変態中毒

ぬっこ

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昔の話①

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 阿木陽斗と出会ったのは中二の頃だ。便所で横で手を洗う男の透き通るような白い肌、下を向く奥二重の目元から伸びる長い睫毛に目を奪われた。俺の視線に気づいたのか鏡越しに目が合うと彼は微笑んだ。

「名前なんて言うん?」
「阿木。阿木陽斗…。」
「アキ…ハルト?どっちも名前みたい。」
「よく言われる。」

そう言って控えめに笑うと俺の方をじっと見て「田中彰良あきらくん、やんな。知ってる。」と言った。

「何で?」
「目立ってるから。」
「ふーん。クラスは?」
「1組。隣のクラス。」
「そうなんや。なんかさ、上手く言えんけど阿木って男っぽくないな。」
「…そうかな。」
「言われん?」
「うーん……時々?」

阿木は首を傾げると少し困ったような顔をして笑った。その仕草がなぜだか艶っぽく、得体のしれない気持ちになった。

 俺はこの頃よく授業をサボっていた。元々あまり治安の良い地域とは言えないが中でも俺たちの世代はかなり荒れていたらしい。やんちゃな友達も多くいたし、タバコを覚えたのもこの頃だった。阿木に「なんで授業サボるの?」と聞かれた。「教師が嫌いやしクラスも居心地が悪い。」と答えると阿木は「僕も同じ。休み時間はよく図書室にいる。」と言った。それからちょくちょく顔を合わせると挨拶をする仲になった。その度に珍しいポケモンを見つけたみたいなワクワク感があった。

 暫くして『阿木には生理があるらしい』『体育教師の野中に贔屓されている』という噂を耳にするようになった。陰口として広まったであろうその噂が何となく気になってクラスの連中に尋ねてみると「水泳の授業を毎回見学しては毎回一人で補習を受けている」とのことだった。単純に見学しているだけ偉いと思った。それから阿木には補習を受けさせるくせに授業自体を受けていない俺や他の奴らには何も言ってこない野中にむかついた。そういうところが嫌いなんだよ。「ちょっと俺確かめてくるわ。」勿論噂を本気にしてはいないが本人に真相を確認しようと昼休みに図書室へ行くと長机の端の席で本を読む阿木を見つけて横の席に座った。

「よぉ、お前生理あるらしいな。」
「……誰がそんなこと言ったん?」
「色んなやつから聞いたけど。それで毎回水泳サボっとんやろ?他になんか理由あんの?」

そう言いながら阿木の制服のシャツを掴んで捲りあげようとすると阿木は物凄い力で俺の手を払い「やめて!触らんといて!」と大きな声を出した。「はぁ?なんやねんお前…」と衝動的に阿木のシャツの胸元を引っ張った。その時、外から野中が「何やっとんねん。」と眠そうな顔をして入ってきた。歳は26とかだったかの若い男だ。呼ばれてきたのだろうが面倒事はごめんだと顔に書いてある。阿木が震えた声で小さく「先生…」と呼ぶのを聞き、俺は舌打ちをしてそいつをどかして外へ出た。

 教室に戻って席に着くと机に突っ伏した。ちょっと心配してやったのに…からかう気持ちは無かったとは言えないけどさ。俺は感情のコントロールがたぶん他の人より苦手だ。イライラを抑えるために暫くそうしていると「どうやった?」と何人かの声がした。もう何にも頭が回らず「あぁ、噂の通りやった。」と独り言みたいに答えた。「え、それって…」とザワザワし出した周りにイライラして「気になるなら自分で確かめれば?あいつシャツ捲られんのもスゲー嫌がるから。」と言い鞄を持って教室を出た。阿木に払われた手の感触がまだ残っている。拒絶されたと感じた。そのことにショックを受けている自分が女々しくてイライラする。





 

    
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