ふたりでゲーム

るふぃーあ

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「うーん、なんかこう、物足りないね」

翌日の昼休み、またも屋上。
今日はお互い弁当持参で、というメールが朝入り、弁当とピロティーで買った牛乳を持って屋上に来てみると、女神は既に誰もいない屋上で待ち構えていた。

「そう、ですか?ずいぶんとうまくなってましたけど」

そう、JJはうまくなった。もう初心者とは言えないし、閃光玉一発で牙竜イルドカンデルも落とせるようになったし。

「そうね、ハンマーと太刀はずいぶん練習したし。でもさ、いざフェスタに出て、敵はガルーダゴルドスです、武器は大剣とランスです、とか言われちゃうことだってあるわけじゃない?」
「それはありえますね」

どちらの武器も、女神の苦手な組み合わせだ。
ガード可能な武器が苦手らしい。とにかく攻撃一辺倒、が彼女の持ち味だ。

「かのんくんはボウガンでほとんどのモンスはソロいけるし、他の近接も一通りクリアしてるけど、あたしは上位作って、やっと村クリアしたくらいだからなあ」
「それでも十分だと思いますが。・・・・・・まさか」
「もちろん!出場するからには優勝を狙うわよ!」

・・・・・・一瞬、女神が某アニメキャラに見えた。錯覚だろうか。
それは目標が高いなあ。

「いや、いくらなんでも優勝は」
「優勝するためには、もうこれは絶対、すっごいベストパートナーだなって言われるくらいの連携プレーが必要なのよ!」

女神は箸を握り締め、両手でこぶしを作った。小さな拳には力が入っていて、小刻みに揺れてる。

「Skypeで十分に話は通じてますし・・・・・・」
「それじゃダメなの!ほら、Skypeしてる最中って、ちょっと息止めてるでしょ?」
「それはまあ・・・・・・」

声が聞こえるということは、ちょっとした咳払いとか、大きな声では言えない生理現象の音とか、相手に聞かせられないと思いわずかに遠慮はしてしまう。

「もう、全部ひっくるめて、互いの状態が分からないとダメだと思うの!息遣いから何から何まで。そうでしょ教官!」

瞳が輝いている。真剣な眼差しだ。
・・・・・・彼女、ハンドルを握ると豹変する、とかそういうタイプの人じゃないだろうな。
普段の穏やかな、女神と称される落ち着いた雰囲気は今どこにもない。

「でも、Skypeで限界じゃないですかね。一緒にプレイしているわけじゃないし」
「それよ、かのんくん」
「は?」

ちょっと話が見えない。

「フェスタでは一緒に並んでプレイすることになるでしょ。普段は声だけを頼りに、お互い別々の場所で、別々のモニタを見ながらプレイしている。お互いが見ている画面も、ネットを通じて送られてくる、ちょっとタイムラグのあるプレイを見ていることになるわよね」
「ええ、それはそうですが・・・・・・」
「だから、一緒にプレイすべきなのよ。本番と同じように、ね」
「え」
「今日、何時に部活終わる?」
「え、えーと、19時にはたぶん」
「ごはんとお風呂は?」
「20時には・・・・・・」
「じゃあ、21時にしよう。21時、あたしの家に来て」

えええ。
もうずいぶんと前から箸が止まったままだ。いや、この状況でモグモグ平気で喰える奴がいたら教えてくれ。

「そ、そんな時間に自宅にって、ご両親やご家族は一体」
「うちは二世帯住宅だから、おばあちゃんところは今実家の手入れに行ってていないの。あとで携帯に地図送っとくから、右側の家の勝手口に来て。メールくれたらすぐ開けるから」
「ゲーム機はどうすれば」
「おねえちゃんのを借りる。ディスクと、キャラだけコントローラに入れて持ってきて」

どんどん話が進んでいく。

「テレビはどうすれば」
「おばあちゃんちには3台あるから、夜になる前に移動させとく。なんならごはん用意しといてあげようか?お風呂も入ってく?」
「いえ!いえ、それは遠慮しておきます・・・・・・」
「じゃあ、21時に間に合う感じで。いいかな?家、出てこれる?」
「うちは放任主義なんで」
「決まりね!待ってるから、なるべく早く来てね!」


今日に限ってやけにシゴキがキツいと思ったが、最後に副主将から一本を立て続けにとって、上級生向けに顧問の先生から説教が始まったところでお開きとなった。
いつもどおり、カラカラになった唇を直接水道口につけてんぐんぐ、と水を飲む。

ふはーっと一息ついたところで二年の先輩がやってきて、おい今宮、てめー昼休みに姫神と廊下でしゃべってただろ、それ三年の人に見られてて、んで東さんにシゴかれたんだぜ、と言ってきた。
その言葉で逆に、さっきまで同情してくれていた同じ一年のみんなの視線が冷たさを増す。もうごめんなさい勘弁してください。

ていうか僕、今からその姫神さんの実家に夜遊びに行っちゃうんですが。二人きりでゲームとかしちゃうんですが。なんてことを言ったらどうなるんだろう。とりあえず半殺しの上、道場に一晩正座しとけ、とかになるだろうな。

着替え終わるとチャリに飛び乗り、猛ダッシュで誰もいない家に戻る。
母親が作りおきしてくれてあった夕食を3分で流し込み、シャワーで念入りに汗を流す。

万が一にも気が狂ったりしないよう、シャワー中に一発放出しておき、ついでに微妙な部分も念入りに洗う。もちろん使う予定は一切ないが。
シャワーを終えてタオルで拭き拭きしていると、携帯が鳴る。普段はほとんど鳴ることはない。

(終わった?)

JJからだ。

(全力でシャワー終えました。今から全速力で行きます)
(待ってる~。家の場所はEメールで)

言うが早いか、EメールでGoogleマップの情報が送られてくる。一つ向こうの町だが、チャリで走れば15分ほどだ。

(家、出ますね)

そう入力すると、念のための書置きを残し、ディスクとコントローラを持って玄関を出た。
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