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没日
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ジリリリリ!
朝…。正確にはお昼過ぎ。
何度目かの目覚まし時計の音で、やっと意識が覚醒した。
「ん…」
寝ぼけ眼で布団を這い出した僕は、早速寝間着を着替え始める。
今日は友達と出かける約束をしていたのだが、どうにも億劫で何度か寝覚ましを無視してしまった。
結果、約束の時間まであまり余裕がなく、寝起き早々、急ぐ羽目になっているという訳だ。
「いってきまーす」
急いで支度を終えた僕は誰もいない室内に声をかけ、玄関を出る。
家族は皆死んでしまった。
お金がない。お金がない。とは言っていたが、そこまで逼迫した状況だったとは僕も知らなかったのだ。
妹の誕生日。
プレゼントを持って帰ってきた僕を今世紀最大のサプライズが待っていたというのだから一周回って笑えてくる。
幼い妹は前から欲しがっていた魔法少女の服を着て、お誕生日おめでとう。という、カードが載ったケーキを前に倒れていた。
背中から一突き。
暴れた様子もなかったし、多分即死だったのだろう。
その両脇では犯人であろう両親が苦しそうな顔をして首をつっていた。
その後に遺書らしき物を発見したが、要は”お前だけなら一人で生きられるだろ”的なことが書いてあったのを覚えている。
他には”妹を苦しませずに一突きで殺せてよかった”とか”余った分のお金と財産は…”とか、正気なのか、正気じゃないのか、よくわからない事が、つらつらと書いてあっただけだった。
ただ、一つだけ分かったことがある。それは両親が僕に対して然して興味がなかった。と言うことだ。
遺書の内容でも、妹がどれだけ可愛いか書き連ねられていることに比べ、僕に対する感情が一切述べられていなかったことや、事後の処理がずさんな面からみても、否定できない事実だろう。
まぁ、そのおかげで今もこうして生きているのだから…。いや、生きていることが幸せとも…。
そんなことを考えていると、逆さまになった少女と目が合った。
そんな少女が僕に向かって微笑んだ気がしたので、僕も微笑み返す。
瞬間、彼女はアスファルトの上で赤い花を咲かせる。
僕は服についた汚れを軽く払いながら、時間もないので目的地に向かう。
うまく微笑み返せただろうか?
そんなことを考えながら歩いていると踏切の遮断機に行く手を阻まれた。
カンカンカンという警笛が耳障りだな。と、警報機を睨みつけていると、「踏みきーた!」という、元気な男女の声が聞こえてきた。
二人は楽しそうに線路の上で話しながら、砕け散っていく。
僕は、またしても汚れてしまった体を見て、いつまでも上がる気配のない遮断機を見て、そして、腕時計を見てため息をつく。
仕方なく遠回りをした僕が、二人が最後にしていた他愛のない話を思い出していると、その横を大きなバスが走り抜けていった。
その先にあるのは友人との待ち合わせ場所になっている公園だ。
バスはちょうどそこで止まると、多くの老人を乱暴に降ろして去って行ってしまった。
老人ホームのバスだろうか?
まぁ、経済が破綻した今、お金のない老人の面倒を見続けることはできないのだろうが、公園に置いていくのは、また別の人に迷惑をかけるのではないか?
「よっ!また変なこと考えてるのか?」
僕の思考を妨げるように友人が肩を叩いてくる。
「なんだよ、変なことって。…別に何にも考えてないよ。考えてる振りをしてるだけ」
そう、振りをしてるだけ。
或いはただの暇つぶしか。
考える事に大して意味はない。だってそうだろ?考えたところで…。
「そんなことより、今日はどうするの?」
無駄な思考を遮って、僕は話を進める。
「ん?今日か?今日は久しぶりにあの川で釣りしてみね?」
まぁ、友人が釣りセットを持っていた時点で、なんとなくは察していた。
僕たちは浮浪者のたまり場となった公園を後にして、少し山奥にある渓流に向かう。
その間、話した友人との会話はとても他愛ないものだった。
やれ、あそこの銀行が潰れただの、隣の国が生物兵器で潰れただの、そんなくだらない話。
そんな話をしながら山道を歩いていると、後ろを歩いていた友達からの返事が返ってこなくなる。
僕は不思議に思い振り返ると、そこには見覚えなある、魔法少女の服を着た女の子が僕に背を向けてしゃがんでいた。
「み、美羽?」
恐る恐る、妹の名前を呼んでみる。
「ん?…あ!お兄ちゃん!」
体中を友人の血で染めた妹が、花を咲かせたような笑顔で振り返る。
残念ながら、もう友人は息絶えていたようだった。
「どうしたの美羽?ダメじゃないか、こんな所に来ちゃ…。一人じゃ危ないでしょ?」
僕は妹を軽く叱る。
すると、妹は少ししゅんとして「一人は寂しかったんだもん…」と、うつむき気味に答えた。
…まぁ、年端もいかない子供を一人にしたのは、確かに僕にも責任がある。
「…あぁ、僕も美羽を一人にして悪かったよ…。」
僕が素直に謝ると、妹は、また、花のような笑顔を湛え、飛びついてきた。
また、服が汚れてしまったけれど、そんな事は今更だ。
