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どうしようもない中毒者
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「田中くん、今日から入るバイトの子。今日は僕に付いててもらうけど色々教えてあげてね。」
店長が横にいる青年の肩をポンと叩くとその青年は「阿木賢斗です。今日からお世話になります。」と言ってクシャッと笑った。切れ長な一重が印象的なクールな顔立ちが笑うと一気に人懐っこい顔になった。阿木……俺が名札をじっと見ていると阿木は名札を両手でつまんで「アギじゃなくてアキって言います。」と笑った。
「田中です。よろしくお願いします。」
「田中さん…田中さん…」と阿木はブツブツ復唱し、「オッケーす。」とまた笑顔を見せる。よく笑う子だなと思う。「田中くんは見た目こんなだけど中身はいい子だから頼ったらいいよ~。」と店長が声をかけている。いつもより朗らかな店長の顔を見てこれは年上からモテるタイプだなと確信した。
都心からは少し離れた和食チェーン店は連日中高生や老人たちが集い賑わう。俺はこの店でアルバイトとして働いている。高校を卒業後、警察官として交番で努めていたがパワハラ紛いの教育、酔っぱらいや馬鹿な連中を相手する日々に身も心も限界を迎える寸前だった。そんなある日、友人にバーへ誘われ、そこでひたすら酒を飲んだ。普段行かない場所で普段飲まない強い酒を飲み、普段語らない話をした。それがどうしてか気づいたときには若い男を無理矢理脱がせて暴れないように押さえつけ、硬くなったペニスを押し付けていたらしい。なんで止めてくれなかったんだと友人に詰めると「止めようとしたらお前に殴りかかられたんだ。」と折れた歯を見せられた。それから「お前、男に興奮したんか?」と鼻で笑われた。〝お前、男に興奮したんか?〟その時のことは覚えていないがその時の気持ちは覚えていた。俺は男に興奮していた。このことは上司の耳にも入り、職場に居場所がなくなって退職へと追い詰められた。その頃から外で飲むことはやめて、友人達との連絡も一切絶った。それからやめていたタバコをまた吸い始めた。もう自分には何も残っていない気がして死が頭を過ぎることも少なくなかった。失業してから1年ほどは何もせず抜け殻のように過ごしていたが半年前にこの店の店長に声をかけてもらいアルバイトとして雇ってもらうことになった。
「お疲れ様でーす。あ、田中さん!僕もご一緒していいっすか?」
休憩室で昼食を食べていると阿木が近づいてきてこちらが「どうぞ」と言う前に向かいの席に腰掛けた。自分のペースを乱されることに若干の苛立ちを感じたが「いただきます。」としっかり手を合わせてから唐揚げを頬張る阿木を見てなんだか力が抜けてしまった。
「阿木ってさ…今いくつ?大学生?」
「はい、19です!田中さんは?」
「俺は24。」
「え!うちの兄ちゃんと同い年や。」
「…阿木の兄ちゃんって〝阿木陽斗〟やったりする?」
「そうっす。もしかして同級生とかですか?」
やっぱりそうか。顔はあまり似ていないように思うが〝阿木〟という苗字を俺が忘れるわけはなかった。唾を飲む音が喉から鼓膜に伝わった。
「中学一緒やった。」
「北泉中学?!僕もそこ卒業ですけど兄ちゃんの代はやばいほど荒れてたって聞きました。」
「まぁ、そうやな。兄ちゃんは今元気か?」
「元気っすよ。」
「阿木は実家?」
「実家です。僕は。兄ちゃんは今一人暮らししてます。」
「そっか。」
そこで会話が止まり、タバコとライター片手に外へ出ようとすると阿木は「田中さん、絶対元ヤンや。」と言った。阿木のおでこを小突くと「痛ぁ。ほらぁ。」と大口を開けて笑っている。本当によく笑うやつだ。
ステンの灰皿を持って外に出ると空はどんよりと雲が広がっていた。「はぁーーー」とため息をつき、肺に煙を吸い込んだ。一度はきっかりとやめたタバコだったが今やどうしようもない中毒者だ。阿木陽斗……結局俺はお前のことをずっと忘れられないでいる。最後にもう一度大きく肺に煙を吸い込んでそれから火を消した。
