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「無意味な一生」 (お題:リンゴ・大学・ゲーム)
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「…」
日が傾き始めた帰路の途中。
突然目を射した光に、眉をしかめる。
何事かと思い、光を追えば、頭上に生る赤い果実が目に入った。
リンゴである。
その大きく、赤い実は、丁度沈みかけていた日の光を受け、燃え盛る炎の様な、それでいて宝石のような輝きを見せていた。
…鬱陶しい。
そんな私の視線を嘲笑うかのように、リンゴはよりいっそ、紅く光った。
「…なんてね…」
リンゴがそんなことを思うはずがない。ただの被害者妄想だ。
そう。被害者妄想。
相手がこちらを嘲笑っているなんて。
相手はこちらの存在を認識してすらいないというのに。
気に留めて貰えているなどと、思い上がった末の恨み。
恨み、うらみ。羨み。
そう、ただの羨みなのだ。
そんな思いをリンゴにぶつけている私はどれだけ惨めなのだろう。
「それでも…」
私は手を伸ばす。
その光を地に引きずり降ろしてやろうと、手を伸ばす。
「あ…」
そして、思いの外簡単に、その輝きを私はもぎ取った。
「…」
赤い実は私の影に覆われ、もう光ることはない。
リャリッ
私はさぞ美味しかろうと、その実を齧る。
次の瞬間、口いっぱいに広がるのは、無味。
甘味を期待していた口内を、空いたその果肉が乾かしていく。
「ペッ!」
私は驚き、果肉を吐き出す。
信じられないという感情。
口の中に残るザラザラとした果肉の残りだけが、その現実を私に教えていた。
今一度、齧ったその実を夕日に照らしてみる。
が、やはり、齧られた部位すらも芸術的に見える程、その見た目は美しい。
私が吐き出した果肉は、これほど醜い姿を路上に晒しているというのに。
「…」
無意味だ。
私は藪の中にリンゴを放る。
その内にリンゴはその身を腐らせ、醜い姿を晒しながら土に還るのだろう。
そう、すべては無意味なのだ。
…私の人生も含めて。
彼女は考える事を放棄し帰路に着く。
数十年後、この場所に立派なリンゴの木が生えていると知ったら、彼女はどう思うだろうか。
いや、そもそもリンゴの種が無事に育つ保証もないし、彼女がこのリンゴの木の事を覚えている保証もない。
見る保証も感じる保証も無いのだから、考える事すら無意味だ。
「だけど…」
「そんな無駄な事を考える事が面白い…だろ?」
僕の後ろから、先輩が声を掛けてきた。
「またノベルゲーム作ってんのか」
先輩が僕のPC画面をのぞき込む。
「や、やめてくださいよ!勝手に見ないでください!」
僕は覆いかぶさるようにPC画面を隠すと先輩を睨んだ。
「いいじゃんか。どうせ、ゲー研の課題なんだから、提出するんだろ」
そんなことを言って僕の隣の席に座った先輩は大学4年生。もう半年もすれば立派な社会人だ。
「ほんと。俺たちの人生って何なんだろうなぁ~」
先輩が椅子の背もたれに体重を預けながら、反り返るように天井を仰ぐ。
僕のゲームを見て思うところがあったのだろうか。
「っていうか、全部見てるじゃないですか?!いつの間に?!」
先輩は「ちょこっとな」と言うと、人差し指を立て空中でくるくると回す。
この人は本当に謎な人だ。
まぁ、考えるだけ無駄なのだろうけど。
「あぁ。無駄さ」
先輩の言葉に僕は驚き、振り返る。
「でも…。無駄でも、楽しいもんは楽しいだろ?」
先輩は席を立つと、僕の頭をクシャクシャっと撫でて、笑った。
「人生は楽しんだもん勝ちだ。全部無駄なら楽しもうぜ」
