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犬と変態
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今日は夕方から雨が降っている。そういえば梅雨が本格的に始まるとかってニュースで言ってたっけ。半年前に買った中古車に乗りバイト先へ向かうとロッカーの前で阿木が着替えている所に出くわした。何となく視界に入れないようにした。
「田中さん!お疲れ様です。」
「お疲れ。なんかすげー濡れてる…」
「そうなんですよ。大学から帰ってる途中に雨に降られちゃってずぶ濡れです。」
「早く髪乾かせよ。そういえば…」
言いかけて辞める。兄ちゃんに俺のこと言ったか?なんて聞いてどんな反応を期待しているのか…
「なんか言いかけました?」
「いや、なんでもない。」
阿木の仕事の覚えは早かった。コミュニケーション力に長けていて要領も良く、さらに顔が良いので目上の常連客からは既に可愛がられているようだ。
「兄貴とはあんまり似てないな。」
「え、顔ですか?」
「全部。」
「まじすか?初対面の人には大抵似てるって言われるのに初めてかもです。似てないって言われたの。」
「そうなんや。」
「確かに兄ちゃんの方がイケメンやし、クールな感じ?やと思います。俺はおしゃべり過ぎてモテへんし。」
「そうか?阿木もモテそうやけどな。でも同い年じゃなくて年上にモテそう。」
「年上か~…」
阿木は俺の顔を覗き込んで「田中さんは僕のことどう思いますか?」と聞いてきた。
「最初はうざいタイプかなって思ってた。」
「ゔっ!」
「でも今は兄貴とはまた別の感じで可愛いやつやなって思ってるよ。なんか犬っぽい感じ。」
「犬…ですか。」
薄暗くなった店内で阿木と俺は棒のように黙って立っていた。締め作業を社員の村瀬さんと一緒に阿木にレクチャーした後、女性の村瀬さんに先にロッカーを譲り、着替え待ちをしているところだが今日はラスト1時間のところで飲んだくれによるクレーム対応に追われて疲れ果ててしまっていた。阿木が「腹減ったー。」と俺の肩にもたれかかってくる。
「阿木さ、明日大学休みやろ?何か予定あんの?」
「何もないっす。」
「…じゃあこの後ラーメンでも行く?」
「行きます!行きましょ!腹減ってきました!」
そうこうしていると村瀬さんが出てきて「どうぞ。」と声をかけてくれた。着替えている最中小さく腹が鳴り、鞄に入っていたチューイングガムを1つ口にすると阿木が物欲しげな表情でこちらを見つめてきた。やっぱり犬っぽい。もう1つ紙から取り出して阿木の顔の前に出した。
「ありがとうございまーす。」
手を出そうとする阿木の手を遮り「舌出して。」と言う。阿木は一瞬「え?」と戸惑いつつも言う通りに舌を出す。
「舌の上に乗せるから、ほらもうちょっと乗せやすいようにちゃんと舌出して。」
「えぇ…はぃ…」
「そのままじっとしてろよ。少しでも動いたらビンタ。」
阿木の顔から徐々に笑顔が消えて少し緊張しているのが伝わる。
「これさ、レモン味。超酸っぱいけど大丈夫?」
チューイングガムを舌の上に乗せた瞬間から唾液が次々と出てくるのが分かる。口の中から舌を伝い床に何滴か溢れた。
「あ、もう動いていいよ。」
そう言うと阿木は急いで口元に手をやった。
「うぇ~。何ですかこれ。酸っぱー!」
「はは、ごめんごめん。これやばいよな?」
俺はティッシュを阿木に手渡し、それから床に落ちた唾液をティッシュで拭いてやった。
「やばいっていうかそれより途中から何やらされてるんやろうって思って。動いたらビンタって言われた時まじでチビりそうでした。まじで!」
まくしたてる阿木が面白くて「あー、やば。可笑しい。」と腹を抱えて笑った。
「こんなん楽しいって田中さんって…やっぱ言わんとこ。殴られそう。」
「なんやねん。言えよ。」
