154 / 172
向上心
第153話
しおりを挟む
「行くぞ!ゴブスケ!」
俺は、木刀を掴んだ片腕を伸ばし、その先をゴブスケに向けた。
「ヴォイッ!」
それに対して、足首から、頭の先まで防具を身に着けたゴブリンが、両手で一本の木刀を握り、それを体の正面で構える。
静まり返る、河原。
いつも通りの学習メンバーが見守る中、先に動いたのは俺だった。
俺は木刀を持っていない方の手首から、ゴブスケの木刀に向けて、糸を射出し、絡めとる。
後は、こちらに糸を勢い良く引いて、その武器を取り上げるだけだ。
「…ッんだとッ?!」
予想外にも、ゴブスケは前進を始め、俺の糸を引く力を利用する形で、突っ込んでくる。
「クソッ!!」
俺は早々に、武器の収奪を諦めると、バックステップで身を引く。
しかし、俺の糸を引く力が無くなろうと、ゴブスケの脚力と歩幅から生み出される移動力では一瞬で距離を詰められてしまった。
俺は咄嗟に、木刀を振るうが、ゴブスケの、それも両手の握力で握られた木刀はびくともせず、俺の木刀が、自身の生んだ力の反発力で、はじき返されるだけだった。
ゴブスケの持った、木刀の先端が、俺の体をとらえて止まる。
あの、オオカミの時と同じ、勝負は本当に一瞬だった。
「……負けたよ」
俺は木刀を捨て、ゆっくりと両手を上げる。
ゴブスケも、静かに木刀を下ろした。
「ウヴァァァ!」「ウヴォォォォ!」
近くで見ていたゴブリン達が、興奮した様に騒ぎ出す。
敗者の俺は肩身が狭くなった。
「ゴブスケさん、凄いですね!」
止めとばかりに、コグモまでゴブスケを褒めだす始末。
俺は思わず、項垂れる。
そもそも、この戦いは、俺の作った防具装備時の機動力と防御性能を確かめる趣旨の物だったはずだ。
これでは走る実験ぐらいにしかなっていない。
……まぁ、それでも、関節部分を糸で繋げているおかげで、あまり違和感のない動きができていたのは、確認できたが……。
「……はぁ」
一人、俯き、溜息を吐く俺。
すると、その服の袖をクイクイと引っ張る感触。
顔を上げれば、そこにはクリアがいた。
「大丈夫。パパ。森の中なら強い」
どうやら、俺を励ましてくれているらしい。
「クリア……」
俺は嬉しさのあまり、泣きそうになりながら、その小さな両肩に、手を乗せる。
「パパ、森の中なら、糸をひっかけて逃げ放題。それに、逃げながら、糸をそこら中に引っ掛けて、罠も張れる。
そもそも、気付かれる前に、糸で殺るのが、パパのスタイル。正々堂々と戦おうとするのが間違い」
そう言って、俺の両肩に、手を伸ばしてくるクリア。
俺の真似をしようとしたのだろうが、俺が両肩を抑えているせいで、腕のリーチが足りずに、つま先立ちまでして、全身をプルプルさせている。
それに、クリアよ。その言い分ではもう、俺は卑怯者として生きる道しか残されていないのでは無いだろうか?
いや、まぁ、確かに、実際の戦いでは、卑怯だろうと何だろうと、勝った者勝ちなのだが、こういう場面では、こう……。空気と言うか……な?
励まそうとしてくれているのは分かるのだが、色々台無しなクリア。
「……そうだな。励ましてくれて、ありがとな」
俺は苦い顔をしつつも、精一杯の笑顔で、その小さな頭を撫でる。
「パパの味方するの。当たり前……」
表情に乏しいながらも、目を逸らして、少し恥ずかしそうにするクリア。
そのぎこちない感情表現が、俺の庇護欲を掻き立てた。
最近、彼女は感情と言う感覚を覚えたのか、それを表に出そうと、頑張っている。
その頑張りが、どんどんと彼女を可愛くさせていた。
このまま行けば、世界中の男を虜にする日も違いだろう。
勿論、そんな男たちは、俺が、どんな卑怯な手を使っても、排除させてもらうが。
また仮想敵が増えてしまった……。
これは、いち早く、戦力の増強が必要だろう。
「……よし。お前らも、装備をくれてやるから、どんどん訓練して、どんどん強くなれよ!」
俺は他のゴブリン達にも防具や木刀を渡す。
彼らは喜んでそれらを受け取るが、その手先の不器用さと、発想力の低さから、防具を着ける段階で、もう既に詰んでいた。
これでは、家の新戦力が使い物になる日は、いつになる事やら……。
「はぁ……」
俺は、今日何度目になるかも分からない溜息を吐くと、ゴブスケと共に、ゴブリン達への指導を開始した。
俺は、木刀を掴んだ片腕を伸ばし、その先をゴブスケに向けた。
「ヴォイッ!」
それに対して、足首から、頭の先まで防具を身に着けたゴブリンが、両手で一本の木刀を握り、それを体の正面で構える。
静まり返る、河原。
いつも通りの学習メンバーが見守る中、先に動いたのは俺だった。
俺は木刀を持っていない方の手首から、ゴブスケの木刀に向けて、糸を射出し、絡めとる。
後は、こちらに糸を勢い良く引いて、その武器を取り上げるだけだ。
「…ッんだとッ?!」
予想外にも、ゴブスケは前進を始め、俺の糸を引く力を利用する形で、突っ込んでくる。
「クソッ!!」
俺は早々に、武器の収奪を諦めると、バックステップで身を引く。
