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マスオ、冒険者ギルドと戦う2
しおりを挟む王の間にどっかと座り込み、頭を抱えて思案する。
(どうすればいい)
逃げるか。
この洞窟を丸ごと捨てて逃げる。
ゴブリンたちを、コボルドと狼と蜘蛛と、女やオーガ苗床を、全てを捨てて逃げるか。
マスオひとりなら、またやり直せる。
ゴブリンも他のモンスターや女も惜しい気はするが、命には代えられない。
あるいは、ここを放棄して、動けるものたち全員で別の場所へ移住するか。
オーガ村はまだ見つかってないだろうし、あそこには牧場も畑もある。全員は養えないが、身近な連中だけ連れて逃げれば。そのくらいなら十分に養える。
もっと奥、全滅させたワーベアの村まで逃げてもいい。樹海のすぐ近くであり、危険性は高いが、逆に人間も簡単に近づくことはできないだろう。
だが、マスオは惜しかった。
せっかく洞窟も広げ、罠も仕掛け、住みやすくなったのに。
今まで友達もほとんどおらず、自分の部下などいなかった。そんなマスオにとって、自分を敬い崇めてくれるゴブリンたちを、子どもたちを失いたくなかった。
女たちも。
エミにシオリ、ショーコ、ハツミ、そしてアカネ。
元の世界にいれば、絶対に相手にもされないような同級生たちを好き放題できるのも、ここがマスオの王国だからだ。彼女らだけを連れて逃亡しても、逃げられてしまうだけだ。
あるいは、彼女らとて元は冒険者である。隙を見せれば、集団で寝首をかかれる可能性もあった。
(やってやる・・・・・・やってやるさ・・・・・・どうせ失うものなんてない)
マスオがマスオに戻っても、今より良くなるものなどない。
なら、精一杯生きてやる。あがいてやる。マスオはそう心に誓った。
さて、そうと決まれば。
マスオは迎撃の準備に取り掛かった。
とはいえ、明日には襲撃を受ける。できることはそう多くない。既にゴブリンには戦闘訓練を行っているし、狼もコボルドもさほど強くはできない。突然数が増えたりはしないし、計算できる戦力は限られている。
(先行部隊は50人あまりの冒険者、か)
その実力は未知数だ。ゴブリン討伐に来たDランク冒険者はあっけなくマスオの餌食となったが、ナオヤのように強力な武具を持つものや、歴戦のつわものがいるかもしれない。
(ナオヤと軍隊が来るまでに、冒険者だけを叩けるかどうか)
洞窟へ誘い込み、ゴブリンたちや蜘蛛、罠で徐々に力を削ぎ、王の間で決着をつけるか。あるいは洞窟から出て、森の辺りを防衛線にして戦うか。
その場合、森に棲む狼たちと蜘蛛、マスオだけで戦う必要があるだろう。
もし軍隊が主力である場合、できるだけ手の内は隠しておきたい。
(俺だけでどこまでやれるか、試してみるか)
結局、その日マスオにできることは何もなかった。アカネたちに日課である種付をしただけだった。
**
翌朝。
マスオは早朝に洞窟を出て、狼の姿で森を抜け、街へと続く街道を睨んだ。
(来た)
冒険者ギルドの一行、総勢60人あまり。予想より少し多い。
全員が徒歩だ。ゆっくりとこちらへ向かってくる。
森のすぐ手前まで来ると、一行は止まった。
「どうした、進まないのか」
「この森には、樹海にしか棲まないはずの大蜘蛛がいるって話だ。探索スキル持ちなら分かるだろう。狼だけじゃない反応が大量にある」
先頭を進む大柄な戦士と、弓を持つ探索者らしき男が話すのが聞こえた。
ふむ、と戦士は森の巨大な木々を見上げた。
「なら迂回するか?かなり遠回りになるぞ。今日中に街に戻れなくなる」
「だが、安全に越したことはない。迂回すべきだ」
しかし、戦士は直進することを主張した。
「みんな!聞いてくれ!俺は何度も樹海に行ったことがある。大蜘蛛だって倒してきた。奴らは手強いが、注意深く対処すればなんてことはない!真っ直ぐ森を突っ切るか、半日かけて迂回するか、選んでくれ!」
戦士がそう言うと、後方から幾人もの声が聞こえた。
「こんな森、何度も通ったことがあるぜ。蜘蛛くらいなんだってんだ。とっとと行こうぜ。夕食の店は予約してあんだからな」
「これだけ手練れが揃ってるんだ、怖がることはないさ」
「だが」
探索者数人は尚も迂回を主張したが、大半は森を進むことを選んだ。
「なに怖気づいてんだ。ゴブリン討伐くらいで。びびってんのか?」
大柄な戦士が、嘲笑うように言った。
「そういうわけじゃ」
「とっとと進もうぜ。時間のムダだ」
「俺は行くぜ。臆病者は街に帰ってママのオッパイでも吸ってろ」
あちこちで笑い声が起きた。
戦士たちは意気揚々と剣を片手に、森の中へと足を進めた。
先頭の男が入っていったのを皮切りに、他の冒険者たちも森の中へと入っていく。
「ほら、なんともないだろ?びびんなよ」
「蜘蛛どものほうが怯えてるぜ、俺たちによ」
どっ、と再び笑いが起きた。
60人もの大所帯だ、気が大きくなっても不思議はない。
(よし、これでいい)
ちなみに、先頭近くで余裕こいていた大柄な戦士は、冒険者たちに紛れたマスオ(ワーベア人間形態)である。うまく森の中へ誘導することができた。
我先に、と走っていく者も、集団の意見には逆らえず、渋々ながらあとからついていく者たちも、全員が森に入っていく。
マスオはそっと姿を消し、行動を開始した。
蜘蛛の姿に変身。まずは退路を断つべく、冒険者たちが入ってきた森の縁に沿って網を張った。
続いて、大きく弧を描くように移動しつつ、木々の間に麻痺毒を付けた横糸を張っていく。
冒険者たちが森の中を移動し、狼や蜘蛛たち数匹と戦っている間に、巨大な円形の巣が完成した。
念のためもう1周し、2重に糸を張っておく。
(よし)
森の中央付近で、冒険者たち一行は上機嫌だった。
襲ってきた何匹かの狼を倒し、頭上から襲ってきた大蜘蛛も数体、あっけなく葬る。
「ほらな、大袈裟なんだよ。どうだ?探索スキルは」
「・・・・・・巨大な反応が、さっきから俺たちの周りをぐるぐる回っている。何かの罠かもしれない」
「遠巻きにして近寄って来れないだけだろ。あっちも俺たちが怖いんだ」
そうだな。実際怖いよ。
マスオはそう思った。
冒険者たちの中には魔法使いもいる。白河サキにやられたように、補助魔法や攻撃魔法で一撃を喰らえば、マスオの罠などあっけなく瓦解するだろう。
静かに、隠密に。悟られるな。
(よし、ゲーム開始だ)
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