異世界モンスターに転生したので同級生たちに復讐してやります

るふぃーあ

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マスオ、街を攻める1

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(蘇れ、地獄の戦士たちよ)

ガタ。
とっくに死んだはずの死体が、ゆっくりと動き始めた。
肉体が剥げ落ちたものは、スケルトンとなって起き上がった。

あちこちで死霊魔術を行使し、死者を起き上がらせる。
ゴブリンにコボルド、人間の兵士、オーガ。あらゆる死体が生者を憎み、真の死に場所を求め、うめき声を上げてうろつき始めた。

(おっと、これではちびオーガたちも犠牲になってしまうな)

ちびたちを集め、王の間の奥、女冒険者たちを閉じ込めていた格子の間へと放り込んだ。これでアンデッドたちには襲われないだろう。

(街へ向かえ。街を襲え)

死者たちに命じる。
数百の生ける屍たちは、ゆっくりとした速度で歩き始めた。
兵士たちは、自分たちの街を目指して歩き。
ゴブリンやコボルド、狼のゾンビたちは、そいつらに連れられるように同じ方向を目指す。生者の気配がする方向へと。

マスオは狼に姿を変えると、一直線に街へと向かった。


ミッテルンの街は静かだった。
勇者様の仲間を救出し、ゴブリンを討伐する、と勇ましく冒険者や兵士たちが喧伝し、王都からの兵士もやってきて、一時的なお祭り騒ぎになったのがつい数週間前のこと。
だが、出ていった冒険者や兵士たちは、大半が戻らなかった。

特に、街出身の兵士たちは悲惨だった。死者・重傷者は9割以上、出撃していった者たちの大半は戻らず、戻った者たちも目や手足を失うなど、重い後遺症を負った者たちばかりだった。
冒険者たちも大半が戻らなかった。戻ったのは、マスオのオルドに入れられて陵辱されていた女冒険者たちだけだった。
彼女らの重い口から漏れ出た真実を聞いて、冒険者ギルドはパニックになった。落胆し、泣き叫ぶ者もいた。ギルド長は所属していた冒険者たちを全て失い、どうしてこうなったのか、とただ放心状態だった。

王都から派遣されてきた兵士たちも同様だった。一般兵たちは大半が殉職し、指揮官は王都へ戻ったら更迭される運命にあった。
唯一、勇者とその仲間、あるいは最後まで高みの見物を決め込んでいた王直属の親衛隊だけが平然と戻ってきた。
代わりに街を守って欲しい、町長は親衛隊に訴えたが、親衛隊たちは薄く笑っただけだった。翌日にはもう街から姿を消した。

(最低だな、あいつら)

勇者御一行は仲間うちだけで祝杯を上げ、楽しく(無料で)飲み食いして、先日王都へ向かって帰っていったらしい。
残念だった。ここで皆殺しにしてやりたかったのに。

(遠慮する必要はないな)

その日の夜。
街を囲む城壁、その城門が謎の炎の魔法で焼け落ちた。
城門を抜け、ゾンビたちがのっそりと街へ侵入していった。

「も、モンスターが来るぞ!」
「街を守れ!女子供は逃げろ!」

かろうじて残った10名ほどの兵士たちが槍を手に立ち向かったが、音もなく押し寄せる敵、痛みも恐怖も感じない死者の軍団に、次々と飲み込まれていった。
ほとんど抵抗もなく、マスオは街を占拠した。ゾンビたちは家々の扉を叩き壊してなだれ込み、生者を殺戮して回った。

狂乱の夜が過ぎ、朝が来た。
まだ散発的な抵抗はあるようだが、ほぼ動くものはアンデッドたちのみだった。

一部の建物に、ゾンビが群がっていた。
扉を固く閉め、まだ抵抗している者たちがいるのだ。

「バリケードを築け!」
「中に入れるな!ここを破られたら終わりだ!」
「か、かみさまああああ!」

街の中央、町長の屋敷のようだった。
マスオがゆっくり足を運ぶと、ゾンビやスケルトンたちは道を開けた。

「生存者の皆さん、わたしはライカン、と言います」

ワーウルフの姿で、マスオは語りかけた。

「わたしがこの街を襲わせました。抵抗はやめ、素直に死んで下さい」
「な、なぜだ!なぜこんなことをする!?」
「我々が何をしたっていうんだ!」
「女や、小さな子どもたちまで襲うなんて!」

