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勇者たち、憂鬱になる3

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「アカネちゃん、帰ってこないね・・・・・・」

アカネが一人で飛び出していってから2日。
ただひとり残された女子、ノリコは人数の少なくなった宿の部屋を見回し、ぽつりと言った。

「そうだな」

コウジが頷く。

ナオヤとマサヒト、勇者パーティと呼ばれた連中は、連日の督促に耐えかねて王城へと向かっていた。
伝説の勇者の剣や槍を無くしたことを責められるだろうな、そうため息を付きながら。

タカヒコの姿はなかった。どうやらひとりでどこかへ出かけてしまったらしく、ナオヤたちも知らない、と話していた。

「アカネちゃんを、探しに行ったのかな・・・・・・」
「どうだろな」

勇者パーティ、と呼ばれていた頃、ナオヤにマサヒト、タカヒコ、アカネ、白河サキの5人は最強と呼ばれていた。仲も良さそうだったし、装備も待遇も、クラス全員の代表のような存在だった。
それが今や、バラバラだ。

遠くでカンカン、と鐘を鳴らす音が聞こえてきた。
ノリコはふと窓の外を眺めた。この鐘の音を、その意味知っていた。火事や異変を知らせる鐘の音だ。
どこかで火事だろうか。僅かに聞こえる程度だ、別に慌てることもないだろうが。

「ナオヤに聞いたけど、もうだめらしいぜ。俺たちも、あいつらも」

唐突にダイスケが言った。
ノリコはえっ、と聞き返した。

「駄目って?」
「王国の援助は得られない、ってことさ。あの街まで行ってマスオと交渉するにも、兵士も、前みたいに馬も馬車も借してくれないそうだ」
「えっ・・・・・・じゃあ、自分たちで行け、ってこと?」
「そういうこと」

頷いてコウジが後を続けた。

「それどころか、ナオヤたちは伝説の武器を無くした不届き者、としてバツを受けるそうだ。勝手にあのモンスターに戦いを挑んで、数多くの仲間を無駄に失った愚か者、今後勇者と名乗ることは許されない、とかなんとか」
「そ、そんな」
「あと1週間、1週間以内に武器を取り返してこなければ国外追放、そう王様からの手紙に書いてあったってさ。今日はその釈明に、王様に呼び出されてるって」
「ひどいよ!わたしたちだって、好きで戦ったわけじゃ」

ノリコは声を張り上げたが、コウジもダイスケも力なく笑った。

「まあ、世の中ってそんなもんだよな。うまくいってるときは勇者だの、王子の生まれ変わりだのと持ち上げておいて、いざ落ち目になると切り捨てられる。・・・・・・こうなったら、もう」
「うん」
「他の国に逃げるかなって、ナオヤも」
「そっか・・・・・・」

ノリコはうつむいた。
最初、この国の人々は親切だった。ナオヤを勇者とあがめ、何でも、食料や服も、武器や住む場所も提供してくれた。
みんなここを第二の故郷として暮らしていこう、助け合っていこう、そう誓いあったのに。
そういえば、最近この宿の主人の態度も冷たい。以前はずっと使って下さい、と食事も無料で出してくれて、頼めば何でもしてくれたのに。

「・・・・・・あれ?」

また鐘の音が聞こえた。今度はもっと近くだ。

「なんだろう?火事かな?」
「そういえばさっきからずっと鳴って______」
「敵襲!敵襲だ!」

外から聞こえてきた声に、ノリコは胸が高鳴るのを感じた。
大勢の人々の悲鳴や走り回る音、鎧がガチャガチャと立てる音が聞こえてきた。
敵襲?ここは安全な場所、王都の中心部なのに?

ノリコは不安げな顔をガラス窓の外へ向けた。

「いったい、何が」



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