「無理っす!怖いもん。…でもラーメン奢ってくれたら言うかも。」
「…ラーメン奢るから言えよ。」
「こんなん楽しいって田中さんは変態や…って言おうとしました!」
「田中さん!お疲れ様です。」
「お疲れ。なんかすげー濡れてる…」
「そうなんですよ。大学から帰ってる途中に雨に降られちゃってずぶ濡れです。」
「早く髪乾かせよ。そういえば…」
言いかけて辞める。兄ちゃんに俺のこと言ったか?なんて聞いてどんな反応を期待しているのか…
「なんか言いかけました?」
「いや、なんでもない。」
阿木の仕事の覚えは早かった。コミュニケーション力に長けていて要領も良く、さらに顔が良いので目上の常連客からは既に可愛がられているようだ。
「兄貴とはあんまり似てないな。」
「え、顔ですか?」
「全部。」
「まじすか?初対面の人には大抵似てるって言われるのに初めてかもです。似てないって言われたの。」
「そうなんや。」
「確かに兄ちゃんの方がイケメンやし、クールな感じ?やと思います。俺はおしゃべり過ぎてモテへんし。」
「そうか?阿木もモテそうやけどな。でも同い年じゃなくて年上にモテそう。」
「年上か~…」
阿木は俺の顔を覗き込んで「田中さんは僕のことどう思いますか?」と聞いてきた。
「最初はうざいタイプかなって思ってた。」
「ゔっ!」
「でも今は兄貴とはまた別の感じで可愛いやつやなって思ってるよ。なんか犬っぽい感じ。」
「犬…ですか。」
薄暗くなった店内で阿木と俺は棒のように黙って立っていた。締め作業を社員の村瀬さんと一緒に阿木にレクチャーした後、女性の村瀬さんに先にロッカーを譲り、着替え待ちをしているところだが今日はラスト1時間のところで飲んだくれによるクレーム対応に追われて疲れ果ててしまっていた。阿木が「腹減ったー。」と俺の肩にもたれかかってくる。
「阿木さ、明日大学休みやろ?何か予定あんの?」
「何もないっす。」
「…じゃあこの後ラーメンでも行く?」
「行きます!行きましょ!腹減ってきました!」
そうこうしていると村瀬さんが出てきて「どうぞ。」と声をかけてくれた。着替えている最中小さく腹が鳴り、鞄に入っていたチューイングガムを1つ口にすると阿木が物欲しげな表情でこちらを見つめてきた。やっぱり犬っぽい。もう1つ紙から取り出して阿木の顔の前に出した。
「ありがとうございまーす。」
手を出そうとする阿木の手を遮り「舌出して。」と言う。阿木は一瞬「え?」と戸惑いつつも言う通りに舌を出す。
「舌の上に乗せるから、ほらもうちょっと乗せやすいようにちゃんと舌出して。」
「えぇ…はぃ…」
「そのままじっとしてろよ。少しでも動いたらビンタ。」
阿木の顔から徐々に笑顔が消えて少し緊張しているのが伝わる。
「これさ、レモン味。超酸っぱいけど大丈夫?」
チューイングガムを舌の上に乗せた瞬間から唾液が次々と出てくるのが分かる。口の中から舌を伝い床に何滴か溢れた。
「あ、もう動いていいよ。」
そう言うと阿木は急いで口元に手をやった。
「うぇ~。何ですかこれ。酸っぱー!」
「はは、ごめんごめん。これやばいよな?」
俺はティッシュを阿木に手渡し、それから床に落ちた唾液をティッシュで拭いてやった。
「やばいっていうかそれより途中から何やらされてるんやろうって思って。動いたらビンタって言われた時まじでチビりそうでした。まじで!」
まくしたてる阿木が面白くて「あー、やば。可笑しい。」と腹を抱えて笑った。
「こんなん楽しいって田中さんって…やっぱ言わんとこ。殴られそう。」
「なんやねん。言えよ。」
「無理っす!怖いもん。…でもラーメン奢ってくれたら言うかも。」
「…ラーメン奢るから言えよ。」
「こんなん楽しいって田中さんは変態や…って言おうとしました!」
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