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マスオ、オーガになる4
しおりを挟むオーガの食欲は、マスオが感じただけでも凄いものだった。エミやシオリ、自分が産ませたはずの子ゴブリンたちまで食料に思えたほどだ。
しかし、あの数のオーガはどうやって食料を得ていたのだろう?マスオはそれを疑問に思い、再びオーガ村へと向かった。
オーガの村に到着して、大きく一回りすると理由が分かった。
この付近は草原が広く、小川も流れていて、キツネやウサギ、大きめのネズミなどエサになりそうな獣が豊富に住んでいたのだ。大型の川魚の影も見える。
それだけではない。
(オーガって、知能も高いんだな)
脳筋だとばかり思っていたオーガの村には、耕された畑があり、穀物や芋が植えられた形跡があった。川には簡単なワナも仕掛けられていて、魚がかかっていた。
村の離れには牧場もあった。広い草原にはおざなりだが広大な柵が巡らされていて、牛やヤギ、羊などがのんびりと草を喰んでいた。
「モオオオオオオオ」
「メエエエエエエエ」
マスオと狼の一群が近づくと、牛やヤギたちは警戒の声を上げた。だがマスオがオーガに変身すると、ふたたび落ち着きを取り戻した。どうやら飼いならされているらしい。
オーガの食欲なら、牛の1頭くらい軽く食べてしまえそうだが、食料を無駄使いせず、統制されて暮らしていたのだろう。改めて、あのボスオーガの有能さが分かる。
(こんな村が、街の近くで、人間にも討伐されずに?)
オーガは食人鬼である。こんな大勢が暮らしていれば、軍隊による討伐の対象にもなりそうだが。今まで隠れて暮らしていたのだろうか?あるいは、手出しするには強大すぎて手が出なかったか。
ひょっとすると、ここに定住してまだ間もなかったのかもしれない、そうマスオは思った。
村、というには天幕も数個しかなく、昨日もオーガの大半はたき火を囲んで地面に眠っていた。畑は種が蒔かれたばかりのようだし、牧場の柵もまだ新しい。
それに、マスオがゴブリン集落に転生した時、あちこちを遊び回ったが、オーガの姿など影も形もなかった。近くにそれほど強大な敵が住んでいたら、ゴブリンたちはとっくに引っ越していただろう。
昨日、蜘蛛の巣だらけにした巨大天幕を見上げる。
中はまだ蜘蛛の巣まみれだ。もう使えないだろう。
だが、天幕は布でできていた。オーガには織物の技術もあるのだろうか?
マスオは布の表面に触れた。ザラザラして荒く、日本にいる頃に触れた布とは天と地の違いだが、ちゃんと雨風を凌げる程度にはキメ細やかに織られていた。それに、布は一枚ではなく、縫製してあった。ところどころに破れ目を補修した形跡もある。
(オーガの文化レベル、たけえな)
粗末な木の槍と石斧しか持たなかったゴブリンとは、えらい違いだ。
大半のオーガを苗床にしてしまったのをちょっと後悔する。だがまあいい。オーグレスを8体捕らえてある。あいつらにオーガを産ませてこの村に住まわせよう。ゴブリンコボルド洞窟に住まわせていたら、すぐにあいつらやオルドの女たちが食われてしまう。
他のオーガ天幕を眺めたが、文字や本などの形跡はなかった。言語はヴォアヴェエエくらいしか習得していないようだ。
こいつらも、意思疎通は難しい。
天幕には、食器がいくつか残されていた。
それに酒。ヤギの乳酒のようだったが、原始的ながらちゃんと発酵され、樽詰めにされていた。
(そういえば、昨日も酒宴を開いていたな)
樽を作ったり、簡素だが酒盃を焼いたりする知識や技術はあるのだ。思った以上に知能の高い生き物だ、と思っていいだろう。
牧場の羊を1頭昼食にして、マスオは洞窟へと戻った。
**
エミが出産した。
今度も産まれてきたのは人間ではなく、ゴブリンだった。
数えると8匹だった。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
「やったねエミ!すごいよ!」
「ちゃんと産まれたよ?エミちゃん」
「うん・・・・・・」
エミは額に玉の汗を浮かべ、大きく息をつきながら、出産した達成感に顔を上気させていた。
(うむ)
マスオは満足げに頷いた。
やはり、子を産ませる、という行為はいい。とてもいい。生きている、という実感がした。
奥の間がもっと賑やかしくなった。
玉座も玉座の間も、シオリの産んだ子ゴブリンたちの遊び場になってしまっていた。まだ産まれて数日だが、もう二足歩行で歩いている。成長は早いらしい。
