異世界モンスターに転生したので同級生たちに復讐してやります

るふぃーあ

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マスオ、敗北する3

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(そうか、銀の武器だ)

翌朝。
目覚めたマスオは、ふとコボルドが差し出した銀のナタを思い出した。

ワーベアではなくワーウルフには、銀の武器、あるいは銀の弾丸であれば傷つけることができる、という伝承がある。
マスオが好きだったテーブルトークRPGにも、確かそんな設定があったはず。もっとも、一緒に遊ぶ友人はいなかったが。

(あった)

王の間に入れておいた武器の中に、銀のナタがあった。
先日の勇者ナオヤとの戦闘に使用したものだ。あの時はただの武器として使用したが、もしかしてワーベアに通用するかもしれない。

寝起きのコボルナに命じて、コボルドが作った防具を装備させる。
昨日の傷などもう癒えていた。銀のナタを手にしてから、狼の姿に変形する。

(変形したら装備はどこへ行くんだろう)

あまり疑問に思ったことはなかったが、今までも狼に変身し、ホブゴブリンに戻った時はちゃんと樫の棍棒も手に持っていて、簡素な腰巻きもちゃんとつけていた。
昨日も、オーガの姿になったらちゃんと金棒も装備していたし。
どういう理屈なんだろうか。

(まあいい、それよりもリベンジだ)

朝もやの中を、マスオは飛び出した。
護衛は連れて行かない。マスオの全力疾走にはついて来れないし、狼たちを失った仇を取っていないせいもある。あのメス狼たちの仇は自分が取ってやりたかった。それに、あのワーベアにかかれば狼などエサか慰みものにしかならない。

オーガ村を抜け、真っ直ぐに昨日の村へと走った。
村を目前に、マスオは昨日死闘を繰り広げた丘の上で、遠吠えを発した。

「ウオオオオオオオオオオオン!」

村から一人の男がゆっくりと丘を登ってきた。
人間の姿で、昨日と同様に微笑みを浮かべたまま。

「やあ、また来たね。・・・・・・今日はちゃんと、殺そうかな」

歩きつつ、男は体毛を生やし、背を伸ばしていく。ボキボキと指を鳴らした。
最初から戦闘モードだ。

(いくぞ!)

「ヴェアアアアアアアアアアアアッ!」

マスオは吠えた。
ワーベアが爪を振り上げる。
マスオは手にした銀のナタを振り下ろした。

「ガアアアアアアアアッ!」

どさり。
クマの右腕が切断され、地面に転がった。

「う、な、なぜ」

男が苦悶の表情を浮かべた。
銀製の武器が有効だ、と知らないのか。

(いける!いけるぞ!)

二撃目で、あっけなくクマの頭が転がった。
やはり銀の武器は有効なようだ。

「ヴォオオオオオオオオオ!」

マスオは吠えつつ、眼前の村へと向かった。
村人が数人、家から飛び出してきた。マスオの突進を見て、次々と体毛を生やし、クマの姿へ変わっていく。
中にはさきほどの男よりもガタイの大きいクマもいた。

だが。
戦いは一方的だった。
マスオが手にした銀のナタは、ワーベアたちを熱したバターナイフのごとく、安々と切り裂いていった。

「ガオオオオオオオ!」
「ギュアアアアアアアアッ!」

あちこちで断末魔の悲鳴が上がる。
マスオは血の匂いに酔っていた。昨日味わった屈辱、それを一晩で挽回した快感。メス狼たちの仇を討ったという達成感。強者を力で踏みにじる満足感、一方的に殺戮する充足感。

10軒ほどの村は、あっという間に血の海に染まった。
マスオは一軒ずつ中を確かめ、女を引きずり出しては殺し、隠れていた老人を殺した。

ぱあああっ。
村に積んだ死体のひとつに、あの魔石が光っていた。
マスオは焦茶色の魔石を口に入れ、ガリッと噛み砕いた。
身体が光り輝き、マスオは変身した。

(あ・・・・・・)

人間の姿。
ぐい、と力を込めると、たちまち体毛が生え出て、マスオは巨大なワーベアに変身した。
だが全身が光ったりはしない。これは魔石ではなく、ワーベアの特性によるものだろう。

再び人間の姿を取る。
とある家に入ると、鏡があった。

(これが・・・・・・俺?)

日本にいた頃の、ひょろっとしたマスオとは、全く別人の顔になっていた。
北欧系、あるいは欧米人のような顔。彫りの深い顔立ちに、驚くほど張り出した胸や肩の筋肉。
ホブゴブリンやオーガには敵わないが、人間としてはものすごい筋肉質の身体だ。悪くない。

全裸になったマスオは、皆殺しにした村を回って衣服を手に入れた。久しぶりに下着やシャツに袖を通し、ズボンを履き、靴下と靴を履く。

「あー、あいうえ、お」

(おおおおお)

言葉だ。言葉が出る。ちゃんと。
ものすごく久しぶりな気がした。転生してからどのくらい経っただろう。まだ数ヵ月という気分だが、それでも言葉を発することができるのは楽しかった。

「あー、誰か、いませんか」

無人となった村に、マスオは話しかけた。
誰もいるはずがない。マスオが皆殺しにしたのだから。

だが、動く気配がした。
マスオが歩み寄ると、井戸の影にひとりの女が隠れていた。

「ひっ」
「誰だお前」

聞かなくても分かる。殺戮を逃れ、逃げようとしていたのだ。

(お、美人だな)

欧米系の顔立ちをした、金髪の娘。年頃は元のマスオと同様、高校2年生くらいか。
マスオが腕を掴むと、ひっ、とまた声を出した。

「話せるか」
「・・・・・・」
「お前、言葉が分かるか」
「・・・・・・はい」

おお。日本語だ。
あるいは別の言葉なのかもしれないが。

「お前、名前は」
「・・・・・・ヒメ」
「ヒメ?お姫様ってことか?」
「・・・・・・ただの、ヒメ、です」

なんだ、偶然か。
まあいいや。

「殺されたくなければ、俺に従え。いいな」
「はい」

即答。
よし、こいつは連れて帰ろう。ワーベアの娘だ、ワーベアを産むことができるかもしれない。できなくても、ただ愉しむために使えばいい。美人だし胸もある。
洞窟までは遠い。人間の足で歩くのは無理だろう。

「お前、クマに変身できるな」
「・・・・・・できますが、服が」

ああ。なるほど。
マスオも、そのことは失念していた。せっかく服や靴を手に入れたのに、この姿で変形すれば、服が破れてしまうのか。魔石の力で変身した時は大丈夫なのに。
なら、狼の姿で帰るしかないな。

「俺が狼に変身する。俺の上に乗れ」
「はい」

ワーベアの娘は大人しく背に乗った。
女ひとりを乗せるくらいなら、マスオの移動速度は落ちなかった。あっという間に洞窟へとたどり着く。
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