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マスオ、街を攻める2
しおりを挟む武装を解除し、バリケードを破壊させる。
街は放棄させ、町長を始め、老人や男、子供、その他使いものにならない人間は街の外へ追放とした。
最低限のものを持ち出す時間を与え、馬車を全員で2台分だけ用意してやった。
シオリを始め、エミ、ショーコにハツミも屋敷に残っていた。全員お腹が風船のように大きい。中で蠢いていて、今にも生まれそうだ。だからナオヤたちと別れ、置いていかれたらしい。
「アカネは、その、ナオヤたちと」
「別にどうでもいい」
アカネは妊娠しなかったようだ。あいつを一番孕ませてやりたかったのに。マスオは残念だった。
町長の屋敷に残っていた女たちは街に残らせた。人質兼、マスオの眷属を産ませるためだ。
同級生女子たちの他に若い女は全部で5名。落胆していたが、ゾンビに食われて死ぬよりはまし、といった表情をしていた。
「恩に着ます、ライカン殿」
町長を始め、街を離れる十数名が頭を下げた。
「礼を言われる筋合いなどない。どうせすぐに敵対することになるだろう。この街の門を出たらすぐに、な」
「そ、それは・・・・・・」
「心配するな。すぐに背後を襲わせたりはしない。・・・・・・だがお前たちが王都へたどり着き、ミッテルンが襲われたことを告げれば、ロンガロンド王国も黙ってはいないだろう。お前たちも今は感謝などと口にしているが、いずれ俺を憎み、街を破壊し、人々を殺したことを口汚く罵るだろう。それが人間というものだ。次は俺が処刑台で、お前たちがギロチンの綱を握っているかもな」
「・・・・・・相容れぬ、ということですな」
「だが忘れるなよ。俺は別にお前たち人間を絶滅させたいわけじゃない。そちらが手出ししなければ、俺も手出しはしない。この街を攻める構えを見せれば、ここに残された5人の女たちは城壁に吊るす。いいな」
「心しておきましょう」
ガラガラと音を立てて、馬車は走り去った。
命が助かったと思えば馬車の座席を求めて争い、座席を確保すれば持ち出す金品を巡っていがみ合う。本当に醜い生き物たちだ。
「ヌシ様」
「ヒメ、こいつらとこの屋敷を掃除しろ。ヒトが住める程度にはしておけ。それと、夕食の準備もな」
「はい。・・・・・・エミ、手伝って下さい」
「うん!」
「あの・・・・・・ありがとう、ございます」
ハツミが頭を下げた。
「いい。お前らにはまだ使い道がある。子を孕む、という仕事がな」
「・・・・・・はい」
命拾いしたことを喜んでいるのか、はたまた嘆いているのか。
子を抱いたままのシオリを残し、女たちが出ていった。
マスオはシオリとふたり、町長の部屋で子供をあやしていた。
どうやら、マスオの子というのは本当らしい。よく見ると、背中に薄い毛が生えていた。たてがみのような。
「あの日、子どもたちはみんな・・・・・・」
シオリはつらそうに、襲撃の日の様子を語ってくれた。
洞窟を襲撃され、マスオが倒れ、あとのゴブリンたちも皆殺しに遭った。子ゴブリンたちも。
ハイゴブリンたちは、やはり最後まで「ママたち」を守るために戦ったのだ。
ママたちが人間であり、救助される存在だ、ということが理解できなかったのだ。
シオリ。
彼女はマスオにとって、最初に自分の子を産んでくれた女だ。
最初は妖魔の子を宿したことにひどく落ち込んでいたが、子育ても楽しそうにしていたし、今も心理的な抵抗は低いのかも知れない。
しかし、産まれるのが早すぎる気もする。ワーウルフは数週間で妊娠・出産するのだろうか。このペースでは、年10回くらいでも産めそうだが。
マスオはそっと背後から、彼女を抱きしめた。
抵抗するかと思ったが、シオリは何も言わず、腰に回した手に手を重ねてきた。
「ライカン様、無事だったんですね。大怪我されていて、逃げられたけどもう無理だって、勇者が」
「ああ。ヒメが助けてくれなければ、とっくに死んでいた」
マスオは多くを語らなかった。こいつらはまたいつ敵側に回るか分からない。
手の内を見せるべきではない、そう感じた。
**
夕食の準備ができました、とシオリが呼びに来た。
子どもをあやしていて、いつのまにか眠ってしまっていたようだ。敵中なのにたるんでるな、とマスオは反省した。シオリの優しい手つきがもし嘘だったら、今頃寝首をかかれていたかもしれなかった。
起こしに来てくれた彼女は笑顔だった。もう二度もマスオの子を産んで、どこか心理的な壁がなくなったのかもしれない。
今も愛らしいエプロンをつけ、マスオに微笑みかけていた。
「必ず、助けてくれたことを後悔させないでみせますから」
そう言ったシオリ。
夕食に出てきたメニューを見て、マスオは感嘆の声を上げそうになった。
(うはー、唐揚げじゃないか)
故郷の料理なんです、と出してくれた品の数々。
唐揚げにトンカツ、それにクリームシチュー。
「お口に合いますかどうか」
「美味しいな」
噛み締めると湧き出す、肉汁の味。
白いご飯がないのを、マスオは恨めしく思った。
スープくらいはヒメも作ってくれたが、クリームたっぷりのシチューはまた格別の味だ。
パンに浸して口に運ぶ。美味い。
「美味しいです」
一緒に食卓を囲み、ヒメも感動していた。
食事を終え、茶を啜っていると、準備ができました、とまたシオリに呼ばれる。
「さ、こちらへ」
「うむ」
促されて奥へ向かうと、なんとお風呂が用意されていた。
町長の館には風呂があったのだ。贅沢に湯がなみなみとたたえられ、湧き出すそばから床へと流れ出していた。
ざああ、と湯を身体にかける。
ざぶん、と湯船に身体を沈めた。
(うはああああ、ひっさしぶりのお風呂だああああ)
マスオも所詮は日本人である。お風呂の魅力には勝てない。
水浴び程度なら何度かこの世界でも行ったが、お風呂となれば数ヶ月ぶりだった。
まだ元の身体が生きているのなら、とマスオは考えた。あのアオコだらけの池に落ちて、その後お風呂に入れたんだろうか。
白河さん以外の全員から、クサいと蔑まれていた視線を思い出し、湯船へぶくぶくと潜った。
「では、お流ししますね、ライカン様」
シオリがタオルを手に風呂へ入ってきた。つい緊張して、反射的に股間を隠してしまう。
「い、いや、自分で洗えるから」
「遠慮なさらずに」
おうう。
散々シオリの眼前に見せつけ、身体の中へと突っ込んでいたくせに、いざあらわにされ、ゴシゴシ洗われると、マスオは恥ずかしかった。
こすられているとまた高ぶってきてしまい、シオリの湯気が張り付いて透けた服装もたまらず、マスオはシオリの肌に張り付いた浴衣を脱がせ、激しく抱きしめた。
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