(これでは威厳も何もないな)
マスオが入っていくと、子ゴブリンたちは怯えたように一斉に母親の元へと逃げ去った。
(ま、威厳なんてどうでもいいか)
マスオへの嫌悪感を隠そうともしないショーコも、諦めたように放心していたハツミも、出産直後のエミを励まし称えていた。
コボルナ2匹は甲斐甲斐しく働き、産後の世話やシーツ替え、授乳などを行っていた。コボルナはどうやら複数の乳腺があるらしく、産まれたゴブリンたちが一斉に乳を求めて飛びつく。
別の部屋では、苗床にしたオーガたちから、早くも小蜘蛛がボコボコと湧き始めていた。
森の中に産卵した個体よりも黒光りして、個体もやや大きめだ。
「ヴォ、ヴォオオッ」
痛みは感じている様子だったが、さすがはオーガの回復力、腹を食い破って出てきた穴もすぐに再生していく。あまり見ていて気持ちのいいものではないが、苗床として有用であることは間違いなさそうだった。
だが、いくら回復力があるとはいえ、限界はあるはずだ。このままではいずれ衰弱死するだろう。マスオはオーガの口の部分だけ糸を開けてやり、コボルドたちにエサを与えるように手振りで指示した。残飯でも生ゴミでも、なんでもいいだろう。なんでも食えそうだ。
生まれた小蜘蛛たちは、やはり森にいた蜘蛛よりもつやつやとして黒光りしており、明らかに別種のようだった。天井付近に巣を張ったり、地面を這いずり回ったりして洞窟のコウモリやプンプン飛び回る羽虫、ゴブリンたちの排泄物や死体などがエサにしていた。
時々洞窟を掘って顔を出す、迷惑なデカめのアリも処理してくれているようだ。ありがたい。
しかも、なぜかこいつらはゴブリンやコボルドたちを襲うことなく、ちゃんと共存できているようだ。これで洞窟の外へ放り出さずに済む。
(俺が産ませると、少し上位種が産まれるのか?)
ハイゴブリンは幼稚ながら言葉を話せるようだったし、黒光りする蜘蛛たちはゴブリンやコボルドを襲うことなく、味方との線引きを理解できている様子だった。子オーガはまだ生まれていないが、もしかするとマスオの命令を聞くことができたりするかもしれない。
(じゃあ、狼は?)
試してみるか。
マスオは狼の姿に変わった。
オーガの魔石を喰らい、こちらも少し大きくなったようだ。以前は小柄な馬くらいだったが、今や競走馬ほどの大きさがある。気のせいか、灰色の毛並みもやや艶っぽくなった。
相手は狼がいいのか、あるいはエミたちか?だがエミたちとて、狼に交尾されるのはさすがに抵抗があるだろう。
森の中へと分け入り、交尾をしていない若いメス狼を探す。
狼は一生同じ相手とつがい続ける、とマスオは本で読んだことがあった。だからメスを差し出せ、と命じても、オスは死ぬまで抵抗するだろう。いくらマスオが群れの長であっても。
灰色の狼たちは、通常4-20体ほどの群れで生活している。
その中心はひとつがいのオスとメスだ。夫婦はつがいとなり、子を生む。その子たちを含めて、ひとつの群れとなって暮らす。
子狼が成長すると、自分のつがいを見つけるために群れを離れ、別の狼を見つけつがいとなる。そこでまた子を成し、群れを作るのだ。
マスオはいくつかの群れを周り、成熟した数頭のメス狼を差し出させた。群れの長、夫婦たちは怒るでも抵抗するでもなく、王たる狼の威厳に両脚を投げ出し、喜んで「娘」を提供した。
マスオは合計6頭のメス狼たちを連れ、オーガ村へと向かった。村のすぐ近くにある森はオーガに食われてしまったのか、住んでいる狼がいない。ここを彼女らのテリトリーとし、6頭と次々に交わった。
(おわ、狼の姿での交尾、めちゃ気持ちいいな)
ケダモノのように興奮し、背後から抱きかかえ、陰茎を突き立てる。
前足で身体を押さえつけ、体格差からすると子犬程度にしか思えないメスの身体を存分に味わった。
ホブゴブリンやオーガの姿の行為とはまた違う快感だった。これは病みつきになるな、そうマスオは思った。手足が不自由な分、陰茎の快感だけがものすごく強いように感じた。バックしかできないが、それがまたワイルドでいい。
何か別の趣味に目覚めそうだ。
言葉は通じないが、6頭のメスたちには毎日皆で1頭の羊を食することを許可し、外敵から牧場を守らせた。
キツネやウサギ、鹿などの獣は制限をつけず、自由に狩りをさせることにした。こいつらは増えすぎないようにしないと、生態系が崩れる。
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