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マスオ、狼になる2
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勇者ナオヤたちも話していた。狼のエサに、と。
狼たちは数匹が群れとなり、遠巻きにこちらを眺めていた。近づいてくる様子はない。
よし。
「グルオオオオオオオオ!」
マスオは狼の群れに向かって牙を剥き、雄叫びを上げた。
「ウオオオオオオオオオオオオオオン!」
挑発に乗り、群れの中からひときわ巨大な狼がマスオに近づいてきた。
こいつはゴブリンの味を知っている、マスオはそう感じた。
奴はゴブリンをエサだと、旨い肉だと思っている。
その中で、ひときわ大きな個体、つまり自分を、より美味しく多くの肉が得られる存在だと。
マスオは駆け出した。狼に向かって。
狼もマスオに向かって疾走した。その速度は驚異的で、ホブゴブリンになって脚が早くなったマスオより、さらに倍以上も速かった。
ふたつの影が、交差した。
勝負は一瞬でついた。マスオの棍棒が、狼の巨大なアギトをぶちぬき、脳天を草原に撒き散らした。
「グルアッ!」
勝利に棍棒を掲げたマスオに、次々と他の狼が突っかかってきた。
右腕を噛み付かれ、左のふくらはぎを噛み千切られ。
それでも、マスオは棍棒を振るい続けた。
やがて周囲が狼たちの血と死体で埋まった。
マスオを支援に来たゴブリンたちも、狼たちの殺気と、マスオの悪鬼のごとき形相に近寄ることもできず、ただ見守るだけだった。
満身創痍のマスオは、激しい疲労と苦痛を感じていた。回復魔法も使えず、回復薬もポーションもない。
だが、狼たちは争いの音を聞きつけ、さらに他の群れまで集まってきていた。襲っては来ないが、遠巻きにして囲まれていた。逃がさない、とばかりに。
このままでは、こっちがエサにされてしまう。マスオはそう思ったが、もう戦うことはできなかった。
逃げるか。
だがあちらの方が遥かに足が速い。洞窟にたどり着く前に、背後から飛びかかられ、牙を突き立てられるだろう。
これで終わりか。
天を仰いだ。
しかし。
(あ、これは)
魔石。
ゴブリナが死んだ時に見たのと同じ魔石が、マスオの眼前に光り輝いていた。
最初に倒した、巨大な狼の死体だ。
マスオはそれを拾い、口に入れた。
ガリ、と噛み砕くと、ホブゴブリンの肉体が光り始めた。
狼たちにつけられた噛み傷が、みるみるうちに修復されていく。
しゅうううう。
ああ。
マスオはもう、鏡や水面を見なくても分かった。自分が巨大な狼に変身したことを。
それは他の狼に比べ、圧倒的に巨大な姿だった。他の狼たちがドーベルマンのような大きめのイヌなら、マスオは小馬ほどの大きさがあった。
マスオは群れに近づいた。
群れの長を失った狼たちは、ただマスオに頭を下げ、前足を大地に投げ出し、服従のポーズを取った。
(これ、元に戻れるのかな)
マスオは念じた。
再度、あのホブゴブリンの肉体へと。
身体が光る。
マスオはまた、ホブゴブリンの身体へと戻った。
マスオがホブゴブリンの姿をとっても、狼たちの姿勢は変わらなかった。自分を狼だ、と認識しているようだ。
傷も癒えている。完全に元の姿だ。
それに、ホブゴブリンの時に身につけていた服、武器はそのままだ。破れたり、消えたりしていない。
つまり、移動の時だけ狼の姿となり、いざとなればホブゴブリンとなって戦える、と言うことだ。なんなら、重い武器を持って移動する手間も減る。
マスオは満足の咆哮をあげた。
(この石、マジで使えるな)
パワーアップできて、傷も完全回復。素晴らしすぎる。
いや、むしろ強くなっているようにも思えた。
ごく僅かだが、マスオのホブゴブリンの肉体は以前よりも大きくなっていた。マスオはより太くなった両腕を、ぐっと握り締めた。
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