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マスオ、軍隊と戦う2
しおりを挟む(防具は・・・・・・っと、これがいいかな)
ワーウルフの姿になり、殺した兵士から防具を剥ぎ取って着用する。
兵士支給の兜を目深に被り、剣と槍を持てば、どこから見ても王国兵士だ。
糸から逃れて森から逃げる兵士たちに混じり、軍隊に紛れる。
しばらく行軍すると、命令が聞こえてきた。
「休憩だ!」
人間たちの列が、一斉に止まった。
小川の流れる場所。ここで休憩するようだ。
「各自休め!半時間後に出発!」
司令官がそう命じると、全員が疲れたようにどさり、と腰を下ろした。
体調が悪そうな者が多数いた。井戸に投げ入れた蜘蛛の麻痺毒が奏功したらしい。
「あー、腹が痛ぇ」
「脚がもつれる気がする。歩けねえぜ」
歩兵はまだしも、馬を失い、大幅に行軍速度が落ちた騎兵たちは、洞窟に辿り着く前に戦意を失っていた。
森を無視して進むつもりが、まさかの犠牲だったのだろう。
小一時間ほど休憩を取ると、重い足取りで進軍を再開し、洞窟へと向かう。
森からの射程に入らぬよう、ずいぶん遠回りしている。よほどゴブリンの弓と蜘蛛糸の攻撃が堪えたらしい。
マスオが見るところ、行軍している兵士は3種類いた。
ひとつはミッテルンの街の兵士。これは80名ほどいた。最初の攻撃でかなり数を減らしたようだ。全員が歩兵だ。
ふたつめ、これは王都から派遣されてきた兵士だ。こちらも90名前後、というところか。こちらも大半が歩兵だ。地元兵と比べ、やや装備品が良い。
みっつめ、「親衛隊」と呼ばれているエリート兵。こいつらは20名前後だが、明らかに上物の武器防具を装備しており、全員が馬に乗っていた。馬にも防具が取り付けられていて、ゴブリンの襲撃や蜘蛛の糸でもあまり被害を受けなかったようだ。井戸水も飲んでいないのか、平然としている。
(ナオヤ、あいつらはどこだろう)
兵士の姿で勇者ナオヤを背後からばっさり、といきたかったが、兵士の数が多く、どこにいるのか分からない。
仕方ないので、一兵卒のふりをして進んでいく。
やがて、マスオの住むゴブリン洞窟が見えてきた。
「あれだ!警戒せよ!」
司令官が号令を発する。
「勇者殿、あの洞窟で間違いありませんね?」
「ええ」
おっと。
ナオヤ、そんな後ろにいたのか。
ちゃんとマサヒトにタカヒコも、そして白河サキもいた。
(お)
勇者ナオヤパーティの近くに、他の同級生たちが数人混じっていた。アカネを救出する、という使命感に燃えて参加したのだろうか。
まあいい。まとめて殺してやる。
「よし、勇者様の仲間を救出し、オーガを倒すのが任務だ!敵は手強いぞ、心してかかれ!」
「おう!」
「ボスであるオーガを見つけたら捕らえよ!弱らせるのは構わぬが、とどめは勇者様が刺される!心得ておけ!」
「おう!」
なんだよ。自分で戦うんじゃなく、兵士らに戦わせて最後の手柄だけ、ってか。クズだな。
どうせ勇者なら、先頭を切って進めばいいのに。前回この洞窟に入った経験があるのはこいつらだけなんだし。
マスオが心の中でぶつくさ言う間に、戦いは始まった。
洞窟の入口を守っていたゴブリン数体があっけなく倒され、兵士たちが洞窟へと入っていく。
「突入せよ!」
先陣を切らされるのは、やはり地元ミッテルンの街の兵士たちだ。
王都の兵士たちは高みの見物ってか。いい気なもんだ、とマスオは呆れた。
街の兵士たちは不安な顔をしながらも、命じられてしぶしぶ洞窟へと入っていく。
「落とし穴だ!」
「気をつけろ!床が滑るぞ!」
「く、蜘蛛が!大勢いる!」
「糸が、糸がああああ!」
「押すな!押すなって!落ちるだろうが!」
中から悲鳴が聞こえてくる。