しかし、俺の糸を引く力が無くなろうと、ゴブスケの脚力と歩幅から生み出される移動力では一瞬で距離を詰められてしまった。
俺は咄嗟に、木刀を振るうが、ゴブスケの、それも両手の握力で握られた木刀はびくともせず、俺の木刀が、自身の生んだ力の反発力で、はじき返されるだけだった。
ゴブスケの持った、木刀の先端が、俺の体をとらえて止まる。
あの、オオカミの時と同じ、勝負は本当に一瞬だった。
「……負けたよ」
俺は木刀を捨て、ゆっくりと両手を上げる。
ゴブスケも、静かに木刀を下ろした。
「ウヴァァァ!」「ウヴォォォォ!」
近くで見ていたゴブリン達が、興奮した様に騒ぎ出す。
敗者の俺は肩身が狭くなった。
「ゴブスケさん、凄いですね!」
止めとばかりに、コグモまでゴブスケを褒めだす始末。
俺は思わず、項垂れる。
そもそも、この戦いは、俺の作った防具装備時の機動力と防御性能を確かめる趣旨の物だったはずだ。
これでは走る実験ぐらいにしかなっていない。
……まぁ、それでも、関節部分を糸で繋げているおかげで、あまり違和感のない動きができていたのは、確認できたが……。
「……はぁ」
一人、俯き、溜息を吐く俺。
すると、その服の袖をクイクイと引っ張る感触。
顔を上げれば、そこにはクリアがいた。
「大丈夫。パパ。森の中なら強い」
どうやら、俺を励ましてくれているらしい。
「クリア……」
俺は嬉しさのあまり、泣きそうになりながら、その小さな両肩に、手を乗せる。
「パパ、森の中なら、糸をひっかけて逃げ放題。それに、逃げながら、糸をそこら中に引っ掛けて、罠も張れる。
そもそも、気付かれる前に、糸で殺るのが、パパのスタイル。正々堂々と戦おうとするのが間違い」
そう言って、俺の両肩に、手を伸ばしてくるクリア。
俺の真似をしようとしたのだろうが、俺が両肩を抑えているせいで、腕のリーチが足りずに、つま先立ちまでして、全身をプルプルさせている。
それに、クリアよ。その言い分ではもう、俺は卑怯者として生きる道しか残されていないのでは無いだろうか?
いや、まぁ、確かに、実際の戦いでは、卑怯だろうと何だろうと、勝った者勝ちなのだが、こういう場面では、こう……。空気と言うか……な?
励まそうとしてくれているのは分かるのだが、色々台無しなクリア。
「……そうだな。励ましてくれて、ありがとな」
俺は苦い顔をしつつも、精一杯の笑顔で、その小さな頭を撫でる。
「パパの味方するの。当たり前……」
表情に乏しいながらも、目を逸らして、少し恥ずかしそうにするクリア。
そのぎこちない感情表現が、俺の庇護欲を掻き立てた。
最近、彼女は感情と言う感覚を覚えたのか、それを表に出そうと、頑張っている。
その頑張りが、どんどんと彼女を可愛くさせていた。
このまま行けば、世界中の男を虜にする日も違いだろう。
勿論、そんな男たちは、俺が、どんな卑怯な手を使っても、排除させてもらうが。
また仮想敵が増えてしまった……。
これは、いち早く、戦力の増強が必要だろう。
「……よし。お前らも、装備をくれてやるから、どんどん訓練して、どんどん強くなれよ!」
俺は他のゴブリン達にも防具や木刀を渡す。
彼らは喜んでそれらを受け取るが、その手先の不器用さと、発想力の低さから、防具を着ける段階で、もう既に詰んでいた。
これでは、家の新戦力が使い物になる日は、いつになる事やら……。
「はぁ……」
俺は、今日何度目になるかも分からない溜息を吐くと、ゴブスケと共に、ゴブリン達への指導を開始した。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~
すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。
若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。
魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。
人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で
出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。
その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
11 Girl's Trials~幼馴染の美少女と共に目指すハーレム!~
武無由乃
ファンタジー
スケベで馬鹿な高校生の少年―――人呼んで”土下座司郎”が、神社で出会った女神様。
その女神様に”11人の美少女たちの絶望”に関わることのできる能力を与えられ、幼馴染の美少女と共にそれを救うべく奔走する。
美少女を救えばその娘はハーレム入り! ―――しかし、失敗すれば―――問答無用で”死亡”?!
命がけの”11の試練”が襲い来る! 果たして少年は生き延びられるのか?!
土下座してる場合じゃないぞ司郎!
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる