かみクズカゴ。

おっさん。

文字の大きさ
上 下
27 / 32

 夕凪に捧ぐ  (お題:あの人へ)

しおりを挟む

 いつの間にか風がんでいた。
 僕の背を押してくれていた風が。

 「…」
 夏の気怠けだるい暑さが足にからみつく。
 うっとうしい汗がイライラをつのらせる。

 「あっ…」

 そんなものに気を取られている内に、また一人、僕を追い抜かしていった。
 他の人も次々と僕を追い越し、高みへ登っていく。
 僕がいくら頑張って足を動かしても、それは変わらなかった。

 「…」
 
 …疲れた。
 やる気ががれた。

 歩速が落ちる。

 「…」
 そもそも、僕には他にやらなければならない事もある。
 それに、この坂を上り続ける事に、どれだけの意味があるのだろうか。

 そもそも、僕は山を登る事はおろか、歩くことも嫌いだ。
 皆、健康の為なんて言うけど、それ程、長生きしたいわけでもないし、なんだかんだ、歩いている人は楽しそうにしている。
 結局その行為に喜びを見出せているからこそ、歩いているに過ぎないのだ。

 「……」
 何人目かわからない他人が、苦しそうに坂を上る僕の横を、通り過ぎて行った。楽しそうな表情で、軽快けいかいな足取りで。

 「……。はぁ…」
 とうとう僕は歩くのを辞めてしまった。

 そんな僕を坂道はずるずると引きり降ろそうとしてくる。
 仕舞しまいには、坂の下にある海へ向かって風も吹き始めた。

 …もう止めよう。
 踏ん張る力も残っていない僕は、そう思い、きびすを返した。

 「…!」
 振り向いた僕は気づく、夕に染まる海が、この坂の上から見下ろす風景が、とても美しい事に…。

 僕はいつの間に、こんなに高くまで登ってきていたのだろう。

 「……」
 その風景に暫く見惚れていると、当然の事ながら、多くの人が僕を抜かして、先に進んでいる事に気が付いた。
 つまりは、この風景を眺めてから今まで、その事に全く気が付かなかったのである。

 …そうだ。今までだってそうだった。
 いくら他人に”歩く”事を馬鹿にされても、いくら僕を誰かが追い抜かしていっても、気にならなかった。
 別に僕は競っていたわけではないのだ。楽しいから登っていただけなのだ。

 「何やってんだ?!早く登って来いよ!」
 「皆待ってるよ~!」
 気づけば、先に行った仲間が、上の方から声をかけてくれていた。

 …相変わらず、僕を海に引き戻そうとする風は止まなかった。
 それでも、その風は、上の方にいる仲間の声を届けてくれた気もするし、夏の蒸し暑さも吹き飛ばしてくれた。

 僕は今でもゆっくりと歩みを進めている。
 それは、昔とは比べ物にならない程にゆっくりで…。
 もしかしたら、少しづつ、滑り落ちているのかもしれないけれど。

「お。新しいの書いたのか!見せてみろよ!」
「…ちょっとだけだよ?」

 …それでも僕は楽しかった。

 ==========
※おっさん。の小話
 
 どうも、おはこんばんにちは。おっさん。です。
 どうにも長編作品の筆が進まないので、息抜き投稿してみました。

 昔の気持ちを思い出すのって、とっても難しいですよね。
 特に社会人になると、感受性や思考力が鈍ってどうにも…。

 あの人はどうしてるかな。
 ただ毎日を淡々と生きる機械にだけはなっていてほしくないな。
 
 …まぁ、そう言うおっさん。が、そうなりかけているので難しいのでしょうが。
 それに考えて、感じて生きるのは、辛いですしね。

 それでも、初心を忘れず生きていてほしい。
 そんなエゴの塊のおっさん。からでした~。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...