かみクズカゴ。

おっさん。

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障害物リレー

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 さぁ~!やってまいりました!障害物リレーのお時間です!
 今日注目いたしますのはA選手!特に何の特技もない中学生です!

 ベンチは父親の葬式!彼は特に泣くこともなく、眠たそうな顔で、ベンチ入りをしてきました!
 母親の実家に帰ることになった彼は、ここからが新しいスタートラインです!
 さぁ、上手く障害物をわかし、ゴールまでたどり着くことができるか?!
 よーーい…スタート!

 まずは母親の実家への挨拶!子供の頃から夏休みなどに世話になっていた為、流れはスムーズだ!
 これは、上手く事前のアドバンテージを活かせたようですね!

 そして、転校初日の学校!これも、夏休みの時にできた友人知人を使って、上手く溶け込んだ!
 順調な滑り出しです!これから少年はどうなるのか?

 …おおっと!部活動には入らず帰宅部のようです!
 しかし、授業が終わっても一向に帰る気配がない!
 な、なんと、ほかの部活動に顔を出したり、居残り組といつまでも話しているではないか!
 それなら初めから部活をすればいいのに!それとも、そういうしばりが嫌いなのか?!

 そして少年Aは多数の友人を作りながらも。波風なく中学生ゾーンを突破していく!
 次に現れるのは高校生ゾーン!
 少年Aは背伸びしないでも届く、家からも近い、無難な高校を選び、普通に合格した!

 実は遠くにある私立の専門高校に入学したかった少年A!
 しかし、家庭の事情を考え、それを表に出さない健気けなげさには泣けてくる!
 なんだかんだ、新しく始めた高校生活も、中学からの友人が多いこともあり、それなりに楽しそうだ!これは、高校生活も順風満帆じゅんぷうまんぱんか?!

 おおっと、そうは問屋が卸さない!ここで中学時代の友人がいしめにあい、止めに入る!これは、どうなってしまうんだ?!
 しかし、これは…。な、なんということでしょう!真っ向から止めるわけではなく、話題を逸らして、虐めっ子たちと友好関係をはかっていった!

 さすがのコミュニケーション能力です!今度、オンラインゲームをする話に持っていき、彼らを解散させた!
 少年Aはいじめられっ子に一声かけると去って行く!ヒーローなのか!君は?!

 しかし、虐め自体はなくならない!
 なくならないが、いじめっ子たちの注意は遊ぶ事にれ、虐められっ子のフォローも同時こなすことで、何とか均衡を保っている!
 そして、そんなひやひやの高校生活も終わりに向かっていく!

 私としては全く色恋沙汰いろこいざたがないのが気になるのだが?!
 そして、Aは大学へと進む!奨学金は重いが、それでも学びたい事があったようだ!それはとても誇らしいことだぞ、少年A…いや、もう青年Aか!

 そして大学、ここでやっと、Aはサークルにはいる!
成程、今までの中学や高校にはなかったタイプの活動内容だ。家ではその類の勉強もしていたし、今までは好きな活動が無かった為、参加してこなかっただけらしい!

 そして、ついに色恋沙汰が!
 しかも、恋愛に無頓着そうだった少年A、改め、青年Aの方から告白しに行った!

 …おおっと、相手の反応。これは…。成功だ!成功です!
 そのまま青年Aと、そのお相手は、付き合う前と変わらないような関係で大学を卒業!
 これはどうなのだ?仲の良い友人にしか見えないのだが?

 しかし、社会人生活はそんなことを忘れさせるほど過酷!
 酷い、これは酷い!金だけ払えば良いと思っている経営者は、皆死にさらせと言いたくなる!いや!死にさらせ!

 Aは悩んでいる!こんな、自身の趣味の時間を確保する事はおろか、寝て起きて会社に行く生活。生きている意味はあるのかと!
 しかし、そんな彼を支えたのは、意外にも大学時代のお相手!
 相手も忙しいというのに、事あるごとに、Aを気遣い、会いに来てくれていた!