そう言うと先輩は笑い声を上げながら教室を去っていく。
僕はその背中を見て…。
「…ふふっ」
小さく笑った。
日が傾き始めた帰路の途中。
突然目を射した光に、眉をしかめる。
何事かと思い、光を追えば、頭上に生る赤い果実が目に入った。
リンゴである。
その大きく、赤い実は、丁度沈みかけていた日の光を受け、燃え盛る炎の様な、それでいて宝石のような輝きを見せていた。
…鬱陶しい。
そんな私の視線を嘲笑うかのように、リンゴはよりいっそ、紅く光った。
「…なんてね…」
リンゴがそんなことを思うはずがない。ただの被害者妄想だ。
そう。被害者妄想。
相手がこちらを嘲笑っているなんて。
相手はこちらの存在を認識してすらいないというのに。
気に留めて貰えているなどと、思い上がった末の恨み。
恨み、うらみ。羨み。
そう、ただの羨みなのだ。
そんな思いをリンゴにぶつけている私はどれだけ惨めなのだろう。
「それでも…」
私は手を伸ばす。
その光を地に引きずり降ろしてやろうと、手を伸ばす。
「あ…」
そして、思いの外簡単に、その輝きを私はもぎ取った。
「…」
赤い実は私の影に覆われ、もう光ることはない。
リャリッ
私はさぞ美味しかろうと、その実を齧る。
次の瞬間、口いっぱいに広がるのは、無味。
甘味を期待していた口内を、空いたその果肉が乾かしていく。
「ペッ!」
私は驚き、果肉を吐き出す。
信じられないという感情。
口の中に残るザラザラとした果肉の残りだけが、その現実を私に教えていた。
今一度、齧ったその実を夕日に照らしてみる。
が、やはり、齧られた部位すらも芸術的に見える程、その見た目は美しい。
私が吐き出した果肉は、これほど醜い姿を路上に晒しているというのに。
「…」
無意味だ。
私は藪の中にリンゴを放る。
その内にリンゴはその身を腐らせ、醜い姿を晒しながら土に還るのだろう。
そう、すべては無意味なのだ。
…私の人生も含めて。
彼女は考える事を放棄し帰路に着く。
数十年後、この場所に立派なリンゴの木が生えていると知ったら、彼女はどう思うだろうか。
いや、そもそもリンゴの種が無事に育つ保証もないし、彼女がこのリンゴの木の事を覚えている保証もない。
見る保証も感じる保証も無いのだから、考える事すら無意味だ。
「だけど…」
「そんな無駄な事を考える事が面白い…だろ?」
僕の後ろから、先輩が声を掛けてきた。
「またノベルゲーム作ってんのか」
先輩が僕のPC画面をのぞき込む。
「や、やめてくださいよ!勝手に見ないでください!」
僕は覆いかぶさるようにPC画面を隠すと先輩を睨んだ。
「いいじゃんか。どうせ、ゲー研の課題なんだから、提出するんだろ」
そんなことを言って僕の隣の席に座った先輩は大学4年生。もう半年もすれば立派な社会人だ。
「ほんと。俺たちの人生って何なんだろうなぁ~」
先輩が椅子の背もたれに体重を預けながら、反り返るように天井を仰ぐ。
僕のゲームを見て思うところがあったのだろうか。
「っていうか、全部見てるじゃないですか?!いつの間に?!」
先輩は「ちょこっとな」と言うと、人差し指を立て空中でくるくると回す。
この人は本当に謎な人だ。
まぁ、考えるだけ無駄なのだろうけど。
「あぁ。無駄さ」
先輩の言葉に僕は驚き、振り返る。
「でも…。無駄でも、楽しいもんは楽しいだろ?」
先輩は席を立つと、僕の頭をクシャクシャっと撫でて、笑った。
「人生は楽しんだもん勝ちだ。全部無駄なら楽しもうぜ」
そう言うと先輩は笑い声を上げながら教室を去っていく。
僕はその背中を見て…。
「…ふふっ」
小さく笑った。
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