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マスオ、勇者と戦う3

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「ファントム・フラッシュ!」

澄んだ美しい声が、王の間に響き渡った。

「ヴェアアアアアアアアアアーーーーーーーッ!」

続いて訪れた激しい苦痛に、マスオは叫んだ。

(な、なんだこれ!?)

白河サキが唱えた呪文。
その呪文に視力を焼かれ、マスオは顔面を押さえて苦痛に膝をついた。
一瞬にして眼球が焼けただれたような感覚。そして強烈なめまい。
立っていることすらできず、マスオはどう、と横倒しになった。

魔法。
それも補助魔法のたぐいか。今まで単純な攻撃魔法しか使ってこなかったのに、こんな魔法を隠し持っていたとは。

「ヴォ、ヴォグリュウウウウウアアアアッ!」

白河サキがいたと思しき場所へと闇雲に腕を伸ばすが、手のひらには何も捕らえることができない。
方向があっているのかどうかすら、今のマスオには分からなかった。

「この、ケダモノめ!・・・・・・剛剣!天斬覇!」

ナオヤの声。
そして、強烈な痛み。

グチュッ!

「ヴァギュアアアアアアアアアッ!」

マスオはおのれの口から、耳をつんざく悲鳴が漏れるのが聞こえた。
心臓付近への一撃。悶え苦しむマスオに、ナオヤが踊りかかったのだ。
ぐはっ、と口から何かの液体が吐き出され、喉に詰まった。

(や、やべえ)

転がっていたせいで、かろうじて心臓への一撃は免れたらしい。だが致命傷であることは明白だった。

「ハイ・ヒール!・・・・・・マサヒトくん、タカヒコくん、アカネちゃんを!」
「おう!任せろ!・・・・・・この脳筋オーガめ、ぶっ殺す!ハイパー・アンプテーションアタッーーーク!」
「借りは返してもらいますよ。・・・・・・スクリュー・ストライク!」

ぐしゅ。ぶちゅっ。

「ヴォオオオオオオオオッ!」

マスオは悲鳴を上げた。
右腕が切断され、腹部にも強烈な一撃が突き刺さった。

______殺される。
そんな感覚が、マスオを襲った。

だが、それは初めての感覚ではなかった。
ゴブリンの時も、狼と戦った時も、蜘蛛に捕らわれた時もオーガに包囲された時も、そう感じた。
死線を潜り抜けてきたという点では、マスオは誰よりも三途の川の縁を歩いてきた。
こんなところで死ぬわけにはいかない。

どうしてこうなった?
魔法のせいだ。
白河サキの魔法、視力を奪い、痛みを与える魔法。

(ファントム?)

幻覚?
そうだ、これは幻覚だ。
手で目に触れたが、ただれ落ちてはいない。
視力を奪い、目に苦痛を与え、平衡感覚を狂わす魔法。
冷静に、冷静に対処しろ。マスオはそう言い聞かせた。まだ終わってない。

(シラカワサン)
「え!?」

瞬間、痛みが止まった。
腹部に突き刺さる槍の感覚。
だがめまいや視界を奪う痛みは止まっていた。槍を奪い、逆に突き返す。

「がふっ」

肉を貫く感触。マサヒトだろう。
貫いたまま、大きく薙ぎ払う。

「きゃあっ!」
「サキ!」

叫び声がして、マスオの視力が完全に戻った。めまいも消え、立ち上がることができる。

(持続魔法、か)

どうやら、白河サキの魔法は、かけ続けることで苦痛や幻覚を与えるものであったらしい。
見ると、倒れた僧服の白河に、ナオヤが駆け寄っていた。

「こ、こいつめっ!」

斧を持ったタカヒコ。
右腕を切り落としたのは、恐らくこいつだ。

「だあっ!」

空中へ大きくジャンプし、脳天割りを浴びせようと跳躍する。
そりゃ悪手だろ。
マスオは落下するタカヒコへ、槍の穂先を突き出した。

「ぐぶっ」

ぐさっ。
突進と自重が胸の中央を貫き、槍が全身鎧ごと身体を貫通する。
なおももがいていたが、やがてぐったりと血を滴らせながら、目の光を失った。

「マサヒト!タカヒコ!・・・・・・くそっ」

勇者ナオヤは白河サキを抱き起こしつつ、仲間たちの惨状に顔を歪めた。
マスオはふらつきながらも立ち上がった。
こいつら、とっとととどめを刺して______

「ヴォ、グヴェッ」

が、一歩踏み出すとバランスを失って倒れた。
だめだ、右腕が切られているので、真っ直ぐ進めない。
視界も暗転し始めた。大量の血液を失いすぎたか。
もう出血は止まり、早くも腕は再生し始めているが、完全に治るには数日かかるだろう。左腕一本で戦うには、勇者ナオヤは強すぎる。

「・・・・・・ナオヤ」
「マサヒト。立てるか」
「・・・・・・何とか。・・・・・・だが」
「・・・・・・ハイ・ヒール」

抱き起こした白河サキは、弱々しく腕を伸ばすと、血溜まりの中で倒れたタカヒコに回復魔法をかけた。
ぴく、とタカヒコが動く。完全に槍で身体を貫かれて、それでもまだ息があるようだ。しぶとい野郎だ。

「・・・・・・撤退しましょう、ナオヤ」

マサヒトが声を絞り出した。
ナオヤが目を剥く。

「し、しかし!」
「このままじゃ全滅です。・・・・・・タカヒコはなんとかしますから、せめて白河さんを連れて逃げないと。彼女は換えが聞きませんから」
「だが、アカネが」
「・・・・・・残念です」

先ほどマスオが放り投げたアカネは、マスオの後ろに倒れたままだ。救出するには、マスオを倒さねばならない。
しかし、ナオヤの決断は早かった。
白河サキを腕に、剣をマスオへ突きつけたまま、ジリジリと後ろに下がる。
マサヒトがタカヒコを助け起こした。

「歩けるか?タカヒコ」
「・・・・・・ん」

ぐはっ、とタカヒコが血反吐を吐いた。
よろよろと、出口へ向かって進んでいく。

______逃さん。
ここで仕留めなければ。
だが、もはやマスオも限界を超えていた。もう一歩も脚は動かなかった。
ナオヤは剣を抜き身に構えたまま、ゆっくりと王の間を、そして洞窟を出ていった。

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