32 / 86
マスオ、勇者と戦う3
しおりを挟む「ファントム・フラッシュ!」
澄んだ美しい声が、王の間に響き渡った。
「ヴェアアアアアアアアアアーーーーーーーッ!」
続いて訪れた激しい苦痛に、マスオは叫んだ。
(な、なんだこれ!?)
白河サキが唱えた呪文。
その呪文に視力を焼かれ、マスオは顔面を押さえて苦痛に膝をついた。
一瞬にして眼球が焼けただれたような感覚。そして強烈なめまい。
立っていることすらできず、マスオはどう、と横倒しになった。
魔法。
それも補助魔法のたぐいか。今まで単純な攻撃魔法しか使ってこなかったのに、こんな魔法を隠し持っていたとは。
「ヴォ、ヴォグリュウウウウウアアアアッ!」
白河サキがいたと思しき場所へと闇雲に腕を伸ばすが、手のひらには何も捕らえることができない。
方向があっているのかどうかすら、今のマスオには分からなかった。
「この、ケダモノめ!・・・・・・剛剣!天斬覇!」
ナオヤの声。
そして、強烈な痛み。
グチュッ!
「ヴァギュアアアアアアアアアッ!」
マスオはおのれの口から、耳をつんざく悲鳴が漏れるのが聞こえた。
心臓付近への一撃。悶え苦しむマスオに、ナオヤが踊りかかったのだ。
ぐはっ、と口から何かの液体が吐き出され、喉に詰まった。
(や、やべえ)
転がっていたせいで、かろうじて心臓への一撃は免れたらしい。だが致命傷であることは明白だった。
「ハイ・ヒール!・・・・・・マサヒトくん、タカヒコくん、アカネちゃんを!」
「おう!任せろ!・・・・・・この脳筋オーガめ、ぶっ殺す!ハイパー・アンプテーションアタッーーーク!」
「借りは返してもらいますよ。・・・・・・スクリュー・ストライク!」
ぐしゅ。ぶちゅっ。
「ヴォオオオオオオオオッ!」
マスオは悲鳴を上げた。
右腕が切断され、腹部にも強烈な一撃が突き刺さった。
______殺される。
そんな感覚が、マスオを襲った。
だが、それは初めての感覚ではなかった。
ゴブリンの時も、狼と戦った時も、蜘蛛に捕らわれた時もオーガに包囲された時も、そう感じた。
死線を潜り抜けてきたという点では、マスオは誰よりも三途の川の縁を歩いてきた。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
どうしてこうなった?
魔法のせいだ。
白河サキの魔法、視力を奪い、痛みを与える魔法。
(ファントム?)
幻覚?
そうだ、これは幻覚だ。
手で目に触れたが、ただれ落ちてはいない。
視力を奪い、目に苦痛を与え、平衡感覚を狂わす魔法。
冷静に、冷静に対処しろ。マスオはそう言い聞かせた。まだ終わってない。
(シラカワサン)
「え!?」
瞬間、痛みが止まった。
腹部に突き刺さる槍の感覚。
だがめまいや視界を奪う痛みは止まっていた。槍を奪い、逆に突き返す。
「がふっ」
肉を貫く感触。マサヒトだろう。
貫いたまま、大きく薙ぎ払う。
「きゃあっ!」
「サキ!」
叫び声がして、マスオの視力が完全に戻った。めまいも消え、立ち上がることができる。
(持続魔法、か)
どうやら、白河サキの魔法は、かけ続けることで苦痛や幻覚を与えるものであったらしい。
見ると、倒れた僧服の白河に、ナオヤが駆け寄っていた。
「こ、こいつめっ!」
斧を持ったタカヒコ。
右腕を切り落としたのは、恐らくこいつだ。
「だあっ!」
空中へ大きくジャンプし、脳天割りを浴びせようと跳躍する。
そりゃ悪手だろ。
マスオは落下するタカヒコへ、槍の穂先を突き出した。
「ぐぶっ」
ぐさっ。
突進と自重が胸の中央を貫き、槍が全身鎧ごと身体を貫通する。
なおももがいていたが、やがてぐったりと血を滴らせながら、目の光を失った。
「マサヒト!タカヒコ!・・・・・・くそっ」
勇者ナオヤは白河サキを抱き起こしつつ、仲間たちの惨状に顔を歪めた。
マスオはふらつきながらも立ち上がった。
こいつら、とっとととどめを刺して______
「ヴォ、グヴェッ」
が、一歩踏み出すとバランスを失って倒れた。
だめだ、右腕が切られているので、真っ直ぐ進めない。
視界も暗転し始めた。大量の血液を失いすぎたか。
もう出血は止まり、早くも腕は再生し始めているが、完全に治るには数日かかるだろう。左腕一本で戦うには、勇者ナオヤは強すぎる。
「・・・・・・ナオヤ」
「マサヒト。立てるか」
「・・・・・・何とか。・・・・・・だが」
「・・・・・・ハイ・ヒール」
抱き起こした白河サキは、弱々しく腕を伸ばすと、血溜まりの中で倒れたタカヒコに回復魔法をかけた。
ぴく、とタカヒコが動く。完全に槍で身体を貫かれて、それでもまだ息があるようだ。しぶとい野郎だ。
「・・・・・・撤退しましょう、ナオヤ」
マサヒトが声を絞り出した。
ナオヤが目を剥く。
「し、しかし!」
「このままじゃ全滅です。・・・・・・タカヒコはなんとかしますから、せめて白河さんを連れて逃げないと。彼女は換えが聞きませんから」
「だが、アカネが」
「・・・・・・残念です」
先ほどマスオが放り投げたアカネは、マスオの後ろに倒れたままだ。救出するには、マスオを倒さねばならない。
しかし、ナオヤの決断は早かった。
白河サキを腕に、剣をマスオへ突きつけたまま、ジリジリと後ろに下がる。
マサヒトがタカヒコを助け起こした。
「歩けるか?タカヒコ」
「・・・・・・ん」
ぐはっ、とタカヒコが血反吐を吐いた。
よろよろと、出口へ向かって進んでいく。
______逃さん。
ここで仕留めなければ。
だが、もはやマスオも限界を超えていた。もう一歩も脚は動かなかった。
ナオヤは剣を抜き身に構えたまま、ゆっくりと王の間を、そして洞窟を出ていった。
53
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる