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マスオ、ホブゴブリンになる1
しおりを挟むマスオは洞窟の奥へと戻った。
氷の魔法に貫かれた足はもう感覚もなく、ただ引きずって歩いた。
そこにはもう、動くものはいなかった。全員が事切れていた。
あのゴブリナも。
マスオはそっと遺体に近づいた。
自分を守ってくれた彼女を、逃げるための盾にしてしまった彼女を、弔うために。
(ん?)
何かが光っていた。
ゴブリナの遺体だ。
胸の中心のあたり、そこがほんのりと淡く、紫色に輝いていた。
(これは?)
それは魔石、と呼ばれる宝石だった。
魔物や魔族、モンスターが死んだ時、数百分の1の確率で作られるレアな宝玉だった。
無論、知識もなくゴブリンとして転生したマスオにそんなことは分からない。
そっと、宝石に触れた。
硬い宝石を、本能のままに口に入れた。
ガリッ。
ひどく硬いその宝石を、歯で噛み砕いた。
ぱああああっ。
マスオの身体が輝き始めた。
(な、なんだ、これ)
魔石。
それは、他のモンスターが摂取すると、新たなる力を得ることができる魔法の石だった。
(うわ、あ、あ)
マスオの身体が伸びた。
身長が伸び、腕や足が伸び、筋肉が太くなった。
萎びた皮膚が筋肉で盛り上がり、牙が大きく突き出た。
傷ついた皮膚も、壊死していた右脚も、完全に回復した。
(ホブ、ゴブリン・・・・・・)
月明かりの水たまりに淡く映った自分の姿は、まるでゴブリンとは違う大きさ、そして力強さだった。
弱々しかった目の光も、爛々と輝いて獲物を睨みつける瞳になっていた。
マスオは知らなかったことだが、あの3匹はホブゴブリンの子供だった。ゴブリン集落に迷い込んでいたのだ。
そして今。
マスオはホブゴブリンになった。
グル。
グオォォォォッ!
衝動に突き動かされ、マスオは洞窟の外へと飛び出した。闇夜にはもはや、勇者たちの姿はなかった。
手近にある樫の木を引き抜き、ぶるんと振るった。枝葉が取り払われ、一本の巨大な棍棒となった。
(ゴブリンの集落狩りは、あと5つと言っていたな)
待ち伏せて狩ってやるか。
いや、まだあの力には敵わない。伝説の武具、と言っていた。この姿でも、まだまだ勇者には相手にならないだろう。
もっともっと、強くなってやる。
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