8 / 32
電波少年 (お題:驚愕・密室・電波)
しおりを挟む
「ビビビビびー」
突然なのだが私のクラスには電波少女がいる。
「ややっ!あなた!今私と目が合いましたね!もしや共振者?!」
やばい。目をつけられてしまった。
僕は咄嗟に開いていた教科書で顔を隠す。
何故、授業中でもないのに教科書を開いているかって?
そんなの決まっている。僕がボッチだからだ。
「おい!貴様!ワザとらしく顔を隠すんじゃない!」
無慈悲にも僕の席まで歩いてきた電波少女によって教科書は取り上げられてしまう。
「ちょ!返せよ!」
僕は取り上げられた教科書に手を伸ばしたところで、教室中の視線が僕たちに集まっている事に気が付いた。
僕は堪らず席を立つ。
教科書などどうでも良い。今は皆の視線から逃げたかった。
「おいおい、如何したんだい少年。急に歩き出して」
廊下に出ても未だについてくる電波少女。
電磁場装置でも持っていれば撃退できただろうか。
そんなくだらない事を考えつつ、僕は屋上まで逃げる。
いや、屋上まで逃げたというよりは誘導されたに近いか。
俯いて歩いていた僕は彼女から逃げる事しか頭になかったのだから。
屋上に着いた彼女は満足げな表情をして、扉を閉める。
僕はもう逃げられなかった。まさに空中の密室である。
「君はこの世界が詰まらんと思わんかね」
電波少女が気取った風な口振りでそういった。
確かに詰らなくはあるし、ここなら誰もいない。彼女に話したところでどうにかなる様な事もないだろう。
そう思い僕は口を開いた。
「詰らなかったら何だと言うんだ」
僕が喋った事に満足したのか、電波少女は、うんうん。と頷く。
「一緒に宇宙に行かないか?」
…まぁ予想していた範疇の回答だ。詰まり仲間が欲しいという事なのだろう。
「残念ながら僕はお友達ごっこが嫌いなんだ。他を当たってくれ」
僕は彼女を押しのけ、屋上のドアノブに手をかける。
「嘘つき」
彼女は小さくそう言った。
「嘘じゃない」
しかし、そうは言ったものの、ドアノブを回す手がどうも動かなかった。
「君は皆と仲良くしたいはずだ。いや、皆じゃなくても良い。誰か一人、くだらない事でふざけ合って、話ができて、一緒に帰ったり、行事で盛り上がったり。そう言う事がしたい。それだけなんだろう?」
電波少女は僕の背後でそんな戯言をぺらぺらと広げる。
「違う!」
僕は叫んだ。
そんな甘ったるい妄想をする訳がない。
なんせ僕は人の怖さを、残酷さを十分に知っているのだから。
「それでも君は期待している。人の優しさに」
「だからちがっ!う、って…」
後ろへと振り向いた僕は驚愕した。少女が屋上のフェンスを登っていたからだ。
「おまっ!何をして!」
僕は咄嗟に彼女に駆け寄るが、辿り着く頃には、彼女はもうフェンスの向こう側にいた。
「私はこんなにも期待しているよ。君の優しさに」
フェンス越しに彼女が僕の手を包み込む。それはとても暖かかった。
その暖かさがとても怖かった。
「そうか、君は、そうなんだね…」
気づいた時には僕はその手を振り払っていた。
彼女は寂しそうに笑いながら落ちて行く。
手を伸ばせば届く距離、フェンスがなければ届く距離。
しかし、仕方がない、なんせフェンスがあるのだから。
決して僕の手が彼女に届く事はない。だから僕は手を伸ばさないのだ。
僕は彼女が落ちて行くのを静かに見守った。
それからどれだけ時間がたったのか、もう夕暮れ時になっていた。
僕は最後に彼女が握った手を見つめる。もう、彼女の体温は思い出せない。
「…帰ろ」
僕は一人屋上を後にした。
彼女の電波はもう届かない。
=======
※おっさん。の小話
今回は他人に恐怖する少年の心を描いた一作です。
少女は、少年に残った唯一の無邪気さですね。
少年はこれからどうなって行くのか。
少年の中の少女は本当に死んでしまったのか。
貴方の中の少女は息をしていますか。
そんな事を考えて欲しい一作でした。
突然なのだが私のクラスには電波少女がいる。
「ややっ!あなた!今私と目が合いましたね!もしや共振者?!」
やばい。目をつけられてしまった。
僕は咄嗟に開いていた教科書で顔を隠す。
何故、授業中でもないのに教科書を開いているかって?