店長が横にいる青年の肩をポンと叩くとその青年は「阿木賢斗です。今日からお世話になります。」と言ってクシャッと笑った。切れ長な一重が印象的なクールな顔立ちが笑うと一気に人懐っこい顔になった。阿木……俺が名札をじっと見ていると阿木は名札を両手でつまんで「アギじゃなくてアキって言います。」と笑った。
「田中です。よろしくお願いします。」
「田中さん…田中さん…」と阿木はブツブツ復唱し、「オッケーす。」とまた笑顔を見せる。よく笑う子だなと思う。「田中くんは見た目こんなだけど中身はいい子だから頼ったらいいよ~。」と店長が声をかけている。いつもより朗らかな店長の顔を見てこれは年上からモテるタイプだなと確信した。
都心からは少し離れた和食チェーン店は連日中高生や老人たちが集い賑わう。俺はこの店でアルバイトとして働いている。高校を卒業後、警察官として交番で努めていたがパワハラ紛いの教育、酔っぱらいや馬鹿な連中を相手する日々に身も心も限界を迎える寸前だった。そんなある日、友人にバーへ誘われ、そこでひたすら酒を飲んだ。普段行かない場所で普段飲まない強い酒を飲み、普段語らない話をした。それがどうしてか気づいたときには若い男を無理矢理脱がせて暴れないように押さえつけ、硬くなったペニスを押し付けていたらしい。なんで止めてくれなかったんだと友人に詰めると「止めようとしたらお前に殴りかかられたんだ。」と折れた歯を見せられた。それから「お前、男に興奮したんか?」と鼻で笑われた。〝お前、男に興奮したんか?〟その時のことは覚えていないがその時の気持ちは覚えていた。俺は男に興奮していた。このことは上司の耳にも入り、職場に居場所がなくなって退職へと追い詰められた。その頃から外で飲むことはやめて、友人達との連絡も一切絶った。それからやめていたタバコをまた吸い始めた。もう自分には何も残っていない気がして死が頭を過ぎることも少なくなかった。失業してから1年ほどは何もせず抜け殻のように過ごしていたが半年前にこの店の店長に声をかけてもらいアルバイトとして雇ってもらうことになった。
「お疲れ様でーす。あ、田中さん!僕もご一緒していいっすか?」
休憩室で昼食を食べていると阿木が近づいてきてこちらが「どうぞ」と言う前に向かいの席に腰掛けた。自分のペースを乱されることに若干の苛立ちを感じたが「いただきます。」としっかり手を合わせてから唐揚げを頬張る阿木を見てなんだか力が抜けてしまった。
「阿木ってさ…今いくつ?大学生?」
「はい、19です!田中さんは?」
「俺は24。」
「え!うちの兄ちゃんと同い年や。」
「…阿木の兄ちゃんって〝阿木陽斗〟やったりする?」
「そうっす。もしかして同級生とかですか?」
やっぱりそうか。顔はあまり似ていないように思うが〝阿木〟という苗字を俺が忘れるわけはなかった。唾を飲む音が喉から鼓膜に伝わった。
「中学一緒やった。」
「北泉中学?!僕もそこ卒業ですけど兄ちゃんの代はやばいほど荒れてたって聞きました。」
「まぁ、そうやな。兄ちゃんは今元気か?」
「元気っすよ。」
「阿木は実家?」
「実家です。僕は。兄ちゃんは今一人暮らししてます。」
「そっか。」
そこで会話が止まり、タバコとライター片手に外へ出ようとすると阿木は「田中さん、絶対元ヤンや。」と言った。阿木のおでこを小突くと「痛ぁ。ほらぁ。」と大口を開けて笑っている。本当によく笑うやつだ。
ステンの灰皿を持って外に出ると空はどんよりと雲が広がっていた。「はぁーーー」とため息をつき、肺に煙を吸い込んだ。一度はきっかりとやめたタバコだったが今やどうしようもない中毒者だ。阿木陽斗……結局俺はお前のことをずっと忘れられないでいる。最後にもう一度大きく肺に煙を吸い込んでそれから火を消した。
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