変態中毒

ぬっこ

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心は既に踊らされている

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 最近、バイト中に阿木から話しかけてくることが少なくなった。この間、冷静になってもまたしたいと思うなら―なんて言ってしまったがあれからそのことについて話してはいないし連絡も来ていない。俺からそれについて触れるのは何か違うと思う。駄目な気がする。他の社員やバイトの子と仲よさげに喋る姿を見かけるが俺とは前よりも距離がある気がしてならない。それからもう一つ気になるのが、何となく視線を感じると阿木が見ていることがある。しかしすぐに目を逸らされる。何か警戒されてるんじゃないだろうか。そしてこの前の事が原因ではないだろうかと心の片隅にあった。なんにしろこの状態はお互いに良くない気がする。今後は店長にシフトが被らないようにしてもらうか、若しくはここを辞めるか…そろそろちゃんと就職すべきだよなと考えを巡らせながらも毎日ちゃんと仕事はこなしている。

 今日は村瀬さんと店長と俺の3人で閉店作業を行った。村瀬さんがゴミ袋を出しに外に出たタイミングで店長に声をかけた。

「店長、阿木って最近俺について何か言ってます?」
「田中くんについて?いや、僕は何も聞かないけど何?何かあった?」
「…いや、たぶんあいつ俺のこと避けてて、シフトあんまり被らんほうが仕事やりやすいんじゃないかって…」
「え、ほんとに?本人からは何も言われてないけどな。何か心当たりがあるの?」
「いや、……はい…。」
「うーん、分かんないけどシフトの調整が必要なら村瀬さんが作ってくれてるから調整できるか聞いてみる?…あ、丁度村瀬さん戻ってきた。村瀬さん!阿木くんと田中くんのシフト調整してあげてくれる?」
「あの、今出てる分はいいんで!これからの分できたら…」
「田中くんもか!それ阿木くんからも頼まれましたよ。」

村瀬さんはやれやれと大袈裟にリアクションした。やっぱり…避けられているんだ。覚悟はしていたがショックはでかい。

「あれでしょ。休みの日合わせてほしいんでしょ。いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「え?」
「ん?違うの?阿木くんからはそう頼まれたけど。」
「あれ、あ、そうなんですか…」
「そのことでいいならもうやってるよ。まぁ全部合わせるのは勿論無理やからそれは分かってね。」
「すみません、ありがとうございます…」
「そんじゃ私先に着替えて来ますね。お先です。」

そう言うと村瀬さんはロッカーの方へ行ってしまった。店長が「よかったね。避けられてないじゃん。」と背中を叩いてきた。俺は豆鉄砲を食らったような感じで「そうみたい、ですね。」と間抜けな返事をした。


 昨日の村瀬さんの言うことが本当なら避けられてはいない。今日休憩室に入ると阿木が社員の中谷さんと談笑していたので挨拶をした。

「お疲れ様です。」
「田中くんお疲れ!」「お疲れ様です。」

でもなんかやっぱり余所余所しいんだよな。まぁ、でもあんまり気にしても何もならないし…。今日も仕事中何度か阿木と喋るタイミングはあったが忙しかったこともあり仕事上の会話をしただけだった。やっと暇になってきたと思ったら阿木が仕事を上がる頃だった。「お先失礼します。」と横を通り抜けていく阿木の余所余所しさに何だか寂しい気持ちになる。

 客がいない間にと各テーブルを回って補充作業をしていると着替えを終えた阿木が駆け寄ってきた。

「彰良さん!あの、僕明後日休みなんですけど彰良さんもですよね?何か予定とか入ってますか?」
「無いよ、何も。」

阿木の手元にはシフト表が握られている。その表の自分のところと俺の所にマーカーが引かれていた。余所余所しいだとか何だとか考えてた自分が馬鹿みたいだ。

「じゃあ…また家行ってもいいすか?」
「いいよ。」
「よっしゃ!」

あまりに可愛くて笑ってしまう。「なんで笑うんすか。」と言う阿木も笑ってしまっている。

「どっかまで迎えに行こうか?」
「大丈夫です!部屋でゆっくりしててもらって。」
「分かった。じゃあ好きなタイミングで来て。家に居るから。」

阿木は「じゃあまた連絡します。お先です。」と言って帰っていった。どうしたらいいか…そんなことを考える間もなく心は既に踊らされている。
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