 …お?これは?
 ついに来ました!待ちに待ったこの展開!二人が結婚した!
 青年Aの生活が安定し始めたからだろうか!?やはり、Aにとって、お相手は欠かせない存在になっていたらしい!
 これは流石の私も喜び隠せない!おめでとう!

 さて、結婚生活がしばらく続き、家庭内は良好…。が、会社内では不穏な空気が…。
 そして、虐めまがいな光景を目撃してしまうA!これはどうする?!

 これは…。見逃した!見て見ぬ振りをした!
 趣味を諦め、正義も捨てていく!これが大人になるということなのか?!

 そして、順調に会社で上に上り詰めていくA。そんなAに第一子が誕生する!
 おめでとう!これからはお父さんだ!頑張るんだぞ!お父さん!

 それから、しばらくして、第二子が生まれ…。子供ってかわいいなぁ…。
 あぁ、ハイハイを始めた。あぁ、そんなもの食べちゃダメ!
 つかまり立ちなんてまだ早い!角に頭をぶつけちゃう!

 …始めての幼稚園。他の子と上手くやれるかな?
 おぉ!もう小学生か!子供の成長は早いなぁ!新品のランドセルがよく似合う!
 中学生、俺があいつを置いて行ってしまった時期だな…。あいつは子どもに上手くやってやれるといいが…。

 …いかん。この頃意識が遠のく。まるで寝不足みたいだ。
 今の俺に寝る必要なんて全くないというのに…。

 「…おい…。何やってんだよ、親父」
 うつらうつらしていると、急に肩を叩かれた。

 「…ん?なんでお前がここに?」
 振り返ると、そこにあったのは息子の姿。

 「なんでも何も、もう交代の時間だ」
 その言葉で、なんとなく察する。この眠気の原因も、息子がここにいる理由も。

 「そうか。交代か…。お前、心残りはあったか?」
 俺の質問に息子は「そりゃあるさ」と答えた。

 「でも、まぁ、いいんじゃないかな?俺の出番はここまでだ。…満足してる」
 息子は屈託くったくのない笑顔を浮かべながら「でも…」と、続ける。

 「しいて言うなら、あと、ちょっとだけな」
 自分の子供たちに温かい視線を向けて、息子は俺の横に腰を下ろした。

 「ま、だから、交代ってわけよ」
 もう一度、俺の肩を叩く手。
 大きくて立派になった手。

 「…あぁ、そうかよ。俺はもう用済みって訳だ」
 俺は重い腰を上げるが息子の視線は子供たちを見たままだった。

 「そういうこった。…まったく、こんな画面から俺を見てたなんてな…。正直悪寒がするぜ。さっさと消えちまいな、変態盗撮親父め」
 息子は顔をこちらに向けないまま、しっし。といった風に、手だけをこちらに振った。

 「…ったく、分かりましたよ。退散させて頂きますよ」
 息子に背を向け歩き出す。

 「あ、そういえば、母さんはどうしたんだ?」
 「母さんか?そんなの、あのバカ息子は気にするだけ無駄よ!どこだって生きていけるわ!って言って消えていったぞ」
 息子の他愛無い質問に、消えゆく意識を全力で向けて答える。何でもない風に…。

 「あはは…。確かに母さんっぽいや」
 息子はそういうと黙り込む。どう取り繕っても、俺が弱っていることは息子には隠せないらしい。俺がガンで死にそうなときもそうだった。息子に隠し事はできない。

 「じゃあな」
 俺はそう言うと歩みを進める。
 正直言えば、もうしばらく息子と話をしていたかったのだが…。もう限界だ。
 きっと、俺の最後の心残りが消えたからだろう。だから俺も消える。

 「…ありがとな。また後で」
 消えゆく意識の中、そんな言葉が聞こえた気がした。

 また後で。か…。
 この後、俺はどうなるのだろうか。
 でも、それでも…。
 
 「ありがとな」その言葉だけで、俺には十分だった。
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