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マスオ、勇者を迎え撃つ3
しおりを挟む「さて、出番だぞお前たち」
グリフォンの姿へと変わる。
主人の姿を見て、のんびりと草を食んでいた有翼の馬たちが起き上がり、巨大な翼を広げた。
ヒッポグリフ。
まだ若い個体が多いが、なんとかここまでの間に12頭を育てることができた。
戦力としてグリフォンには劣るが、12匹のハイゴブリンの精鋭たちを背に乗せて、ヒッポグリフたちはマスオに続いて空へと舞った。
(さて、後方部隊を襲撃してやるか)
マスオが見たところ、場内への襲撃はナオヤたちを入れて20人ほどだった。
後方の馬車を守っているのは非戦闘員ばかり、せいぜい10人前後だろう。この戦力で十分に制圧できるはず。
はたして、離陸して数秒もしないうちに、ナオヤたちの野営場所が見えてきた。一直線に空を滑空し、馬車へと直進する。
「ヒヒーン!」
馬たちが気づいて暴れ出し、人間たちが天幕から出てきた時は、既に遅かった。
「しゅ、襲撃だ!」
「弓を構えろ!」
「イクミ!笛を!ナオヤたちに知らせるんだ!」
弓を構えた先頭の男、もう名前も忘れた同級生をマスオは空高く跳ね飛ばした。哀れなそいつは数秒ほど空を舞い、どさりと不自然な姿で地表へと叩きつけられた。
あー、こいつも俺を虐めたやつだったなあ。もっと痛めつけてやれば良かった。
マスオはしばし後悔したが、次の瞬間にはもう存在すら忘れていた。
広げた翼が大型バスほどもあるグリフォンの姿を見るのは初めてだったらしく、同級生たちは手も足も出ず、ただ恐れ慄いてマスオたちに蹂躙されるがままだった。中には腰を抜かし、ただ小便を垂れ流しているだけの者もいた。
「ぎゃあああっ!」
「うわあああああっ!」
あっという間に制圧は完了した。
ハイゴブリンたちにとっては楽な作業だった。ヒッポグリフがクチバシで突き刺し、馬体と翼で跳ね飛ばし、あるいは蹄で踏みつけた人間にとどめを刺し、あるいは縛り付けるだけで良かった。
女たちも何人かは殺してしまったようだが、まあいい。マスオはさほど意に介さなかった。白河サキ以外、大して生かしておく価値もない。
「わ、わた、わた、しは」
ひとり、戦いもせずに地べたへ座り込み、股間を漏らしている哀れな中年男がいた。
カリセン。
(殺すか)
マスオが虐められていても、助けないばかりか一緒になって笑っていた残念教師。
この世界にマスオがいないことにも気づいてなかったようだ。
こんな無能教師、生かしておく価値はないな。
「ひいっ!や、やめてくれ______」
ぶち。
マスオがグリフォンの前脚を振り下ろすと、いとも簡単に潰れてしまった。なんという脆い身体だ。
「ああ・・・・・・ああ・・・・・・」
その隣には、女子がひとり、腰を抜かして青ざめていた。
イクミ。あの宿で参加したくなさそうにしていたが、結局同級生たちに連れられてきたんだろう。
マスオはワーウルフに変身すると、その特徴的なポニテの紐を掴み、束ねていた黄色い紐を外して奪った。
「笛をよこせ」
「は、はい」
マスオはイクミが渡した笛を強く吹き鳴らした。
ぴるるるるるるる!
笛の音が、街の方へと響き渡っていく。
後方部隊が襲われたと知って、ナオヤたちは戻ってくるだろうか。あるいはマスオ討伐を優先するだろうか。
たぶん討伐だろうな、そんな気がした。一度引き換えしてまた再突入するのは骨だろう。
イクミや人質の女たちはハイゴブリンたちに森の中へと隠させた。万が一にも奪い返されたりすると厄介だ。
ヒッポグリフたちは馬車馬たちを物欲しそうに眺めていたので、雄馬は餌にすることを許可した。牝馬は全員でかわりばんこに楽しむことだろう。
野営地から遠くミッテルンの城壁を見つめるが、破られた城門からナオヤたちが戻ってくる気配はなかった。警笛が聞こえなかったのか、やはり無視することにしたのか。
マスオは再び姿を変え、単騎街へと舞い戻った。
**
(むう、ここまで突破されたのか)
マスオが事前に予想したよりも、ずっとナオヤたちの進撃速度は速かった。
重装備のゴブリン兵士たちは相当な数がなぎ倒され、ハーピィたちも撃ち落とされたり、閃光弾や音爆弾で無力化させられていた。
(だが、ハイオーガたちは抜けなかったな)
ゴブリン洞窟でオーグレスたちに産ませた最初の子どもたち。ハイゴブリン同様、言葉を理解するハイオーガ。
オーガ並みに育った12体を選りすぐってプレートメイルを着せ、館の前に配置しておいたが、そいつらがナオヤたちの進撃を食い止めていた。
普通のオーガよりひと回り大きく、力強く、体力があり、なおかつマスオが鍛えたために多少の剣技や盾の使い方を覚えた子どもたち。
勇者たちはまだしも、他の冒険者クラスに転生した同級生たちは、かなり苦戦していた。
「み、みんな、ここを突破すれば、あともう少しで______」
「それは残念だな」
マスオの声に、ナオヤたちは振り向いた。
自分たちが倒してきたゴブリンたちの死体の中に、のんびりと微笑む男の姿を見て。
マスオが手を挙げると、オーガたちは攻撃の手を止めた。ナオヤたちも剣を構えたまま、大きく息をつく。
「・・・・・・どうして、後ろに」
「おや?笛の音が聞こえなかったのか?これ」
ぴるるるるるる。
マスオは手にした笛を吹き鳴らしてみた。
ナオヤの顔が驚愕に歪む。白河サキの顔が陰る。
「・・・・・・な、なぜ、お前がそれを。______まさか」
「後方部隊を見殺しとは、勇者の名が廃るな」
はらり。
マスオが手にしていた、地面に落としたものを見て、アカネが目を見張った。
「い、イクミ、の、ポニテの」
「なかなかいい声だった。断末魔の悲鳴、とでも言うかな」
「き、きさまぁ・・・・・・」
残ったハイオーガは8体。もう4体も倒されたのだな。さすがだ。
だがマスオが背後に、そしてハイオーガたちが前方に、生き残りのゴブリン兵たちが両側方に。ぐるりと勇者一行を囲んだ。
突入した敵の数は20名、相当な重傷を負っている奴もいたが、まだ全員が生き残っていた。さすが、とマスオは感心する。
「さあどうする?おめおめ逃げ帰ると言うなら、見逃してやらないこともない。無論のこと、こちらの損害分の賠償は支払ってもらうがな。・・・・・・あるいはあちらの後方部隊と同様、全滅するまで戦い続けるか?」
マスオは懐に手を入れ、何本かのユニコーンの角を取り出した。
ハイオーガたちに向かって放り投げる。戦闘不能で倒れ伏していた4体のオーガたちも、みるみるうちに傷が全快し立ち上がった。
静寂が、周囲を支配した。
全員が、敵も味方も、戦いの行方に固唾を呑んだ。
ナオヤの返答次第で、全てが決まる。
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