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マスオ、勇者を迎え撃つ7
しおりを挟む誰かが、呼んでいる声が聞こえた。
マスオのことを。
「・・・・・・シ様、ヌシ様!」
「ああ、起きている」
マスオの目に、真っ赤に泣き腫らした顔のヒメと、疲れた表情をしたシオリ、そしてユニコーンの角を持つマーサルヴァの顔が映っていた。
手で胸の傷を探る。完全に塞がっていた。
「お前がやってくれたのか、マーサルヴァ」
「はい」
「ありがとう」
ゆっくりと、頭を起こした。
まだあの戦場のままだったが、時間が経過していた。夕暮れ時のようだ。
「・・・・・・あいつらはどうなった、ヒメ」
「全員が消えました。転移魔法のようです」
「そうか」
マスオが頭を起こし見渡すと、あたり一面に大量の死体が散らばっていた。
大半はゴブリンとコボルド、そしてハーピィたちのものだ。ハイオーガの巨体もあった。
そして、いくつかの人間の死体。
(トランスポーテーション、と言ってたな)
転移魔法。あるいは離脱魔法。
そんなものを用意していたとは。
だが数人、同級生たちが死体となって転がっているものもあった。死んだ者は転移魔法で逃げられなかったのか。
「ヌシ様、これを」
起き上がったマスオに、ヒメが差し出したもの。
マスオの胸に突き刺さっていた、マサヒトの槍。
(これに突き刺されていたのか)
よく死ななかったものだ、とマスオは自嘲した。
そういえば、すぐに回復魔法をかけてもらったのだ、と思い出す。敵であるはずの、白河サキに。
「他にも武具が多数残されていました。どうやら武器防具は転移できなかったものかと」
「そうか」
なら、再戦しても楽に勝てそうだな。
マスオは乾いた笑いを浮かべた。
「・・・・・・あの」
シオリがおずおず、といった顔で話しかけてきた。
「ほ、本当に、その、ライカン様は・・・・・・・・・・・・マスオくん、なの?」
「・・・・・・聞いていたのか」
「ここから見てましたから。・・・・・・アカネちゃん、の、ことも」
そうだ。
アカネ、あいつが背後から刺したりしなければ。
やはりあの時に殺しておくべきだった。今さらながらにマスオは思った。
「・・・・・・生きてるやつは全員が逃げたんだな。ナオヤとか、タカヒコたちも」
「はい」
「そうか。・・・・・・今度は白河サキ、あいつを先に殺しておかないとな。でないと、また逃げられてしまう」
「その必要は、たぶんないです」
「???」
シオリの声に、マスオは振り返った。
「どういうことだ」
「サキちゃん、は、もう・・・・・・」
シオリは涙声で、戦場から少し離れた、ひとつの死体を指さした。
マスオは呆然と立ち上がり、よたよたと近づくと、少女の遺体を見下ろした。
それは。
まるで眠っただけのような、白河サキの亡骸だった。
「な・・・・・・こ、れは・・・・・・」
「サキちゃんの魔法、わたしも詳しくは知りませんけど、たぶん味方全員を安全な場所へ転移させる魔法、だったと思います。・・・・・・術者の命と、引き換えに」
「なん・・・・・・だと・・・・・・」
マスオは絶句した。
(だめだサキ!それは!)
ナオヤの声が耳元でリフレインする。
勇者も知っていたのだ。最後の手段だ、ということを。
だけど、彼女は魔法を唱えた。
このままじゃ全滅する、と分かっていたから。
(マスオくん、だよね?)
(ありがとう。ごめんね、ちゃんと言えなくて)
ついさっきのように、耳元で響いた彼女の声を思い出した。
それはとても優しい声だった。記憶にあるものと同じように。
(白河さん)
マスオが触れた身体は、もう人間の体温とは思えないほど冷たくなっていた。
「う、うわあああああああ!」
白河サキの遺骸にすがりついて、マスオは泣いた。
ただ一人、友人となってくれたかもしれない存在。
マスオのことを、友達だと言ってくれた人。
(もっと、もっと話をしたかった)
マスオはただ泣き続けた。
(白河さん、白河さん)
(どうして、こんなことに)
どのくらい、そうしていただろうか。
数分、あるいは数時間。
いつしか街は夜の闇に飲まれ、涙は止まっていた。
マスオは顔を上げた。
(あいつだ)
(アカネ、あいつのせいだ。あいつを生かしておいたせいで)
つまり、俺のせいだ。
マスオは自分を呪った。
殺す。
あいつを殺す。絶対に。
_____グ、グル。
異様な音が、暗闇に響いた。
それが自分の声だ、と分かるまで、しばらく時間がかかった。
グ、グル。
不快な唸り声。
殺す。奴らを殺す。
皆殺しにしてやる。
腹が減った。食ってやる。肉を喰らい、血を啜ってやる。最後の一滴まで。
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