非難の声が響いてくる。

「わたしはあなた方の軍隊が襲った洞窟の主です。先日、わたしの住んでいたゴブリン洞窟は、あなた方や勇者を名乗る人物らによって襲撃を受け、わたしの子供たちも皆殺しにされました」
「・・・・・・」

返ってくる声はなかった。

「わたしからは何も人間に危害は加えておりません。ただ無断で洞窟に入ってきた者、襲ってきた者たちを自衛のために倒しただけです。どうしてそんな目にあったのか、ちゃんと説明できる方がおられたら、あなた方を解放しましょう」
「・・・・・・」

返事はなかった。

「では、皆殺しにします」
「ま、待ってくれ!」

老人の声。
町長だ、と名乗る人物が、2階のベランダに出てきた。

「待ってくれ、ライカン殿。・・・・・・あなたの洞窟を襲撃したことは謝る。本当に申し訳ない。我々人間は、ゴブリンや狼、蜘蛛などの生き物が怖い。だから被害を受ける前に討伐を、と考えた。それは間違っていた」
「間違っていたのは、洞窟の主であるわたしを殺さなかったこと、そう思っていませんか?」
「・・・・・・そうかもしれぬ。だが今は強く後悔している。このような逆襲を受けるとは、全く予想もしていなかった。あなたのお怒りはごもっともだが、どうか我々を見逃して欲しい」
「だめです。どうせ見逃せば、いつかこの街は再建される。そしたらまたわたしの住む洞窟や、自分の配下たちが襲われるのでしょう。わたしが理想とする世界に人間は不要です。人間は人間以外のものを全て否定する。いや、人間同士ですら。違いますか?弱いもの、醜いもの、自分より立場が下のものを見下し、あざ笑い、踏みつけにして喰いものにする。なんと醜い生き物だろう。人間はこの世界に不要だ」
「違う!そんな人間ばかりじゃない。あなたがたと、共存できる人間もいる!」
「なら証拠を見せて下さい。今すぐここを開いて、ゾンビたちの中へ。彼らと共存できるものがいるなら、わたしも考え直しましょう」
「・・・・・・それはできん。ここから出たら死ぬ、あなたも無理をおっしゃる」
「どのみち、死ぬことには変わりないんですがね。・・・・・・では、おしゃべりもこのくらいで、どうぞ最後まで抵抗して___」
「ライカン様!」

名前を呼ばれて、マスオは振り上げた手を止めた。
ベランダ、町長の隣。

元同級生のシオリだ。

「わたしです、シオリです!どうか、皆を助けて下さい!」
「ダメだ。お前も____」

まとめて死ね。
そう言おうとして、シオリが腕に抱いた赤子を見つめた。

「この子はあなたの子です。ゴブリンではなく、ライカン様の、ワーウルフの子です!」

見た目ではただの赤子に見える。

「・・・・・・ハッタリだ」
「いえ、間違いありません!あの洞窟から救助されて、翌週に産んだばかりです。どうか、この子のためにも」
「本当じゃ!ワシの妻も、お産には立ち会ったぞい。産まれた子には人間にはない、銀色の尻尾があったぞ」

洞窟にいた頃を、マスオは思い返した。
ホブゴブリンの姿から、ワーベアやワーウルフの姿となり。
彼女らを、その姿で抱いた。

粗末な寝具、粗末な床だったが、エミにシオリ、ショーコ、ハツミ、それにアカネ。
殺伐としながらも、オルドの中で5人がわいわいと話していたのは、この世界に来て希少な、少し楽しい時間だった。

「シオリ!」
「ヒメ!無事だったのね!」

いつの間にか背後まで来ていたヒメが、シオリに手を振った。
シオリも泣きながら手を振り返していた。

・・・・・・
マスオは気を削がれ、はあ、とため息を付いた。

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