そんなの決まっている。僕がボッチだからだ。
「おい!貴様!ワザとらしく顔を隠すんじゃない!」
無慈悲にも僕の席まで歩いてきた電波少女によって教科書は取り上げられてしまう。
「ちょ!返せよ!」
僕は取り上げられた教科書に手を伸ばしたところで、教室中の視線が僕たちに集まっている事に気が付いた。
僕は堪らず席を立つ。
教科書などどうでも良い。今は皆の視線から逃げたかった。
「おいおい、如何したんだい少年。急に歩き出して」
廊下に出ても未だについてくる電波少女。
電磁場装置でも持っていれば撃退できただろうか。
そんなくだらない事を考えつつ、僕は屋上まで逃げる。
いや、屋上まで逃げたというよりは誘導されたに近いか。
俯いて歩いていた僕は彼女から逃げる事しか頭になかったのだから。
屋上に着いた彼女は満足げな表情をして、扉を閉める。
僕はもう逃げられなかった。まさに空中の密室である。
「君はこの世界が詰まらんと思わんかね」
電波少女が気取った風な口振りでそういった。
確かに詰らなくはあるし、ここなら誰もいない。彼女に話したところでどうにかなる様な事もないだろう。
そう思い僕は口を開いた。
「詰らなかったら何だと言うんだ」
僕が喋った事に満足したのか、電波少女は、うんうん。と頷く。
「一緒に宇宙に行かないか?」
…まぁ予想していた範疇の回答だ。詰まり仲間が欲しいという事なのだろう。
「残念ながら僕はお友達ごっこが嫌いなんだ。他を当たってくれ」
僕は彼女を押しのけ、屋上のドアノブに手をかける。
「嘘つき」
彼女は小さくそう言った。
「嘘じゃない」
しかし、そうは言ったものの、ドアノブを回す手がどうも動かなかった。
「君は皆と仲良くしたいはずだ。いや、皆じゃなくても良い。誰か一人、くだらない事でふざけ合って、話ができて、一緒に帰ったり、行事で盛り上がったり。そう言う事がしたい。それだけなんだろう?」
電波少女は僕の背後でそんな戯言をぺらぺらと広げる。
「違う!」
僕は叫んだ。
そんな甘ったるい妄想をする訳がない。
なんせ僕は人の怖さを、残酷さを十分に知っているのだから。
「それでも君は期待している。人の優しさに」
「だからちがっ!う、って…」
後ろへと振り向いた僕は驚愕した。少女が屋上のフェンスを登っていたからだ。
「おまっ!何をして!」
僕は咄嗟に彼女に駆け寄るが、辿り着く頃には、彼女はもうフェンスの向こう側にいた。
「私はこんなにも期待しているよ。君の優しさに」
フェンス越しに彼女が僕の手を包み込む。それはとても暖かかった。
その暖かさがとても怖かった。
「そうか、君は、そうなんだね…」
気づいた時には僕はその手を振り払っていた。
彼女は寂しそうに笑いながら落ちて行く。
手を伸ばせば届く距離、フェンスがなければ届く距離。
しかし、仕方がない、なんせフェンスがあるのだから。
決して僕の手が彼女に届く事はない。だから僕は手を伸ばさないのだ。
僕は彼女が落ちて行くのを静かに見守った。
それからどれだけ時間がたったのか、もう夕暮れ時になっていた。
僕は最後に彼女が握った手を見つめる。もう、彼女の体温は思い出せない。
「…帰ろ」
僕は一人屋上を後にした。
彼女の電波はもう届かない。
=======
※おっさん。の小話
今回は他人に恐怖する少年の心を描いた一作です。
少女は、少年に残った唯一の無邪気さですね。
少年はこれからどうなって行くのか。
少年の中の少女は本当に死んでしまったのか。
貴方の中の少女は息をしていますか。
そんな事を考えて欲しい一作でした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる