・・・・・・」

辻村のことだ。
高梨さんは落とした女扱いして、今頃別の女に手を出しているんだろう。セフレが複数、とか言ってたし。

「・・・・・・いるんですね」
「いや、そんなことはないと思う。俺が抜けて忙しいんだよ。うちの部署、鬱で休んでる人とかいて、人少ないし」
「やっぱりダメなのかなあ。いつも付き合うと、最初はみんな優しいんです。でもすぐに浮気されたり、もう飽きたって言われて」
「俺だったら、高梨さんみたいな人がいたら、ずっと一緒にいたいですけどね」
「え?」

しまった。ストレート過ぎたか。
彼女はふふ、と笑う。

「優しいんですね、宮田さん」
「素直な気持ちを言っただけです」
「嬉しいですよ。そういうの。・・・・・・誰か来ちゃうかもだから、これで失礼しますね」
「スイカ、ご馳走さまでした」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...