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向上心
第159話
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「この糸は、私か仲間の子蜘蛛達にしか解けないのですが、一度、体から切り離してしまうと、こちらからの操作が利かなくて……」
申し訳なさそうに呟くコグモ。
どうやら、コグモの糸は俺の糸の様に、再接続は出来ない様だった。
「いつも、こういう時は、仲間の子蜘蛛達に解いてもらうのですが、生憎、今は出払っているので……。ええっと……。こっちの面が不粘着面で、この糸がここから始まっているから……」
コグモは糸とにらめっこをしながら、部分部分で、撫でる様に触って行く。
すると、触れた表層の部分から、少しずつ、糸がほつれて行った。
「すごいな……。撫でてるだけに見えるのに……」
「私こう見えて、体の表面に見えない程の、この糸にくっつかない、操作できる産毛が生えているので……。感覚器官の意味もあるので、これを自由自在に伸ばせれば、ルリ様達の糸にも近い物になるかもしれませんね」
彼女はそう言いながらも、糸とにらめっこを続ける。
それでも少しずつしかほつれて行かないのを見るに、きっと、繊細な作業なのだろう。
俺は邪魔をしない様に、静かにその後姿を見守る事にした。
ミシッ……。
その内に、解れたせいで、支えを失いつつある糸が、クリアの体重によって、伸び始める。
「おおっと……」
俺は半ば反射的にクリアの体を支えるが、糸が俺にもべったりとくっついてしまった。
「あ、すみません。ありがとうございます。こちらの糸が外れれば、そちらも外しますので、あまり動かないで待っていてくださいね……」
そう言って、完全に木の上からクリアにつながる糸を解いて行くコグモ。
俺も、絡まっては嫌なので、大人しく待つ。
……しかし、コグモの糸がこれ程強力だとは知らなかった。
でもそうだよな……。糸を木の枝なんかに絡めて、木の上を素早く移動する俺とは違って、コグモは貼り付けた僅かな糸の接着面だけだけで、自重や遠心力に耐えて、移動しているんだもんな……。それなりの粘着力はあって当然か。
「ふぅ……。お待たせしました」
木の上から吊る下がる糸を解き終えたコグモがこちらを向いた。
「おぅ。じゃあ、こっちもお願いな」
そう言う俺に、コグモは「はい」と、答えると、静かな動作で、こちらに近づき、俺らに絡みつく糸に手を当てて行く。
ゆっくりとした動きをする彼女の手から、手首、腕、そして顔へと視線を上げて行く。
いつもニコニコしているコグモでは中々見られない、真剣な表情だ。
いつもの可愛らしさと落差があって、なんだか、カッコ良く見える……。
「……そう言えば、お前の糸、これだけ粘着力があるなら、色々工作に使えそうだな」
無言で見惚れていた俺は、ハッとなると、思い付いた言葉を口に出す。
「……そう、ですね……。私自身、あまり活用法が思いつきませんが、ルリ様が指示してくれれば、いくらでもお貸ししますよ……」
話しかけても、目線は糸の方。
コグモはあまり、こちらを気にしている余裕が無いのか、見惚れていた俺には気付いていなかった様だ。
「そうか……。じゃあ、その内、貸してもらおうかな……」
「はい……」
そこで終わる会話。訪れる沈黙。
コグモが気にしていないとしても、俺が気まずい。
この静かな空間では、糸越しに伝わってくる、彼女の優しく触れる手の感触や息遣いが、否が応でも、際立って感じられた。
申し訳なさそうに呟くコグモ。
どうやら、コグモの糸は俺の糸の様に、再接続は出来ない様だった。
「いつも、こういう時は、仲間の子蜘蛛達に解いてもらうのですが、生憎、今は出払っているので……。ええっと……。こっちの面が不粘着面で、この糸がここから始まっているから……」
コグモは糸とにらめっこをしながら、部分部分で、撫でる様に触って行く。
すると、触れた表層の部分から、少しずつ、糸がほつれて行った。
「すごいな……。撫でてるだけに見えるのに……」
「私こう見えて、体の表面に見えない程の、この糸にくっつかない、操作できる産毛が生えているので……。感覚器官の意味もあるので、これを自由自在に伸ばせれば、ルリ様達の糸にも近い物になるかもしれませんね」
彼女はそう言いながらも、糸とにらめっこを続ける。
それでも少しずつしかほつれて行かないのを見るに、きっと、繊細な作業なのだろう。
俺は邪魔をしない様に、静かにその後姿を見守る事にした。
ミシッ……。
その内に、解れたせいで、支えを失いつつある糸が、クリアの体重によって、伸び始める。
「おおっと……」
俺は半ば反射的にクリアの体を支えるが、糸が俺にもべったりとくっついてしまった。
「あ、すみません。ありがとうございます。こちらの糸が外れれば、そちらも外しますので、あまり動かないで待っていてくださいね……」
そう言って、完全に木の上からクリアにつながる糸を解いて行くコグモ。
俺も、絡まっては嫌なので、大人しく待つ。
……しかし、コグモの糸がこれ程強力だとは知らなかった。
でもそうだよな……。糸を木の枝なんかに絡めて、木の上を素早く移動する俺とは違って、コグモは貼り付けた僅かな糸の接着面だけだけで、自重や遠心力に耐えて、移動しているんだもんな……。それなりの粘着力はあって当然か。
「ふぅ……。お待たせしました」
木の上から吊る下がる糸を解き終えたコグモがこちらを向いた。
「おぅ。じゃあ、こっちもお願いな」
そう言う俺に、コグモは「はい」と、答えると、静かな動作で、こちらに近づき、俺らに絡みつく糸に手を当てて行く。
ゆっくりとした動きをする彼女の手から、手首、腕、そして顔へと視線を上げて行く。
いつもニコニコしているコグモでは中々見られない、真剣な表情だ。
いつもの可愛らしさと落差があって、なんだか、カッコ良く見える……。
「……そう言えば、お前の糸、これだけ粘着力があるなら、色々工作に使えそうだな」
無言で見惚れていた俺は、ハッとなると、思い付いた言葉を口に出す。
「……そう、ですね……。私自身、あまり活用法が思いつきませんが、ルリ様が指示してくれれば、いくらでもお貸ししますよ……」
話しかけても、目線は糸の方。
コグモはあまり、こちらを気にしている余裕が無いのか、見惚れていた俺には気付いていなかった様だ。
「そうか……。じゃあ、その内、貸してもらおうかな……」
「はい……」
そこで終わる会話。訪れる沈黙。
コグモが気にしていないとしても、俺が気まずい。
この静かな空間では、糸越しに伝わってくる、彼女の優しく触れる手の感触や息遣いが、否が応でも、際立って感じられた。
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