僕は妹を強く抱きしめ返す。
今ある日常を手放さないように。
朝…。正確にはお昼過ぎ。
何度目かの目覚まし時計の音で、やっと意識が覚醒した。
「ん…」
寝ぼけ眼で布団を這い出した僕は、早速寝間着を着替え始める。
今日は友達と出かける約束をしていたのだが、どうにも億劫で何度か寝覚ましを無視してしまった。
結果、約束の時間まであまり余裕がなく、寝起き早々、急ぐ羽目になっているという訳だ。
「いってきまーす」
急いで支度を終えた僕は誰もいない室内に声をかけ、玄関を出る。
家族は皆死んでしまった。
お金がない。お金がない。とは言っていたが、そこまで逼迫した状況だったとは僕も知らなかったのだ。
妹の誕生日。
プレゼントを持って帰ってきた僕を今世紀最大のサプライズが待っていたというのだから一周回って笑えてくる。
幼い妹は前から欲しがっていた魔法少女の服を着て、お誕生日おめでとう。という、カードが載ったケーキを前に倒れていた。
背中から一突き。
暴れた様子もなかったし、多分即死だったのだろう。
その両脇では犯人であろう両親が苦しそうな顔をして首をつっていた。
その後に遺書らしき物を発見したが、要は”お前だけなら一人で生きられるだろ”的なことが書いてあったのを覚えている。
他には”妹を苦しませずに一突きで殺せてよかった”とか”余った分のお金と財産は…”とか、正気なのか、正気じゃないのか、よくわからない事が、つらつらと書いてあっただけだった。
ただ、一つだけ分かったことがある。それは両親が僕に対して然して興味がなかった。と言うことだ。
遺書の内容でも、妹がどれだけ可愛いか書き連ねられていることに比べ、僕に対する感情が一切述べられていなかったことや、事後の処理がずさんな面からみても、否定できない事実だろう。
まぁ、そのおかげで今もこうして生きているのだから…。いや、生きていることが幸せとも…。
そんなことを考えていると、逆さまになった少女と目が合った。
そんな少女が僕に向かって微笑んだ気がしたので、僕も微笑み返す。
瞬間、彼女はアスファルトの上で赤い花を咲かせる。
僕は服についた汚れを軽く払いながら、時間もないので目的地に向かう。
うまく微笑み返せただろうか?
そんなことを考えながら歩いていると踏切の遮断機に行く手を阻まれた。
カンカンカンという警笛が耳障りだな。と、警報機を睨みつけていると、「踏みきーた!」という、元気な男女の声が聞こえてきた。
二人は楽しそうに線路の上で話しながら、砕け散っていく。
僕は、またしても汚れてしまった体を見て、いつまでも上がる気配のない遮断機を見て、そして、腕時計を見てため息をつく。
仕方なく遠回りをした僕が、二人が最後にしていた他愛のない話を思い出していると、その横を大きなバスが走り抜けていった。
その先にあるのは友人との待ち合わせ場所になっている公園だ。
バスはちょうどそこで止まると、多くの老人を乱暴に降ろして去って行ってしまった。
老人ホームのバスだろうか?
まぁ、経済が破綻した今、お金のない老人の面倒を見続けることはできないのだろうが、公園に置いていくのは、また別の人に迷惑をかけるのではないか?
「よっ!また変なこと考えてるのか?」
僕の思考を妨げるように友人が肩を叩いてくる。
「なんだよ、変なことって。…別に何にも考えてないよ。考えてる振りをしてるだけ」
そう、振りをしてるだけ。
或いはただの暇つぶしか。
考える事に大して意味はない。だってそうだろ?考えたところで…。
「そんなことより、今日はどうするの?」
無駄な思考を遮って、僕は話を進める。
「ん?今日か?今日は久しぶりにあの川で釣りしてみね?」
まぁ、友人が釣りセットを持っていた時点で、なんとなくは察していた。
僕たちは浮浪者のたまり場となった公園を後にして、少し山奥にある渓流に向かう。
その間、話した友人との会話はとても他愛ないものだった。
やれ、あそこの銀行が潰れただの、隣の国が生物兵器で潰れただの、そんなくだらない話。
そんな話をしながら山道を歩いていると、後ろを歩いていた友達からの返事が返ってこなくなる。
僕は不思議に思い振り返ると、そこには見覚えなある、魔法少女の服を着た女の子が僕に背を向けてしゃがんでいた。
「み、美羽?」
恐る恐る、妹の名前を呼んでみる。
「ん?…あ!お兄ちゃん!」
体中を友人の血で染めた妹が、花を咲かせたような笑顔で振り返る。
残念ながら、もう友人は息絶えていたようだった。
「どうしたの美羽?ダメじゃないか、こんな所に来ちゃ…。一人じゃ危ないでしょ?」
僕は妹を軽く叱る。
すると、妹は少ししゅんとして「一人は寂しかったんだもん…」と、うつむき気味に答えた。
…まぁ、年端もいかない子供を一人にしたのは、確かに僕にも責任がある。
「…あぁ、僕も美羽を一人にして悪かったよ…。」
僕が素直に謝ると、妹は、また、花のような笑顔を湛え、飛びついてきた。
また、服が汚れてしまったけれど、そんな事は今更だ。
僕は妹を強く抱きしめ返す。
今ある日常を手放さないように。
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