かみクズカゴ。

おっさん。

文字の大きさ
上 下
13 / 32

 桜散る  (お題:桜・車椅子・キャンディー)

しおりを挟む
「退院おめでと」
 彼女がキャンディーをくれた。

 甘いくて酸っぱい、ストロベリーミルク。
 彼女は病院から出る事ができない。
 それは、多分。これから一生だ。

「ちょっと外に出てみない?」
 彼女がそんな事を言いだした。

 僕は「いいよ」と答えると、彼女の車椅子を押す。
 外はもう春だった。

「暖かいね」
 彼女が言う。

「そうだね」
 僕は短く返事を返した。

 風が吹く。
 彼女のなびく髪に見とれていると、視界を桜の花びらがおおった。

 「えぃ!」
 彼女は僕の握力が弱まったその隙に、車椅子を発進させる。

 「あ!待って!」
 僕は直ぐに追う。

 ここは丘の上にある病院。
 彼女の進む先にあるのは坂道なのだ。

「やっほ~い!」
 彼女は叫びながら加速して行く。

「待ってよぉ~~~!」
 僕は必死で追いかけた。
 なんせ、その先には崖があるのだから。

「いっけぇ~~~!」
 彼女は躊躇ためらうことなく、崖に向かう。
 その声はとても楽しそうだった。

「よし!」
 僕は車椅子の取っ手に手を伸ばす。

「そうはいくかっ!」
 彼女は華麗かれいなドリフトさばきで、桜の花びらの様にひらりと身をかわした。

 今までに無い様なはしゃぎ様。
 まるで、枝先から落ちて自由になった花びらのようだった。
 
「大好きだったよ」
 彼女がひらり宙を舞う。
 一瞬、こちらを振り返った彼女は花が咲いたような笑顔だった。

 そんなの…。そんなのって、あんまりだ。
 自分だけが良ければそれで良いのか?
 残された人はどう思う?
 僕は君がこんなにも大切なのに。

「言い逃げなんて許さない!」
 僕は勢いそのまま、崖から飛び降りる。
 今度は逃がさないよう、全身で彼女を包み込んだ。

=========

「全治、一ヶ月です」
 呆れたように看護師さんがそう言った。
 僕は病院に逆戻り。

「また一ヶ月、延長ね」
 病室に戻ると、彼女が悪戯っぽく笑っている。

「大体、あんたね。普通、あそこで跳ぶ?あたしの華麗なる自殺劇が台無しじゃない」
 彼女は呆れ顔でそう言った。
 それには流石の僕もカチンとくる。

「あそこでお前が死んだら誰の責任になると思ってるんだ!ふざけるなよ!」
 僕は怒鳴りながら彼女に近づく。
 このおてんば娘に今日と言う今日は言ってやらねば!

 彼女を見下ろす僕。
 口を開こうとした瞬間、不意に彼女が立ち上がった。

「痛っ!」
 甘酸っぱい、いちごみるくと、鉄臭い血の味が口の中で混ざる。

「責任取ってよね」
 車椅子に座り直した彼女が唇から血を流しながら、にこやかに言った。

 それは彼女を助けてしまった責任だろうか、それとも、好きさせてしまった責任?
 はたまた、今の頭突きに近いキスの責任かも知れない。
 …まぁ、どれも一緒か。

 満開の桜が風にさらわれてゆく。

 僕はあの風の一つを止めたに過ぎない。
 きっと、何度止めたって、最後には全てを攫う風がやってくるだろう。

 彼女は美しく散りたかったのだろか?
 でも、そんなことは認めない。
 僕を魅了した責任だ。

 春の終わりはもう近い。
 それでも僕は、最後の一瞬まで、その散り様を見届けよう。

============
※おっさん。の小話

 今回はお題が甘そうだったので、お話は苦くしてみました。

 彼女の華麗なる人生脱出劇は彼に阻止されてしまいましたね。

  その事が不幸だったのか、幸福だったのかは彼らにしか分かりませんが。

 二人の関係に幸あれ!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...