予想通り、順調に落とし穴の罠や天井からの落石、油を蒔いた床と肥溜めなど、あちこちに引っかかってくれているようだ。
やがて、徐々に静かになる。
「伝令!・・・・・・多数の罠や姿の見えぬ蜘蛛の攻撃で、我が方の被害甚大!なおもゴブリン多数と交戦中!師団長より、至急救援を、とのこと!」
「ええい、ゴブリンの罠ごときに遅れを取りよって。・・・・・・次、進め!」
今度は王都派遣兵が洞窟へ入っていった。
マスオも一緒に入っていく。
(まずいな)
ミッテルンの街の兵士はかなりの罠に引っかかってくれたらしく、王都派遣兵たちは安々と洞窟を進んでいく。
あちこちにゴブリンやハイゴブリン、黒蜘蛛たちの死体が転がっていた。もうゴブリン洞窟はほぼ無防備だろう。
王都兵たちはゴブリン洞窟を抜け、コボルド洞窟へと入っていく。
ここはまだ手つかずのようだ。
「お、宝箱だ」
進軍する通路を横目に、脇道の部屋を物色する兵士たち。
大きな宝箱があれば、つい手を出したくなるのが人間の性だ。
「落とし穴だ!」
床が抜け、数名が落下していく。
ぼおおおん!
別の部屋では、空けた宝箱が爆発した。
また別の部屋では、天井が丸ごと落下し、兵士たちを押し潰した。
「ええい!宝箱などに惑わされるな!王の間を目指すのだ!」
指揮官が拳を振り上げた。
「師団長殿!オーガを発見しました!」
兵士が報告する。
「よし、注意してかかれ!生け捕りにするのを忘れるな!」
「はっ!」
兵士の一団が駆け去っていく。
「師団長殿!オーガを発見しました!」
「師団長!オーガです!」
「こちらもオーガを見つけました!師団長殿、指示を!」
いくつもの報告を受け、師団長が目を白黒させる。
「こ、これはどうなっているのだ!?なぜゴブリンの洞窟に、オーガが何体も?」
あちこちで悲鳴が上がった。
オーガの部屋に入った途端、部屋の上から石扉が落下し、中に兵士が閉じ込められたのだ。
マスオは苗床にしていたオーグレスたちを、あちこちの部屋に分散配置しておいた。
入り口を解放し、数人が入るとロープを切り、石扉が落下するようハイゴブリンたちに命じてある。
10人ほどでかかるならまだしも、オーガ1匹に人間の兵士4-5人など、エサにしてくれ、と言っているようなものだ。その上、オーグレスたちは尋常でないほど腹が減り、腹を立てていた。何週間も捕らえられ、一方的に犯され続け、残飯ばかり食わされていたのだから。
兵士たちがようやく石扉を破壊すると、そこはオーガが食事を終えたところだった。
「うわああああ!オーガが!」
「隊長!隊長がやられました!」
「ぎゃあああ!腕を、腕を食われたああああ!」
同時多発的に至るところで悲鳴が上がり、師団長は口をパクパクさせるだけで動けないでいる。
「こ、この部屋は?」
マスオを含めた一団は、無事王の間へとたどり着いた。
ここにオーガはいない。だって。
「俺がここにいるからな」
マスオは剣を抜き、一閃した。
兵士たち、8人の首がまとめて飛ぶ。あっけなく。
(さて、ここまでは順調だが)
オーガたちの叫び声が、少しずつ減っていく。
親衛隊、それに勇者を始め、転生者パーティたちも洞窟へ侵入してきたのだ。雑魚兵士たちと違い、こいつらは強い。
(やはり、一筋縄ではいかないか)
マスオは他の部屋へ向かい、オーガを攻撃する兵士たち、混じっていた元同級生たちを後ろから切り裂いた。
「き、貴様!裏切ったか!」
「答える必要はない」
次々と首を刎ね、鎧を切り裂いていく。
だが。
ギィン!
剣が剣で防がれた。
「お前、何者だ」
やはり、俺の相手はこいつか。
マスオはじっとそいつの顔を眺めた。
勇者ナオヤ。
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