かみクズカゴ。

神 （お題：水・紙・椅子）

　私は神だ。

　畳張たたみばりの障子張しょうじばり、年季ねんきが入ったと言えば聞こえは良いが、みすぼらしい六畳一間ろくじょうひとまで世界を創造している。

　朝起きれば畳の上に敷しかれた新聞紙に足を取られ、来客に焦あせればとっ散ちらかった画材がざいに小指をぶつける。

　よくもまぁ一人でこんなに騒さわがしく暮らせるものだと我ながら感心してしまうほどだ。

　しかし人前では打って変わって言葉が出なくなってしまう。
　様々な考えが頭の中をぐるぐるリ。回りまわって思考回路を焦こがすのだ。

「はぁ…」

　今日も日の目を見る事がなかった世界を部屋の隅すみに立てかける。
　もう色は使い果たした。明日からは別の世界を彩る事はおろか、自身の人生を描くことすら難しいだろう。

　ふとキャンバスに視線をやれば昔に描えがいた世界が目に映うつる。

　紙一枚、隔へだてた壁の向こう。
　優しい緑に包まれた白い少女が一心不乱に湖に映った蒼あおを描いている。

　何にも阻はばまれず、心の赴おもむくまま絵を描く彼女は私の理想だ。
　そして、現実に追われ、自身の好きな事にすら集中できなくなった私への戒いましめ。

　しかし、それをもう二度と行うことができないであろう、今の私には彼女が疎うとましくてたまらなかった。

　彼女の世界を赤く染め上げ、彼女自身は二度と元に戻ることのできない黒色へと変色する。
　そうすると何故なぜかとても心が満たされた気がした。

　あぁ、私は私自身を初めからこうしたかったのか。

　絵具のように混ざり合う意識の中、ツーンと鼻をつくような匂いがした。

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　って、ストーリーはどう思う？

　椅子を傾けながら問う私に補助脳が呆あきれたように#__ためいき__#を#__つ__#いた。

　いやいや、いまさらそんなストーリーは古臭いよ。だれも望んじゃいない。
　自身の世界を簡単に作り出せるようになった今、売れるのはゲームの様なファンタジー物の設定記憶さ。

「そうなんだよなぁ…」

　私は掌てのひらから火の粉を上げて、くしゃくしゃに丸めた小さな世界を灰に帰した。

　灰は窓から吹いた風に攫さらわれどこまでも飛んでいく。
　神様はそれを羨うらやましそうに眺めていた。




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※おっさん。の小話

　このお話は一時期、物書きを目指していた、おっさん。自身の葛藤かっとうを、コミカルに描いたものです。

　書きたいと、書いて欲しい。需要と供給が合わない事はよくありますよね…。
　結局、おっさん。は書きたいを書いて、仕事は別に始めました。

　…生きてくって、難しい